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楽観主義が現実に取って代わる
部内の秩序を論じるなら まずそのことを明らかにして頂きたい
海法:防衛庁内部には警察OBも多数居ることを知らんわけではあるまい?
事は既に政治の舞台に移されている 今は彼らを刺激することなく その行動において協調を図り撤収の早期実現を模索すべきだ
しのぶ:そのためにも警視庁上層部がその責任を明確にし 自らの非を世間に正されてはいかがですか?
海法:この地上には我が国だけが存在するわけではない
この日本において 万に一つとはいえ内戦まがいの状況が出現することにでもなれば 米軍の介入すらあり得る
治安を預かる警察が自らの失態を認めるかのごとき行動はいたずらに社会不安を増長させることになる
しのぶ:この期に及んでもまだそんな言い逃れを… あなた方はそれでも警察官か!?
(中略)
海法:後藤君 君はどう思うかね?
後藤:戦線から遠のくと 楽観主義が現実にとって代わる そして最高意思決定の段階では現実なるものはしばしば存在しない 戦争に負けている時は特にそうだ
海法:何の話だ?少なくともまだ戦争など始まってはおらん
後藤:始まってますよ とっくに 気付くのが遅すぎた
柘植がこの国へ帰ってくる前 いや そのはるか以前から戦争は始まっていたんだ…
突然ですが あなた方には愛想が尽き果てました
自分も南雲警部と行動を共に致します
しのぶと海法部長の喧嘩のやり取りです。
言い回しや単語が小難しすぎて聞く気が失せますが、しのぶさんが怒っていて、海法は言い訳ばかりしているということだけがわかれば良くて大した中身はありません。
しのぶは海法に、警察の非を認めて謝罪のひとつでもしたらどうだと詰め寄りますが、海法は「下手に責任追及すれば自衛隊を刺激しかねないので、穏便に撤収させる方法を検討したい」「警察が非を認めれば社会不安を煽ってしまうから」など、まさに平和を盾にして動こうとしません。
一方、後藤隊長は会議そっちのけで小さな独り言を言っていましたが、このつぶやきの内容は音量を上げても聞き取れないし、一部本当に『ブツブツ』と聞こえたので(笑)声優さんも具体的なセリフは喋っておらず後藤隊長が何をつぶやいていたのかは誰にもわかりません。
後藤隊長はこれからどう動くか考えていて会議を聞いておらず、しのぶの怒った声で我に返る という流れを表しているのでしょう。
『戦線から遠のくと ~ 特にそうだ』はどこかからの引用なんじゃないかと思っていましたが、違うようです。
意味は、厳しい現実から目を背けてしまって、都合の良い情報しか取り入れようとしない状態を指しています。
戦争に負けかけている時は、負けているという状況から目を背けてしまい、現実的な対処が出来ない(上層部は楽観主義に囚われて正しい対応ができない)と言っているんだと思います。
そして、海法の「戦争はまだ始まってない」という発言からの、柘植の戦闘機攻撃で後藤隊長がブチギレという素敵な流れになります。
普段は喜怒哀楽の『楽』しか見せない後藤隊長が怒ってしまう貴重なシーンです。
(引用:https://twitter.com)
土をほじれば
シバ:あぁ きっと大丈夫さ 二課育ちは逞しさが信条だからね
整備部が柘植隊に攻撃された後、日本に内戦が始まれば職を失いかねないと感じた山崎とシバの発言です。
呑気なようで切ないです。
反乱を起こさなきゃならん理由
しかもこれだけの行動を起こしておきながら中枢の占拠も政治的要求も無し そんなクーデターがあるもんですか
政治的要求が出ないのは そんなものが元々存在しないからだ
情報を中断し 混乱させる それが手段ではなく目的だったんですよ
これはクーデターを偽装したテロに過ぎない それもある種の思想を実現するための確信犯の犯行だ
戦争状況を作り出すこと いや 首都を舞台に戦争という時間を演出すること 犯人の狙いはこの一点にある
犯人を探し出して逮捕する以外に この状況を終わらせる方法は無い
榊:しかしわからねぇな 一体何のために?
後藤:想像は出来ますが 捕まえて聞くのが一番でしょうね
(中略)
後藤:親父さん 念のために言っときますが くれぐれも…
榊:『若ぇ連中に命令も強制もするな』 だろ?わかってるよ
後藤:じゃ
榊:…南雲さんよ 出来なかった事悔やんでも始まらねぇ
これからどうするか そのことを考えようや
榊整備課長の自宅でのやり取りです。
後藤は柘植の狙いが日本に内戦状況を作り出すことだったと理解し、柘植逮捕に全力を注ぐ決意をします。
しのぶさんは長い間音信不通だった柘植と久しぶりに接触したことで過去を思い出したり、想い人である柘植を逮捕しなければならない葛藤と戦っていたのかもしれません。
もしかしたらしのぶさんには 柘植と一緒に逃亡してしまう選択肢も頭によぎっていた可能性もありますが、そんなことが現実的ではないことは彼女が一番よくわかっていたはずです。
落とし前はこの手でキッチリつけてやる!
ありったけの兵隊かき集めて八王子に連れて来い!
ゴタゴタ抜かす奴は首に縄付けてでも引っ張ってくるんだ!
榊課長が後藤隊長の配慮を完全無視して部下に強制命令を出す頼もしいシーンです。
レイバーが好きなだけの女の子でいたくない
行けば警察官の資格はもちろんレイバーの搭乗資格はく奪ってこともあり得る
それでも良いのか?
野明:私より遊馬の方が迷ってるみたい
遊馬:迷うだろ 普通
野明:私 いつまでもレイバーが好きなだけの女の子で居たくない
レイバーが好きな自分に甘えていたくないの… お願い 車出して
本作では出番が少ない野明と遊馬の数少ない台詞です(笑)
後藤の『お願い』に従えば警察をクビになりかねないため、遊馬は野明に意思を確認します。
野明に迷いがないのは、『レイバーが好きで警察官になった女の子』から成長して『正義の味方(本物の警察官)』になりたいと考えていたからなのでしょう。
国家に真の友人は居ない
この国はもう一度戦後からやり直すことになるのさ
『国家に真の友人はいない』は、1923年生まれのアメリカの政治家ヘンリー・アルフレッド・キッシンジャーの有名な発言の引用です。
また、『連中』とは米軍を指しています。
台詞の引用からは省略していますが、荒川の情報で米軍は柘植が犯行を企てた当初から厳重に柘植を監視していました。
柘植が用意した戦闘機や飛行船などは全てアメリカから購入、または米軍基地を通して購入しています。
米軍は柘植と結託していたかどうかまではわかりませんが、少なくとも柘植が日本にテロ行為を起こすことを『横浜ベイブリッジ爆破事件』が起こるよりも以前から既に知っていて黙っていたということになります。
少なくとも米軍は柘植が日本でテロを起こしたことを、日本をアメリカ支配下に置く絶好のチャンスと捉え、軍事介入出来る瞬間を待ち望んでいた ということです。
『もう一度戦後からやり直す』は、もし米軍が軍事介入すれば日本は第二次世界大戦後(敗戦してアメリカに支配された)と似たような状況になることを意味しています。
待ってるからさ
彼を逮捕して必ず戻るんだ 俺 待ってるからさ…
18号埋め立て地にしのぶと隊員達を送り出した際、後藤がしのぶにかけた言葉です。
後藤のしのぶに対する好意が込められていますが、しのぶは返事をせずに行ってしまいました。
悪党か正義の味方
後藤:俺にはやらなきゃならん事が色々あってね
さんざっぱら世話になっといてなんだけど あんた逮捕するよ
松井:全員そこを動くな!荒川茂樹 破壊活動防止法・その他の容疑で貴様を逮捕する!
荒川:説明はあるんだろうな?
後藤:今回の一連の事件に関してあんたの情報は恐ろしく性格で素早かったよ そりゃそうだ あんた自身内偵を進めていたって言う例の組織の一員だったんだから
あんたは柘植の同志だった そして奴に裏切られたんだ
政治的デモンストレーションに過ぎなかった計画を変更し 本気で戦争を始めるために奴が姿を消したことで あんたは窮地に立たされた
事の性格上 公に捜査することも出来んしな
そこで特車二課に目を付けた 南雲警部の監視も兼ねて一石二鳥だからな
荒川:全部あんたの推測じゃないか
後藤:決起の前夜 あんたは柘植を見逃した 例え当たらなくても一発でも発砲すれば治安部隊が殺到する 狭い水路だ 奴を逮捕出来る可能性は高かったのに あんたはそうしなかった なぜだ?
あんたはどうしても奴を自分の手で押さえる必要があったからさ
柘植の企ては阻止しなければならないが、奴の口から組織の全容が公表されてしまっては元も子もない
もうひとつ この期に及んでも正規の部隊を動かさず独立愚連隊同然の俺達に頼らなければならなかったのが決定打さ
まともな役人のすることじゃない
荒川:それはお互い様じゃないのか?
後藤:まともでない役人には2種類の人間しかいないんだ 悪党か正義の味方だ
荒川さん あんたの話面白かったよ
欺瞞に満ちた平和と真実としての戦争
だがあんたの言う通りこの街の平和が偽物だとするなら 奴が作り出した戦争もまた偽物に過ぎない
この街はねぇ リアルな戦争には狭すぎる
荒川:ふふふ…戦争はいつだって非現実的なもんさ
戦争が現実的であったことなどただの一度もありゃしないよ
後藤:なぁ 俺がここにいるのは俺が警察官だからだが あんたはなぜ柘植の隣にいないんだ?
荒川:…
荒川を逮捕した時の会話です。
荒川が国防族の一員であり、柘植の仲間だったと後藤が確信するまでの経緯が語られています。
最後、後藤が荒川に『あんたはなぜ柘植の隣にいない?』と聞くのは若干疑問ですが(柘植に裏切られたから暗殺を決意したことまで推理していたから)、後藤は荒川の口調等から、荒川が本当は柘植の目的や意思に賛成していることを察していたからなのでしょう。
嬉しそうに柘植の思惑を語る荒川を見ていた後藤は、荒川は柘植と添い遂げたいというのが本音だったのではと感じたのでしょう。
荒川が柘植を暗殺しようとしたのは裏切られてプライドが傷つき、国防族に戻ることが出来なくなったからだったのではないでしょうか。(荒川さんプライド高そうですし笑)
蜃気楼のように見える
しのぶ:たとえ幻であろうと あの街ではそれを現実として生きる人々がいる
それともあなたにはその人達も幻に見えるの?
柘植:3年前この街に戻ってから俺もこの幻の中で生きてきた
そしてそれが幻であることを知らせようとしたんだ
結局最初の砲声が轟くまで誰も気付きはしなかった
いや もしかしたら今も…
しのぶ:今こうしてあなたの前に立っている私は幻ではないわ
しのぶが柘植と再会した時に交わしたやり取りです。
『蜃気楼』や『幻』は、荒川の言うような『偽物の平和』に日本がどっぷり漬かっている状態であることを意味しています。
日本国民は偽物の平和という幻(もしくは蜃気楼)をずっと見せられていて、それが幻だとは一部の人間以外は気付きもしない現状を変えたかった。国民の意識を変えたかったのでしょう。
柘植は、日本の平和が偽物であることを国民に知らせようとしたが、もしかしたら今もその意図は幻の中にいる人々には伝わらなかったのかもしれない、と言っています。
我 地に平和を与えるために
然らずむしろ争いなり 今から後一家に5人あらば 3人は2人に 2人は3人に別れて争わん 父は子に 子は父に 母は娘に 娘は母に
柘植:あれを覚えていてくれたのか
しのぶ:帰国したあなたが最後にくれた手紙にはそれだけしか書かれていなかった あの時はそれが向こうでの体験を伝えるものだとばかり…
柘植:気付いた時にはいつも遅過ぎるのさ だがその罪は罰せられるべきだ 違うか?
しのぶ:柘植行人 あなたを逮捕します
柘植が最後にしのぶに送った手紙の内容で、新約聖書の一節です。
しのぶは手紙を受け取った時、柘植のカンボジアでの体験を意味しているものだと思い込んでいましたが、柘植は日本でテロを起こすと決めたことを彼女に伝えようとしていたのでしょう。
気付いた時はいつも遅すぎるのに、気付くのが遅いことは罪で罰せられるとなると、毎回罰さなければいけないことになるのでシビア過ぎる気がします(笑)
なぜ自決しなかった?
死傷者不明 被害総額がどれ位になるか見当もつかん
ひとつ教えてくれんか?これだけの事件を起こしながら なぜ自決しなかった?
柘植:もう少し見ていたかったのかもしれんな…
松井:見たいって何を?
柘植:この街の未来を
柘植が日本の法律でどう裁かれるのか結末はわかりませんが、松井刑事の発言からも考えると柘植の死刑判決はほぼ確定ということになるのでしょう。
松井刑事は『逮捕されてもどうせ死刑になるのに、なぜ今自殺してしまわなかったのか』ということです。
質問に対して柘植はもう少し日本の未来が見ていたかったから死ななかったと答えます。
柘植は根底には愛国心というか日本を守りたくて(防御力を上げたくて)事件を起こしたというのもあったんだと思います。(幻の中で生きようとした時期もあったことから)
だから今は死なず、死刑になる日まで生きて日本を見守りたくなった、というのは自然なのかもしれません。
以上です!読んで頂きありがとうございました。
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考察ありがとうございます。
先ほど二回目を視聴して、一回目では理解できなかった箇所がつながりとてもワクワクしています。
解説を読んで改めて素晴らしい映画を見たとおもいました。