映画『万引き家族』で樹木希林さんが演じた初枝に関する疑問や謎を解説・考察しています。
こちらは鑑賞済みの方向けの記事です。未鑑賞の方はネタバレにご注意ください。
本編時間:120分
制作国:日本
監督・脚本・原案:是枝裕和
初枝が独居老人を装っていたのはなぜ?
米山という民生委員の男(井上馨)が現れた際、初枝は家にいた祥太とリンに裏口から出るように合図しています。
しかし普段は6人で暮らしていることを隠す素振りはなく、誰かと一緒に住んでいることがバレても初枝の年金の額が減らされたりなどの被害は無い気がします。
それなのに、なぜ米山にだけは細心の注意を払って隠す必要があったのでしょうか?
民生委員とは、民生委員法に基づいて厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員のことで、シングルマザーや独居老人など(所謂『社会的弱者』とされる人々)の自宅を訪ねて、困っていることなどの相談に乗り、場合によって必要なアドバイスをするのが仕事です。
理由の1つとしては、初枝は社会的に『独居老人』でいた方が今後、国などから特別な援助を受けられる可能性があるため、それを受けられるように隠していたと考えられます。
また、米山が家に来た際の「息子さんは今、博多に住んでるんだよね?」と発言から、米山は初枝の本当の息子と交流は無いまでも『初枝には息子がいて、息子一家は今は福岡に住んでいる』という状況を知っています。
そのため、米山はニセの治&信代の存在に気付く可能性が一番高い人物なのです。
米山にだけは最新の注意を払って隠しておかないと、怪しいと思われたら調べられたり通報される可能性があるため隠していたと思われます。
ちなみに米山との会話は、治と信代が赤の他人であることを示す伏線になります。
海辺での口パクは何と言っていた?
初枝が亡くなる前日、家族全員で海に遊びに行きました。
1人ビーチに残った初枝は波打ち際で遊ぶ5人を眺めながら「ありがとう」と口パクで言うのは、自分の死期を悟ってひっそりと感謝を述べていると共に、自分が選んだ選択(信代達と同居したこと)は間違っていなかった、楽しかったと初枝が思っていることを鑑賞者に伝えているシーンです。
初枝は本物の家族とは築けなかった絆を、治、信代、亜紀、祥太、リンとなら築くことができました。
また、海に行く途中に初枝が信代を『お姉さん』と呼んだのは、恐らく初枝は信代の本当の名前を知らないか、忘れていたからです。
初枝はあくまでも『信代』ではなく『ユウコ(信代の本名)』と話したかったので、あえて「お姉さん」と呼んだのではないでしょうか。
初枝のへそくり
初枝は元夫と再婚相手の子である譲を訪ねてはお金を受け取り、お金はへそくりのように私物の中に隠していました。
この時に譲が渡したお金は3万円でした。
へそくりの金額は確か15万円だったので、毎回3万円もらっていたとしたら、初枝は5回は譲を訪ねています。
パチンコが趣味のはずの初枝がこのお金を使わなかった理由について『亜紀に残すために取っていた』という意見もありますが、私は違うと思っています。
初枝は元夫の再婚相手(譲の母)を憎んでいますし、譲も初枝の気持ちを汲んだ上で、お金を渡す時に「こんな事になってすまない」と慰謝料のようにお金を渡します。
これらのやりとりは、初枝と元夫はお互いに納得して別れたのではなく、譲の母が略奪愛的に初枝から夫を奪ったことを意味します。
譲が初枝に親切なのは負い目からもありますが、譲自身も結婚、離婚、再婚を経験したからなのかもしれません。
初枝は『譲(愛人の家族)からお金をもらうこと』そのものを目的に譲を訪ね、お金を保管していたのは、そのお金こそが『復讐の証拠』だったからではないでしょうか。
ここからがお金を亜紀のために残したのではないと思う理由ですが、慰謝料として譲から受け取ったお金を、譲の娘である亜紀に返そうとは思わない気がします。
まして、初枝が死ねば亜紀は実家に帰される可能性があるなら尚更です。
亜紀が初枝のへそくりを手に入れて実家に帰れば、それは譲の所にお金が戻ってしまうことになります。
なので初枝のへそくりは、初枝が元夫の愛人家族に対する復讐の証として手元に置いていたもので、誰にも渡すつもりは無かったのではないかと個人的には感じました。
初枝にとって亜紀はどういう存在だったのか
初枝の亜紀に対する態度は優しいおばあちゃんそのもので、ちょっとした変化で亜紀の心境がわかるほどに亜紀を知り、本当の祖母のように愛していたとは思います。
しかし、同時に「亜紀が本当の孫だったら良かった」という思いも抱えていたのではないでしょうか。
初枝は恐らく亜紀に、愛しい気持ちと同時に元夫の愛人の面影を見てしまうのです。
初枝の抱く思いは複雑で想像が難しいですが、初枝自身の子どもとは上手くいかなかったのに、初枝が最も憎む不倫相手の孫とは仲良くなれるというのは、何だか神様の嫌がらせのようにも感じます。
個人的な推測ですが、初枝が亜紀と一緒に住もうと声をかけたのは、元々は『夫を奪った憎い家族に何か仕返しできないか』という思惑だったり『私を捨てた元夫の孫が今、私を心から必要としている』という優越感に浸るためだったんじゃないかと思っています。
『復讐心を満たすために利用しよう』と考えたことが、初枝が亜紀を家に招いたきっかけかもしれませんが、同時に亜紀は、初枝が愛した男の孫でもあります。
一緒に暮らすことで愛情が芽生えていたのは間違いなく、初枝の言動がそれを物語っています。
結果、初枝は亜紀に対して愛情も憎しみも抱いていたというのが初枝の心境だと思います。
ちなみに、元夫の再婚相手がもう亡くなっていることは、初枝が譲宅を訪れた際に、元夫の隣にもう1つ女性の遺影があったことからわかります。
あれが元夫の再婚相手であり、譲の母親だと思われます。
初枝についての考察は以上です。
読んでいただきありがとうございました。
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