その他気になった描写など
部屋だったり物だったりが印象的に映るシーンがいくつかあったので、気付いた限り書き出します。
腕時計を盗まれるアンソニー
アンソニーのように『腕時計を盗まれる感覚』、『自分の居場所を正しく認識出来なくなる』などは、認知症の方と関わったことがある方ならわかる代表的な症状です。
個人的な話になりますが、私の亡くなった祖父母も程度の差はあれ認知症の症状がありました。
私が目の当たりにしたのは「貴重品(時計、財布、通帳など)が無くなった」と騒いだり、訪問介護のヘルパーさんを、普段は覚えているのにある日突然忘れてしまって不審者扱いしたり、「さっき○○さんから連絡があった」(実際には連絡は無かったのに)と言い出したりなどがありました。
『貴重品の紛失』は死期が迫りつつある中で『貴重な何か(寿命)を失っている感覚』から生じる症状のようです。
生命力が日々失われている感覚、それに伴う漠然とした不安、死への恐怖心が『貴重品が無くなる錯覚』を起こしていると思われます。
コーヒーのお土産
(引用:https://unsplash.com)
キャサリンが「お土産のコーヒーが届いてますよ」と言うと、アンソニーは「私はコーヒーは嫌いだ。紅茶しか飲まない」と憤慨しました。
確かにアンソニーは紅茶とお酒は飲んでいましたが、コーヒーを飲むシーンは一度もありませんでした。
恐らく、コーヒーのお土産を選んだのはアンソニーの好き嫌いを熟知していないポールだったと思われます。
アンはアンソニーを施設に預けた後「父に何か贈り物をしなきゃ」と思いつつ、介護疲れが激しくて何も出来なかった(しばらく父のことを考えたくない心境にあった)のではないでしょうか。
アンの気持ちを汲んだポールが、代わりに選んだ定番のお土産だったと思われます。
その他伏線
アンソニーのフラットの寝室の窓から見えていたお店の名前です。
アヴァロンは『アーサー王物語』で、戦で負傷したアーサー王が癒しを求めてやってきて最期を迎える場所です。
アンソニーが彼自身のフラットで死を迎えたいと強く願っていたことの暗示だったと思われます。
チキンの調理中に、アンがキッチンの窓から外を見た目線の先に居たカップルです。
顔が映らなかったのでカップルの雰囲気はわかりませんでしたが、アンはポールと2人きりで暮らして、父親の目を気にせず寄り添っていたいと心の底では望んでいたことの表れだったのかもしれません。
©NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINE-@ ORANGE STUDIO 2020
アンソニーが窓から外を見た時、子供がピンク色の風船のような物を蹴って遊んでいます。
実際には何かわかりませんが、どことなく脳みそっぽく見えませんか?
なので、アンソニーが認知症による妄想に振り回されている(もて遊ばれている)ことの暗示だったのではないかと思っています。
ちなみに少年の隣の看板「LAUDERDALE ROAD」はロンドンにある道路の名称です。
水道の蛇口から水がちょろちょろ出ていて、しばらくして止まる様子がドアップで映りました。
確かこの後にアンがアンソニーの施設入居準備を始めるので、アンの中に残っていたアンソニーへの同情心を捨てて、気を引き締めたことを暗示していたのかもしれません。
©NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINE-@ ORANGE STUDIO 2020
アンソニーの入居施設の中庭にあったモニュメントには脳がありませんでした。
認知症に冒されてしまったアンソニーの現状を象徴しています。
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以上です!読んで頂きありがとうございました。
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感想などお気軽に(^^)
時系列などとても理解しやすい内容でした。ありがとうございます。
ビルから受けた虐待はアンソニーが介護士にしたフィジカルな虐待を示していたのかとおもいこんでましたがそんなことはなかったです。
シャツの色や暗喩表現など情報の多さに惑わされるのに先を見れてしまう映画でした。
すごくわかりやすかったです。