『すばらしき世界』ネタバレ解説|津乃田が言おうとしたこと、三上の入れ墨の謎など考察 | 映画の解説考察ブログ - Part 2

『すばらしき世界』ネタバレ解説|津乃田が言おうとしたこと、三上の入れ墨の謎など考察

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ヒューマンドラマ

解説、考察、感想など

ようやく見れました!
結構しんどい結末で数日引きずってしまいましたが、素敵な友人達に恵まれて本当に良かったです。
1回目の仮免許試験の時の三上さん最高にキュートでした。
訛りは福岡訛りっぽく喋っていたのでしょうが、私には『孤狼の血(2018)』での広島弁との違いが全く判りませんでした(笑)
これも役所さんの味だと思うので全然良いんですけどね笑

以下、気付いた点や原作小説との比較などを書いています。

三上の刑期が伸びた理由

三上は約13年服役していましたが、身分帳の記載の元々の懲役は10年でした。
理由は服役中も暴力沙汰などの問題を起こして刑期が伸びたと口頭で明かされていました。

原作小説には詳しく書かれていて、服役中に傷害罪、暴行罪、傷害と暴行と公務執行妨害罪になる事件を3回起こしてそれぞれ懲役が追加されています。
その内容は、受刑者や職員と論争の末に暴力を振るって糞尿を浴びせたとあります。恐ろしい。。

 

三上の非行経歴と犯罪歴まとめ


©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

映画ではサクッとまとめられていた三上の非行・犯罪歴が原作小説には載っていたので、簡単にまとめました。

12~14歳:虞犯の少年として京都の宇治初等少年院に収容
虞犯はまだ犯罪を犯していないが、犯罪を犯す可能性の高い少年のことです。

14~15歳:前橋の赤城初等少年院に収容
刺青を入れられたのはこの頃です。
この頃から暴力的で違反も多く処遇困難とされて不良移送を繰り返します。

多摩中等少年院→千葉県の八街中等少年院→神奈川県の小田原特別少年院にいずれも不良移送

16歳:神奈川県の久里浜特別少年院→岩手県の盛岡特別少年院に移送収容
盛岡で温情により仮退院して京都府宇治市の保護司宅に暮らしますが、約3か月で素行に問題ありとして仮退院を取り消されました。

 

初犯(16~18歳):仮退院を取り消された後に収容された奈良特別少年院で、三上は他の収容者たちと徒党を組んで大規模な脱走事件を起こし、加重逃走罪、器物破損、暴行、傷害などの罪で懲役6月以上2年以下の不定期刑を受けます。
福岡県の城野医療刑務所に収容されました。
出所後は京都で暴力団構成員になります。

2犯(19~22歳):京都市内で暴力団同士の喧嘩で刺されて入院し、回復後に暴行・傷害・恐喝罪などで逮捕されて懲役3年を受け、大阪刑務所に服役しました。
出所後は所属していた暴力団に戻ってしまいます。

3犯(23~24歳):京都市内のボーリング場で働いていましたが、ヤクザ絡みの暴行・恐喝・窃盗の罪で逮捕され、1年4か月の実刑判決を受けて京都刑務所に服役しました。
出所後は地元の福岡に帰りました。

4犯(25~26歳):福岡市内のキャバレーで働きますが、再びヤクザ絡みの暴行・恐喝罪で逮捕され、懲役1年を受けて福岡刑務所に服役しました。
出所後は知人を頼って上京し、警備保障会社で働きます。

5犯(28~31歳):スーパーの売上金を着服して横領・窃盗で逮捕され、懲役3年を受けて前橋刑務所に収容→府中刑務所→佐世保刑務所に不良移監されました。
出所後は福岡市のキャバレーに復職して久美子と出会い、上京しました。

6犯(33~44歳):都内のキャバレーで店長をしますが、従業員の奪い合いで暴力団と抗争になり、襲ってきた暴力団員を刺殺して殺人罪で懲役10年の判決を受けました。
宮城刑務所に収容されますが、傷害事件を起こして旭川刑務所に不良移監されます。
この頃に持病の本態性高血圧症と痔瘻が悪化します。




三上が殺人を反省しない理由

三上は純粋に感情のままに生き、未熟さが残る人間でした。
心理的な駆け引きや忖度は全く出来ず、間違っていると思ったことは正さなければ気が済まず、腹が立ったらスルー出来ません。
しかも怒り方や喧嘩のやり方は尋常ではありませんでした。

冒頭の出所シーンで、刑務官の「反省してる?」という質問に対して、三上は「あんな奴のために実刑を食らって悔しいです」みたいな発言をします。
全く反省していないので不安しかありません。

刑務官は「1人の若者の命を奪ったことについて反省して欲しい」と正論を言いますが、三上は理解していませんでした。

その後、三上は暴力団員に妻を襲われて返り討ちにした結果、殺してしまったことがわかるので純粋に反省出来ない気持ちはわからなくもないですが、三上は『命の重さや大切さ』を理解していないことがわかります。

ラストで命の大切さを理解していたことを考えると、三上は今まで道徳を教えてくれる人と出会えていなかったとも捉えられます。

 

三上の入れ墨

すばらしき世界
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

三上の桜の刺青は未完成だったのが印象的でした。
原作小説には三上は少年院に居た頃に先輩院生に刺青を入れられたものの、未完成のまま三上が別の少年院に移ることになったと書かれています。

この未完成の刺青にも、三上の未熟な人間性(倫理観や道徳観の未熟さ)が暗示されていたように感じました。

 

三上と久美子の娘

三上が久美子の娘に年齢を聞いた時に指で数える仕草をするのは、この少女が自分の子なのか再婚相手との子なのかを確認していたからです。

女の子は小3だったので年齢は満9歳で、刑務所に13年入っていた三上の子である可能性はゼロです。
三上の切ない表情は「もし刑務所に入っていなければ、この子も久美子も俺の家族だったはずなのに」と考えてしまったからなのでしょう。

 

店長が三上の万引きを疑ったのはなぜ?

スーパーの店長松本が三上の万引きを疑ったのは、三上と会う前から前科者だという前情報だけを聞いていて先入観があったからなのでしょう。

しかし、三上が何かを盗む現場を見たわけでもないのに捕まえて事務所に連れて行くのはあまりに強引すぎる気がしますが、どうなんでしょう。
「こいつは前科者だから何かやらかすに違いない」という一般人が抱きがちな先入観を描きたいための演出だったのかもしれません。

 

津乃田との喧嘩

津乃田が母親について喋っていた時、三上は全部聞くことができず途中で電話を切ってしまいました。

あの時に津乃田が言おうとしていたことは「母親はあなたを仕方なく施設に預けたのではなく、捨てたくて預けたのではないか」という意味合いのことを言おうとしていたのでしょう。

津乃田が図書館で児童虐待の本などを読み漁っていたのは、三上の暴力性の原因を調べていたからです。
そして津乃田は、攻撃性や暴力性に問題を抱える人は幼少時に虐待を受けていたケースが多いと知ります。
このことから、津乃田は三上が母親から虐待を受けていたのではないかと推測しました。
三上が施設に入った経緯は経済面の問題ではなく、母親がこのままでは殺してしまうと思って施設に入れたか、新しい男が出来て捨てられたかだろうと津乃田は思ったのです。

もし母親が三上を捨てたくて捨てたのだとしたら、母親を探す意味はありません。
津乃田がそれをあえて三上に言おうとしたのは、番組出演を諦めてもらうためというよりも、報道関係者として『真実を伝えること』を重んじているからだったり、三上に自分自身と向き合って社会に適応して欲しいと思ったからなのかもしれません。

母親に希望を見出すことで生き抜いてきた三上にとって、それは受け入れがたい仮説です。
捨てられたのかもしれないと心の底では思っていたけれど、認めたら生きていけないので考えたくも無かったのです。

母親がなぜ三上を施設に預けたのかはもう知る術はありませんが、津乃田が見つめていた『泣く男の子』を母親が抱き上げるシーンや、老人の歌を三上も覚えていて一緒に歌うシーンは、三上が抱く『母に愛されていた』という理想が事実だったのではないかという希望が感じられました。




三上と皆の約束

庄司:刑務所じゃ揉めても割って止めに入ってくれる
ほったらかしにされてる上に 気が付いたら自分の席がなくなっているっていうのが『社会』さ

敦子:私達ってね もっといい加減に生きてるのよ
松本:ムカついても受け流すんだよ 耳をふさぐ 聞こえない
敦子:聞こえない!深呼吸!
庄司:本当に必要とするもの以外切り捨てていかないと自分の身が守れないから 全てに関われるほど人間は強くないんだ
だが逃げるのは敗北じゃないぞ 『勇気ある撤退』なんて言葉があるだろう
逃げてこそ また次に挑めるんだ
敦子:あなた自身を大事にしてもらいたいのよ カッとなったら私達を思い出して!
三上:皆さんの顔に泥を塗るようなことは致しません!『辛抱』肝に銘じます!

介護の仕事が決まった日の夜に、三上が皆と交わした約束です。

頭に血が上って暴れてしまいそうになった時に我慢する方法を皆が三上にアドバイスしていました。
アドバイスが身に染みた三上は、皆のために我慢を覚えようと決意します。

振り返ると、三上と津乃田が電話した時、津乃田も「逃げることも解決方法の1つだ 今のままでは社会に適応出来ない」と言いますが、このとき三上は「そんな卑怯な真似は出来ない」と怒っていました。

恐らく三上は福岡で下稲葉の逮捕を目の当たりにして、三上自身もこのままだと再び逮捕される未来が簡単に想像できたのではないでしょうか。
三上にとって下稲葉は『裏社会から抜け出さなかったもう1人の三上自身』です。

マス子の真剣な言葉に心打たれた三上は、下稲葉の家から離れた時が恐らく生まれて初めて「逃げて解決した」瞬間だったのではないでしょうか。
そして自分を逃がしてくれたマス子、逮捕された下稲葉、親身になって助けてくれる津乃田、庄司夫妻、松本、井口などの善意に触れて、初めて本気で我慢してみる気になったのでしょう。

皆が我慢の仕方を教えている時に津乃田が不安そうな視線で三上を見るのは、前に津乃田が似たようなことを言った時に三上が怒ったので「また怒るかも」と不安になったのです。
しかし、今回は笑顔で我慢を肝に銘じたため、津乃田も三上が変わりつつある様子に安心していました。

 

三上の死因は?

三上は高血圧症が原因の心臓発作で死亡しました。

はっきりした病名は語られていなかったように思いますが、先生は「いつ心臓発作や脳卒中が起きてもおかしくない」と発言しています。
原作小説には『本態性高血圧症』と記載があり、簡単に言うと『原因不明の高血圧症』です。

高血圧症は塩分過多や運動不足、喫煙、ストレスなど様々な要因があり過ぎて原因が特定出来ないため、高血圧症を発症した多くの方は『本態性高血圧症』と診断されるようです。

この病気と三上のキャラクターを考えると、感情に忠実に生きてきた三上は、感情を抑えると死ぬ呪いを神様に掛けられていたかのように感じてしまいました。

今までは怒りで血圧が急に上がっても暴れるなり怒鳴ったりで発散できていましたが、「我慢」は三上にとっては慣れないことで極度のストレスになる上に、発散できないので血圧も中々下がってくれません。

怒りの発作を無理に我慢したことが心臓発作を引き起こしてしまったのです。




タイトル『すばらしき世界』

先進国日本で暮らす私達の社会は、タイトルとは真逆の辛く厳しいことばかりです。
そんな中で、人それぞれの『すばらしき世界(≒救い、癒し、楽しみなど)』を見出すことの重要性を訴えているように感じるタイトルでした。

結末も考えるとこのタイトルは皮肉的にも捉えられます。
でも半グレの一匹狼が社会に適応しようとしたけど無理だったという解釈では悲し過ぎて受け入れられないので、『三上は人生における課題をクリアしたから神に召された』と解釈することで鬱回避しました。

三上の課題は『人間の善意に触れること』や『辛くて大変な堅気の中にもすばらしい世界(≒純粋さや善意)があるのを知ること』です。
そう考えると、三上は人間のすばらしさ(良い所)を学ぶために、人間の悪意を知り尽くして生きてきたようにすら思えます。

 

原作小説から探る三上の幼少期

原作小説に書かれていた主人公の幼少期を紹介します。

原作小説の主人公の名前は『山川一』、親からもらった本名は『田村明義』で映画とは違いますが、こちらでは全て三上と表記します。

小説の三上が出所したのは昭和60年(1985年)でした。
小説の発売が1990年で舞台が5年前なので、映画の舞台も上映年の4年前の2019年に合わせられています。

小説の三上は昭和16年5月2日生まれですが、この誕生日は政府が決めたもので、三上自身も自分の本当の誕生日を知りません。
また、三上の父は海軍大佐だったと書かれています。

三上は『竜華孤児院(映画のあかつき学園)』で育ち、6歳の頃にアメリカ軍将校に里子として引き取られますが、約2年後、将校がアメリカに帰国することになった際、三上が無戸籍児だったため養子縁組み出来ず、将校は三上を日本に残してアメリカに帰ってしまいました。

その後、三上は神戸市内のキリスト教関係の養護施設に入れられて小学校に通い始めます。
小学生の間も何度か里子として引き取られますが、どの家庭にも落ち着きませんでした。

そして成長と共に非行に走るようになり、少年院から出るタイミングでようやく戸籍を与えられて名前を本名から「三上正夫」に変えました。

三上は、最初の里親となったアメリカ軍人との別れで2度捨てられたことになり、幼心に傷付いたことが非行に走った大きな原因ではないかと思えてきます。

また、小説と映画の大きな違いは、小説の三上は死んでいないことです。
小説では、三上は東京で優しい人々と出会って始めて人の善意を知り、地元九州で暮らすことに決めて引っ越した所で終わります。

映画の三上を殺すことにした理由はわかりませんが、どちらのラストも三上に起こり得た未来で不自然ではないので、どちらが好きかは人それぞれかなと思いました。

以上です!お読みくださりありがとうございました。
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