『交渉人 真下正義』の解説・考察記事②です。
本記事では、「ジャガーノート、オデッサファイル、ミッドナイトプラス1、ミシェル・ルグランとフランシス・レイ、335.2の意味おさらいと考察」「犯人の目的」「犯人が真下を指名した理由」「弾丸ライナーの正体を推測」「事件解決まで描かれない理由」など、気になったポイントを引き続き整理します。
本編:138分
監督:本広克行
脚本:君塚良一
OP:『サンタが街にやってくる』歌/テンプテーションズ
ED:『サンタが街にやってくる』歌/ジャクソン5
主要キャスト:ユースケ・サンタマリア、寺島進、國村隼、小泉孝太郎 柳葉敏郎 ほか
解説・考察・感想など
ヒント『ジャガーノート』の意味
クモに爆弾が仕掛けられてるかどうか聞いたとき、弾丸ライナーが『ジャガーノート』とヒントを出します。
『ジャガーノート』は1974年のイギリス映画で、リチャード・レスター監督、リチャード・ハリス主演、アンソニー・ホプキンスやイアン・ホルムが出演しています。
あらすじは、豪華客船にいくつもの時限爆弾が仕掛けられ、爆弾処理班が爆弾を解除していくというパニック映画です。
真下は『ジャガーノート』のあらすじから、クモには爆弾が積んであると判断してSATによるクモの制圧を見送らせます。
しかし、後になってクモには爆弾を積んでいないことがわかりました。
つまりこのヒントは、クモに爆弾があるとわざと思わせてSATに手を出させないためのフェイク的なヒントだったと思われます。
弾丸ライナーは、コンサートホールに仕掛けた爆弾の起動を『シンバルの音』か、クモを経由した遠隔操作による仕掛けを作っていました。
クモを止められてしまうと遠隔起爆が出来なくなるため、簡単に手出しさせないために、爆弾があると思わせるヒントを言ったと思われます。
ここで面白いのは、映画『ジャガーノート』と本作には共通点があることです。
映画『ジャガーノート』では、爆弾の特徴から、戦時に「地雷を作る天才」と呼ばれたとある軍人が犯人かと思われましたが、その男は既に亡くなっており、犯人はその亡くなった軍人の上官だった男でした。
ここは、本作で事件の犯人かと思われた羽田裕一が亡くなっていたという展開と似ています。
これは弾丸ライナーの正体は羽田裕一をよく知る人物であるという意味も込められていたのかもしれませんし、制作側の「この映画を参考にした」という表明かもしれません。
ヒント『オデッサ・ファイル』の意味
弾丸ライナーが真下に「『オデッサ・ファイル』知ってる?」と聞いてます。
これが何に対するヒントなのか、作中で明かされないので映画の内容を確認します。
『オデッサ・ファイル』は1974年のアメリカ映画で、ロナルド・ニーム監督、ジョン・ボイド主演のスパイ・サスペンス映画です。
簡単なあらすじを紹介します。
主人公の記者ミラーは自殺した老人の日記を入手します。
そこには第二次大戦中、老人が入れられた収容所で目撃したナチス将校ロシュマンによる残虐行為の詳細と、老人の無念が記されていました。
ミラーはロシュマンを調べるうちに『オデッサ』という秘密組織の存在を知ります。
オデッサは、戦時に数多の戦争犯罪を行ったナチス親衛隊の生き残りが、戦後もお互い助け合うための組織でした。
そしてロシュマンは現在、偽の身分を手に入れ工場経営者となり裕福な生活を送っていました。
ある夜、ミラーはロシュマンの自宅に忍び込み、彼を銃殺します。
ミラーもまた、父親をロシュマンに虐殺された被害者遺族でした。
その後オデッサの存在が世間に知られ、多数の元ナチス戦犯が逮捕されましたが、オデッサは完全に消滅してはいません。
『オデッサ・ファイル』は復讐映画です。
この映画に弾丸ライナーが伝えたい何かが込められているとすると、一連の犯行は警察組織または真下個人に対する復讐だと示していた可能性があります。
例えばですが、弾丸ライナーは羽田裕一の死に関連して警察に強い恨みがあったものの、警察に訴えても相手してもらえないと考えて(または相手にしてもらえなかった)、
警察の過去の行いが原因で新たな犯罪者(弾丸ライナー)が生まれたということをわかってもらうために交渉人の真下を指名して犯行におよんだという解釈です。
ヒント『ミッドナイト・プラスワン』の意味
弾丸ライナーは、クモの現在地に関するヒントとして「ミッドナイト・プラス1」という小説のタイトルを出しました。
重要なのは小説の内容ではなく「プラス1」の部分で、地下鉄関係者の間では、現在建設中の「第14号線」を「プラスワン」と呼んでいたため、そこにクモがいると推測しました。
少々脱線しますが小説『ミッドナイト・プラスワン』の簡単なあらすじを紹介します。
1965年出版で、英国の推理小説賞ゴールド・ダガー賞も受賞しています。
主人公の元軍人で何でも屋のルイス・ケインが、犯罪者集団に命を狙われる男性実業家マガンハルトを、車で約1300km先の目的地まで送り届ける話です。
ケインはマガンハルトを守って無事に依頼を達成しますが、軍人時代の暴力性や残虐性がケイン自身に残っていることを自覚する、という話です。
戦後間もない時代は元軍人が抱える心の闇に焦点が当たられた作品が多く、この小説もそのひとつです。
類似テーマの有名映画は『タクシードライバー』(1976年/ロバート・デ・ニーロ主演)や、『ディア・ハンター』(1978年/ロバート・デ・ニーロ主演)などがあります。
ミシェル・ルグランとフランシス・レイと335.2
弾丸ライナーが出した3か所目の爆弾設置場所に関するヒントです。
ミシェル・ルグランとフランシス・レイはどちらも作曲家です。
(ルグランは作曲家だけでなく映画監督や俳優としても活動されていました)
この2人が一緒に仕事をした作品に『愛と悲しみのボレロ』というフランス映画があります。
このヒントに映画の内容は関係なく、『ボレロ』が爆弾を仕掛けられていた会場でのコンサートで演奏予定に入っていた楽曲です。
ここで登場するのがもう一つのヒント『335.2」です。
ラヴェルのボレロの335小節2拍目はシンバルが登場する場面でした。
これらの内容から、弾丸ライナーはシンバルの周波数を起爆装置に設定していることが発覚します。
犯人(弾丸ライナー)の目的は?
弾丸ライナーは警察を相手にゲームがしたい愉快犯のようにも見えますが、ヒントとして出された映画や小説の内容を見ていくと、愉快犯と見せかけて実は警察に対する復讐が目的だったようにも見えてきます。
犯人はなぜ真下正義を指名した?
弾丸ライナーが真下を知ったのは、2作目「レインボーブリッジを封鎖せよ!」の事件の後、真下がニュースでインタビューに応じて「日本警察初のネゴシエイター」として世間に知られたことがきっかけです。
弾丸ライナーの目的が「ゲーム」だった場合、真下の仕事は犯人と会話・交渉することなので、犯人からすれば「普通の刑事相手よりは対戦相手として楽しめそう」に見えたのが選ばれた理由かもしれません。
また、弾丸ライナーの目的がヒント映画の内容通り「復讐」だった場合、
交渉人の真下は世間的には『警察内で最も心理戦を得意とする人物』に見えたと思われます。
なので、弾丸ライナーの犯行動機が「復讐」だと自分で言うつもりはないが、気付かせたかったのだとしたら、真下を名指しした理由はわかります。
もしそうだった場合、真下は「本当の動機」に気づいていないため、弾丸ライナーがある時点からイライラしていた理由とも繋がります。
余談ですが、弾丸ライナーのボイスチェンジャーがかかった電話の声や態度が子供の声に聞こえてしまって違和感がすさまじかったのですが、
弾丸ライナーの正体を推測
これは犯人の動機が復讐だった場合の推測になりますが、
ヒントに出た映画『オデッサ・ファイル』になぞらえたら、弾丸ライナーは事故死していた羽田裕一と親しかった会社同僚や上司だったのかもしれません。
そうなると、8年前のいたずら電話の主は羽田本人ではなく弾丸ライナーだったとしたら声紋が一致するのは自然です。
弾丸ライナーの由来が『デジタル・グローバル・ライナー』である説は正しそうですし、弾丸ライナーのクモシステムと線路に関する熟知度合、TTRシステムにスリーピング・ボムを仕掛けられる環境にいたことなどから、羽田と同じ会社に勤めていた人物である線は濃厚です。
また、スリーピング・ボムの話が出た際にSATに混ざってアップになった黒い装備の男が弾丸ライナーかのように映されていて紛らわしかったですが、あの男は弾丸ライナー本人ではなく、『犯人は周囲にうまく溶け込んでいる』ということを表したシーンだったと思われます。
木島が「これからうじゃうじゃ出て来るぞ。ああいうのが」と言うのも、心に闇を秘めながら「普通の人」のふりをしている犯罪者予備軍はどこにでもいると言いたい感じがあります。
真下が追いかけたカエル急便のバン
真下は弾丸ライナーが乗っていたと思われる車を見つけますが、車は爆発したものの、中には誰もいないようでした。
おそらく車には誰も乗っておらず、弾丸ライナーは近くのどこかに隠れていて真下の反応を見ながら車を遠隔操作していたと思われます。
実際に車が遠隔操作できるのかは不明ですが、クモを遠隔操作できた位なので、車も仕掛けをすればラジコンみたいに動かせるのでしょうね(適当)
事件が解決まで描かれなかったのはなぜ?
弾丸ライナーの正体がわからず、事件も解決したかどうかわからないまま中途半端に終わってしまいます。
劇中で犯人は特定できませんでしたが、捜査は別の課が引き継いで続いています。
おそらくデジタル・グローバル・ライナーの退職者を洗えば犯人を特定できるでしょう。
交渉課の出番とともに映画が終わってしまったのは、おそらくこの映画の主人公が交渉人の真下だからです。
真下の仕事は犯人との交渉で必要な情報を得ることで、犯人の逮捕ではありません。
また、真下は自分の仕事が終わってしまえば事件がどうなったかなどを気にすることはあまりないらしく、基本的には仕事よりプライベートを重視するタイプのようです。
それがよくわかるのは、映画4作目『新たなる希望』です。
真下は自分が担当した誘拐事件の被疑者の裁判結果も、被疑者が釈放されたことも知りません。
あのシーンでは、真下が事件のその後を知らないのは無関心だったからというのが前面に出ていました。
良く言えば真下は「仕事は仕事」とばっさり割り切れてメンタルは強いのでしょうが、悪く言えば共感能力が低く、自分(と家族)さえ良ければ他人はどうでもいいという性格なのでしょう。
映画の終わり方も、そういった真下の性格を表していたように感じます。
まとめ
『交渉人 真下正義』の弾丸ライナーが出すヒントを調べていくと、単なる愉快犯に見える犯人像とは違った一面が見えてきます。
「ジャガーノート」はクモに爆弾があると思わせるためのヒント、「ミッドナイト・プラスワン」はクモの現在地を示すヒント、「ミシェル・ルグランとフランシス・レイ」や「335.2」はコンサート会場の爆弾を起動する仕掛けにつながるヒントでした。
一方、「オデッサ・ファイル」に描かれた復讐というテーマまで考慮すると、弾丸ライナーは愉快犯ではなく、警察に対する何らかの恨みを抱えて犯行に及んだ可能性もあります。
特に、羽田裕一と犯人の声紋が一致したにもかかわらず、羽田本人はすでに死亡していたという謎は、弾丸ライナーの正体を考えるうえで重要です。
もし8年前のいたずら電話の主が羽田ではなく、羽田を知る別の人物だったとすれば、声紋が一致したことにも説明がつきます。
その人物として考えられるのが、羽田と同じデジタル・グローバル・ライナーに勤めていた人物です。
クモのシステムや地下鉄の線路を熟知し、システムに「スリーピング・ボム」を仕掛けられる立場にいたことを考えると、犯人がTTRやその関連会社の元関係者だったという推測は成立します。
ただし、ここで紹介した犯人像はあくまで劇中の情報から導いた考察です。
そして、事件が犯人逮捕まで描かれずに終わるのも、『交渉人 真下正義』という作品の特徴の一つです。
だからこそ本作は、公開から時間が経った現在でも「弾丸ライナーは誰だったのか」「なぜ真下を指名したのか」と考察したくなる作品なのだと思います。
以上です。読んでいただきありがとうございました。
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