映画「正欲」の諸橋大也（佐藤寛太）、神戸八重子（東野絢香）のあらすじ紹介、解説考察をしています！
「八重子が男性恐怖症になった原因」「大也が抱えていた怒りとは？」「原作小説との違いと補足情報」などについて書いています。
鑑賞済みの方のための考察記事です。まだ見ていない方はネタバレにご注意ください。
制作年：2023年
本編時間：134分
制作国：日本
監督：岸善幸 ※代表作：映画「あゝ、荒野」シリーズ
脚本：港岳彦
原作小説：「正欲
」朝井リョウ 著
主題歌：Vaundy
主な登場人物&キャスト紹介
諸橋 大也…佐藤寛太
横浜の大学に通う男子学生。夏月や佳道と同じく水フェチで人間は恋愛対象外。
大学内のダンスサークル「スペード」に所属している。
イケメンならではの悩みを抱えている。
※佐藤寛太の他出演作…「イタズラなkiss」シリーズ、映画「HiGH & LOW」シリーズ など
神戸 八重子…東野絢香
大也と同じ学部の女子大生。
あるトラウマから男性恐怖症であるが、諸橋大也に好意を抱く。
大学祭の実行委員になり、「スペード」と関わる。
佐々木 佳道…磯村勇斗
水フェチの30代会社員。妻の夏月も同じく水フェチ。
動画サイトで大也の存在を知り、ダイレクトメッセージを送る。
※磯村勇斗の他出演作…映画「プラン75」「東京リベンジャーズ」シリーズ など
寺井 啓喜…稲垣吾郎
横浜に暮らす中堅検事。社会的な正しさを第一に考えるあまり少数派を認めようとしない。
※稲垣吾郎の他出演作…映画「窓辺にて」「ばるぼら」など
寺井由美（啓喜の妻）…山田真歩
右近（NPO職員）…鈴木康平
越川（啓喜の部下）…宇野祥平
優夢（スペード代表）…坂東希
沙保里（夏月の知人）…徳永エリ
西山修（夏月と佳道の同級生）…渡辺大地
矢田部陽平（逮捕された小学校教師）…岩瀬亮
中学校教師…山本浩司
万引きの女…池谷のぶえ
小学生ユーチューバー…白鳥玉季 ほか
諸橋大也（佐藤寛太）と神戸八重子（東野絢香）のあらすじ
あらすじ①：
大学１年生の神戸八重子（東野絢香）は深刻な男性恐怖症を抱えています。
普段は異性が近くにいるだけで恐怖を感じ、男性が女性を性的な目で見ることが生理的に受け付けません。
しかし、そんな八重子にも好きな異性はいました。
それは同じ大学、学部でダンスサークル「スペード」に所属している諸橋大也（佐藤寛太）です。
八重子は大抵の男性に感じる嫌悪感を大也にはなぜか感じず、ほぼ一目惚れで好きになりました。
八重子のスマホの画像フォルダは「スペード」のSNS投稿から拾った大也のスクリーンショットで埋め尽くされています。
一方、大也は水に性的興奮を覚える水フェチで、人間に性的興味を持ったことはありません。
大也は自分の性を打ち明けられないため大学でも人付き合いを極力避けていますが、イケメンなのでいつの間にか周りに人が集まっています。
大学でも大也は純粋にダンスがしたくて「スペード」に入りましたが、大也の周りに必ず現れる「大也に好意があり、世話を焼くつもりで近づいてくる人」に振り回されて迷惑しています。
その年の夏、八重子は友人のよし香と一緒に大学祭の実行委員になると、大学祭恒例だったミスコンを廃止し、代わりに「多様性」がテーマのダイバーシティフェスというイベントを考案します。
八重子とよし香はダイバーシティフェスで「スペード」にダンスを披露してもらえないかと頼みに行くと、渉外担当の大也は渋りますが、「スペード」代表の優夢（坂東希）は快諾してくれました。
その後、大学祭もダイバーシティフェスも滞りなく終了しました。
八重子は大学祭で大也と少しでも仲良くなれることを期待していましたが、チャンスは巡ってこないままでした。
フェス後の打ち上げで、八重子は優夢に「私は大也にみんなと打ち解けてほしくて頑張ったけどダメみたい。これからは神戸さんが大也を気にかけてあげてほしい」と言われて嬉しくなりました。
一方で大也は大学祭が終わると「スペード」をやめてしまいました。
八重子は大也のバイト先に押しかけて話そうとしますが、大也は八重子を追い払います。
「スペード」のSNSに捨てアカで「諸橋大也君をもっと見たいです」と何度もコメントしたのが八重子であることに、大也は気づいて気持ち悪かったからでした。
あらすじ②：結末
翌年の春、２年生になった八重子は大也と偶然同じゼミになりました。
嬉しくなった八重子はゼミ合宿の実行委員に手を挙げ、補佐係に大也を指名します。
大也はうんざりしますが、断れる雰囲気ではなく渋々承諾しました。
合宿の日が近づいてきた頃、大也がよく利用する動画サイトに『古波瀬』というハンドルネームの人物からダイレクトメッセージが届きます。
ちなみに『古波瀬』は佐々木佳道のハンドルネーム、大也のハンドルネームは『SATORU FUJIWARA』です。
『SATORU FUJIWARA』は水フェチ界隈では有名な人物の名前で、大也はこのハンドルネームで気に入った水の動画にコメントを残すことで「仲間」に出会える機会を心待ちにしていました。
古波瀬からのメッセは「水フェチ仲間を探している」という内容で、大也は喜んで古波瀬とやり取りします。
その後、大也は古波瀬ともう一人の仲間と水の撮影会をすることになりますが、その日はゼミ合宿の日と重なっていました。
大也は合宿をドタキャンしようと考えていると、その雰囲気を察した八重子は大也が合宿に来ないと他の人も困るような役割を与えて強引に参加させようとします。
大也が「いい加減にしろ」と怒ると、八重子は男性恐怖症であること、それでも大也を好きになったことを告白して「諸橋君の悩みを私も理解したい」と打ち明けます。
大也は自分が世界一不幸であるかのような考え方に陥っていたことに八重子との会話で気付かされ、その点については八重子に感謝します。
しかし大也は「俺は君に理解してほしいと思ってない 俺は俺の仲間とやっと繋がれそうだから心配もしなくていい」と答えて立ち去りました。
その週末、大也は合宿をドタキャンして佐々木佳道、矢田部陽平と落ち合って公園で水を撮影します。
撮影の最中に子ども達が集まってきたので一緒に遊びながら撮影しました。
その後、矢田部陽平が児童売春で逮捕され、矢田部と連絡を取り合っていた大也も芋づる式に児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕されてしまいます。
大也は検事の寺井啓喜（稲垣吾郎）に「水が好きなのであって子どもに興味はない」と訴えますが、信じてもらえませんでした。
解説・考察・感想など
神戸八重子が男性恐怖症だったのはなぜ？
八重子が男性恐怖症になったきっかけは原作小説に描かれているので紹介します。
八重子には引きこもりの兄がいました。
八重子は中学生の時に興味本位で兄がいない隙に兄の部屋を物色し、兄がパソコンでエロ動画を見ていたのを発見します。
八重子は兄が見ていたエロ動画が「妹との近親相姦系」だとわかって大きな精神的ショックを受け、それから世の中の全ての男が女を性的な目で見ているような気がして気持ち悪くなり、それが徐々に悪化して男性恐怖症につながっています。
ただ八重子はそのひとつの履歴しか見ておらず、兄はたまたまその動画を興味本位で見てみただけの可能性もあり、本当にそのジャンルが好きなのか、実の妹である八重子を実際に性的な目で見ていたかどうかは明かされていません。
諸橋大也が抱えていた怒りとは？
諸橋大也は怒りを表現するダンスを好んで踊るなど、常に不満と怒りを抱えていました。
大也が怒っている怒っていた主な理由は、特殊性癖者であることを隠して詮索されるのを嫌って人付き合いも避けているのに、それでも学校には大也の性的な趣味を詮索したがる人が溢れ、時には大也の理解者になりたがる八重子や優夢のような女性も現れますが、大也は彼女たちからは特に恋愛感情を感じて受け入れがたかった上に、あらぬ噂を流されるなどの迷惑を被ってきたからです。
大学祭のテーマだった「多様性」についても大也が不満だったのは、世間で叫ばれている「多様性」が、いわゆる「普通の人々」が想像できる範囲内のことでしかなく、大也のような特殊性癖者（存在すると想像すらしてもらえない人）にとっては結局何も変わらないからです。
そう思ってしまうのも無理はないですが、大也は他人と自分の不幸を比較して「俺の方が不幸だ」と悲劇のヒロインになりきることで精神を保っていたところがあり、八重子の指摘でそれに気付けました。
確かに大也は男女の恋愛の楽しみは味わえないですが、性的にノーマルな人も性衝動を我慢しなければいけない場面は沢山ありますし、ノーマルな分、性の誘惑を我慢する機会は大也より多いのかもしれません。
大也はその後どうなる？
夏月と佳道の記事にも書いてしまいましたが、児ポルで逮捕されると所持していた画像や動画がそのまま証拠になってしまうため、前科が付くことは避けられません。
大也は裕福な家庭と思われるので、両親の対応で恐らく示談になるのではないでしょうか。
原作小説との違いと追加情報
映画では省略されていた情報や、映画と小説の違う点を紹介します。
スペード代表の優夢と大也にあった出来事
映画では省略されていましたが、優夢は大也が好きでした。
優夢は大也がスペードに入ってからすぐに積極的にアプローチしたりお節介を焼いたりしましたが、大也にとってはそれが迷惑でしかありませんでした。
大也が渉外担当になったのも優夢が指名して強引にやらせていたからです。
優夢は美人で男子から人気だったので、大也は一部の男子から妬まれます。
さらに優夢は大也に興味を示してもらえず落ち込んで、周囲に「大也はゲイなのかもしれない」とこぼし、大也はどんどん周囲に勘違いされていきました。
学祭の終わりと同時に優夢は大也を諦めることにして、八重子が大也に好意があることに気づいていたため「大也はゲイかもしれないけど、よかったら仲良くしてあげて」と声をかけました。
それから八重子は大也がゲイだと思い込みつつ、優夢に代わって大也にお節介を焼く係になります。
大也のバイト先
映画では、八重子は大也がスペードをやめたと知ってから大也のバイト先のホットドック店に押しかけています。
小説では大也がバイトしている描写は登場せず、八重子が押しかけるのは大也の自宅で、タイミングはゼミ合宿の日の朝です。
大也は八重子がどうやって自宅を特定したのかわからず不気味に思います。
大也の逮捕を知った八重子の反応
大也が児ポルで逮捕されたことはすぐに大学中に広まり、八重子はショックでしばらく塞ぎ込みSNSが見られなくなりますが、数週間で立ち直ります。
八重子は大也が報道の通り小児性愛者だったとは素直に信じておらず、大也が仲間と繋がろうとしていると知った時に止めるべきだったのか、止めなくて良かったのか悩み続けています。
このとき学校に行った八重子が友人のよし香と話題にしているのは、約15年前に施設に忍び込んで水道の蛇口の窃盗で逮捕された「藤原悟」が盗難車で公園の水道に突っ込んで再逮捕された事件でした。
よし香が藤原を「頭のおかしい人」と評価するのを、八重子は矛盾を感じつつ何も言えません。
よし香の発言には、藤原を始め夏月や佳道、大也のようなは特殊性癖者が「多様性」の輪の内側に入れてもらえていない、存在に気付いてすらもらえていない現状が現れています。
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