映画『愚行録』の解説、考察をしています!
それぞれの目的、光子にまとわりつく手の意味、原作小説について書いてます。
鑑賞済の方向けの内容のためネタバレにご注意ください。
キャスト、キャラクター紹介

(引用:映画『愚行録』公式サイト)
田中光子…満島ひかり
田中の妹。実娘の千尋に対する育児放棄の疑いで逮捕、勾留されている。
兄の武志を誰よりも信頼している。
罪悪感を持たない発言が多いため、精神鑑定を受けることになる。

(引用:映画『愚行録』公式サイト)
田向浩樹…小出恵介
一家殺人事件の被害者。当時は37歳で、大手不動産会社に勤めていた。
夏原友季恵と結婚し、女の子を授かり幸せな生活を送っていたが、自宅で殺害されていた。
一家殺人事件の被害者。当時36歳の田向の妻。
田中が取材する彼女の大学時代の知人は皆、彼女を旧姓で呼ぶ。
モデルのようなスタイルと容姿から、大学時代は男女を問わず人気者だった。
夫の浩樹と同じく自宅で殺されていた。
杉田茂夫(精神科医)…平田満
渡辺正人(田向の同僚)…眞島秀和
宮村淳子…臼田あさ美
稲村恵美(田向の元交際相手)…市川由衣
尾形孝之(宮村の元交際相手)…中村倫也
山本礼子(新入社員)…松本まりか
三橋孝子(武史、光子の母)…山本容莉枝
大友祐一(内部生)…小林竜樹
中山唯(宮村の友人)…相馬有紀実
垣内早苗(田向の元恋人)…橘美緒
バスの乗客…酒向芳
岩田(田中の先輩)…高橋洋
丸山(田中の上司)…山崎直樹
文應の内部生…前田公輝、植田健、李千鶴
文應の外部生…小園茉奈
三橋(孝子の夫)…田野良樹 ほか
あらすじ前半
あらすじ①:武志と光子
(警察署から出た田中と橘 引用:https://twitter.com)
東京で週刊誌の記者をしている田中武志(妻夫木聡)は、数日前に保護責任者遺棄(ネグレクト)容疑で逮捕された妹の田中光子(満島ひかり)の面会に訪れました。
光子は約半年ぶりとなる武志との再会を素直に喜びますが、ネグレクトを反省している様子は見られませんでした。
光子の娘で3歳児の千尋は、保護された時は1歳児程度の体重しかなかったそうです。
また、2人は両親とは何年も疎遠のため、光子が頼れる存在は武志しかいませんでした。
あらすじ②:田向一家殺人事件
仕事に戻った武志は、未解決の『田向一家殺人事件』の取材を始めます。
今から約1年前に起きた、30代の夫婦と一人娘の3人が自宅で惨殺された事件です。
手がかりが少なく、警察は現在も容疑者すらあげられずにいます。
殺された夫・田向浩樹(小出恵介)は有名私立大学出身で大手不動産会社に勤めるエリートでした。
妻の友季恵(松本若菜)も夫の大学と同ランクの有名私立大学出身で、誰もが羨むような美人でした。
娘も母親似の美人で、まさに絵に描いたような幸せな家族でしたが、犯人は3人を包丁で滅多刺しにして逃走し、現在も捕まっていません。
あらすじ③:渡辺正人への取材
(武志と渡辺 ©2017 『愚行録』製作委員会)
武志は、田向浩樹と同期入社で友人だった関西出身の渡辺正人(眞島秀和)に取材を行いました。
渡辺と田向は入社試験の日に初めて出会って意気投合し、それから事件発生までの約15年は親友とも言える交友関係を築いていました。
渡辺は田向と親友だったことを武志に証明するために、女性絡みで最も印象的だったという出来事を話しました。
田向と渡辺の入社2年目の春にあった親睦会で、田向は新入社員の山本礼子(松本まりか)と男女の仲になりました。
数か月後、渡辺は田向から「山本さんに本気になられて困ってる」と打ち明けられました。
渡辺はと真剣交際を勧めますが、田向は「初めて会った日にやっちゃう女は嫌だ」と苦笑いするので、共感した渡辺は田向を助けてやることにしました。
渡辺は、田向と山本の関係を知らないフリをして山本に近づき、数週間恋人のような関係を続けます。
そして彼女の気持ちが完全に渡辺に移った頃、渡辺は山本に「お前、田向とも付き合ってたん?」「俺と田向が友達なの知ってるよな?」と責めて別れを告げました。
無事に山本を撃退した田向と渡辺は、楽しくお酒を飲み明かしました。
それから約2年後、山本は別の社員と結婚して寿退社し、現在は幸せにしているようです。
飲み屋から出た後、渡辺は「なんであんな良い奴が殺されなあかんねん」と泣きました。
(杉田医師と話す光子 引用:https://eiga.com)
その頃、光子は精神科医の杉田医師(平田満)の元で精神鑑定を受けていました。
彼女は幼い頃、母親からネグレクトを受けていて、武志が親代わりになってくれたことなどを打ち明けました。
あらすじ➃:宮村淳子、尾形孝之への取材
武志は、田向友季恵(旧姓:夏原友季恵)の大学時代の知人で同じクラスだった宮村淳子(臼田あさ美)を取材しました。
宮村は現在、出身大学の近くでカフェを経営しています。
宮村と夏原は仲が良かったわけではなく、どちらかというと宮村は夏原を嫌っていました。
宮村と夏原が卒業した『文應大学』は幼稚園から大学までの一貫校で、幼稚舎からエスカレーター式に大学入学した生徒は『内部生』、よその高校から来た生徒は『外部生』と呼ばれます。
内部生はハイスペックな家柄の生徒の集まりのため、外部生にとって内部生は憧れの存在でした。
外部生が内部生に認められて仲良くしてもらえることを『昇格』と呼びます。
大抵の外部生は『昇格』しようと入学当初は特に必死になりますが、内部生は彼らを家柄などでふるいにかけるので『昇格』できる外部生はほんの一握りでした。
そんな状況の中、彼女らのクラスで一番最初に昇格した外部生が夏原友季恵でした。
夏原は温厚な性格だったため、彼女の周囲にはいつも『昇格』を狙う外部生が群がっていました。
一方、宮村自身は文應特有の格差社会を嫌悪して内部生や夏原とは関わろうとしなかったと主張しました。
宮村は「夏原さんは取り巻きが欲しくて優しいフリをしてるだけでした。実際、彼女の取り巻きで他に『昇格』した生徒は居ません」と嫌味っぽく語ります。
(睨み合う大学生当時の宮村と夏原 引用:http://blog.livedoor.jp)
また、宮村は大学生当時の恋人で同級生だった尾形孝之(中村倫也)と夏原が原因で別れていました。
尾形が夏原に惚れて、宮村に別れを告げたのです。
この時のことを宮村は「夏原さんは私に憧れていたから尾形を奪ったんだと思う」、「彼女はそういう人だから誰かから恨みを買っていてもおかしくないし、殺されたことも特に不思議じゃない」と真顔で話しました。
その後、武志は宮村淳子と夏原友季恵の元交際相手の尾形孝之を取材しました。
尾形は「夏原さんは他の子と違って話をちゃんと聞いてくれた。だから好きになったんです」と語りつつ、宮村に対しても未練のある素振りを見せました。
武志が宮村から聞いた夏原の話を伝えると、尾形は「それは逆ですよ!淳子が夏原さんに憧れていたんですよ」と笑いました。
(尾形を取材する田中 引用:https://times.abema.tv)
その後、武志は取材内容をまとめた記事を提出しましたが、その週発売の雑誌に大きく取り上げられたのは芸能人のスキャンダルでした。
あらすじ⑤:稲村恵美への取材
(取材中の稲村恵美 引用:https://twitter.com)
週刊誌が発売した日の夜。「私は田向浩樹を誰よりも知っていて、犯人にも見当がついているから取材してほしい」という旨の連絡が入りました。
電話の主は、田向の大学時代の元恋人の稲村恵美(市川由衣)でした。
彼女は大学卒業後、父親の会社の倒産をきっかけに帰省し、現在は父親の会社の元社員と結婚して専業主婦です。
稲村は武志に、田向との破局の原因となったトラブルを打ち明けました。
稲村と田向の出会いは大学のサークルで、2人は入学当初の数か月付き合っていましたが、田向の二股が原因で別れてからしばらく疎遠になっていました。
しかし、就活が始まる頃に田向から突然連絡があり、恵美は興味本位で会ってみることにしました。
田向は「商社への就職を狙っているから恵美の父を紹介して欲しい」と恵美に頼みました。
恵美の父親は商社の社長なので、田向は恵美をツテにしようとしていたのです。
恵美は田向の図々しさに呆れますが、二股された仕返しがしたくなり「私の『2番目の彼氏』になってくれるなら紹介してあげる」と答えると、田向は同意したので恵美は田向と復縁して父親を紹介し、田向は恵美の父の会社から内定をもらいました。
しかしその後、田向は「実は不動産業界が本命なんだ」と言い、とある不動産会社から内定が出たから恵美の父の内定は断ると言い出しました。
不審に思った恵美が問い詰めると、田向は同級生で不動産会社の社長の娘の垣内早苗という生徒のコネで内定をもらったことが発覚しました。
怒った恵美は、田向と垣内を呼び出して「私たちは田向に利用されている」と垣内にバラします。
すると、田向は「卒業後の最初の就職先は、今後の人生を左右する最も重要なポイントだ。将来、妻や子供を絶対に幸せにしたいから、今出来ることはなんだってする」と開き直りました。
恵美が「あなたの就活に利用された私たちは何なの?」と聞くと、田向は「君たち2人は僕の嫁候補だったけど、今日でその可能性はなくなった」と答えて立ち去りました。
その後、田向は垣内の父の会社の内定も蹴り、現在の就職先はコネを使わずに実力で受かっていました。
恵美は田向が夏原と結婚してからも不倫関係にあったことや、恵美の赤ちゃんが田向との子どもであることをほのめかして、「犯人は田向の妻で、浮気されたことに絶望して一家心中したんだと思う」と推理を打ち明けました。
あらすじ⑥:光子の虐待と大学時代
その後、武志は橘弁護士に呼び出されました。
両親のことを聞かれた武志は、彼自身も光子も父親から虐待を受けていたことを明かしました。
武志は暴力を受け、光子は小学校3年生位から長期に渡って性暴力を受けていました。
武志は光子が性暴力を受けていることに気付いてから筋トレを始め、武志が高校生になると力関係が逆転し、武志は父を何度も殴って家から追い出しました。
橘が光子の子どもの父親を尋ねると、武志は「それだけは俺にも教えてくれなくて、知らないんです」と俯きました。
橘はこの時、光子の子どもの父親は、光子と武志の父親だと確信しました。
その後、武志は宮村に呼ばれて閉店後の彼女の店に行くと、宮村は「田中光子さんという同級生が、夏原さんにひどい目にあわされていたのを思い出しました」と語りはじめました。(※宮村は、武志と光子が兄妹であることを知りません)
(大学に走る光子 ©2017 『愚行録』製作委員会)
実は光子も夏原、宮村と同じ商学部の同級生でした。
光子は美人で多くの男子生徒から注目を浴びていた生徒の1人でしたが、彼女は『一般家庭育ち』だったため昇格できませんでした。
しかし、光子は内部生との繋がりを人一倍求めていて、内部生の男も彼女と遊びたがったので、夏原は何人もの内部生に光子を紹介しました。
光子は内部生となら誰とでも肉体関係を持ったため、ある意味有名人になりました。
しかし光子は紹介しつくされると誰からも相手にされなくなり、学校で孤立してしまいました。
宮村は「夏原さんは内部生の狙いを知ってて田中さんを内部生に紹介し続けていました。私が田中光子さんだったら、夏原さんを殺したくなると思う」と締めくくります。
武志は店にあった鈍器で宮村を殴り殺すと、取材の時に入手していた尾形のたばこの吸い殻を店内の灰皿に入れて立ち去りました。
その後、宮村淳子殺害の容疑者として尾形孝之が逮捕されました。
あらすじ⑦:結末
田向一家を殺害した犯人は光子でした。
光子は犯行当日、外出先でたまたま夏原と彼女の娘を見かけますが、話しかけようとすると無視されてしまいました。
そのまま光子が夏原の後をつけると、彼女は23区内にある素敵な一戸建てに住んでいて、いかにもエリートらしい夫が居て、幸せそうにしていました。
それは光子が欲しかった家庭そのものでした。
その光景を見てキレた光子は、一度帰宅して夜になってから田向家に行くと鍵が開いていた裏口から侵入し、キッチンで包丁を手に入れて3人を次々に殺害しました。
光子は警察に疑われずにいたものの、ネグレクトで逮捕されてしまいました。
武志は光子の犯行を隠すために自ら事件関係者に話を聞きに行き、光子が犯人だと気付いた人物を殺していたのです。
武志が宮村を殺害した数日後、病院で治療を受けていた光子の娘の千尋が亡くなりました。
千尋が亡くなった後、橘弁護士は武志と光子の母・三橋孝子(山本容莉枝)を訪ねて千尋の死を伝えます。
橘は三橋との会話から、千尋の父親が田中武志だと気づいて驚きました。
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※本ページの情報は2022年1月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。
感想・解説や考察など
観た後しばらくどんより感を引きずりましたが、周辺人物の証言から中心人物の性格がリアルに浮き彫りになっていくのが面白く、引き込まれました。
映画を見た後で原作小説が気になって読みました。かなり分厚かったですが読みやすくてほとんど一気読みできました。
原作との違いも含めて内容を深追いしてみます。
バスに乗る武志

©2017『愚行録』製作委員会
冒頭、バスに乗っていた武志は初老のサラリーマン(酒向芳)に指摘されて渋々おばあさんに席をゆずりますが、その後は自分自身が足に障害を抱えている演技をしてリーマンとおばあさんが気まずそうにしている様子を眺めました。
『愚行』にふさわしいシーンですよね(笑)
このシーンは、武志がいわゆる『信頼できない語り手』だと強調していたように見えました。
話が進んで武志が父親から暴力を受けていた過去がわかると、武志がバスで愚行を行ったあのサラリーマンは、武志の父親と同世代でしょうし、自分が正しいと信じて疑わない様子に嫌悪感を抱いて嫌がらせしたかな〜と思ったりしました。
まぁでも初対面の人に「席譲りなさいよ」とか命令口調で強要されたら誰でもイラっとしますよね。
一方、ラストで若い妊婦に自ら席を譲るのは、妊婦と光子が重なったためだと推測しています。
光子が虐待していた理由
光子はネグレクトで逮捕されていましたが、本人は『あの子は元々食が細い』、『ちょっと子育てが下手なだけで逮捕なんて、警察の人もひどい』と発言していたことから、彼女には育児放棄していた自覚がそもそも無かったのでしょう。
たしか新聞記事にも光子が自ら救急車を呼び、発覚したというようなことが書かれていました。
光子は医師に『あの子は全然笑わない』、『抱きしめたくても、体が動かない』と話してことからも、光子が千尋への接し方で悩んでいた様子も見られます。
個人的には千尋が笑わないことが武志に似ている(父親である)ことを示す伏線だったのかなとも後で思いました。
小説では、光子の育児の様子がもう少し詳しく書かれています。
光子は『立派な母親』になるつもりで育児に奮闘したことや、その具体的な育児方法を武志に語りますが、彼女は根本的に赤ちゃんがなぜ泣くのかなどの行動原理を理解できず、自分と対等に見ているような発言がたくさんあって、結果的にネグレクトだと言われても仕方ないような育て方をしています。
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次は光子にまとわりつく手の正体、渡辺正人、夏原が尾形と交際した理由、稲村恵美についてです。
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