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レスターがアンジェラを抱かなかった理由
ジェーンの同級生アンジェラに恋をしたレスターは日々トレーニングに励み、良い男になろうと頑張りました。
その結果、レスターはアンジェラにセクシーと認められた上、彼女の心の隙間に入り込み、とうとうベッドを共にするビッグチャンスを得ました。
ところがレスターはアンジェラが処女だと知った途端、憑き物が取れたかのように落ち着きを取り戻し、アンジェラに毛布をかけて謝りました。
レスターはアンジェラが処女だと知った時、彼女の心臓の鼓動を聞いています。
清純さを演出するためのウソなのか、本当に処女なのかを確かめたのです。
心音を聞いたレスターはアンジェラが処女だと確信し、謝りながら彼女を毛布で包んで抱きしめました。
今までレスターは、アンジェラを『恋愛経験豊富な女』と思い込んでいました。
つまりレスターは彼女を愛していたわけではなく、完全にセックスシンボルとして見ていたのです。
レスターにとってアンジェラは砂漠の中のオアシスであり、アバンチュールを具現化したような存在だったのでしょう。
彼女へののめり込み具合にはレスターの精神的な幼さや、現実逃避願望がよく現れています。
しかしフタを開けてみたらアンジェラは処女で、今までジェーンに散々話していたセックスに関する話は全部、彼女が精一杯大人ぶるための作り話だったことがわかります。
ちなみにアンジェラが処女であることのヒントは、彼女がレスターの二の腕を触った時です。
以前のレスターはアンジェラが近づくと、見とれているだけだったり紳士ぶった態度をとるだけでしたが、あの時は獣のようなギラギラした目つきで「筋肉は好きかい?笑」と聞きました。
この時アンジェラはレスターの性欲丸出しな男っぽさに怖じ気づき、すぐにその場を離れます。
アンジェラが本当に経験豊富なビッチ系女子なら、逃げるのではなく慣れた様子であしらうか、レスターをさらに興奮させる発言などしていたはずです。
話を戻します。レスターはアンジェラが処女とわかった時に彼女もジェーンと変わらない16歳の少女(子ども)なのだと理解しました。
そしてその瞬間にレスターの中でアンジェラはセックスの対象から外れ、自分がいかに愚かだったか気付き、アンジェラの恥じらう姿(見栄がなくなったありのままの姿)に美しさを感じました。
だからレスターは父親のようにアンジェラに毛布を巻いてやり、抱きしめたのです。
レスターはなぜ殺された?
完全に個人的な解釈です。
フランクがレスターを撃った理由は『レスターがフランクの秘密を知ってしまったから』だと思っています。
フランクは、隣人のゲイカップルを見るたびに「同性愛者であることを隠さないなんて、とんだ恥知らずだ」、「同性愛は規律に反している」と発言しています。
これらの発言は自己紹介になっていて、フランク自身が同性愛者だけれど規律に反している意識があるため、隠しながら生きていることを示しています。
実際、フランクは同性愛者を嫌っているように見えますが、感情的な悪口(「気持ち悪い」など)は一口も言わない上に、リッキーが「ゲイは吐くほど嫌いです」と言った時フランクは明らかに傷ついていました。
フランクが筋トレ中の裸のレスターの映像を見るシーンは、リッキーゲイ疑惑がフランクに芽生えた瞬間でもあり、恐らくフランク自身がゲイである暗示でもあります。
フランクは、リッキーとレスターが買春していると勘違いしてリッキーを家から追い出した後、レスターのいるガレージに行きます。
個人的にはあのときのフランクは、リッキーがゲイなのは遺伝かもしれないというある種の罪悪感とともに(勘違いでしたが)、リッキーが本当に売春したのかどうかレスターに聞きたかっただけのように見えました。
しかし半裸のレスターに優しく「服を脱げ」とささやかれた時、フランクは「ゲイはゲイを見抜けるのか」と勘違いし、長年押し殺してきた欲望に負けてついついキスしてしまったように見えました。
でもレスターはゲイではないので、フランクを拒否します。
フランクは拒否されたことでレスターとリッキーの件は勘違いだったと気付き、逆にフランクがゲイであることがレスターにバレてしまいました。
その結果、フランクはレスターを殺しました。
フランクの殺害動機にリッキーはあまり関係なく、「勘違いさせやがって」という怒りと保身のために殺したと考えた方が作風とも合う気がします。
キャロリンは銃でどうするつもりだったのか
キャロリンはファストフード店でバディと一緒にいるところをレスターに目撃された後、「私は犠牲者にならない」と何度もつぶやきながら銃を手にします。
レスターはフランクとキャロリンどっちに殺されるのかが気になるシーンです。
しかし、キャロリンはレスターを殺すつもりは全くなくて、ただ脅すために銃を使おうとしていただけのようです。
キャロリンがレスターを殺す気がなかったことを表していたのが、キャロリンがレスターの服を抱きしめて泣き叫んだシーンです。
キャロリンの心のどこかにレスターへの愛情は残っていたんですね。
キャロリンが恐れていたのは、レスターに不倫を理由に脅されたり主導権を握られることでした。
なので、たとえ浮気がバレても主導権を奪われないように何かしたかったのでしょう。
「いつかわかる」の意味
ラストのレスターのセリフ(字幕版)を抜粋します。
しかし その一瞬は一瞬ではないのだ
それは大洋のように果てしなく広がる時間
ボーイスカウトのキャンプで草原にひっくり返り 流れ星を見ていた僕
うちの前の通りの楓並木の黄色い落ち葉
しわくちゃになった紙にそっくりのおばあちゃんの手
そして初めて見た いとこのトニーのピカピカのファイアバード
ジェーン 僕のジェーン
そしてキャロリン
こんなことになって腹が立つかって?
美のあふれるこの世界で怒りは長続きしない
美しいものがあり過ぎると それに圧倒され 僕のハートは風船のように破裂しかける
そういう時は体の緊張を解く
すると その気持ちは雨のように胸の中を流れ 感謝の念だけが後に残る
僕の愚かな取るに足らない人生への感謝の念が
たわごとに聞こえるだろう?
大丈夫 いつか理解できる
レスターは死ぬ瞬間に、とても長い時間だと感じるほどの走馬灯を見て、ゲイだと勘違いされた上に殺されたことに怒りはしましたが、世界にあふれる『美』に圧倒されて怒りもなくなり、最後(最期)には感謝の念だけが残ったようです。
「美しいものがあり過ぎるとそれに圧倒され 僕のハートは風船のように破裂しかける」というセリフは、リッキーが落ち葉と一緒に舞うポリ袋の映像をジェーンに見せた時に、ほぼ同じ話をしています。
リッキーとレスターの言う『美しいもの』とは、アンジェラのくだりでも書きましたが、『見栄や虚勢』を取っ払った『ありのままの姿』のことだと思います。
リッキーは落ち葉と一緒に舞うポリ袋や、死体(緊張から解き放たれた姿)に美を感じていたし、レスターは処女を告白して恥じらうアンジェラや、楽しかった時代(見栄に囚われる前)のキャロリンとジェーンに思いを馳せて幸福を感じていましたし、レスター自身も失うものが何もない(もう全て失っている)ことに気が付いて見栄を張ることをやめてから生き生きしていたので。
よく考えたら美しいものがポリ袋(≒ゴミ)っていうのもどうかと思いますが、ここにも皮肉が含まれているのかもしれません。
そうすると何が理解できるのかというと『ありのままの姿に美しさと幸福を感じた時、リラックスして感情を解き放つと、全てのことに感謝できる』みたいな意味なんじゃないかな~と解釈しました。
ただ、この作品はタイトルからしても皮肉がたっぷり含まれていますし、レスターはこのことに死の間際に気が付いているので、『死ぬときにわかる(死ぬまでわからない)』という意味なのかもしれません。
その後を勝手に予想
レスターの「僕はもうすぐ死ぬ」で始まり、実際に殺されたところで話は終わります。
その後、主要人物たちがどうなるのか考えてみた時、気になるのはリッキーがジェーンに「(レスターを)殺そうか?」と聞き、ジェーンが真剣な顔で「えぇ、やって」と答えているジョーク的なやり取りが2回登場(録画テープの再生と実際のやりとり)することです。
リッキーはやり取りの途中で録画を止めていて、ジェーンが「冗談よ」と笑っている場面は映っていません。
あの映像を警察に見られたらリッキーは警察に疑われて部屋を捜索されて、少なくとも麻薬の売買をしていたことはバレてしまうのではないでしょうか。
あの会話だけでさすがに犯人だと特定されることはないでしょうが、ジェーンと一緒に家出していたり、フランクの銃が使われていた等の状況的にはリッキーが一番怪しく重要参考人になってしまいます。
真犯人であるフランクは手袋をはめてレスターを撃ち、その後手袋と衣類を捨てていましたが薄着でしたし、普通だったら硝煙反応とかで犯人だとバレてしまうでしょう。
もしもあの録画映像が2回流れた意味が『リッキーが冤罪で捕まる』暗示だとしたら、アメリカの警察も無能だと暗に皮肉っていることになります。
タイトル「アメリカン・ビューティー」について
アメリカン・ビューティーは、キャロリンが庭で育てていたバラの品種名です。
あのバラはキャロリンが『幸せな家庭』を演出、強調するために育てていたわけなので、この作品においては『見せかけだけの美しさ』を象徴しています。
また、レスターの妄想にもバラの花びらが現れるので、見ている人に妄想との区別をわかりやすくしているほか、レスターが『見せかけの美』に囚われていることを示す役割もしています。
全体的な内容が、一般的な中流家庭の人々の抱える闇を描いていたので、タイトルと合わせて考えると『世間体、社会的地位などに囚われている現代社会や家庭』を皮肉っている(見かけは立派だけど中身は闇だらけ)ように思えます。
レスターが「人生よりも物が大事なんてどうかしてる!」とキャロリンに怒鳴っていたのも、本作のテーマに触れているセリフだったと感じました。
本作がヒットした理由は、俳優陣の演技力もですが、恐らく『世間体、社会的地位などに囚われている人』が、登場人物たちが抱えるそれぞれの闇に共感して「自分だけじゃないんだ」と安心したからではないでしょうか。
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最近こちらの映画を見たのですが
映画の本題をうまく整理して理解することが出来ず悩んでおりました。
こちらの記事を参考に整理することができました。
良い記事をありがとうございました。
匿名さん
作品理解のお手伝いができたようで嬉しいです(;∀;)
最近忙しく手が離れがちになっていましたが、やる気が出ました!
コメントありがとうございました(^^)