映画『ロストケア』解説考察|原作との違い、元ネタの事件、ホームレス、タイトルの意味など | 映画の解説考察ブログ

映画『ロストケア』解説考察|原作との違い、元ネタの事件、ホームレス、タイトルの意味など

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ロストケア クライムドラマ

映画『ロストケア』の解説・考察をしています!
タイトルの意味、犯行動機、元ネタらしき事件などについて書いています。

鑑賞済みの方のための記事です。まだ観ていない方はネタバレにご注意ください。

ロストケア

制作年:2023年
本編時間:114分
制作国:日本
監督:前田哲
脚本:龍居由佳里、前田哲
原作小説:『ロスト・ケア』葉真中顕 著
主題歌:『さもありなん』森山直太朗

キャスト紹介

斯波 宗典松山ケンイチ
訪問介護サービス業者『ケアセンター八賀』の介護職員。
優しく真面目で仕事ぶりは誰からも絶賛される一方、37歳という年齢の割に白髪が目立ち、どこか陰のある男。

大友秀美長澤まさみ
将来有望な中堅検事。
八賀市内で起きた独居老人宅での強盗殺人事件を担当し、真相を知ることになる。

椎名幸太(大友の部下)…鈴鹿央士
団啓史(ケアセンター八賀のセンター長)…井上肇
猪口真理子(ケアセンター八賀の職員)…峯村リエ
窪田由紀(〃)…加藤菜津
羽田洋子(ケアセンター八賀利用者の家族)…坂井真紀
ケアセンター八賀の利用者 梅田の娘…戸田菜穂
羽田洋子の恋人…やす(ずん)
川口タエ(万引き犯)…綾戸智恵
斯波正作(斯波の父)…柄本明
大友の母…藤田弓子
大友の上司…岩谷健司
刑事…梶原善 ほか

あらすじ紹介

舞台は現代、場所は架空の地方『八賀市』での出来事です。
冬のある日、八賀市内に住む独居老人 梅田久治の自宅で2名の死体が見つかりました。
1人目の死体は家主の梅田久治でニコチン注射により毒殺されていて、もう1人の死体は梅田が利用していた訪問介護事業所『ケアセンター八賀』のセンター長 団啓史(井上肇)で、彼の死因は階段から落ちたことによる首の骨折でした。

警察が団の所持品や自宅を調べた所、団はケアセンター利用者らの自宅に侵入して金品を盗む窃盗の常習犯だったことがわかりました。
団はヘルパーが訪問介護で使うために預かっていた利用者の自宅のカギを複製し、主に寝たきりの独居老人の自宅を狙って泥棒を繰り返していたのです。

団の死体のそばからはニコチン液が入れられていた注射器も見つかりました。
警察は『団が梅田の自宅に窃盗目的で入り、梅田を殺した後に団自身も階段から転げ落ちて死亡した』ものと推測していて、検察側も被疑者死亡の線で早めに事件を片付けようとしていました。

この事件を担当することになった検事の大友秀美(長澤まさみ)は、団が所有していた合鍵の家主の大半が既に亡くなっていることを不審に思い、分析好きの検事補佐官 椎名幸太(鈴鹿央士)と一緒に調べることにしました。
すると、ケアセンター八賀の利用者の死亡者数は、他の介護施設と比べても異常に多いことが判明しました。
介護職員による利用者の大量殺人を疑った大友は、引き続き調査を進めます。




解説・考察・感想など

福祉制度が抱える問題を追及した考え深い映画でした。
私の親が介護が必要になった時、私には何が出来るか考えてしまいます。
介護と関係ない個人的な感想ですが、松山ケンイチが嫌味っぽくまくしたてる時の口調がものすごく好きなので、大友と斯波の口論のシーン、良かったです(笑)

タイトルの意味?斯波の犯行動機は?

ロストケア

@2023映画『ロストケア』製作委員会

犯人の斯波は『ロストケア』を『喪失の介護』と言いました。
それは失うことによる救済であり、斯波にとってあくまでも介護の一環でした。

斯波が最初に殺したのは彼自身の父親でした。
斯波と父の正作(柄本明)は3年以上に及ぶ介護生活でお互いに精神的にも金銭的にも限界になり、社会制度にも助けてもらえず本格的に困窮しました。
そんな時、斯波は正作に「殺してくれ」と頼まれ、悩んだ末に父を殺しました。

このまま介護生活を続けると共倒れするのが目に見えるレベルになっていて、いつ訪れるかわからない正作の自然死を待つ余裕はお互いに無くなっていたのです。

斯波は逮捕覚悟で正作を殺した直後に警察を呼びますが、警察は正作の死を老衰と判断しました。
この時に逮捕されなかったことを斯波は運命だと感じ、残された人生を自分と同じ苦しみを抱える人々を救うために生きようと考えたのが「ロストケア」でした。

斯波が聖書にあったキリストの言葉とされる黄金律『人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい』を実行した結果が、ケアセンター利用者の老人の殺害だったのです。

斯波は過酷過ぎた父親の介護経験から、かつての斯波と似たような状況に陥り苦しんむ親子を救うために老人を殺害しました。

日本に安楽死の制度があればまた違っていたかもしれませんが、斯波は人間が作った法律よりも神の言葉に従う道を選んだのです。




刑務所に入りたがるホームレス

刑務所行きを望んでいた万引き老婆 川口タエ(綾戸智恵)は、斯波が言っていた「社会に空いた穴」を象徴する登場人物です。
刑務所は本来なら犯した罪を振り返って反省、後悔する場所であり、入りたくない施設であることが大前提で、入りたくないと思われることに意味があります。

しかし、ホームレスのタエは刑務所を住み心地の良い場所だと思っていました。
『社会の穴』に落ちているタエにとって刑務所はホームレスよりも快適な暮らしと待遇を得られるからです。
刑務所に居れば無料で3度の食事に必要最低限の医療サービスも受けられますが、シャバではタエは病院には通えませんし、まともな食事にありつける機会もあまりありません。

法律では犯罪者も守られるので、刑務所に入れば自分で生活費を稼ぐ必要はなく国民の税金で暮らせますが、社会の穴に落ちたホームレスを守る法律はないため、彼女はより快適な暮らしを得るために犯罪者になることを選んだのです。

タエのような人を収監することは刑務所の正しい使い方ではないので、大友はタエの懲役刑を避けようと反省を促し説得しますが、無駄に終わります。
タエの態度を法律に当てはめると『窃盗をしても罪の意識も反省も見られないため、罰として刑務所に入れる』ことになりますが、彼女にとっては刑務所行き『罰』ではないため、法システムに矛盾が生じています。
タエの「刑務所にも入れてもらえないなら、私みたいな人はどうやって生きていけば良いの?」という質問に大友が答えられないこともまた、矛盾の証明になっています。
法律に守ってもらえないなら、こちらも法律を守る義務は無いという考える人は少なくないはずです。
だからこそ、タエのような人はこれからも増えるだろうと予想されるのです。

次のページに続きます!

2ページ目は「大友と斯波の口論」「救ったのか殺したのか」「類似した事件の紹介」です。




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