映画『ナイトメア・アリー』の主人公スタンについてを主に解説考察しています。
かなりの鬱展開ではありましたが、主人公がクズ系なので感情移入することもなく『ギークが出来上がるまでの物語』として楽しめました。
この記事ではスタンをメインに考えた内容、気付いた点などをまとめています。
『ナイトメア・アリー』概要紹介
制作年:2022年
本編時間:150分
制作国:アメリカ
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:キム・モーガン、ギレルモ・デル・トロ
原作小説:『ナイトメア・アリー 悪夢小路』ウィリアム・リンゼイ・グリシャム著
あらすじ紹介
死体ごと家を焼き払って旅に出た怪しい男スタントン・”スタン”・カーライルは、行く当てもなくバスに乗り、とある移動式カーニバルにたどり着きました。
スタンはカーニバルで座長のクレムに「金が無いならここで働かないか」と誘われて、しばらくカーニバルに住み込みで働くことになりました。
スタンは千里眼の出し物をするジーナとピート夫妻の手伝いをすることになり、読心術を使いこなすピートに弟子入りします。
そのうち、スタンはピートが誰にも教えず封印しようとしている禁断の技術があることを知ります。
ピートが禁断の技術を教えてくれないことに逆上したスタンは、衝動的にピートがお酒と間違えてメチルアルコールを飲むように仕向けた結果、ピートは死んでしまいました。
その後、スタンは読心術の全てが書かれたピートのネタ帳を形見として手に入れました。
その後、ピートは必死で読心術を磨き、カーニバルで出会った恋人モリーと一緒に独立してニューヨークに拠点を移し、千里眼ショーで活躍してぐんぐん知名度を上げていきます。
スタンは知名度が上がるにつれて傲慢になり、妻でありショーのアシスタントをしてくれるモリーにも支配的になります。
そんな中、スタンは著名な心理学者リリス・リッターと愛人のキンボール判事と知り合いました。
キンボール判事に個人的なセッションを頼まれたスタンは、報酬目当てで霊媒師まがいの降霊セッションを思いつきます。
スタンはキンボール判事の個人情報を探るためにリリスの職場に押しかけて「インチキ降霊セッションに協力してほしい。儲けた金は山分けにしよう」と持ち掛けました。
リリスはスタンの突然の申し出に驚くこともなく「いいわよ」と答えました。
主要キャスト紹介
スタントン・”スタン”・カーライル…ブラッドリー・クーパー
ショービジネスでの成功を夢見る男。
リリス・リッターと手を組んでインチキビジネスに手を染める。
リリス・リッター…ケイト・ブランシェット
著名な心理カウンセラー。
資産家や政治家など街の権力者のカウンセリングをメインに行っている。
エズラ・グリンドル…リチャード・ジェンキンス
NYで一番の富豪と呼ばれる男。
スタンの噂を聞きつけて個人セッションを依頼する。
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※このページの情報は2022年6月時点のものです。最新の配信状況は各配信サイトにてご確認ください。
解説・考察
ギーク(獣人)とは?
ギーク(geek)は今は『重度のオタク』のような意味で使われる単語ですが、本作の舞台だった1940年代頃は、それこそ本作に登場したギークがしていたような獣のように振舞うパフォーマンスで観客の興味を引くレベルの低いパフォーマーを指していました。
他の作品で例えてしまうと、ガチのギークは『ロード・オブ・ザ・リング』に登場するゴラム(スメアゴル)のようなタイプですね。
スタンがカーニバルで目にしたギークは、スタン自身の将来の姿を表す人物でした。
誰もギークに興味を持たない中、スタンだけが彼を哀れんで煙草を与えるのは、一見スタンだけがギークを憐れむ優しさを持っているようにも見えます。
しかし周囲がギークに一切干渉しないのは、その男がもう救いようがない程落ちぶれていて、それが自業自得だということがわかっているからです。
スタンはまだ新参者なのでそういう事情は理解していなかったかもしれませんが、スタンの行く末を知った上で振り返ると、ギークに優しくしたのは無意識のうちに同類意識を抱いたからではないかなと感じました。
スタンが父親を殺したのはなぜ?
スタンが父親を殺した理由は、スタン自身が不幸な理由を全て父親のせいにして憎んでいたからです。
スタンの父は酒乱でした。
父の酒癖に愛想を尽かしたスタンの母親は他に恋人を作って出て行ってしまい、さらにスタンは母親が出て行くまでの間、母の愛人から性的虐待を受けていたことも示唆されていました。
母はスタンが十代後半になった頃に出ていき、その後はスタンと父の2人暮らしになりますが、やがて父が老いて動けなくなるとスタンは父の介護に時間を奪われてしまいます。
スタンはいつ終わるかわからない介護生活を続ける中で、チャレンジすら出来ないまま父の介護をしてスタン自身も年老いていく未来を想像して焦りを感じ、それがまた父への憎しみを増幅させたのではないでしょうか。
スタンが父の時計を持つ理由
スタンが殺してしまうほど憎かったはずの父の時計を形見として身に着けていたのは『父に愛されたかった』という執着からでしょう。
リリスが分析した、スタンの『父親の年齢に近い男性と深い交流を持ちやすい傾向』は、スタンがピートやグリンドルとの交流を通して父性を感じようとしていたことを意味します。
伏線:バス停の終点
スタンは家を焼き払った後バスに乗り、カーニバルのメンバーについて行くようにバスを降りました。
スタンがバスを降りたのが終点だったことが強調されていました。
これはスタンの人生の再スタートだったり人生の節目を表現すると共に、結末を知った上で振り返ると『終わりの始まり』を暗示していたようにも見えます。
伏線:目玉の見世物小屋
スタンがギークを捕まえに行く時に入った見世物小屋は、沢山の目玉が着いた気持ち悪い見世物でした。
実際にお客さん向けに使っていたシーンは登場しませんが、千里眼ショーをしていたジーナが使っていた小屋だったのでしょうか。
スタンがこの小屋に入ってからギークを見つけ出すまでの間の短いシーンにスタンの運命が凝縮されていました。
画像を載せているこのシーンは、スタンが読心術にのめり込む暗示、この後スタンの背後に登場する『LUST(肉欲)』の文字は、スタンが愛と性欲を混同している未熟な人間であることを示唆すると共に、リリスのハニートラップに気付かず彼女を信じて罠に嵌まり、最後はギークになってしまう流れの暗示です。
ギークを思い切り殴ったのも、切れやすい性格の提示と、暴力で大きな失敗を犯すことになる暗示だったと思われます。
ジーナのタロットカード
©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ジーナは彼を雇うことに決めた時と、カーニバルから離れてショーで成功し始めた頃にタロットカードで彼の未来を占っていました。
ジーナとスタンが初めて会った時、ジーナが引いたカードは『星(THE STAR)』の逆向きでした。
星のカードには『チャンス』、『希望』、『才能』などの意味がありますが、逆位置だと『希望の喪失』、『高望み』などの意味になります。
この時点で既にスタンの運命は漠然と示唆されていました。
これはスタンがどんな人物かをジーナが知りたくて引いたカードだと思われます。
結果を見ても気にせずジーナが手伝いを頼んだのは、ピートが仕事の役に立たなくなりつつあって手伝いを探していたことや、スタンの見た目と声の良さが関係していたのでしょう。
それに、高望みだとしても大きな夢を持つのは決して悪い事ではないですし、見方を変えれば上昇志向でやる気のある人物とも捉えられます。
恐らくジーナはこのカードで、スタンは最終的には夢破れる可能性が高いけれど、現段階での運気は上昇しつつあると判断したのではないでしょうか。
2度目はジーナがスタンにカードを3枚引かせました。
この時の3枚目は『吊るされた男(THE HANGMAN)』の逆位置でした。
吊るされた男はタロットカードの中でも知名度の高いカードで、正しい位置だと『奉仕の精神』、『忍耐』、『努力』、『試行錯誤』などの意味があります。
逆位置になると『自己中心』、『中途半端』などの意味になり、ジーナが警告するのもわかります。
しかし、スタンはカードを逆位置から正しい位置に直して「これで大丈夫」と開き直りましたが、カードの向きを180度変えただけでスタン自身の状況が変わるはずがありません。
スタンが自己中心過ぎることを自覚して直さなければ、カードの位置も直らないのです。
ちなみにジーナが『軽率』と表現していた2枚目は、絵柄は覚えているんですが検索しても同じカードが出て来ずわかりませんでした。。
3人並んでいて、真ん中の人が目隠ししている絵柄だったような気がするんですが。。
1枚目は王様がイスに座っているようなカードだった気がするんですが、調べたら王様カードは何種類かあるみたいで、どれなのかわかりませんでした。(曖昧ですみません)
もし覚えている方がいたら教えてくださると嬉しいです!
なぜピートを殺したのか
©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
スタンは極度に自己中心で相手の立場に立って物事を考えることが出来ない人物でした。
スタンがピートを殺したのはピートのノートが欲しかったからですが、その背景にはスタンの短絡的な思考や間違った捉え方が見え隠れしています。
スタンは、教えて欲しかった秘密の読心術をピートが教えてくれなかった理由を「俺を愛してないから教えてくれないんだ」と捉え、悲しみが憎しみに変わったのです。
結果スタンは怒りに駆られて衝動的にピートにメチルアルコールを渡してしまいました。
秘密の読心術は、使い続けると破滅してしまう危険な技術でした。
ピートはスタンが大事だったからこそ教えなかったのに、スタンにはそれが理解できなかったのです。
この感じは映画『グラディエーター』で愛情不足をこじらせていた皇帝コモドゥスに似てるなと思いました。
地味に気になるのはメチルアルコールとトウモロコシ酒は匂いが全然違うので飲む前に気付きそうと思ったのにピートが飲んでしまったところですが、嗅覚も鈍っていたんですかね。
奇形児『エノク』とスタンの関係
©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『エノク』はカーニバルの座長だったクレム・ホートリーが一番大切にしていた奇形児コレクションの1体で、この名前もクレムが付けました。
この子はお腹の中で暴れて母親が妊娠後期で亡くなってしまい、彼自身も母親と一緒に死んでしまったとクレムは語っていました。
『エノク』は旧約聖書に登場する人物で、『従う者』を意味します。
聖書に登場するエノクは300年以上生きたと書かれているものの、死については一切記載がないことから『神が連れて行った』と解釈されている人物です。
クレムが収集した胎児について語った「同じ欲望の下に生まれながら、この世に出ることを許されず神に召された特殊な存在」のような発言と関連があります。
スタンがニューヨークでメンタリストとして成功した後、スタンは、ひとつ目の模様が入った目隠しをしてショーをしていました。
©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
スタンとしては『第3の目』を強調するようにこの目隠しを使っていたのでしょうが、この姿はどう見てもエノクと重なります。
エノクが生前からの暴力性で母親と共に破滅してしまったように、スタンも自分勝手に振る舞って破滅の道(悪夢小路)を突き進んでいることを示唆していたように思えます。
また、こちらについても考えすぎかもしれませんが、エノクはグリンドルの妻が妊娠していた子どもだった可能性もあるのかなとも思えました。
グリンドルもエノクも暴力衝動に取り憑かれていた共通点がありますし、スタンが「子どもは男の子だったようだ」と適当に言っていたのも、グリンドルの子がエノクだとにおわせる伏線だったように思えてきます。
もしそうだとしたら、エノクはスタンの体を借りてグリンドルに復讐していたようにも感じられます。
スタン自身も父親を殺した過去があり、エノクとは『親殺し』の共通点もあります。
ただそうなると「エノクの母親はエノクが暴れて殺した」というクレムが聞いていた過去と、「グランドルの妻はグランドルによるDVの末に死んだ」という情報とで矛盾が生じますが、グランドルは罪を隠すために当時の医師や警官を買収して虚偽の報告をさせていたのかもしれませんね。
新聞には何が書いてあった?
スタンは逃亡生活でホームレスになってからある新聞紙を見かけます。
そこにはジーナが写っていますが、彼女がなぜ新聞に載っているのかはよくわかりませんでした。
写った時間も短かったですし、字幕にも『ジーナ』としか書かれず。。
後で調べてわかりましたが、あの新聞にはスタンがNYで独立した後、ジーナも独立してショービジネスで成功して話題になっていたことが示されていたようです。
スタンはこの新聞記事を見て当時を思い出し、もう一度見世物小屋に行ってみる気になったんですね。
以上です。読んでいただきありがとうございました。
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参考サイト様一覧
DIZITAL MAFIA TALKIES:‘Nightmare Alley’ Ending, Explained: What Did Enoch Symbolize? Why Did Lilith Betray Stan?
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2回目のジーナのタロットカードの1枚目はタワー(塔)、2枚目は恋人のカードでした。