2ページ目
あらすじ:結末
クリスマスの日。ブラウンがサラールに会いに来て「お前の店を8万ポンド(約1000万円)で俺が買い取るし、部下を殺したことも黙っておいてやるから、お前が街から出て行け」と提案しました。
サラールが断ると、ブラウンはサラールのケバブを道に捨てて去りました。
その日の夜。
サラが会いに来てくれたので、サラールは冷蔵庫にあった食材でケバブ以外の料理を作ってあげると、サラは「あなたには料理の才能がある。知り合いの実業家にあなたを紹介したい」と言ってくれました。
サラの言葉に勇気付けられたサラールは、父ザキの願いや、人肉ケバブにハマる前のサラール自身の夢を思い出しました。
サラが帰ってからサラールは地下に降りて、監禁しっぱなしのスティーブと話します。
スティーブは心のこもった謝罪をしたので、サラールは納得してスティーブを解放しました。
そしてサラールは殺人をやめ、また経済学を勉強して人生をやり直そうと決意しました。
その後、サラールは最後の復讐をすることにします。
開店準備中のHUSHに侵入すると、サラールが殺した被害者たちの私物と麻薬を店内に並べて撮影し、警察関係者の目に留まることを期待して動画サイトにアップしました。
しかし、この動画の意味は誰にも気づいてもらえず注目されませんでした。
HUSHから出たサラールがケバブ店に戻ると、マリクがサラールの帰りを待っていました。
マリクは「俺はあんたを尊敬してる。あんたの『世直し』に俺も参加させてほしい」と言います。
サラールは殺人をやめると決めた後だったので、マリクの頼みを断って帰らせました。
2009年になったばかりの新年の夜。
マリクはジェイソン・ブラウンにサラールの情報を売り、サラールはブラウンの部下に拉致されました。
目覚めると、サラールはアヒルの着ぐるみを着せられて自分の店の地下室に縛られていました。
麻薬と酒を飲まされたらしく意識がはっきりしません。
目の前にはブラウンがいて何か喋っています。
サラールは着ぐるみにしまいっぱなしにしていたナイフで拘束を解いてブラウンに襲い掛かりますが、もみあいの末にサラールがナイフでわき腹を刺されてしまい、ブラウンは無傷で出ていきました。
立ち上がったサラールはフラフラと外を歩き回りますが、その姿は今までサラールが憎み嫌悪してきた酔っ払いの姿にそっくりです。
やがて歩けなくなったサラールが道路わきに座り込んだとき、サラールが唯一殺さずに解放したスティーブが近くにいることに気付きます。
スティーブはまた泥酔していて、心を入れ替えた様子はありませんでした。
サラールは、ブラウンが麻薬取引している動画があったことを思い出し、動画サイトにアップしようと携帯を取り出しますが、アップロードする前に力尽きて意識を失ってしまいました。
サラールは寝ている酔っ払いと間違えられて、死にかけていることに誰にも気付いてもらえません。
解説、考察や感想など
スウィーニー・トッドについて
パッケージの表紙に「スウィーニー・トッドにインスパイアされた」と記載があります。
スウィーニー・トッドは、19世紀中期にイギリスで流行した怪奇小説に登場する架空の殺人犯ですが、トッドのモデルになった人物は実在していた可能性があると言われています。
スウィーニー・トッドの語を簡単に紹介します。
死体はトッドの仲間であるパン屋の女が解体し、ミートパイに加工してお客さんに販売していました。
トッドは見習いの若い男を雇っていて、この見習い男によってトッドの悪行は暴かれてしまい逮捕・処刑されました。
サラールはトッドとパン屋の両方を兼ね備えていたようです。
そして見習いの男がマリクになります。
ケバブってぶつ切りの串刺し肉を使うイメージがあったので、ミンチだったのが疑問だったんですが、原作がミートパイだったことを知って納得しました。
本作はただグロいだけでなくむしろグロは前半だけです。
主人公サラールも悪人、サラールを裁くブラウンも悪人、サラールの悪を暴くマリクも悪人で、しかも警察は役立たずというなんとも考えさせられる内容で、想像以上に面白くて驚きました(笑)
イギリスの警察叩きも兼ねているんでしょうか。
隠喩表現について
本作でもちらほら隠喩表現が使われていたので、気づいた箇所のみ解説します。
店の地下にある豆電球は最初は元気に光っていますが、サラールが罪を重ねるにつれて次第に光が弱くなり、最後はサラールの手でたたき割られます。
この豆電球はサラールのモラルや善悪の判断を表していました。
サラールが電球を叩き割ることで、モラルの崩壊が表現されています。
サラールが人肉ケバブ作りに本腰を入れたとき、机の脚を揃えるために『外交』という学術書を机の脚と床の間に挟んでいます。
この本は恐らくサラールが勉強を頑張っていた時に繰り返し読んだ本です。
学術書を本として扱っていない点は、サラールが大学卒業(キャリア)を諦めたことを意味しています。
後にサラールは、サラに料理の味を認められて仕事の話を持ちかけられます。
これはサラールにとっては父親が死んで以降、初めて心から嬉しいと思った出来事で、サラの言葉をきっかけに、サラールはケバブ店が父親の形見であることを改めて思い出します。
監禁していた客スティーブを解放した後、サラールは7年以上机の脚の下に敷きっぱなしだった本を手に取ります。
恐らくこの時、サラールは「自分は本当はどうしたかったのか」を思い出しています。
サラールはどれだけ迷惑行為をする客が現れても警察に通報しません。
見ていて「通報しろよ」とイライラするかもしれませんが(私はしました)、サラールが警察に頼らない理由は冒頭のシーンにあります。
サラールが初めて迷惑な客に遭遇した際、店の机などを壊されて警察に通報しましたが、警察官が到着したのは通報してから3時間も後でした。
女警察官は「忙しいの」と悪びれた様子もなく、サラールが被害を訴えても、「何かわかったら連絡します」とだけ告げていなくなり、その後も警察から連絡は一切ありませんでした。
つまり、警察は何もしてくれませんでした。
こういった警察に対する絶望や不信感が、サラールに自らの手で悪客を始末する道を選ばせたとも言えます。
また、サラールの連続殺人事件の担当になった刑事2人がテレビ出演して事件解決の意気込みを語ります。
しかしサラールが街に出た時にこの刑事2人と遭遇しても、刑事2人はお喋りに夢中でサラールの存在にすら気付きませんでした。
警察の目に余る無能さは、イギリス警察に向けられた皮肉にしか見えません。
マリクがサラールを裏切った理由
マリクがサラールを裏切ったのは、サラールがマリクの憧れていたような男じゃなくなったからです。
マリクは深夜の公園で男を襲っていたサラールを見て、サラールに憧れます。
友人の発言通り、マリクにはサラールが”ランボー(ヒーロー)”に見えたのです。
マリクは最初からサラールの「世直し」に加わるためにアルバイトを始め、タイミングを見て「仲間に入れてほしい」と懇願しますが、この時すでにサラールは私刑をやめると決めた後だったので、申し出を断ってマリクを追い返します。
この時、マリクはサラールが本物のヒーローではなかったと思いがっかりします。
サラールに興味をなくしたマリクの切り替えは早く、サラールを売れば金になると知っていたマリクはさっそくブラウンにサラールを売ってしまいました。
サラールがアップした動画の行方とサラールの最期
終盤、サラールはブラウンが法の裁きを受ける(ついでに殺人の罪もなすりつける)ことを期待して麻薬売買にブラウンが関わっていることを示唆する動画をアップしますが、その動画が活躍することは恐らくありません。
わかりやすい動画だったので警察関係者の目に触れていた可能性は高いですが、話題にならないところを見るとブラウンが金でもみ消したのでしょう。
ラストにブラウンと麻薬の件がニュースで取りざたされるシーンがありますが、あれはサラールが死の間際に見た希望的観測に基づく幻想です。
サラールは幻想が現実になる可能性を少しでも高めるために、追撃でブラウンが女の子に薬を手渡している過激な動画もアップしようとしましたが、サラールは力尽きてしまいます。
途中で力尽きるという描写も、サラールの狙いが失敗に終わったことを暗示していたように感じます。
サラールは死ぬ前に街の喧騒の中でスティーブを目撃しています。
これは幻覚か本当にスティーブがいたのかは判断がつきにくいですが、どっちにせよサラールの行いで他人や社会を変えるのは不可能だったということが表現されていたのかなと思います。
サラールは世間への復讐のため、この街から1人でも悪人を減らすために成敗してきましたが、実際には世の中は少しも変えられておらず、サラールのしてきたことは間違いだったとサラール自身が感じたシーンだと思われます。
サラールとサラ
サラールとサラは、英語に直すと『SALAH』と『SARAH』でよく似ていて違っているのは一文字だけです。
こんなに紛らわしい名前をわざわざ付けたのにはきっと理由があり、それは恐らく『サラは、サラールが犯罪に染まらずまっとうな人生を歩んでいれば恐らくこうなっていた人物』だったと思われます。
その他感想など
普通のホラーかと思いきや、意外と現代のロンドンが抱える闇を描いた社会派な内容だったので驚きました。
こんな感じならグロ路線じゃなくて普通に作った方が面白かったんじゃないかという気がしてます。(グロいのは前半だけで、後半はほぼグロは忘れ去られていましたが)
内臓と骨はかなり動物さんぽかったですが、とにかく切られている手がリアルで作り物なのか本物なのかわからない位でした。
主人公のサラールはどんなに罪を犯してもイギリス警察からは目も向けられず逮捕されることもなく、一般客のイギリス人からも差別され、最後は悪いイギリス人に殺されて、徹底的にイギリス人から排除されていた(イギリスにはまだユダヤ人差別の習慣が根付いていると言いたいのでしょう)考えさせられる作品でした。
鬱映画の類なので、これから見るという方は心の準備をしてからご覧ください!
以上です!読んでいただきありがとうございました。
この記事がお役に立てていたらハートマークを押してもらえると嬉しいです(^^)
感想などお気軽に(^^)