映画『ヘルドッグス』ネタバレ解説考察|室岡の過去、内部抗争の整理など | 映画の解説考察ブログ - Part 3

映画『ヘルドッグス』ネタバレ解説考察|室岡の過去、内部抗争の整理など

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ヘルドッグス クライムドラマ

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室岡の過去

サイコボーイと呼ばれた室岡は大量殺人で死刑になった男を親に持ち、過酷な幼少時代を過ごしたことが仄めかされていましたが、具体的にはほとんど語られません。

原作小説に描かれている室岡の過去をまとめます。
室岡はいわゆる医師家系の息子で、室岡の父も祖父も曽祖父も医師の、賢く裕福な家庭に生まれました。

室岡の父 充(みつる)は大学病院に勤める外科医でしたが、結婚して秀喜が生まれた頃から『ヴェーダ天啓の会』というカルト宗教団体の教祖 六波羅萬代(ろくはらばんだい)の熱狂的な信者になってしまいました。

ヴェーダ天啓の会は六波羅がメディアに露出して知名度を上げ、最盛期には約2万人の信者がいた全国規模の新興宗教団体です。

充は外科医の経歴を買われてヴェーダが経営する病院の院長になり、やがて幹部に出世します。
一方で六波羅は会の勢力が増すにつれて精神を病み、終末思想と日本政府の破壊を目論む暴君になりました。
秀喜はヴェーダ組織の中で育ち、10歳頃から六波羅の世話係をさせられ、夜は頻繁に性的虐待を受けました。

また映画でも話されていましたが、秀喜はヴェーダが開発した新薬の人体実験も受けさせられていて、食事を半年以上与えられず点滴だけの飢餓状態で過ごした時期があり、そのせいで満腹中枢が壊れて満腹を感じにくくなっています。

六波羅の暴走で信者は減って熱狂的な信者だけが残り、同会は日本での大量殺戮を計画しますが、警察に阻止されて六波羅と幹部陣は逮捕され、秀喜は児童養護施設に預けられました。

秀喜は養護施設で洗脳を解くプログラムを受けてヴェーダの環境が異常だったことを頭では理解していますが、殺人も拷問も平気でやってしまう倫理観に著しく欠けた人間に育ってしまいました。

 

『お歯黒』のあだ名の由来

『お歯黒』というあだ名で呼ばれる三神の部下が印象的でした。
お歯黒は極道に入る前のヤンキー時代にシンナーのやり過ぎで歯のエナメル質が溶けてなくなり、歯が黒く変色していることから『お歯黒』というあだ名を付けらています。

 

典子(大竹しのぶ)の息子に何があった?

警察の情報提供者だったマッサージ師の典子は、息子をヤクザに殺されていました。

典子は女手ひとつで息子の順一を育てたシングルマザーです。
順一はプロ野球選手を夢見る少年で、高校は野球の名門校に進学しましたが、大会での怪我がきっかけでプロ球団から目もくれられなくなり、高校卒業後は社会人野球部のある会社に入って野球を続けますが、結果が残せず荒んでいきます。

順一は東京のスポーツバーに転職しますが、そこで野球賭博を嗜む常連客のヤクザと出会ってしまいます。

順一は野球賭博で大金を手に入れるとスポーツバーを辞めてヤクザの準構成員として賭博の債権回収をするようになり、シャブ中のヤクザ構成員に借金の返済を迫ったところ逆ギレされて惨殺されてしまいました。
そして順一を殺したシャブ中ヤクザの組長が大前田でした。

典子は順一が幼い頃からヤクザの幹部相手にもマッサージを行っていましたが、順一の死をきっかけにヤクザを憎み、阿内の情報提供者になりました。

 

兼高はなぜ室岡を殺した?

原作小説で、出月は人殺しを何とも思わない根っからのキラーである室岡の思考回路や態度をお手本にすることで『ヤクザの兼高昭吾』であり続けることが出来ていました。

出月は上手く室岡を説得して逮捕に持っていくことも出来たのではと思ってしまいますが、そうしなかったのは室岡に親と同じ運命(死刑)を辿らせるのはあまりに酷なので、それよりは出月が兼高昭吾の最後の仕事として彼を葬る方がまだマシと考えたからではないでしょうか。

また、室岡の「俺とこの女のどっちが大事なんだよ!」は彼の人間らしさが初めてにじみ出た質問であり、兼高に対し少なからず恋愛感情が混ざった問いかけでもあったと思われますが、出月にとっては『ヤクザの兼高』と『警察の出月』のどっちが本当なのかと突きつけられた問いであり、出月は『警察の出月』でありたいから、室岡を殺したのはその答えだったというのもあるかもしれません。

室岡を殺したあとに自殺しようとしたのも、出月の中に作り上げられてしまった兼高昭吾という人格も抹殺したいという思いの表れだったようにも感じます。
原作小説には、出月が土岐や室岡らと付き合う内に彼らに情が湧いてしまい、阿内からの非情な命令に葛藤を抱える様子も描かれていました。

また、出月は兼高として何人も殺してきたため、その罪はたとえ警察官だとしても許されないと考えていたことも自殺行為に繋がったのではないでしょうか。
正義がわからなくなり罪の意識に耐えかねたのなら今後も自殺を考えてしまう可能性は高いので、なんとか思いとどまってほしいです。




原作小説との違い

映画と原作小説の違いをまとめます。

阿内の活躍ぶりは映画で描かれない

原作小説の阿内は兼高を巧みに操ったり、阿内自身と元妻と娘を危険にさらしてまで東鞘会を操ろうとする行動が印象的に描かれていた主要キャラの1人でした。

例えば『三神が氏家勝一と繋がっている』というデマを流したのは阿内でしたが、デマを信用させるためにわざと家族と一緒に東鞘会に捕まり、激しい暴力を受けています。

阿内に翻弄される兼高の様子が小説の見どころでもあったので、そこも映画に引き継いで欲しかったと個人的には思いました。

 

男女関係の違い

映画では兼高と土岐の愛人の恵美裏に肉体関係があったり、室岡には幼馴染みの杏南がいましたが、原作小説には恋愛がらみの人間関係はほとんどありません。

小説は兼高にも室岡にも恋人のような存在はおらず恵美裏との関係も希薄ですし、杏南は小説には登場しない映画オリジナルのキャラクターです。
また、恵美裏が警察の情報提供者というのも映画だけの設定なので、小説では室岡は恵美裏を拉致もしていません。

 

阿内が東鞘会の壊滅を狙う理由

映画では、阿内はあくまでも暴力団を撲滅する仕事の一環として東鞘会幹部の命を狙っていましたが、小説では阿内が十朱の命を狙うのは私怨が大きかったことが強調されています。

当時、十朱は木羽という刑事と一緒に東鞘会に潜入していましたが、十朱は警察を裏切って本物のヤクザになってから、口封じのために木羽を殺しています。
この木羽と阿内は恋愛関係にあったため、阿内が十朱を狙うのは個人的な復讐以外の何物でもありませんでした。

 

東鞘会幹部陣の殺され方の違い

映画と小説では結末に進むにつれてかなり話の流れが違うので、小説の結末を簡潔にまとめます。

阿内はわざと東鞘会に拉致されて「三神が氏家と結託している」とニセの情報を吐くと、土岐は真相を確かめるために三神に会いに行き、そこで土岐を待ち構えていた警察の特殊部隊と氏家勝一に襲われました。
この時に三神が土岐を守ろうとして命を落とし、さらに兼高の正体が土岐にバレて、兼高が土岐を殺しました。(同じ時に氏家も死にました)
ほぼ同時期、大前田は映画と同じく典子がマッサージ中に殺しています。

室岡は、死んだ三神の仕事部屋を片付けていた時に見付けた書類で兼高の正体を知ります。
室岡は悩んだ末に兼高に「逃げろ」と助言しますが、兼高は拒否して室岡を殺しました。

正体を隠しきれないと悟った兼高は、十朱の極秘情報を求めて恵美裏が経営する飲食店にたどり着きますが、兼高を待ち構えていた十朱に捕まってしまいます。
十朱は「警察を信用すると後悔するぞ。俺の仲間になれ」と迫りますが、兼高は拒否しました。

十朱が兼高を拷問用倉庫に連れて行く途中に阿内が駆けつけて銃撃戦になり、阿内と十朱は撃ち合って倒れました。
兼高は十朱から極秘情報が入れられているSDカードを奪い目的は達成したものの、阿内が死んでしまったので、兼高はSDカードの情報をネット上の極秘ツール(阿内との連絡用に使ってたやつ)にアップロードしました。

兼高は警察に保護されますが、阿内や十朱の言っていた通り警察が信用できないと知り失踪します。

 

出月が失踪するタイミング

映画では、出月はスーパーの強盗事件が起きた後で第四機動隊に異動し、その後行方をくらませて強盗事件の加害者を殺害し、出頭しようとした時に阿内から潜入捜査を命じられます。

小説では、出月はスーパーの事件が起きた当時はまだ中学生で、この事件をきっかけに暴力団を憎み警察官を志します。
採用直後は交番勤務の巡査として働き、功績が認められて第四機動隊に配属されて超過酷な防衛・戦闘訓練を受けつつ、試験勉強にも励んで刑事試験に合格しました。
その直後に阿内ら数名の警察庁長官に呼ばれ、潜入捜査を命じられます。

出月が失踪するのは十朱の持つ極秘情報(警察上層部の不祥事が詰め込まれたマイクロSDカード)を手に入れ、十朱と阿内が死んで潜入捜査から解放された後です。

潜入捜査の後、出月は警察上層部から将来を約束されるような言葉を多くもらいますが、約5年ヤクザだった出月が簡単に「普通の刑事」になれるはずもなく、阿内からも「もしサツに戻れたとしても いつ誰に復讐されるかわからない恐怖を抱え続けることになるし、大量殺人者が警察官として上を狙えるはずもなく、実際には飼い殺しにされるだけ」などと言われていました。

出月が生還したこと自体が想定外だという雰囲気を上層部の態度から悟った出月は、警察に失望して失踪を決意します。

この頃、まだ警察は十朱の極秘情報を見付けられず、頼みの綱だった阿内も死んでしまい血眼で探していました。
出月は警察が信用できないと感じると、極秘ツールに移していた『警察の秘密』をマスコミ関係各社のホームページに送りつけて失踪しました。

 

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参考サイト様一覧

映画『ヘルドッグス』公式サイト

感想などお気軽に(^^)

  1. 匿名 より:

    確かに。
    最初にストーリー説明兼ねてる大事なところなんか早口のハゲのおっさんが早口な上にセリフがモゴモゴ切れてなく、最初のところ戻って見たけどやっぱりわからなかった。
    これだけで原作でなく入る大半の人が意味がわからない映画から入らなくてはいけなくなってしまいますよね。

    それでネットで内容調べるという結果になりここに書き込んでます。

    最初の1番大事な導入をしくじるとどんな良い作品でも最後まで引っかかってスッキリしないままの作品になってしまうのでこうして拝見して細部まででなくても大まかな事がわかったので感謝します。
    これでやっと見始められます。

  2. mt より:

    本を読むのが苦手なので、原作との比較ブログなどを探してこちらへ参りました。
    三神のキャラは、概ね想像した通りでしたので、答え合わせみたいでよかったです!
    でも、映画のなかのキャラ作りがうまかったんだと思いました。
    途中、ちょっとややこしかったですが、全部すみずみまですっきり理解する必要もないと思っているので笑
    岡田さんの岡田さん自身をかっこよく見せるアクションコレオグラフが見られてよかったです!
    お蔭で鑑賞後を楽しめました。ありがとうございました!

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