映画『マイノリティ・リポート』徹底解説|それぞれの思惑など13の考察、原作との比較など | 映画の解説考察ブログ - Part 3

映画『マイノリティ・リポート』徹底解説|それぞれの思惑など13の考察、原作との比較など

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SF

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ダニー・ウィットワーの狙い


(引用:https://www.dailymail.co.uk

司法省所属のウィットワーがナッシュ司法長官から受けていた指示は、犯罪予防システムの欠陥を探すことです。
犯罪予防局はバージェスが長官となりシステムと局を立ち上げ、どの省庁にも属さず独立して運用されていた機関です。

システムが素晴らしい成果をあげていたため、ナッシュはバージェスがシステムの権利を独占して地位と名誉と金を集めていたのが気に入らず、隙あらば司法省の傘下に置きたいと考えていました。
そのためにシステムの問題を探し出して指摘し、別の機関による監視が必要だと訴えようと考えます。

しかし、犯罪予防システムは外からは完璧に見えるようにバージェスが入念な対策を行っていたので、外部調査だけでは欠陥を見つけられなかったのでしょう。
そこでナッシュは、出世欲に燃える賢い男ウィットワーに内部調査を命じます。

ウィットワーが現れた時期と、ジョンがアン・ライブリーに興味を持った時期がほぼ同時だったため、ジョンはプリコグが自分の犯罪を予知した時に『ウィットワーにハメられたに違いない』とミスリードします。
これはバージェスにとって嬉しい勘違いでした。

しかしよく考えてみると、ウィットワーは当時プリコグの予知を操れるほどシステムを熟知していなかったし、プリコグが殺人以外は予知しないと知り、安心してジョンの自宅に無断で侵入して彼を辞職に追い込める決定的な弱み(麻薬)を掴んでいたため、自ら手を汚す必要はないです。

ウィットワーが推理を明かす時の口ぶりからもそうですが、彼はバージェスが犯人の可能性は高いと考えていて、しかし証拠が無いので確かめるためにバージェスをわざわざジョンの部屋に呼び出した可能性が高いです。
ウィットワーは、もしバージェスが犯人じゃなければ、この推理をひとつの業績にしてもらえるアピールにして、もし彼が犯人だと断定出来れば、何らかの取引をする(真実を黙っている代わりに大きな昇進をさせてもらうなど)という展開を望んでいたのではないでしょうか。

システムの欠陥とは?

外目には完璧に見えていたシステムでしたが、様々な問題を抱えています。
箇条書きにしてしまいますが、欠陥と欠陥に対する対応の変化を書いてみます。

・法を犯していない者を逮捕してしまう可能性が捨てきれない
→今まではシステムの完全性を強調することで運営してきたが、ジョンの事件とバージェスの自殺でシステムの完全性が崩れた。
2人は局内の人間で、自分の未来を事前に知ることが出来てしまったという特殊なケースではあるものの、100%完璧な未来予知は不可能であることや、未来は意思次第で変えられることを再認識するきっかけになった。

・プリコグの扱い
→明らかに彼らの人権を剥奪しているのに、世界平和のために必要だと、局内の誰もプリコグの扱いについて疑問を持っていなかったこと自体が大きな問題。




ラマー・バージェスの目的と行動理由は?


(引用:https://movievillaindeaths.tumblr.com

バージェスがアン・ライブリーを殺したのは、アガサの母親であるライブリーがアガサを取り戻すことを望んだからです。
アガサはプリコグの核となる最重要人物なのでバージェスとしてはどうしても手放したくないですが、法的にもライブリーの望みを止める手段はありません。

恐らくバージェスは最初にライブリーからアガサを買い取ろうとしたはずですが、ライブリーは拒否したため、バージェスは彼女を暗殺することにしました。

そして、浮浪者を雇いライブリーを殺すよう依頼して、浮浪者が逮捕された直後、バージェスは浮浪者と全く同じ格好をしてライブリーを保護するフリをして近づき殺害しました。

その後にバージェスがジョンを陥れて逮捕させようとしたのは、ジョンがライブリー事件に疑問を持ったからで、優秀な彼なら真実にたどり着くはずだから、その前に始末してしまおうと考えたからです。

バージェスが最後に自殺したのは、名声が無いなら生きていても意味がないと判断したからです。
最後にジョンにかけた「許してくれ」という言葉は、ジョンを利用したことに少なからず負い目を感じていた(人間的な感情があった)からだと思っています。

 

原作小説との違い

原作は同タイトル、SF作家のフィリップ・K・ディックによる短編小説です。
舞台背景は小説の設定そのままですが、内容は結構違うので、比較はあまりせずにあらすじを紹介します。
できるだけ簡潔に書こうと思いつつ、複雑なため長くなってしまいました(__)

原作小説『マイノリティ・リポート』のあらすじ

舞台は近未来のニューヨーク。
主人公のジョン・アリスン・アンダートンは犯罪予防局の局長です。
ジョンは最近、次期局長として犯罪予防局に着任したウィットワーを疎ましく感じていました。
やがて『1週間後にジョン・アンダートンがレオポルド・カプランを殺す』という未来殺人報告があがり、ジョンは未来殺人容疑者として世間にも公表されてしまいます。
もちろん、ジョンはレオポルド・カプランを知りません。
ジョンはウィットワーが局長就任を早めるために仕組んだ陰謀だと確信します。

その日の夜、ジョンはカプランに呼び出されて初めてカプランと会って話します。
この時、カプランは退役軍人だとわかりました。
ジョンが「あなたを殺すつもりは全く無い」と訴えると、カプランは「殺害予定日時を過ぎるまでどこかに身を隠していて欲しい」と要求したので、ジョンは同意して別れます。
カプランと別れた直後、ジョンは突然現れた謎の大男フレミングから新しい身分と1週間分の生活費をもらいました。
フレミングが誰の差し金でジョンに身分と金を渡したのかは不明です。

その後、ジョンは逮捕への不安からじっとしていられなくなり、マイノリティ・リポートを確かめるために予防局に忍び込みます。
プレコグの3人はドナ、マイク、ジェリーといい、ジョンが殺人する予知をしたのはドナとマイクで、ジョンが殺人しない未来を予知したマイノリティ・リポートの持ち主はジェリーでした。

ジェリーのリポートを手に入れたジョンは、カプランが軍の中でもまだかなりの権力を持っていることを知ると、カプランにマイノリティ・リポートを見せて殺意が無いことを信じてもらい、カプランから予防局に働きかけてもらってジョンの逮捕命令を取り下げさせようと計画します。

そこにジョンの妻リサが現れて、ジョンを高速艇(空飛ぶ小型舟)に乗せてくれました。
艇が飛び始めると、リサは「あなたは自首すべきだ」と言いジョンに銃を向け、警察本部へ艇を進めます。
そこに、いつの間にか艇に忍び込んでいた謎の男フレミングが現れてリサを止めました。
この時フレミングはカプランの部下だったことが判明し、今回の件の黒幕はカプランだと教えてくれました。

カプランは予防システムの不完全性を証明(ジョンがカプランを殺さないことで、予知が完全ではないと証明する)することで、軍や警察での権力を得ようと企んでいました。
つまりカプランは、最初からジョンが殺人を犯さない前提でこの計画を立てていました。
フレミングを正体不明にしていたのは真相を知られるのを防ぐためで、ジョンをマイノリティ・リポートとウィットワーと逮捕から遠ざけることが目的でした。
ジョンはカプランに言われた通りに犯行予定日時を過ぎるまで身を隠していれば(逮捕されずにいれば)、カプランの計画通りになるはずだったのです。

真相に気付いたジョンはウィットワーに会い「公表された予知通りの未来にしなければ、確実性を問題視されて予防システムを存続できなくなる。
私は君に局長の座を譲って予知通りカプランを殺すから、君は私を他の惑星に逃がせ」と取引を持ち掛けます。
その後、ジョンはカプランを殺害し、妻リサと共に地球から遠く離れた惑星に秘密裏に逃がしてもらい、新しい生活を送ります。
(話の随所にリサとウィットワーの恋愛関係が暗示されていて、2人もウィットワー昇進のためにカプランの計画に乗っかっていた可能性あり。)

その他、細かい映画との違いについて気付いた限り挙げていきます。
映画でのアガサに相当するドナは、実年齢45歳ですが体の発達が異常に遅く、見た目は10歳程度にしか見えないと書かれています。
男性プレコグのジェリーは24歳で、元々は水頭症の精神遅滞者でしたが、彼が6歳の頃に専門家が彼の才能を見出して政府運営の訓練学校に入学させたとあります。
3人目のマイクはプレコグの1人として名前しか登場せず、説明はありません。

また、映画では麻薬中毒者の子どもがプレコグでしたが、小説では彼らの両親については触れられません。
彼らは極めて高い予知能力に恵まれた代わりに、身体の発育が非常に遅く、人格形成もされないまま、ただ未来だけを見てうわごとをつぶやきながら生き続けている存在、という風に描かれています。

映画では彼らは神聖視され、部屋は『聖域』と呼ばれていましたが、小説では彼らは『ただ未来予知をし続けている意思疎通の出来ない重度障がい者』であり、彼らが居る場所は『モンキー・ブロック』と差別的な表現をされています。
プリコグの管理者が彼らに自我が芽生えるのを制限しているなどの描写はなく、彼らの人格は生まれつき破綻していて、自分たちが未来予知していることすら理解していないかのように描かれています。

以上です!読んで頂きありがとうございました。
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感想などお気軽に(^^)

  1. 名無し より:

    すごく時間が経ってしまっていてすみません。
    最後の筆者様の質問に関してですが、私の拙い英語力で聴きとる限りでは、
    「殺せ、さもなくばシステムは崩壊する」と言っているようです。
    前後の文脈からしても、その時点ではジョンはシステムを信じ維持したいと思っているような台詞がある為、システム崩壊を回避したいなら予知通り殺すべき、という会話であると判断出来るかと思います。
    博士が非常に電波な喋り方な為、混乱させられますが、字幕も混乱しているのかも知れませんね。
    遅レスで大変失礼致しました。

    • mofumuchi より:

      名無し さん
      作品の該当シーンを見返すのに時間がかかってしまい、返信が遅れました。すみません。。
      回答くださって本当に助かりました!!
      大変参考になったと同時に、私の英語力の無さが浮き彫りになってしまいお恥ずかしい限りです(笑)
      質問は残しておく必要が無さそう(読んだ方まで混乱させてしまいそう)だったので削除しました。
      本当にありがとうございました((*_ _)

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