映画『愚行録』の田中武志(妻夫木聡)と光子(満島ひかり)の謎を中心に解説考察しています!
「光子の子どもの父親は?」「絡みつく手の意味」「武志の取材の目的」「光子はなぜ笑う?」「光子はなぜネグレクトした?」「バスでの武志の愚行の理由」「光子が大学に通えたのはなぜ?」など書いてます。
ネタバレありきの記事なので、まだ見ていない方はご注意ください。
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解説・考察や感想など
観た後しばらくどんより感を引きずりましたが、周辺人物の証言から被害者となった夫妻の本性が浮き彫りになっていくのが面白く、引き込まれました。
雑誌記者の田中武志とネグレクトで逮捕された田中光子に関する謎や疑問に、原作小説からの情報を交えて解説考察しました。
武志がバスで足が悪いフリをした理由は?
バスに乗っていた武志は初老のサラリーマン(酒向芳)に言われて渋々おばあさんに席をゆずりますが、その時に足に障害を抱えているかのように振舞いました。
武志の行いはまさに『愚行』ですよね(笑)
このシーンは、武志がいわゆる『信頼できない語り手』だと強調していたように見えました。
映画を見進めて武志が父親から暴力を受けていた過去がわかると、あのサラリーマンは武志の父親と近い世代でしょうし、人一倍嫌悪感を抱いたのかな〜と思ったりしました。
一方、武志が若い妊婦に自ら席を譲るのは、妊婦と光子が重なったためだと思われます。
光子がネグレクトしたのはなぜ?
光子はネグレクトで逮捕されていましたが、本人は『あの子は元々食が細い』、『ちょっと子育てが下手なだけで逮捕なんてひどい』と発言していたことから、光子には育児放棄していた自覚がそもそも無かったことがわかります。
たしか新聞記事にも光子が千尋(赤子)の異変に気付いて自ら救急車を呼び、ネグレクトが発覚したようなことが書かれていました。
光子は医師に『あの子は全然笑わない』、『抱きしめたくても、体が動かない』と話してことから、光子が千尋への接し方で悩んでいた様子も見られます。
個人的には千尋が笑わないのは武志に似ているから(=武志が父親)という伏線だったのかなとも後で思いました。
小説では、光子の育児の様子がもう少し詳しく書かれています。
光子は『立派な母親』になりたいという気持ちはありネグレクトしていたつもりはなかったものの、どこか赤ちゃんを赤ちゃんと思っていないフシがあり、お世話がまともにできず千尋が倒れてしまいました。
例えば光子は千尋が泣き止まないと「私だって泣きたいのに千尋だけ泣いてずるい」「泣けば何かしてもらえると思うな」「私は頑張ってるのに何が不満なのか」と感じ、怒って放置してしまう傾向があったようです。
武志が取材していた本当の目的
(引用:https://twitter.com)
武志が田向家殺人事件を調べていた理由は、表向きは記事にするためですが、本当の狙いは光子が犯人だと知る人物がいるかどうかを調べて、もしいたらその人物を殺害することにありました。
小説にはもっと詳しく動機が書かれていて、光子を守るための他に、光子が一緒に殺してしまった田向浩樹が殺されても仕方ないような人物だったかどうかを確認するためでもありました。
その理由は光子が『夏原さんの旦那さんには悪いことしちゃったな』と気にする発言をしていたからで、武志は光子に次会った時に「そんなことない あいつは殺されても仕方ない悪い男だったんだよ」と言ってあげるためでもあり、罪をなすりつけるのに丁度いい人物(田向浩樹を恨む人物)を探すためにも田向浩樹の周辺を探っていたのです。
光子にまとわりつく手の意味
ベッドに寝ている光子の全身に多くの手がはい回る描写が何回かあります。
あれは多くの人間に利用・搾取されてきた光子が心に抱える闇を強調していたように見えました。
まとわりつく手が体毛のない中性的で不気味なぬるっとした手だったことも、光子を利用した人たちが男だけではないことが表現されていたように感じます。
光子はなぜ有名私立大学に進学できた?
映画で明かされていた武志と光子の生い立ちだけだと、2人は貧乏で私立大学の学費をどうやって工面したのか謎でしたが、小説にはもう少し詳しい2人の生い立ちが書かれていたので紹介します。
光子が産まれた頃、武志と光子の両親は不仲で別居していました。
母の孝子は、武志と赤ちゃんの光子を祖母父に預けて愛人と暮らし始めます。
祖父は一流企業の元重役でそれなりに裕福だったので兄妹はしばらく穏やかに暮らしましたが、光子が4歳の頃に祖母が癌で倒れて育児できなくなり、兄妹は孝子の元に返されました。
ほぼ同時期に別居していた夫が孝子の元に舞い戻ってきて家族4人暮らしが始まります。
孝子は夫と子どもに愛人との生活を奪われたのが不満で、夫が武志や光子に暴力をふるっても見て見ぬふりしました。
光子が小学校中学年になって父親から性的虐待を受け始めると、母親は光子を「泥棒猫」と呼び憎み、家族関係は悪化の一途をたどります。
(映画では光子への性的虐待を孝子が知ったのは夫が出て行った後ですが、小説では気付いていたのに放置しています)
武志は母親からは比較的可愛がられていましたが、母親は光子を傷つけるために武志をこれみよがしに可愛がっていただけで、真の愛情ではないことを武志は気付いていました。
その後、武志が高校生の頃に孝子と夫はようやく離婚して、孝子は新しい恋人と生活するために、再び武志と光子を1人になった祖父に預けました。
光子が大学入学する頃に祖父は他界していましたが、2人にまとまった遺産を残してくれていて、そのお金で光子は私立大学に通うことができました。
また、光子が文應の入試をパスできたのも、祖父の賢さを光子が受け継いでいたからでした。
武志が宮村淳子を殺した理由は?
(引用:https://twitter.com)
宮村淳子が殺されたのは、武志の前で犯人が光子ではないかと言い当ててしまったからです。
それに加えて、宮村は光子について『あぁはなりたくない』など光子を蔑む発言も連発していたのも、余計に武志の殺意を煽ったと思われます。
なお、映画では武志は宮村を店内で殺して犯人を尾形に偽装しようとしていましたが、小説では、宮村を帰宅中の夜道で殺し、通り魔の犯行に見せかけています。
光子が笑う理由
(引用:https://www.youtube.com)
千尋が死んだことを杉田医師から知らされた時、光子は笑っています。
我が子が死んだのに笑うなんて不自然ですが、光子は落ち込んだ時や憎い両親を思い出した時などに笑ってしまう癖があるようです。
壮絶な過去を持つ人は「笑い話にしないとやってられない」的な発言をされているのよく見るので、光子もそういう心境だったのではないでしょうか。
他にも光子が内部生の大友と肉体関係を持った翌日、光子は大友が行く食事会に一緒に行きたいと言いますが、大友は気まずそうに断ります。
断られたのが家柄のせいだと悟った時、光子は笑います。
両親から受けた虐待について話す時も、独り言で田向一家を殺した時のことを話すときも、光子は笑っています。
千尋が死んだ後に武志と面会した時も、光子は笑顔で謝罪します。
小説の光子も、ずっと笑いながら喋っているんじゃないかな、と思うような口調で台詞が書かれています。
千尋が死んだことを聞かされた時、光子は絶対になるまいと思っていた『虐待親』に彼女自身がなってしまっていたことに気づき、辛すぎて笑ってしまったように見えました。
光子が「私はあの子に手をあげたことは一度もなかった」と言ったのは、彼女が『あの両親とは絶対に違う』ということを武志に認めてもらいたかったからでしょう。
もう一つ光子の気になった癖が、耳たぶをよく触ることです。
心理学的に、耳たぶを触るのは『体の一部を触って安心したい』『感情をコントロールしたい』『甘えたい』などがあります。
他にも理由はありますが、光子に該当しそうなのはこの3つでした。
光子が田向一家を殺した理由は?
犯行動機について、光子は「頭の中で何かがプツッと切れた」、「もう夏原さんのようにはなれないと言われた気がした」と発言していました。
小説でも、犯行動機を光子本人は「私にもわからない」とも発言していますが、嫉妬心からの犯行だったのが明らかな描写があります。
田向浩樹は『まさに光子が結婚したかったような男』だったので殺し、リビングに居た男の子(映画には登場しない田向家の長男)は『頭も育ちもよさそうで、許せなかった』から殺し、夏原は『光子がなりたかった通りの素敵なお母さんになっていた』から殺し、女の子(田向家の長女)は『かわいそうかなと思ったけど、1人だけ残してもしょうがないし、いい女になったらムカつく』から殺したと書かれています。
小説での光子が語った犯行動機について、印象に残ったフレーズを一部引用します。
それでどうして殺すことになるのかなんて、あたしに訊かないでよ。あたしだってわからないんだから。
ともかく、もう切れちゃったのよ。大事なものが切れたの。
それを切ったのは夏原さんだから、責任取ってもらわなくちゃって思った。 (引用:小説『愚行録』より)
この告白は杉田医師が居ない間にひっそり行われていましたが、小説では武志を相手に語っていたものなので、映画においても光子は目の前に武志がいるつもりで話していたと思われます。
光子の子どもの父親は?
「千尋の父親は誰にも知られたくない」という発言と、光子が受けていた性暴力の話から、橘弁護士は千尋の父親が武志と光子の父親だと思い込みますが、千尋の父親は武志であることが明かされます。
年齢から計算すると、千尋は光子が33歳の時の子どもですが、光子が妊娠する前後の武志との関わりは映画にも小説にも全く描かれていないので詳細は謎です。
なので完全に推測になりますが、武志が警察署に行った時、光子は「半年ぶり位?」と発言していたので少なくとも2人は一緒に住んではいなかったのでしょう。
光子は『秘密が大好き』で、武志と離れて暮らした方がより秘密は守られますし、バレると社会生活を送るにも支障が出るのでそうしていた可能性が高いです。
一方で武志は、光子の口から『秘密』と出る度に表情が暗くなります。
彼は『秘密』を重荷に感じていたようで、それは小説にも書かれています。
しかし、光子が「私はお兄ちゃんだけだよ 大好きだよ」と言う時、武志は何とも言えない嬉しそうな表情をします。
恐らく、お互いにとってお互いだけが唯一信頼し合える理想の恋人だったのです。
武志の行動自体は光子への愛や責任感であふれているので、武志は光子との恋愛が『禁忌』で世間に隠さなければいけないことだけが苦痛なのかもしれません。
小説では、武志の光子に対する好意はもっとはっきり描かれています。
さらに小説にヒントを探すと、光子は『お金持ちでお兄ちゃんみたいな男』を求めて大学に入りましたが、武志だけが特別だと光子が気付いたのは大学卒業後と書かれいるので、2人が恋愛関係になったのは光子の大学卒業後なのでしょう。
ちなみに小説には光子が話す昔話としての孝子は登場しますが、孝子本人は登場せず、橘弁護士も登場しません。
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2ページ目は「恵美(市川由衣)の子どもの父親は?」「田向浩樹と夏原友季恵の馴れ初めは?」「夏原友季恵は田中光子に何をした?」「渡辺正人が田向浩樹を良い奴と言うのはなぜ?」「夏原友季恵が尾形孝之と交際した理由は?」など書いてます。
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