『機動警察パトレイバー2 the Movie』ネタバレ解説|台詞を元に考察しました | 映画の解説考察ブログ - Part 2

『機動警察パトレイバー2 the Movie』ネタバレ解説|台詞を元に考察しました

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パトレイバー SF

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名言抽出と考察

印象に残った台詞の引用をしながら、作品理解のために補足をしてみます。

走る車の中に

荒川:走る車の中にいると落ち着く性分でね 考えがよくまとまるんですよ 走ることで自らが限りなく静止に近づき 世界が動き始める 

荒川が後藤としのぶにコンタクトを取り、柘植の話をするためにドライブに誘った時のセリフです。
走る車の中に座っていることで自分自身は静止しているのに、窓の外の景色は目まぐるしく移り変わることで世界が動いている実感が沸く、というような意味でしょうか。

 

正義の戦争と不正義の平和

荒川:後藤さん 警察官として自衛官として 俺達が守ろうとしているものってのは何なんだろうな?
 前の戦争から半世紀 俺もあんたも生まれてこのかた戦争なんてものは経験せずに生きてきた

 平和 俺達が守るべき平和
 だがこの国のこの街の平和とは一体なんだ?

 かつての総力戦とその敗北 米軍の占領政策 ついこの間まで続いていた核抑止による冷戦とその代理戦争
 そして今も世界の大半で繰り返されている内戦・民族衝突・武力紛争
 そういった無数の戦争によって構成され 支えられてきた血まみれの経済的繁栄 それが俺たちの平和の中身だ

 戦争への恐怖に基づく なりふり構わぬ平和
 正当な対価を よその国の戦争で支払い そのことから目をそらし続ける不正義の平和

後藤:そんなキナ臭い平和でも それを守るのが俺達の仕事さ
 不正義の平和だろうと正義の戦争よりよほどマシだ

荒川:あんたが正義の戦争を嫌うのはよくわかるよ
 かつてそれを口にした連中にろくな奴はいなかったし その口車に乗って酷い目に遭った人間のリストで歴史の図書館はいっぱいだからな

 だがあんたは知ってるはずだ 正義の戦争と不正義の平和の差はそう明瞭なものじゃない
 平和という言葉が嘘吐き達の正義になってから 俺達は俺達の平和を信じることができずにいるんだ
 戦争が平和を生むように 平和もまた戦争を生む
 単に戦争でないというだけの消極的で空疎な平和は いずれ実態としての戦争によって埋め合わされる そう思ったことはないか?
 その成果だけはしっかり受け取っていながら モニターの向こうに戦争を押し込め ここが戦線の単なる後方に過ぎないことを忘れる いや、忘れたフリをし続ける
 そんな欺瞞を続けていれば いずれは大きな罰が下される

後藤:罰?誰が下すんだ?神様か?

荒川:この街では誰もが神様みたいなもんさ
 居ながらにしてその目では見ない その手で触れることの出来ぬあらゆる現実を知る 何一つしない神様だ

『神がやらなきゃ人がやる』
いずれわかるさ 俺たちが奴に追いつけなければな

後藤と荒川が水族館で密会した後のセリフです。
この時の荒川の発言が押井監督の伝えたい内容のほとんどを代弁しているようです。

・『血まみれの経済的繁栄』は、日本が戦闘機などの戦争の道具を作って戦争する国に売って得た莫大な利益を指しています。
日本はどこかの国で起きた戦争のおかげで財布を潤し、その金で経済を回しているということを批判的に表現しています。
日本は法律に則って戦争に参加しないが、戦争に関する商売で得た利益で平和な暮らしを手に入れているんだよ と荒川は主張しています。

・『正当な対価をよその国で支払う』というのは、恐らくですが、日本は法律にある「戦争の放棄」を理由に戦争に参加しない代わりに、戦争で貧困に陥った国に金銭的援助を行ったことを指しています。
代表的な例は1991年の湾岸戦争で、この時日本は多国籍軍に対して1兆円を越える資金援助を行っています。
簡単に言ってしまえば、荒川は日本は平和を金で買っていると言いたいのでしょう。

・『モニターの向こうに戦争を押し込める』ことも、本作で押井監督が意識して行った描写のようです。
『モニター越しの戦争』に関する押井監督のインタビュー記事を引用します。

湾岸戦争の時、強烈に印象に残ったのは、コンピュータのモニターを通じて戦争が行われているということでした。
現場で爆弾を投下している兵士たちもモニターを通して、標的を見ているし、その戦争自体を、僕らはテレビ画面というモニターを通して見ている。
おそらく多国籍軍の司令官ですら、モニターを通してしか、戦争の現場を見ていないだろう。 
そういう意味では、現場の兵士も、我々も、戦争の司令官も、同じようにしか戦争には関わっていないと言えるかもしれない。
では、現場で戦争を見ているジャーナリストは、モニターを通さずに見ているかと言えば、そうでもなかった。
むしろジャーナリストなど最低で、送られてくる映像を、何も考えずに流し続けることしかできなかったのではないでしょうか。
現実とモニターの中の世界が、どんどん区別がつかなくなっている。
だから、ふと窓の外を見ると、そこで戦争をやっていたというのと、毎日のようにTVを通じて送られてくる戦争の映像というのは、実は大差がないのではないか。
そんな、いままでとは全く違った”戦争観”を、今回の映画では提出してみたいと思っています。  (引用:「アニメージュ」 1993年4月号より)

 

「戦争」というテーマそのものが、要するに「モニターの中の映像」というふうに言ったらいいのかな。
戦争が自分の外側にもなければ内側にもないという、こちらにも向こうにもないというか、要するに今の僕らが現実を見るとしたら、フィルターの間(物と物、時と時の間)にかかっている、境界線、幕に見ているんですよ。
モニターの蛍光面だとか、絶えず、一種の幕を通してしか現実に触れざるを得ないところまできている。
その幕を突き破ることは、もう誰にもできなくなっているのではないかと思う。
「湾岸戦争」の例でも、あの時、実際にバグダッドに降り立っても多分その状況は変わらないという気がする。
それは2次映像であれ、肉眼で見た光景であれ、その中にどれだけ差があるだろうかということを最近考えてしまうんです。  (引用:「アニメージュ」 1993年6月号より)

 

・『正義の戦争と不正義の平和の差はそう明瞭じゃない』は、戦争に参加する国と、平和を金で買って戦争しない日本に大きな差は無い という意味だと捉えました。

・『平和という言葉が嘘吐き達の正義に ~ 信じることが出来ずにいる』は、平和を盾に問題から目を背ける警察や政界の上層部に対し、俺達(警察官)は彼らの言う『平和』が信用出来なくなった という意味でしょう。
しのぶさんと海法部長の口喧嘩のシーンで、しのぶの追及に対して海法部長が「社会を混乱させたくない」と平和を盾に言い逃れしているのが良い例です。

・『戦争が平和を生むように 平和もまた戦争を生む』の意味は、その次の『単に戦争でないというだけの ~ 埋め合わされる』が説明してくれています。
消極的で空疎な平和が国防族のような思想を持つ人間に不満を抱かせ、彼らが行動を起こすことで埋め合わせが起こる という意味だと解釈しました。

・『その成果だけはしっかり受け取っていながら ~ いずれは大きな罰が下される』は、戦線の後方にも銃弾が飛んでくる可能性はゼロではないのに、上層部はここまでは飛んでこないだろうと高を括っている。
そして柘植は『大きな罰』を仕掛けているとほのめかしているのでしょう。
後藤が「罰は誰が下す?神様か?」と聞くのは、ほのめかしを察したかどうかはわかりませんが、荒川が『大きな罰』を下す存在(柘植)をどのように考えているのか確かめたかったのかもしれません。

・『何一つしない神様』は伝え方が難しいですが、荒川は問題を知っても行動しようとしない人々を神様と皮肉っているんだと思います。
例えば偽物の平和を疑うこと無く生活している多くの人々は、日本が抱える様々な問題をいくらでも知る手段や機会があり、その気になれば解決できるはずなのに、自分達は安全な立場にいる安心感から何もしようとせず、ただ問題の成り行きを見守るだけです。
『奇跡を起こすポテンシャルはあるのに、何もしない人々』が『何一つしない神様』の意味するところではないでしょうか。
柘植は、神(どこかの誰か)が何かしてくれるのを待っていても、いつまでもその時は来ないと悟り、神がやらなきゃ人(=柘植)がやることにしたのです。
そして、人間(=柘植)が下す罰がどのようなものかは、柘植を自由にさせておけば(捕まえられなければ)そのうち内容がわかる、と告げました。
書き方が良くない気がするんですが、直し方がわからない(笑)意味わからなかったらすみません。。

全体的には、荒川は困った状況に置かれながらも、柘植の思惑に賛成し、犯行によって生じる混乱そのものは楽しんでいたように感じました。




『何かしなくちゃ』『何かしよう』

後藤:ねぇ 落ち着いて考えてごらんよ 俺たちが今何をするべきなのか
 それぞれの持ち場で『何かしなくちゃ』『何かしよう』その結果がここまで状況を悪化させた そうは思わないか?

しのぶ:でも万一の事態に対応出来るようにやれるだけのことはやっておく必要が…

後藤:『万一の事態』って一体何だい?

しのぶ:…

後藤:誰もが『まさか』と思い 同時に『もしや』と疑いを否定出来ない あのベイブリッジ以来ね こないだのスクランブル騒ぎが良い例さ
 府中の防空司令は撃墜命令まで出しちゃったって言うじゃない
 あのたぬき親父…この機会に点数を稼いで警備部の権限を拡大しようって腹だろうが こんな情勢下に警察がその矛先を自衛隊に向けたら…
 柘植って男 もし今回の事件の首謀者だとしたら大した戦略家だ
 わずか一発のミサイルでこれだけの状況を作り出し しかも事態はなお進行中だ
 やっぱり明日の出動やめようよ~

後藤が荒川と密会して帰ってきた直後のしのぶとの会話です。
権限を拡大しようとしていた警備部長の山寺は、恐らくクーデターの犯人を自衛隊関係者だと思っていたので、籠城騒ぎに乗じて自衛隊を監視して、何か問題(事件)が発生すればいち早く対処して、逮捕した人間の中にクーデターの犯人が居ればラッキーだとでも考えていたのではないでしょうか。
自衛隊と警察の関係に緊張が走っている中、後藤としてはこれ以上自衛隊を刺激するような真似も、山寺警備部長の手足にもなりたくなかったし、犯人が柘植だと知っている以上、駐屯地で時間を無駄にするよりは情報収集に走り回りたかったのでしょう。

 

舞台はミスキャストでいっぱい

荒川:俺だ テレビは拝見してるよ 宮仕えは辛いってとこか

後藤:子分の勇み足で引っ込みがつかなくなって頭に血が上ったのさ
 馬鹿な親分の下にいると苦労するよ

荒川:こちらも同じさ 悪い軍隊なんて物は無い あるのは悪い指揮官だけだ ってね
 各地の籠城の責任を取るってことで陸海空の幕僚長達が一斉に辞任したよ

後藤:本当か?

荒川:30分程前だ じきに報道されるさ
 連中はこれで天下晴れてベイブリッジの一件をバラすつもりだが遅すぎたよ ここまでこじれた後じゃな 米軍が手の平返せばそれまでだ
 真相を公表するタイミングを逸しただけでなく事態を収拾するチャンネルも消えちまった また一つタガが外れたんだ

後藤:…

荒川:おい聞いてるのか?

後藤:あぁ 聞きたくなくなってきたがな

荒川:聞いてもらうさ ここからが本題なんだ 政府は自分達のことは棚に上げて ここまで事態を悪化させた警察を逆恨みしている 『頼るに値せず』ってな
 で シナリオは変えずに主役を交代することにしたってわけだ

後藤:おい、まさか…

荒川:そのまさかだ 舞台はミスキャストでいっぱい 誰もその役を望んじゃいないのにな 素敵な話じゃないか
 これが俺達のシビリアンコントロールってやつさ
 柘植は3年前自分の部下を死なせたのと同じルールで 今度は俺たちがどんな戦争をするのか それを見たがっているのかもしれんな

練馬駐屯地を警備中の後藤と荒川との電話の内容です。
ベイブリッジ爆破事件とスクランブル事件で、政府は責任追及を恐れて真相を明かしませんでしたが、真相を知らない警察が三原駐屯地の司令官を拘束したことで一気に関係が悪化します。
政府も悪かったのに、先に手を出した(司令官の拘束)警察を逆恨みし、防衛大臣や内閣総理大臣を引っ張り出して「警察力は頼りにならない」として、自衛隊を主要都市各地に配備して、本来なら警察の仕事である警ら活動を自衛隊にさせてしまいます。

シビリアンコントロールは、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣と防衛大臣は文民(職業軍人ではない人)でなければならない という日本の法律ですが、内閣総理大臣も防衛大臣も自衛隊上層部(職業軍人)の意向に従ってしまっていて、シビリアンコントロールの意味をなしていないことを皮肉的に言っているのでしょう。

柘植はPKO派遣で攻撃を受けた際、上層部に「応戦するな」と言われて応戦しなかった結果、部下を失いました。
戦争が許されない日本で自衛隊と警察の関係を決裂させて当時の柘植と似たような状況に置き、もしこの状況下で命の危険が迫った時、彼らがどう行動するのかを試しているのです。

 

買い占め部隊

整備部員:はい、こちら買い出し部隊

シバ:俺だ いいかよく聞け たった今からお前らは『買い占め部隊』だ!
 その店の食い物ありったけ買ってこい!今 増援部隊を送った!

整備部員:了解!直ちに買い占め突入します!

シバ:かかれ!

(中略)

ブチヤマ:馬鹿野郎!こんな所で何ジタバタやってやがる!
 ピクニックに行くんじゃねーんだ!ちったぁ保存ってことを考えんか!
 倉庫だ!倉庫行ってラーメンを箱で買え!箱で!
 おい姉ちゃん この店の食い物はたった今 特車二課整備班が買い切った!

内閣総理大臣と防衛大臣が記者会見を開いた直後のシバ達整備部員の会話です。
街に自衛隊が配置されれば、いつ自衛隊と警察官の間に争いが起こってもおかしくない緊張状態になります。
整備部員達も緊急事態にすぐ対応できるように、食料の買占めを行いました。

保存を考えろと後輩を叱った直後に店の食物をすべて買い占める(保存がきかない食料も結局買っている)ブチヤマ先輩が面白いです。

 

器物破損 住居不法侵入

松井:器物破損・住居不法侵入・多分窃盗・もしかしたら暴行傷害…
 警察官のやることじゃねぇな こりゃ…

後藤の指示で飛行船会社に不法侵入した松井刑事が漏らした一言です。
警察官のやることじゃないと嘆きながらも結局侵入してしまう所(正義の味方的な部分)が、後藤隊長と松井刑事が仲がいい理由なのかもしれません。

 

善意故に通報

荒川:やはり女か…
しのぶ:どうしてここを?
荒川:人は敵意でなく善意故に通報者になる 子どもの為なら何でもするのが親だ
しのぶ:あの人があなたに?
荒川:生憎俺はあの手のご婦人が苦手でね 意外な人間に人望があるもんさ…

しのぶが柘植に呼ばれて行った場所には、既に後藤と荒川と神奈川県警交通のレイバー隊員が待っていました。
しのぶがなぜここにいるのかと荒井に聞くと、荒井はしのぶの親が心配して後藤に連絡したのだと告げます。
荒川が『あの手のご婦人は苦手』と言っていましたが、しのぶの母は事務的な伝言と着物姿しか登場しなかったので、どんなご婦人なのかわかりませんでした。
この件もアニメか漫画を見ればわかるんですかね。

次のページに続きます!




感想などお気軽に(^^)

  1. やおとも より:

    考察ありがとうございます。
    先ほど二回目を視聴して、一回目では理解できなかった箇所がつながりとてもワクワクしています。
    解説を読んで改めて素晴らしい映画を見たとおもいました。

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