映画『私の男』ネタバレ解説|血の雨、豚の餌発言についてなど12の考察 | 映画鑑賞中。

映画『私の男』ネタバレ解説|血の雨、豚の餌発言についてなど12の考察

ヒューマンドラマ(クライム)

映画『私の男』の解説、考察をしています!

2007年の第138回直木賞を受賞した同タイトル小説を映画化した作品。
養子縁組を結んだ親子の禁断の愛の物語。

制作年:2013年
本編時間:129分
制作国:日本
監督:熊切和嘉
脚本:宇治田一樹
原作:小説『私の男』桜庭一樹

私の男 【電子書籍】[ 桜庭一樹 ]

感想(16件)

 

※年齢制限について
本作にはR15+の年齢制限があります。
刺激の強い性描写と激しい出血を伴う殺人シーンのためです。

キャスト、キャラクター紹介

腐野 花(くさりのはな)…二階堂ふみ
9歳の花…山田望叶

津波で両親と2人の兄妹を亡くし孤児になった少女。
元々の名字は『竹中』だったが、淳悟に養子として引き取られて『腐野』に変わった。
独占欲が強く、養父の淳悟に執着する。

腐野 淳悟(くさりのじゅんご)…浅野忠信

海上保安部の調理係。花を引き取って育てた男。
淳悟の両親は彼が若い頃に2人とも他界している。
「家族が欲しい」と花を養子にした後、成長していく花を女として見るようになる。
大塩の孫の小町と長年交際している。

大塩藤竜也

現役引退した地元紋別の名士。
町で彼の世話になっていない人はいないと言われる程世話焼きで人望の厚い人物。
かつては道内飲食チェーン店の社長だったが、バブル崩壊の影響で倒産した。
奥尻島の避難所で初めて花を見てからずっと気にかけて、毎日のように様子を見にくる。

 

・その他のキャスト

大塩小町(オオシオコマチ・大塩の孫)…河井青葉
田岡(警察官)…モロ師岡
尾崎美郎(オザキヨシロウ)…高良健吾
ダイスケ…三浦貴大
花の父…竹原ピストル
大塩暁(オオシオアキラ、大塩の孫)…仲野太賀
小町の同僚…安藤玉恵
章子(花の同級生)…相楽樹
美郎の先輩…三浦誠己
花の同僚…松山愛里
タクシー会社の事務員…広岡由里子
タクシー運転手…康すおん
避難所の老婆…吉村実子
海上保安官…吉本菜穂子 ほか

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あらすじ前半


(幼い花と20代の淳悟 引用:https://tsutaya.tsite.jp

1993年。奥尻島に住んでいた10歳の竹中花(山田望叶)は、※北海道南西沖地震で親兄弟を失くし、避難所に現れた花の遠縁だという海上保安官の腐野淳悟(浅野忠信)に引き取られ、淳悟の住む紋別で育てられた。
※地震の際、一番深刻な被害が出たのが奥尻島だった。

数年後。花(二階堂ふみ)はその年の春から中学生になり、化粧に興味を持つ年頃になっていた。
淳悟は職業柄、一度海に出ると数日戻らないため、現役引退した地元の名士 大塩(藤竜也)をはじめ、町中の大人に暖かく見守られ、時には世話になりながら育った。
淳悟と、大塩の孫で銀行勤めの小町(河井青葉)は長い恋人関係が続いていて、小町は周囲から結婚を急かされることもあり自身も望んでいたが、淳悟は近頃デートの時も心ここにあらずの様子だった。
ある日の夜。淳悟とホテルでデートした小町は、淳悟がシャワーを浴びている間に彼のコートのポケットから、プレゼント用の小箱を発見する。
婚約指輪かもしれないと思いこっそり小箱を開けてみると、中身はピアスだった。
それはデザインからして明らかに小町自身へのプレゼントではなかったため、小町は淳悟に対して不信感を抱く。

数日後。黙って淳悟のピアスを持ち帰っていた小町は、仕事帰りに車の窓から小箱ごと捨てた。
その日の夜は町内の食事会があった。
手伝いで参加していた小町は、誰もいない集会所の2階の一室で、花が淳悟の指を舐めているのを目撃する。
小町は「話がある」と言い引き離そうとするが、淳悟は花から離れようとせず、花はクスクス笑いながら、小町を気にせず指を舐め続けた。
小町は花が子どものときから苦手だったが、大塩が花を好きなのもあり、表面上は姉と妹のような関係を保っていた。


(淳悟について話す花と小町 引用:https://tsutaya.tsite.jp

後日。小町は下校中の花と話をしに行くと、花は淳悟に誕生日プレゼントにもらったというピアスを舐めていた。
小町が没収した後、淳悟は買い直していたのだ。
花は唐突に「小町さん、淳悟に殺されても良いと思う?」と聞く。
真意がわからず小町が聞き返すと、花は「私は殺されても良いと思ってる。
あの人、寂しくてずっと我慢してるの。家族ってゆう『心』を欲しがってる。知ってた? 他人じゃダメなの。
だから私、小町さんはダメって淳悟に言った」と笑顔で話した。
まるで妻か恋人のように淳悟への好意を語る花を見て、小町は2人の関係に嫌悪感を抱いた。
その後、小町は淳悟と別れて東京に引っ越した。

数年後。花は高校生になっていて、近視からメガネをかけるようになり、淳悟とは肉体関係を持つようになっていた。

下校中に偶然大塩と会った花は、寂しくないかと聞かれて「ちゃんと帰ってくるし、男ってそういうものでしょ」と大人びた発言をして大塩を笑わせた。
「わしは淳悟と小町に結婚してほしかったが、もう無理だと思うかね?」と聞く大塩に、花は何も答えなかった。
その後、花は外で淳悟の帰宅を待ち、その場でキスを迫った。

ある日の早朝。淳悟が仕事で10日間ほど家を空けることが決まった。
不機嫌になった花の機嫌を取るように淳悟は花の体をまさぐり、キスをして、そのまま2人は体を重ねた。
行為の真っ最中、花は開け放しのカーテンの窓の向こうに大塩がいたことに気付いた。

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(大塩に見られていたことに気付く花と淳悟 引用:https://www.video.unext.jp

その日の下校中、花はバス停の近くで偶然大塩に会った。
大塩の態度で淳悟との関係を知られたと確信した花は、大塩が「話をしよう」と言うのを無視して海に向かって歩き、大塩は花を追いかけた。
その日、紋別の海には無数の流氷が流れ着いていた。
大塩は今日、旭川に住む花の遠い親戚の竹中さんの所へ足を運び、高校卒業まで花の世話を見てもらうように頼みに行っていたことを打ち明けて、花に一刻も早く淳悟から離れるように説得しようとした。
さらに、淳悟が若い頃にカッとなって母親の首を絞めて殺しかけた過去を明かして「あいつは家族を持つのに向いとらん」と個人的な見解を添えた。
それでも花は聞き入れず「あの人は心を欲しがってた。だから私のをあげた!」と淳悟への愛を語る。
見かねた大塩は、淳悟と花が実の親子だと打ち明けようとすると、花は「そんなの気付いてる!体中がそう言ってるよ!」と叫び、大塩を流氷の一角に突き飛ばした。
花が産まれる約1年前、淳悟は母親に暴力をふるったことが原因で、遠縁である花の両親に短期間預けられていた。
淳悟はそこで花の母と男女の仲になり、母は花を身ごもったのだった。
大塩は花が全て知っていたことに驚きながら「親子がそんな関係になるなんて、神様が許さないよ!」と警告するが、花は「しちゃいけないことなんて無い!あれ(淳悟)は私の全部だ!」と叫んだ。
やがて2人が乗る流氷は波で沖に流され始めた。
「助けてくれ!」と叫ぶ大塩を見捨てて花は1人で海に飛び込み、泳いで陸に戻った。
その後数日間、花は風邪を引いて学校を休んだ。

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あらすじ後半※ネタバレしてます

淳悟が海から帰ってくる予定の日、花は学校をサボって港に淳悟を迎えに行こうとしていると、警察官の田岡(モロ師岡)に呼び止められた。
花は田岡から、行方不明になっていた大塩が沖合の流氷の上で凍死していたのが見つかったことと、淳悟の残業が長引いていることを知らされた。

その日の夜、淳悟が帰宅すると、花はすぐに大塩を殺したことを告白した。
「後悔してない」と言う花の頬を淳悟は優しく包んだ。

翌日、大塩の葬式が行われた際、町民の間では大塩を殺したのは誰なのかと推測が飛び交っていた。
大塩は事情もなくひとりで危険な流氷の上に乗るような軽率な人物ではないからだ。
町民たちの噂の中には『淳悟が犯人じゃないか』という声もあった。
参列のために東京から紋別に戻っていた小町は、淳悟と花から目を逸らした。

その後、2人は逃げるように東京に引っ越しして借家の一戸建てで新しい生活を始めた。
淳悟は引っ越しを機に海上保安官を辞めてタクシー運転手に転職し、花は都内の高校に転校した。
東京での生活に慣れて来た頃、淳悟が1人で自宅に居た時、警察官の田岡が突然訪ねて来た。


(淳悟を訪ねてきた田岡刑事 引用:https://tsutaya.tsite.jp

淳悟は驚きながら田岡を家に入れて数分後、田岡は挨拶代わりの世間話をして花の帰宅がいつになるのかとソワソワしながら尋ねると、「豚の餌だ!」と言いながら、花のメガネを淳悟に見せた。
それは花が大塩を殺した時にどこかに落として失くしていたメガネだった。
淳悟はとっさに田岡に襲い掛かり、もみ合いの末、包丁で田岡を刺し殺した。

帰宅した花は、台所にうずくまる淳悟と田岡の死体を見て状況を理解し、その場にへたり込んだ。

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その後、花は短大を卒業して派遣会社に登録し、大手会社の受付嬢として働いた。
一方で淳悟は無職になり、一日中酒を煽って人生に後悔する日々が続いた。
ある日、花は派遣先会社社員の尾崎美郎(高良健吾)と親しくなり、ふたりきりで飲みに行った。
バーで、花は「小さい頃は淳悟のことが何でも分かったけど、今は何を考えてるのかわからない」と語った。
花が酔い潰れたので、美郎はタクシーで花を自宅まで送り届けた。
美郎はすぐ帰ろうとしたが、淳悟は「始発の時間まで家に居れば良い」と言い、美郎を家に上げた。
淳悟は花の肩を抱いて部屋に入れ、コートを脱がせてコンタクトを外してやった。
2人が明らかに親子ではなく恋人同士の雰囲気を醸し出しているのを見た美郎は、唖然として廊下に立ち尽くした。
花が寝た後、淳悟は美郎の服を無理に脱がせたり指を舐めたり「お前には無理だ」と言い放つなどの異常行動を取り、美郎が怒ったところで家から追い出した。
美郎との破局がきっかけで、花は淳悟から離れて一人暮らしを始めた。


(美郎の服を脱がせる淳悟 引用:https://callme-ojisama.com

約3年後。花はダイスケという青年と婚約し、高級レストランで淳吾に彼を紹介した。
淳悟はスーツにサンダル姿のちぐはぐな格好でレストランに現れて、花に「綺麗になったな」と声をかけると、美郎に言ったように、ダイスケにも「お前には無理だ」と言い放った。
ダイスケが料理を注文している間、花は靴を脱いだ足を淳悟のふくらはぎに這わせながら、口パクで「おめでとう、は?」と祝福を強要した。
淳悟は息を呑み、美しい花を見つめた。

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感想、解説、考察など


(引用:https://eiga.com

撮影当時19歳だったとは思えない妖艶さを見せてくれた二階堂ふみさんに、年を重ねるごとに花に依存してダメ男と化していく淳悟を演じた浅野忠信さんも、相変わらず良い味出してくれてました。
二階堂ふみさんの、動物モチーフの耳当てを着けた中学生のシーンと、浅野忠信さんがどんなに若作りしても20代後半には見えなかった点以外は楽しく鑑賞させていただきました。
特に冒頭の、花が流氷の海から産まれるみたいに陸に上がるシーンは、こっちまで冷たい水につかったみたいに息が苦しくなりました。

気になったシーンを振り返り、原作小説とも比較しながら考察します。

母親の死体を蹴る花

9歳の花が避難所で母親の死体を見た時、花は死を確かめるように死体を蹴ります。
その様子は、まるで虫や動物が死んでいるか確かめるかのようでした。
普通はすがりついて大泣きするような場面ですが、それは親を好きだった場合に取る行動だと考えると、花は母親が好きではなく、どちらかというと嫌悪感があったのでは、と考えられます。
原作小説では、母親の死体は見つかっておらず、花が死体を蹴るという行動もしないので、映画の花はよりサイコパス風に描かれているように思います。

映画で地震前の花の生活は一切描かれないので、語られる過去の話などから推測するしかないですが、少なくとも花の母は、一時的に預かった親戚の青年と不倫してしまうような女ということです。
一般的には倫理観に欠ける行動で、少なくとも淳悟は後腐れの無いその場だけのアバンチュールを楽しんでいたような懐かしみ方をしていました。

見方を変えて、花の母が『淳悟の元恋人』という点に着目すると、淳悟の女を排除しようとする花の姿勢を表現していたようにも思えます。

一方で、花が性に対して異常な程早熟だったのは、花の母親の普段の行動が関係していたのではないかという推測がよぎりました。
子どもは親をよく見て真似をしながら学び成長します。
花は母親に無意識の嫌悪感を抱きつつ、似る所は似てしまったというか、男が喜ぶ仕草やポイントを母から学んだのでしょう。

母親は死体を蹴り、生きていた時の顔すら出てこないのに対して、花は父親を『自分を必死で守ってくれた頼もしい存在』と記憶していて、顔もちゃんと覚えていたようです。
この育ての父親が頼れる存在だったからこそ、淳悟には理想の父親像と恋人像の両方を重ねてしまい、過度な依存に至ったのではないかと考えました。

 

水を飲まない花


(引用:http://blog-imgs-88.fc2.com

花は配給で配られた2Lのペットボトルを片時も離さず持っていましたが、一切口を付けていませんでした。
また、老婆に「お金持ってない?」と聞かれた際は、お金がない代わりに「水飲む?」と言いますが、いざ老婆が未開封のペットボトルのキャップを開けてやろうとすると嫌がります。
老婆が信用出来ず、ペットボトルごと取られるのを恐れたからです。
ちなみに、この老婆は小説にも登場しますが、お金を催促するような発言はしておらず映画で加えられたセリフです。
大塩が花に避難所で出会った時のことを話した時、花にこの老婆の発言が唐突にフラッシュバックしていて、なぜ淳悟じゃなくて老婆の「お金持ってない?」なのか、考えたけどわかりませんでした(T_T)

飲み水を手放さないのは生きることへの執着でもあるでしょうが、1番注目したのは淳悟がキャップを開けてやっても飲まなかった点です。
花は水そのものを持っていることに対する安心感から、本来は飲むための物なのに、飲んでしまうのがもったいなく、失いたくない気持ちだったのではないでしょうか。
花の『自分の物』に対する強い執着、独占欲が描かれています。
また、家族も家も失って避難所に連れてこられた花は、少しでも不安感を和らげるためにペットボトルを抱きしめていた(すがれる人間が居ないから)、という心理状況も表していたように見えました。

奥尻島から紋別に向かう車の中で、淳悟が「俺はお前の物だよ」と言ったときから、花は淳悟を『自分の物』認定したのでしょう。

尚、小説では、花がペットボトルを持ち歩く描写はありますが、飲まないのはペットボトルのふたを開ける力がなかったからで、淳悟がキャップを開けてやると一気に飲んでいます。

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淳悟が花を引き取るのに反対した大塩


(引用:http://kitanoeizou.net

淳悟が花を引き取ると言い出した時、大塩は反対していました。
理由は独身の淳悟よりも、子育て経験のある夫婦などに預ける方が良いという一般的な考えもありますが、恐らく1番の理由は、淳悟が家族に暴力をふるった過去があるからです。
大塩は淳悟が独身で子育て経験が無いことを理由に別の親戚を花のために当たろうとしていましたが、淳悟は譲りません。
淳悟は花の実の父親で、それは淳悟自身も大塩も知っていましたから、大塩は黙るしかありません。
それに大塩は淳悟のカッとなりやすい性格を知っていたので、あまり淳悟の意に沿わないことをすると何をされるかわからないという保身もあったのかもしれません。
この時既に50歳を超えていた大塩は、当時25歳の淳悟には肉体的に勝てないからです。

小説では、大塩は淳悟が子どもの時から何を考えているかわからず、少し怖いと思うところがあり、だから花を引き取ると言いだした時も絶対にダメだと直感したが、淳悟を恐れる気持ちから反対できなかった、と発言しています。

 

血の雨


(引用:http://bennri.link

花と淳悟の愛の営みの最中、2人に血の雨が降り注ぎます。
この雨は、花が大塩に語っていた「淳悟が実の父親だと、体中が叫んでいる」という感覚を映像化したもののように見えました。
花は誰に教わるでもなく、血が騒ぐことで淳悟が実の父だと確認していると同時に、2人ともが近親相姦という禁忌に対する背徳感を持ちながら行為に及んでいることを、血の雨で表現していたのではないでしょうか。

逆に言うと、セックスして血が騒ぐことで、親子であることをお互いに再確認して孤独感を埋めていたようにも見えます。

ちなみにこの血の雨は原作小説には登場しない表現です。

花の性格について


(引用:https://twinavi.jp

映画の花は、小説の花よりもメンヘラな部分を強調して描かれていたように感じます。

小説には地震が起こる直前の花と家族の様子が描かれています。
その情報を元に花の家族について補足すると、花の両親は奥尻島で民宿を経営していて、母は元ホステスで22歳の時に花を産んでいます。
震災当時9歳だった花には、中学生の兄と小学校低学年の妹がいました。
兄と妹は父親(花の母の夫)にそっくりなのに、自分だけ兄妹と顔立ちが違うことや、民宿の隣に住んでいた父の姉夫婦から好かれていないことを気にしている様子も描かれています。

 

淳悟の性格について


(引用:https://woman.excite.co.jp

寡黙で謎めいたキャラクターだった淳悟について考えます。
小説の内容とごっちゃになっているのでわかりづらかったらすみません。

まず彼の年齢について、映画版では花と淳悟の年齢を聞かれた時、花は17歳、淳悟は34と言いかけて35歳と言いなおす場面がありました。
この発言から考えると、花は淳悟が18歳の時の子ですが、原作小説では、花は淳悟が16歳の時の子です。
倫理的な観点から修正されたと思われます。

淳悟は怒ると何をしでかすかわからないタイプで、実の母にも暴力をふるったと大塩が語っています。
怒ると衝動的になり殺人まで犯してしてしまう点は、花と淳悟の共通点です。

実の娘と知りながら花と肉体関係を持つ点や、花の初めての恋人候補(もしくは恋人)だった美郎に初対面で気味の悪い行動を取ったり、かなり衝動的で自制心が弱く欲望に勝てない性格であることがわかります。

田岡を殺した後は本格的に後悔の念に囚われて、花が働くようになるとほぼ同時に仕事を辞めています。
花がいなければ自殺でもしていたんじゃないかと思うほど、生きる気力を失くしているように見えます。

ラストで花とダイスケに呼ばれてレストランに現れた時の、スーツにサンダルというちぐはぐな組み合わせや、女物の赤い傘をさして通行人に時々ぶつかりながら歩く様子は、彼の社会性の欠如も上手く表していたと思います。
このとき淳悟は既に無職になって数年経っていたので、身なりに気を使うことが精神的にも金銭的にも難しくなっていたんだとは思いますが。

ちなみに、東京に出てからの淳悟の職業は映画ではタクシー運転手ですが、小説ではバイク便の契約ライダーの仕事(企業や個人からの急ぎの郵便物を依頼主から受け取って届け先に直接配達する仕事)をしています。

映画では淳悟の家族の詳細は明らかになっていませんが、小説によると淳悟は一人っ子、父親は漁師で、淳悟が小学4年生の時に船の事故でそれきり行方不明になり遺体も見つかっていません。
淳悟の母は父が死んでから、父の代わりをするように淳悟に厳しく接するようになり、淳悟が高校卒業する頃に病気で亡くなっています。
また、映画では淳悟は母に暴力を振るって距離を置く形で花の両親の所に一時的に送られたことになっていますが、小説では淳悟が16の時に母の病状が悪化して、代わりに世話を頼んだのが花の両親であり、家庭内暴力の話はありません。
淳悟は奥尻島で高校卒業まで世話になる予定でしたが、花の母との関係が明らかになり半年で紋別に返されています。
大塩の家庭に世話になりながら育ち、高校卒業後は京都にある海上保安学校で2年間勉強した後、紋別に戻って海上保安官になりました。

尚、小説と映画では淳悟のキャラクターも多少異なる雰囲気で描かれています。
小説の淳悟は何事にもあまり執着がなく、幽霊のように不気味で身なりも貧乏くさいけれど、立ち振る舞いはどこか優雅で気品がありつつ、人殺し特有の鋭さを併せ持つ美男子、というような人物です。

父親になりたかった淳悟

冒頭で9歳の花を抱き上げて「俺の娘だ」と公言している場面を筆頭に、彼の発言には嘘がありません。
なので、淳悟の「俺は父親になりたい」という、実際の行動とは矛盾する発言も、彼の本心だったはずです。
花が料理が出来る年齢になっても淳悟が台所に立ち続けるシーンなどが、彼が父親になろうと努力していたことを物語っていたように感じます。

そう考えると、淳悟が真に目指していたのは健全な普通の親子関係だったけれど、彼は欠損家庭で育ったため、親子関係がどんなものかもわからないまま花を養子にしました。
漠然とした理想はあったものの、誘惑と孤独に負けた結果、異性を求めていた花の『男』になってしまったように思われます。
その後の美郎やダイスケに対する態度も、本当なら父親らしく振る舞いたかった所が、嫉妬心に負けて思わず排除しようとしてしまったのでしょう。

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淳悟の指のにおい

淳悟は会社の事務の女性に指のにおいを嗅がれて「不潔だと年頃の女の子に嫌われるよ」と注意されていました。
このシーンの直前に、淳悟のお弁当が暑さで傷んでいた場面があったので、腐敗臭かな(苗字も腐野だし)、と最初は思いましたが、淳悟がその後自分の指を舐めて味を確認したり、美郎の指を舐めていた理由も考えると、腐敗臭ではなく『花のにおい』だったようです。
小説にも淳悟の指には花のにおいが染みついている、と答えが書いてありました。

淳悟が事務員に指摘された後に自分の指を舐めてみて、花のにおいが染みついていることに気付きます。
美郎の指を舐めたり匂いを嗅いだのは、花と美郎が肉体関係を持ったかどうかを、美郎から花の味やにおいがするかどうかで確認しようとしていたのではないでしょうか。
ついでに淳悟の「お前じゃダメ」は、言い変えると「花は俺じゃなきゃダメだ」と言っているようなものだったんだと思います。
理由は淳悟自身が『他人じゃダメ』なので、花もそうだという確信めいた思いがあったのではないでしょうか。

補足で、小説で淳悟の体臭は『降り続く雨のような湿った匂い』と花が語っています。

映画で印象的だった、淳悟が美郎の指を舐める行動は小説にはありません。
小説で美郎が淳悟の家に泊まった際、美郎は2人の親密さに疑問を抱きますが、花が災害孤児である点や、淳悟も両親と若い頃に死別しているなど、一般家庭で裕福に育った美郎とは別世界で育ったことを考慮して理解しようと努めています。
美郎は淳悟の自宅付近で田岡の幽霊と、押入れに隠された田岡の遺体を目撃していますが、夢や幻覚だと思い込み、始発の時間に淳悟の家から出ています。

鮮やかな赤い小物


(引用:https://ameblo.jp

本作では赤い小物が印象的に使われています。
花の真っ赤なマフラー、淳悟が使っていた赤い傘などです。

これらの赤い小物は、花と淳悟の関係において主導権の無い方(精神的にも経済的にも)が赤い小物を身に着けているのがわかります。

初めて赤いマフラーを身に着けたシーンが出るのは、花が高校生になった時です。
花が淳悟と男女の関係になって間もない頃で、一般的な恋愛においても盛り上がる時期です。
経済的にも、大黒柱は働いている淳悟が財布を握っています。

上京後、このマフラーは淳悟が身に着けていたのが印象的でした。
シンプルなロングマフラーだったので、淳悟が巻いていてもまだ自然に見える範囲内です。
この頃は、花はいつまでも共依存の関係ではいけないと思い立ち結婚相手を探していて、淳悟から離れようと努力している最中です。
経済面でも花が働き、淳悟は無職で頼れる人間も花だけということもあり、花への依存度合いが高まっています。
また、北海道に居た頃は花が外で淳悟の帰りを待っていたのに対し、上京後は淳悟が外で花の帰りを待っている点も、関係が逆転している様子を表しています。

ラストの赤い傘は、男性が持つにはかなり違和感のある女性的な花柄の傘です。
この不釣り合いな雰囲気には、淳悟が見た目に気を遣うことをすっかりやめてしまったのと共に、花への依存度合が高まっているのを表していたようにも見えます。
この傘は、花が淳悟の家に置いて行った物だろうと思っていましたが、小説に、淳悟が百貨店の傘立てから盗んだ物だと書かれています。

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豚の餌


(引用:https://tsutaya.tsite.jp

警察官の田岡は「豚の餌だ」と言いながら、淳悟に花のメガネを見せます。
「豚の餌だ」という発言の意味は、恐らく『花を豚箱(刑務所)に入れるための餌(証拠)を見つけたぞ』という意味だろうなと感じました。
田岡は殺された大塩に人一倍恩を感じ誰よりも慕っていた人物で、恩人を殺した犯人を憎み、一刻も早く逮捕しようと密かに燃えていました。
なので、犯人に対する憎しみがにじみ出た表現なんだろうと思います。

唐突に「豚の餌だ」と言われると若干意味不明で考えてしまいますが、これは原作小説で田岡が犯人への憎しみや軽蔑を込めて使用した表現です。
ただ、小説ではまだ自然に登場していて雰囲気は全く違うので、引用しておきます。

「身内しか愛せない人間は、結局、自分しか愛せないのと同じだ。
利己的で、反社会的なそれらは、豚みたいに生きていくしかないんだ。
食う物だって…豚の餌だ」
吐き捨てるような声。ちらりと見ると、嫌悪感に満ちたゆがんだ顔をして、俺の手元をじっと見下ろしていた。(引用:小説『私の男』より)
※「」内の発言は田岡、『俺』は淳悟です。

東京に出てきた田岡が私服だったことや、仕事を休んで来たという発言から、大塩殺しの犯人探しは警察の意向ではなく田岡が独自に捜査していたことを表します。

小説との違いを紹介すると、田岡の死体をどうやって処理したのかなどは映画では全く描かれませんが、小説では、淳悟と花は田岡の死体を布団用の大きなビニール袋にくるんで押入れに隠し続けています。

また、田岡が淳悟に見せる大塩殺しの証拠は、映画では『花のメガネ』ですが、小説では『大塩のカメラ』です。
淳悟は田岡を殺した後も大塩のカメラを処分せず持ち続け、花と美郎の結婚の際に『サムシング・オールド』を決めて持ってきてほしいと花に言われて、罪を再確認させるかのようにこのカメラを渡します。

 

花が結婚した理由

「お互いがお互いじゃなきゃだめ」と語り、淳悟に対して一途だった花がなぜ結婚しようと思ったのか明確な発言などはありませんが、美郎との別れがきっかけになっていることは確かです。
美郎と別れた後、花は淳悟の家から出て一人暮らしを始め、裕福なダイスケと出会って結婚を決めました。
東京に出て、成長と共に社会に触れて視野が広くなったことや、男が淳悟だけではないことを知ったこともあるでしょうが、恐らく一番の理由は、花は大塩と田岡のことを一刻も早く記憶から葬り去るために、淳悟から離れたのではないでしょうか。
また、美郎に「大人になればなるほど淳悟の考えていることがわからなくなった」と語っていたのも理由のひとつです。

小説では、花が淳悟に抱く葛藤や、普通の人生に対する憧れから結婚を決めたことが語られているので、一部引用します。

いままでのどうしようもなく暗い生活から、なんとかして抜け出したいとばかり望んでいた。
取りかえしのつくうちに、きちんとした相手と結婚して、たしかな幸せをつかみたかった。
気味の悪い過去に囚われて、咲かずに、枯れてしまうのはいやだった。わたしは、まだ若いのだ。 (引用:小説『私の男』より)

『君の悪い過去』は、間違いなく大塩と田岡を殺した過去のことをさしています。

この人となら、と、結婚を決めたときわたしは考えたのだった。
こういう男の人とだったら絶望的に絡みあうのではなくて、息もできない重苦しさでもなくて、ぜんぜんちがう生き方ができるかもしれない。生まれ直せるかもしれない。
不吉さの欠片もない、彼の若さそのものに安堵する気持ちもあった。
わたしは、できるならまともな人間に生まれ変わりたかった。
ゆっくりと年老いて、すこしずつだめになっていくのではなく、ちゃんと家庭を築き、子供を産んで育てて、未来をはぐくむような、つまりは平凡で前向きな生き方に、変えたかった。
そうすることで、手ひどい過去までも、ずるく塗りかえてしまいたかった。
そうやって自分を生き延びさせようとしていたのだけれど、いまこうして、こんな明るい場所にじっと座っていると、わたしのわたしそのものである部分 - 見たことも触ったこともない、魂の部分が、ゆったりと死んで、震えながら急速に腐っていくようにも感じられた。  (引用:小説『私の男』より)

小説は美郎が結婚相手なので、『この人』は美郎です。
『絶望的に絡みあい、息もできない重苦しさ』は、花が淳悟と一緒に居た時に感じていたことで、『ゆっくりと年老いて、すこしずつだめになっていく』のは淳悟であり、花は淳悟を暗に反面教師にしているのがわかります。

ラストの考察


(引用:https://callme-ojisama.com

花は高級レストランに淳悟を呼び、ダイスケと結婚することを報告します。
そこで、花は約3年前から淳悟と離れてひとり暮らししていたことが明かされます。
美郎との関係を壊されたことが、花が淳悟から離れるきっかけになったのは間違いないです。   
ダイスケとの結婚を歓迎しようとしない淳悟に、花は祝福を強要します。
花は淳悟が原因でダイスケと別れることになるのは絶対に避けたかったからです。
上下関係をはっきり示し、かつダイスケに気付かれないようにするための行動でありながら、表面的には普通に見えて、水面下では心も体も繋がっているような、これまでの2人の関係が表れています。
花の意図を汲み取った淳悟は、この後2人を祝福する言葉を発すると思われます。

今後の2人については、は映画の内容だけで想像すると、花は普通の幸せを掴もうと必死な一方で、花も淳悟もお互いへの愛情が消えることは考えにくいですし、誰にも言えない秘密を共有しているので、愛情と憎しみの入り混じる腐れ縁が続くのではないかと予想します。
なお、映画のラストのような花と淳悟の行動は小説にはありません。

小説では、花が淳悟の家を出るのは美郎との結婚式の当日です。
結婚式が終わると、花は美郎とそのままハネムーン旅行に出て海外で数週間過ごします。
花は帰国してすぐ、淳悟と住んでいたアパートの大家からの「部屋に荷物が残っている」という留守電を聞き、訳が分からずアパートへ行きますが、淳悟はおらず、花が残していったいくつかの私物を残してきれいに片付けられていて、花が結婚式のとき淳悟に渡した花束が台所に置かれたまま、腐って異臭を放っていました。
花は田岡の死体が気になって押入れを確認すると、死体はきれいになくなっていてひとまず安心した後、淳悟が消えてしまったことに花は絶望しながらアパートから出ていきます。
淳悟がどこに行き、どうするつもりなのかは花にもわからずじまいです。

 

以上です!お読みくださりありがとうございました(^^)

 

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