映画「夢売るふたり」の解説・考察記事②です!
「ねずみの意味は?」「恵太を見た里子の表情が変わったのはなぜ?」「貫也だけ逮捕されたのはなぜ?」「ラスト考察」について書いてます。
ネタバレありきの考察記事のため、まだ見ていない方はご注意ください。
本編時間:137分
制作国:日本
監督・脚本・原案:西川美和
出演者:松たか子、阿部サダヲ、木村多江 ほか
年齢制限:R15+
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※このページの情報は2024年7月時点のものです。最新の配信状況はサイトにてご確認ください。
解説、感想や考察など
里子がねずみを見つけたときの心境は?
(引用:https://unsplash.com)
貫也が滝子と過ごす間、里子は1人で店を切り盛りしていて厨房でネズミと出くわします。
いつの間にか家に忍び込み、こっそりと生きているネズミ。
あの時里子は、里子が貫也にさせていることはネズミと一緒かもしれないと思ったのではないでしょうか。
「女性の心」の隙間から貫也がねずみとして入り込み、女性を騙して財産をかすめ取っているのです。
自分たちの行いがネズミと重なってあの時ようやく良心が痛んだというか、ずるさに気づいた瞬間のシーンだったような気がします。
里子が恵太を見て表情が変わった理由は?
里子は滝子の自宅の外階段で足を滑らせて盛大にしりもちをついてしまいます。
転んだの里子を心配して近寄ってきた恵太を見て、里子は固まりました。
このとき里子が固まった理由は、貫也が滝子に夢中になるのに恵太(子ども)の存在が大きな理由を占めていることに気づいたからです。
里子の目からは怒りが消え、意気消沈してその場を離れます。
別の項目にも書きましたが、里子と貫也夫婦は子どもを欲しいのに授かっていない夫婦です。
推測ですが、2人は子どもは自然にできるだろうと思っていたのに妊娠せず、何となくお互いに気を使ってしまい子どもについてちゃんと話し合えていない夫婦のように見えました。
里子からすれば、貫也には『里子と貫也の子どもを授かる方法(不妊治療など)』に目を向けて欲しいのに、貫也は不妊治療には意識がいかず、子持ちの女性に目を向けてしまいました。
貫也は夢売る詐欺で里子の冷酷な一面を見て心が離れかけているのが大きな理由だとは思います。
貫也が見つけてきたのは『金づる』ではなく『貫也の欲しいものが揃っている家族』です。
そうなると、里子が捨てられる未来は容易に想像できます。
しかし、貫也が他の女性に目移りする環境を作ったのは里子自身なので、諦めて立ち去ることしかできなかったのかもしれません。
貫也だけが逮捕された理由
恵太が貫也を助けようとして探偵の男(笑福亭鶴瓶)を包丁で刺した結果、貫也だけが服役しています。
貫也が1人で罪を背負ったのです。
里子が捕まっていないことや、詐欺被害者の咲月も「訴えて家族や親戚に知られたくない」と語っていたことから、貫也は殺人未遂だけで服役していて詐欺は隠し通せたのでしょう。
カモメを見て何かを思う貫也
刑務所に入った貫也が仕事の合間に窓を見るシーンがあります。
貫也の視線の後、画面には2羽のカモメが映し出されます。
空を飛ぶ鳥からは『自由』を連想します。
貫也は『店をやり直したい』という夢をまだ諦めておらず、出所したら「またイチから出直そう」と考えているのではないかと感じました。
ただ、貫也が出所後に会いたいと思っているのが里子なのか、滝子と恵太なのかは難しいところですが、空を飛ぶカモメが2匹だった点や、カモメからの里子だったので、貫也はやはり里子とお店をやり直す未来を想像していたような気はします。
ラスト、カメラ目線になる里子
貫也が見たカモメの後、漁港で働いている里子が映ります。
里子はカメラを不機嫌そうな顔でじっと見つめたあと、プイっとそっぽを向いて仕事に戻っていきました。
これは、里子はもう貫也と一緒にやっていく気がないことを表しているのではと感じました。
里子はかなりの「察してちゃん」で天邪鬼な、かなりひねくれた性格でした。
恐らく里子的には「ここまでしてるのに、なぜ気付いてくれないの」が沢山あって、貫也が察してくれないことが嫌になったような感じを受けました。
だからと言って里子の方から自分の気持ちを素直に伝えたりする気も無いような、どうしようもない感じです。
今まで里子は貫也の夢が自分の夢と思い文句ひとつ言わずに頑張り続けてきましたが、本当は最初の浮気も、それからの『仕事』という名目での浮気も許しておらず、怒りを抱えたままなのでしょう。
そして滝子との浮気で里子はコンプレックス(子どもが出来ないこと)まで刺激され、怒りを通り越して愛想を尽かしたのではないでしょうか。
本当は里子が夢売る詐欺を貫也に命じたのは、「里子を愛しているからそんなことはできない・やりたくない」と貫也が拒否することを期待していた(愛情を示して欲しかった)からだと思います。
しかし貫也は拒否するどころか女遊びを楽しむようになり、ついには本気っぽい浮気をし始めて里子との約束も守らなくなっていました。
滝子を標的にしたことは、貫也なりの里子への仕返しでもあったのでしょう。
「こんなつもりじゃなかった」と里子は感じていたはずです。
その他感想
軽快なテンポや音楽で始まっていきますが、次第に内容が重く、心理描写も増えてヘビーになっていきます。
結婚詐欺を始めて、徐々に2人の罪悪感や絆が崩れていく過程が繊細に描かれています。
まあでも「他の女と親しくなれ」と夫に命じてる時点で関係が崩れるのは目に見えますけどね。。
死人が出ていないのが唯一の救いのような感じです。
阿部サダヲ、松たか子、その他俳優さんたちの演技はとてもナチュラルで素晴らしかったです。
特に松たか子の演技は必見です。
目や表情だけで感情を表す場面もですが、特に浮気したサダヲちゃんをお風呂場で問い詰めるシーンが良かったです。
パンをむさぼるシーンは、パンがヤマザキかどうか確認したくなりました笑
香川照之さんが一人二役してらしたのもツボでした。
どん底に落ちた夫婦が詐欺を始めて、里子はどんどん元気がなくなっていき、逆に貫也はどんどん元の明るさを取り戻し、生き生きしていく…
この反比例な2人の様子も絶妙で、性格の違いが細やかに描かれていました。
疑問に思ったのは、恵太の罪が闇に葬られているのはそれで良かったのか?です。
探偵を刺した恵太は貫也にかばってもらって、その後は幸せそうに生活している場面だけでした。
まるごと無かったことになっていたのに違和感がありました。
というか、刺すのをあえて子どもにやらせなくても良かったのではとも思います。
本作は言葉で語られないことが多く、理解するのが難しかったり捉え方を観客にゆだねるような、曖昧な点が多い作品でした。
これは西川監督の作風ですが、もう少しヒントを与えてくれると妄想がさらにはかどりそうです。
以上です!ご覧いただきありがとうございました。
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