映画「夢売るふたり」について解説・考察しています!
火事で店を失ったことをきっかけに、結婚詐欺を始めた夫婦の関係の変化を繊細に描く。
松たか子の体当たり演技は必見。
監督・脚本・原案は、映画『ゆれる』(2006)の西川美和。
本編時間:137分
制作国:日本
監督・脚本・原案:西川美和
キャスト&キャラクター紹介

©2012「夢売るふたり」製作委員会
市澤里子…松たか子
夫の貫也と一緒に九州から東京に出てきて始めた小料理屋『いちざわ』の女将。
交友関係は狭く、友人はいない。
貫也の人に好かれやすい才能を使って独身女性達から金銭を搾取する。

©2012「夢売るふたり」製作委員会
市澤貫也…阿部サダヲ
板前で里子の夫。
腕は確かだがプライドが高く、同業者と衝突しやすい。
普段は社交的で人に好かれやすく、友人や知り合いが多い。
里子に命じられてお近づきになった女性から金を引き出す。

©2012「夢売るふたり」製作委員会
木下滝子…木村多江
貫也が標的にしたハローワーク勤務のシングルマザー。
滝子の父親と息子の恵太と3人で暮らしている。

©2012「夢売るふたり」製作委員会
棚橋咲月…田中麗奈
里子と貫也の標的にされる作家の独身女性。
妹が既婚で、年齢的にも結婚に焦っている。

©2012「夢売るふたり」製作委員会
睦島玲子…鈴木砂羽
いちざわの常連客。
貫也が初めてお金をもらい、里子が犯行を思いつくきっかけになる人物。
勤務先の上司、外ノ池と不倫関係にある。
外ノ池明浩(俊作の弟・医師)…香川照之
太田紀代(里子と貫也の標的、風俗嬢)…安藤玉恵
岡山晃一郎(貫也の友人)…やべきょうすけ
堂島哲治(咲月に雇われた探偵)…笑福亭鶴瓶
太田治郎(紀代の夫)…伊勢谷友介
刑事…古舘寛治
佐伯綾芽(咲月の妹)…倉科カナ
白井(カンナの客)…中村靖日
日野洋太(パチンコ屋で再会した板前仲間)…山中崇
松山和子(貫也が騙した女)…村岡希美
園部ますみ(貫也が騙した女)…猫背椿
中野健一(ラーメン屋店長)…大堀こういち
木下恵太(滝子の息子)…佐藤和太
堂島の助手…ヤン・イクチュン
金山寿夫(滝子の父)…小林勝也
『いちざわ』の客…栗原瞳 ほか
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※このページの情報は2022年2月時点のものです。最新の配信状況はサイトにてご確認ください。
あらすじ紹介
あらすじ①:お店の火事と再出発
オープンして間もない小料理屋『いちざわ』の女将の市澤里子(松たか子)と、夫で板前の貫也(阿部サダヲ)は充実した毎日を送っていましたが、ある日貫也の不注意で火災が起こり、店が全焼してしまいました。
里子は自宅近くのラーメン屋、貫也は師匠が経営する小料理屋で働き始めましたが、貫也はすぐに師匠の息子と喧嘩して店を辞めてしまいます。
貫也は新しい職場を探しますが、喧嘩の末に辞めた話が広まって雇ってくれる小料理店が見つかりません。
ふてくされて酒びたりになっていく貫也を、里子は見守るしかありませんでした。
(貫也と玲子 引用:https://moviewalker.jp)
そんなある日、貫也は『いちざわ』の常連客だった独身キャリアウーマンの睦島玲子(鈴木砂羽)と偶然再会し、なし崩し的に肉体関係を持ってしまいます。
玲子が貫也と浮気に走ったのは、玲子が恋人の既婚男性外ノ池俊作(香川照之)との不倫関係が破綻したばかりで人恋しくなっていたからでした。
別れ際、玲子は外ノ池の弟の明浩(香川照之)から押し付けられたという示談金(数百万円)を丸ごと貫也にプレゼントしました。
貫也は大喜びで帰宅して、里子に「板前仲間が貸してくれた!」とウソをつきますが、里子は貫也の『衣類の匂い』と、封筒に入りっぱなしになっていた『玲子宛ての手紙』で浮気を見抜きます。
里子は激怒して札束を燃やして風呂に入っていた貫也に投げつけました。
※お金を故意に破壊するのは犯罪行為です。
あらすじ②:女性に夢を売る
(浮気した貫也にキレる里子 ©2012「夢売るふたり」製作委員会)
その後、冷静になって一万円札を拾って数えると、300万円以上ありました。
里子は、貫也が女性の心の隙間に入り込む才能があることに気付き『貫也を使って孤独な女性から金を引き出させる』計画を思いつきました。
貫也と里子は関係を『兄妹』と偽ってハローワークに登録し、一緒に小料理屋の雇われ店長で働き始めます。
接客係の里子が目ぼしい女性を見付けると貫也に目で合図し、貫也はターゲットにごく自然に近づいて持ち前の可愛らしさや真面目そうな雰囲気、辛い過去の経験談を武器に、次々に女性を落としていきました。
(厨房にいる貫也に見とれる女性客たち 引用:https://apocalypsedone.hatenadiary.org)
貫也が標的とある程度親しくなると、里子は貫也に里子が妻だと告白させて「離婚を考えてる」と嘘をつかせました。
里子は貫也を使って標的の女性たちの『早く結婚したい』、『お店をやり直させてあげたい』という気持ちを刺激し、女性が自ら貫也に金を貢ぐように仕向けました。
こうして貫也と里子は、店の女性客から1人につき数百万円ずつ手に入れました。
金を受け取った後、貫也は里子が用意した台本通りに「いつ離婚できるかわからないし、こんな関係を続けるのは君が可哀そうだ!」とターゲット全員に電話で一方的に別れを告げ、店を辞めて姿をくらましました。
里子はこのシナリオを心の中で『寂しい女性に夢を売る仕事』と呼んでいました。
女性たちから借りたお金は、これから再建する『新いちざわ』が成功したら倍にして返すつもりでした。
あらすじ③:里子と貫也の亀裂
(お金を女性達にいつか返すと誓う貫也と里子 ©2012「夢売るふたり」製作委員会)
こうして貯金はすぐに一千万円を超えますが、貫也の理想のお店を建てるにはまだ足りません。
2人は再びハローワークで次の働き口を紹介してもらいましたが、次は地元の小さな居酒屋で、客は近所の老人や家族連ればかりでターゲットになりそうな女性客は来ません。
里子は出会い系サイトや婚活パーティーに手を出しました。
出会い系でメールのやり取りをするのは里子で、実際に会うのは貫也です。
婚活パーティーへは里子が出席して、目ぼしい女性と親しくなると、貫也を『兄』と偽って紹介しました。
貫也も里子と『新いちざわ』のために『夢売る仕事』を続けてきましたが、ある時、里子が標的の女性たちを見下す発言をしたことが原因で2人の間に溝ができてしまいます。
しかし既に引き返せないところまで来ているので、貫也は里子の指示に従っていました。
ある日、里子が再び標的女性を『金づる』と言ったので、貫也はついに怒って「俺にこんなことをさせるのは『金のため』じゃなく『玲子と浮気した腹いせ』なんだろ」と責めました。
里子は何か言い返しかけますが、本音は言いませんでした。
あらすじ④:投げやりになる貫也
それから、貫也は標的の女性が自らお金を持ってくるまで待つのをやめて、ある程度の関係になると貫也からお金を催促するようになりました。
ある程度貯蓄ができた2人は不動産屋に行き、窓からスカイツリーが見える立派な古民家を購入して出店の準備を始めます。
ある日、貫也は里子が見つけてきたターゲットでウェイトリフティング選手のひとみから金をもらった後、本格的に罪悪感を抱きました。
ひとみは貫也と親しくなった直後に膝を痛めて選手生命を絶たれてしまった女性で、貫也との結婚生活を本気で信じる純粋な様子が貫也の良心を刺激したのです。
貫也はひとみが入院していた病院で、おじいさんに付き添っていた小学生の男の子恵太と仲良くなりました。
そして偶然にも恵太の母親は、貫也がハローワークでお世話になった木下滝子(木村多江)でした。
滝子はバツイチのシングルマザーで、印刷業を営む滝子の父と3人で暮らしています。
その後、貫也は木下滝子を次の標的にすると里子に報告します。
貫也が自分で標的を選んだのは初めてなので、里子は不信に思いましたが、黙認しました。
ある日の昼間、貫也は「夕方6時までに帰る」と言い残し、手作り料理を持って滝子と恵太の所に行ってしまいました。
※貫也と里子が務めている居酒屋が18時開店
(里子を店に残して滝子のところへ行く貫也 ©2012「夢売るふたり」製作委員会)
貫也はその夜結局帰ってこず、里子が1人で店をきりもりさせられました。
2人が働く居酒屋は貫也の料理のおかげで客足が増えていて、里子1人でさばける客数ではなくなっていました。
貫也はそれを知っていたはずなのに、連絡ひとつよこしませんでした。
あらすじ⑤:結末
(貫也を探しに来た里子 ©2012「夢売るふたり」製作委員会)
貫也は翌朝になっても戻りません。
怒った里子が滝子の住む工場の事務所兼自宅に行くと、貫也は嬉しそうに滝子の父の仕事を手伝っているのが見えました。
滝子は仕事のようで、事務所には今誰も居ません。
殺意が沸いた里子は事務所に忍び込み、貫也の包丁を持って出た直後、階段ですっころんでしまいました。
すると、里子が転ぶ瞬間を見ていた恵太が心配して近づいてきました。
里子は恵太を見た瞬間、全てを悟った顔をして落とした包丁も拾わず立ち去りました。
(貫也の前に現れた探偵 ©2012「夢売るふたり」製作委員会)
同じ頃、貫也と里子の元ターゲットで作家の棚橋咲月(田中麗奈)が、探偵の堂島(笑福亭鶴瓶)と共に貫也がいる滝子の父の会社に向かっていました。
咲月は貫也が忘れられず探偵を雇って調べた結果、貫也と里子が結婚詐欺まがいの犯行を繰り返していることを知って許せなくなったのです。
咲月が滝子の父の会社に着いたのは、里子が立ち去った直後でした。
貫也は堂島に追い詰められ、咲月にボコボコにされます。
貫也が殴られているのを見た恵太は、里子が落としっぱなしにしていた包丁を拾って堂島の背中を刺してしまいました。
やがて警察が来ると、貫也は恵太をかばって逮捕されました。
その頃、里子はまだオープン準備中の『新いちざわ』で、手伝いに来てくれていたラーメン屋の店長と話していました。
そこに突然警察が現れたので、驚いた里子はとっさに窓から逃げました。
里子は結婚詐欺がバレたと思って逃げましたが、警察は貫也の逮捕を知らせるために来ていました。
その後、逮捕の恐怖を目の当たりにした里子は『新いちざわ』を白紙に戻し、被害者女性達にこっそりお金を返して周りました。
被害者の女性達は、貫也と出会う前の生活に戻る者や、新しい生活を始める者などそれぞれの新しい希望に向かって人生を再スタートします。
その後、里子は生活拠点を変えて漁港で働き始め、貫也は刑務所で囚人の食事を作る仕事を任されました。
貫也はまだ店をやり直す目標を諦めていませんが、里子の目は密かな怒りを抱えたままどんより濁っていました。
解説、感想や考察など
本作は、里子を演じる松たか子さんが気持ちを口には出さず、目で感情を訴えるシーンが多かったのが印象的でした。
どのような意味を持つのか、私なりの解釈を書いていきます。
札束を燃やす里子
(引用:https://pro-foto.jp)
貫也がもらったお金が浮気相手の女からだったと知った時、里子は怒りに任せて札束に火を点けます。
燃えるお金を見つめている里子の目には、怒りや嫉妬などのドロドロした気持ちが表現されています。
この時の里子は貫也に裏切られた気持ちで一杯で、玲子のお金はこのまま燃やして捨ててしまいたかったはずです。
しかし、お店を失ったばかりの里子にとっても『お金』は喉から手が出るほど欲しいものでした。
そのため経済的事情と個人的感情との間で葛藤が生まれます。
このときの里子には『貫也に思い知らせてやりたい』、『このお金は本当は捨ててしまいたいけれど、今は一番必要な物』など色々なことが頭を巡っていたのではないでしょうか。
里子の1人H
里子が自宅で1人Hしているシーンがあります。
里子と貫也は少なくとも詐欺を始めてからはセックスレスであることを示していたと思われます。
また、貫也は浮気で性生活が充実していた一方で、里子は孤独に耐える現状が表れていたように見えます。
また、里子は子宮頸癌や卵巣癌などの本を読んでいました。
後に里子がターゲットの女性に、自身が癌であると言いはじめ、それを貫也が非難しているので、ただ単に嘘のために里子が勉強していたとも捉えられます。
ここで気になってくるのは里子と貫也には子供がおらず、不妊治療している様子もない点です。
子どもが居ない点を絡めて考えると、里子がこの本を自宅に置いていたのは、子どもが出来ない理由をもっと貫也に真剣に考えて欲しい(不妊治療したい)という里子からのメッセージだったようにも見えます。
不妊治療は高額なイメージもあるので、里子は自分から言うことは出来ず、貫也が行ってみようと言うのを待っていたのかもしれませんが、その意図は貫也には伝わりませんでした。
トイレの里子
生理が始まり、里子がトイレで下着を見つめている目がアップで映されます。
また、2人が街で見かけた赤ちゃんを可愛がる場面もあることから、里子は子供がいないことにプレッシャーや負い目を感じていることが示されています。
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