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名前の由来について
(引用:https://onedio.co/)
彼らの名前について、まず名前の頭文字を並べると『DREAMS』になるというちょっとした遊びのような仕掛けがしてあります。
ユスフが組み込まれていないのが少々不満ではありますが(笑)
海外では上のような画像も作られていて話題になったようです。
Robert
Eames
Arther / Areadone
Mal
Saito
ドム・コブ(Dominik・Cobb)
『コブ』は名前や発音の特徴から『ヤコブ』ではないかと推測されます。
ヤコブはキリスト教の聖書とイスラム教の聖典に登場するユダヤ人の祖先とされる人物で、今を生きるユダヤ人は全て彼の子孫と言われています。
イスラム教の聖典『クルアーン』におけるヤコブを簡単に紹介します。
ヤコブはイスラエルで妻と子どもを設けて幸せに暮らしますが、最愛の息子ユースフが失踪してしまい悲しさのあまり視力を失ってしまいます。
その後、隣国のエジプトで成長して預言者になっていたユースフと再会し、彼の預言で神の奇跡を受けたヤコブは視力を取り戻します。
妻モル・コブと『虚無』に世界を作り上げた点や、子どもに会いたいあまり盲目的になっていた点に共通性を感じました。
また、『ドム』にはスラブ民族の言語で『家庭、家』という意味があるので、帰宅を切望する彼を象徴するようなネーミングです。
ユースフは本作の調合師ユスフの由来となった人物だと思われます。
モル・コブ(Mallorie・Cobb)
『モル』はギリシャ神話に登場する夢の神様『モルペウス』が由来ではないでしょうか。
モルペウスは男の神様ですが、人間を夢に誘い、夢の中で人間の姿に変身する神様です。
また、英語やドイツ語で『mal』は『悪い』『不良』を表す接頭辞、フランス語では『悪い』『間違い』『不適切』などの意味を持ち、いずれもネガティブな意味を持つ言葉です。
モルの死後、彼女はコブにとって『過ち』の象徴だったことなども含んだ名前になっているのではないでしょうか。
アーサー(Arthur)
『アーサー』と言えば、連想するのはケルト神話『アーサー王伝説』のアーサー王が代表的です。
魔法の剣エクスカリバーと不死身になれる鞘を手に入れた少年アーサーがイングランドの王様になる話です。
一番有名な『円卓の騎士』は、成長して立派な王様になったアーサーが勇敢な騎士をお城に集めて順番に武勇伝を披露してもらう話です。
アーサーはチームにおいて、なにか特別な技術にたけている訳ではなく、全てにおいてバランスの取れたマルチな存在でした。
皆から頼られて、いるだけで安心感があるような存在だったので、表向きはコブがリーダーだったものの、実質的なリーダーはアーサーだったのではと感じます。
アリアドネ(Areadne)
『アリアドネ』はギリシャ神話に登場する王女の名前です。
ギリシャ神話のアリアドネは、想い人であるテセウスが怪物退治のため迷宮に入る際に、迷わないように糸を渡します。
テセウスは怪物退治の後、アリアドネの糸のおかげで無事に迷宮から出ることが出来ます。
この神話から、難問を解決する鍵を『アリアドネの糸』と呼ぶこともあります。
彼女は人間でしたが、アリアドネが『とりわけて潔らかに聖い娘』(読み方わからん)という意味があるため元々は女神だったとされています。
アリアドネは第3階層でサイトーとロバートが死んでしまって窮地に陥った際に素早く解決策を提案していましたし、チームの中で唯一コブの過去を詳しく知った理解者でもありました。
ここからは完全に想像になりますが、彼女がコブの過去を知ろうとしたのは単純な興味関心からだけではなく、もしかしたらモルの父ブラウニングからの依頼があったのかもしれません。
コブはモルの死の真相を誰にも明かしていませんでしたから、ブラウニングは娘の死の原因を知りたがっていたに違いないですし、コブを無事に帰還させるためにも優秀な教え子のアリアドネに何か頼みごとをしていてもおかしくありません。
イームス(Eames)
『イームス』は神話や聖書などから名前の関連性は見つけられませんでした。
コブは普段は各地を転々とギャンブル詐欺師として生計を立てているようで、彼が持っていたチップは偽物で、刻まれたスペルに誤りがありました。(コブが指摘していました。)
この点を踏まえて考えると『dreams(夢)』から『dr』を取ると発音は『イームス』になり、mとsの間にeを足すと彼の名前である『eames』になります。
そのように考えると『team(チーム)』も同様にイームスの名前と似た響きがあります。
ユスフ(Yusuf)
『ユスフ』についてはコブの所で出てきましたが、キリスト教の聖書においてもユダヤ教の聖典においてもヤコブの息子であり、夢で預言をする預言者です。
聖書では『ヨセフ』、クルアーンでは『ユースフ』と名前の表記に若干の違いはありますが、同一人物と解釈されています。
本作におけるユスフとユースフに「これ!」という共通点は特に無いですが、ユースフがヤコブの実子であったり、夢に関する職業に就いていることなどからユースフの名前が採用されたのではないかと推測しています。
冒頭の夢(サイトーの夢)の流れ
(引用:https://www.wallpaperbetter.com)
夢の構造を踏まえて冒頭のサイトーの夢のシーンの流れを整理します。
最初のシーンが豪華絢爛なお屋敷で、ここはサイトーの夢の第2階層でした。
ミッション中にモルが現れてアーサーを撃ってしまいます。
夢のホストだったアーサーが死んで(目覚めて)しまい、第2階層が崩壊。
コブは重要な情報が入っていそうな封筒をゲットするも、中身が白紙だったので混乱します。
白紙だったのは、この仕事自体サイトーがコブの能力を測るために仕組んだものだったからなのでしょう。
そうこうしているうちに、コブはキック(バスタブぼちゃん)されて第1階層に上がります。
第1階層は、外で戦争が繰り広げられるアパートの一室です。
ここで、サイトーが絨毯の素材が違うことからここが夢だと気付きます。
無理やり情報を吐かせようとするもタイムリミットが来てしまい、現実世界の新幹線の中で目覚めます。
くどいかもしれないですが時系列順にすると以下です。
↓
コブはアーサーと建築師のナッシュと共に、サイトーが乗った京都行きの新幹線の中でお仕事開始。
↓
第1階層がアパートの一室。第2階層(豪華な館)に落ちる。
↓
第2階層で情報ゲットしようとするも見つからず。モルに邪魔もされる。
キックで第1階層に上がる。
↓
第1階層の部屋。銃で脅して情報吐かせようとするも、絨毯の素材で夢だと気づかれる。
↓
タイムリミットで日本人風の男の子に起こされて現実の新幹線で起床。
↓
仕事に失敗したので逃亡しようとしていた所にサイトーが現れて、依頼自体サイトーが仕組んだものだったと判明。(コブの能力を測るため)
↓
サイトーからフィッシャーのインセプションの依頼を受ける。
夢と調合薬
階層が深くなるほど深層心理に近くなり、アイディアの植え付けをしやすくなりますが、わずかな刺激でも目覚めやすい(もしくは階層が浅くなってしまう)と説明がありました。
コブがユスフに強力な睡眠薬を調合させたのは、確実に第3階層まで行きついて仕事をするために、簡単な刺激では起きないようにするためでした。
コブは強すぎる睡眠薬の危険性を承知していましたが、アーサー達が確実に反対すると分かっていたため、あえて秘密にします。
ロバートが夢を武装していなければ武装集団は現れなかったので、睡眠薬を強力にしていた事を隠し通せていたでしょう。
ユスフがコブの指示通りに強力な睡眠薬を作ったのは、自分の腕に自信があったからと、コブに多額の報酬を約束されていたからです。
そして、コブが仕事の遂行に執着するのは、全てサイトーに約束を果たしてもらい、自宅に帰るためです。
それほどコブは子どもたちに会うことを切望していたということです。
地下で眠る老人達
(引用:https://www.themoviedb.org/)
ユスフはコブ達に自身の薬の効果を確認させるため、地下で眠る老人達の部屋に案内しました。
あの老人達は全員が夢の共有装置に繋がれていたので、ユスフの調合薬で眠り、1つの夢の中にいたようです。
彼らは恐らく現実世界では動き回れる体力が無いため、夢の中を活動拠点にすることを選んだ老人達です。
1人だけ起きていた老人は彼らを起こす役目のため、眠らずに彼らを見守っていました。
毎日3時間程眠っていると言っていたので、条件通りに夢が現実時間の20倍になるとして、第1階層で過ごしているとしたら、毎日60時間を夢の中で過ごしていることになります。
夢の中の武装集団
夢の中でロバートがタクシーに乗って身の危険を感じた直後、武装した男たちが現れてコブ達を攻撃します。
護衛達は、ロバートがエクストラクトから身を守るために特殊な訓練を受けて夢を武装化していたからだと説明がありました。
男達はロバートの自衛本能が具現化した存在で、ロバートを夢から目覚めさせることが目的なので、彼らの第一目標はロバートを射殺する(目覚めさせる)ことです。
ロバートが殺されると計画が失敗してしまうため、コブ達は必死でロバートを男たちから守りました。
Mr.チャールズ作戦
(引用:https://www.imdb.com)
第1階層でロバートの護衛たちに襲われたコブは、第2階層で『Mr.チャールズ作戦』を決行しています。
この作戦は、ターゲットに夢の中にいることをあえて知らせた上で目的を果たす方法を意味しています。
第2階層に行っても護衛たちに邪魔されることを予測したコブは、ロバートにあえて夢の中であることを知らせて混乱させ、自衛意識を弱めて護衛を減らそうとしたのです。
夢の中で夢だと気付くためにはある程度訓練が必要なようで、ロバートは夢の武装化はしていたものの、夢が夢であると自ら気付くほどには訓練されていなかったようです。
夢だと気付くとターゲットが自殺を図ったり世界が不安定になる危険があるため普通なら知らせませんが、ロバートがコブに心を開く必要もあったため、コブ自身がロバートの防衛本能の投影された存在だと偽り味方を装って、ロバートの本物の護衛を『エクストラクトしようとしている何者か(敵)』だと思い込ませています。
投影という存在
夢の世界は構成も人物も、ほとんど全てが夢を見ている人の心境や潜在意識が反映されています。
ここでは場所は置いといて、投影の人物について考えます。
一番重要なのは、投影の人物は『本物』ではないということです。
たとえば、第2階層に登場した『ロバートの投影のブラウニング』は、1階層で起きた誘拐の黒幕が彼自身だと告白していました。
これは、ロバートがブラウニングに対して少なからず不信感を抱いていたからこそ発生した状況で、もしロバートがブラウニングを疑う気持ちが無ければ起こっていません。
言いたいのは、『ロバートの投影のブラウニング』は『ロバートが夢の世界で創造したブラウニング』で、本物のブラウニングではないということです。
実際に現実世界でブラウニングがロバートをどうしようとしているのかは、本物のブラウニングしかわかりません。
ロバートの深層心理の金庫の中にいたフィッシャー氏も、やはり『ロバートが創造した父』であり、本物の父ではありません。
ロバートが現実世界で唯一聞き取れたフィッシャー氏の最期の言葉は『dissapointed(失望)』でした。
ロバートの投影のフィッシャー氏は「親と同じ道を歩むつもりなら失望する。自分の道を切り開きなさい」と改めて最後の言葉を伝えていましたが、あれはあくまでもロバートがフィッシャー氏にかけてもらいたかった言葉で、本物のフィッシャー氏の言葉ではありません。
本物のフィッシャー氏がどういう意味合いでロバートに「失望」が含まれる最期の言葉を残したのかは、彼が亡くなった今、もう知る術はありません。
このようで、夢に登場する人物の行動やアイテムを見るとキャラクターの心理がわかりやすいです。
印象に残っていた投影を書いていきます。
・金庫の中の風車と遺言状
→風車と遺言状の金庫はフィッシャー氏のもので、ロバートの『父に愛されたい』という思いの投影。(父の心の中の金庫にあるのは自分であってほしい)
・第3階層の雪山とシェルター
→ロバートが抱える孤独や寂しさの投影。巨大な金庫やシェルターは、自身の悩みや苦悩を悟られてはならないという思いの強さの投影。
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『虚無に落ちたサイトーについて』、『コブが子どもの顔を見ない理由』、『ラストの解釈』などです
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