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原作小説『風立ちぬ』について
(引用:https://twitter.com)
二郎の恋愛については、堀辰雄の小説『風立ちぬ』をベースに描かれています。
※実際の堀越二郎氏は三菱入社後にお見合い結婚されています。
著者である堀越二郎自身も結核が原因で亡くなっているため、体調の細かい描写や心理描写に何とも言えないリアリティを感じました。
まずは小説『風立ちぬ』のあらすじを紹介します。
ある年の夏、小説家の主人公『私』が、結核を患う恋人の節子に付き添って高原にあるサナトリウムに入院します。
サナトリウムで、『私』は節子と自分自身の生活を小説にしようと思い付き、節子を見守りながら執筆する日々を送ります。
節子はサナトリウムに入ってから、『私』と生きていきたいという思いをより一層強く抱きますが、入院した同じ年の冬に死去します。
残された『私』は節子との日々から生まれた『生きることへの渇望』を胸に、喪失感に浸ります。
小説には『私』の心境の移り変わりや、節子に対して抱く感情、山の中の美しい風景描写などが繊細に描かれています。
宮崎監督は主人公二郎に『私』を落とし込むことでロマンスの要素を加えています。
関連小説『楡の家』、『菜穂子』について
小説『風立ちぬ』の主人公の恋人は節子という名前ですが、同じ堀辰雄の作品に『菜穂子』があり、宮崎監督はこの菜穂子をヒロインとして採用しています。
なぜ節子ではなく菜穂子になったのかを考えてみます。
まずは同著者の小説『楡の家』と『菜穂子』のあらすじを紹介します。
未亡人の三村夫人が娘の菜穂子に宛てた手記。
小説家の森という男が三村夫人に好意を寄せたことがきっかけで、菜穂子は母を避けるようになり、やがて好きでもない男と結婚し、母の許しも得ず家出同然に実家を出てしまいました。
三村夫人は菜穂子の態度が理解できず苦しみ、いつか菜穂子に読んでもらうため、関係が悪化した原因究明を彼女なりに考察した手記を書きます。
その手記には「森に対する恋愛感情は無かった」という意味合いの内容が切々とつづられていましたが、森への好意がにじみ出ているように感じられる内容でした。
森と三村夫人は結ばれていませんが手紙で交流を続けていて、森は中国各地を転々として北京で持病をこじらせて亡くなりました。
その後 夫人も狭心症で死に、約半年後に夫人の手記を読んだ菜穂子は、母と菜穂子自身が性格的に似ていることに嫌悪感を覚えます。
菜穂子は2人の思い出のある、母が最初に発作で倒れた楡の木の下に衝動的に手記を埋めました。
菜穂子が結婚した後の話。
菜穂子は夫の黒川とその母と一緒に暮らします。
菜穂子にとって黒川家が母からの『避難所』であった間は結婚生活は上手くいっていましたが、母の死後、菜穂子は黒川家に不満を感じるようになり、夫と義母と距離を置くようになります。
そんな時、菜穂子は結核を患い高原の病院に入院が決まると、今度は病院が菜穂子にとって黒川家からの『避難所』になりました。
しばらくは快適な入院生活を送りますが、やがて菜穂子は黒川との結婚を後悔し、次は孤独感に悩まされるようになります。
一方黒川は母親との2人暮らしに嫌気が差して菜穂子と3人で暮らしたいと思うものの、母が菜穂子を嫌っているため結局何も言えずに月日が過ぎます。
ある雪の日、孤独に耐えられなくなった菜穂子は病院を抜け出して黒川に会いに行きますが、黒川は「母に知られるとまずい」と言い、自宅ではなくホテルに菜穂子を泊まらせました。
黒川は菜穂子よりも母の気持ちを優先してしまい、菜穂子が病院から抜け出した理由も追及しないままでした。
黒川が「一緒に暮らそう」と言ってくれるのではと淡い期待を抱いていた菜穂子は、黒川に迷惑がられていることを悟って我に返り、翌日黙って病院に戻り、短い余生を病院で孤独に過ごす決意をしました。
特に『菜穂子』は鬱作品認定したくなるような暗い話でしたが、やはり描写がリアルで引き込まれました。
この2作の登場人物たちは癖が強いというか性格に致命的な欠陥を抱える人物ばかりで、そういった多かれ少なかれ誰もが持つ心の闇を顕著に描いている点もこの作品の魅力でした。
映画との関連については、菜穂子が病院から抜け出す部分が宮崎監督の『風立ちぬ』に採用されています。
思えば小説『風立ちぬ』の節子はとても大人しい性格で、父親や『私』のいうことに大人しく従う我慢強いタイプでした。
一方で、菜穂子は気の強いお嬢様タイプで、母の反対を押し切って勝手に見合い話を受けて結婚してしまったり、病院が嫌になると無断で抜け出してしまったりとかなり行動力のあるタイプです。
宮崎監督の描くヒロイン達は皆行動力のあるタイプばかりなので、菜穂子をヒロインに採用したのは納得です。
以上です!読んで頂きありがとうございました。
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