『ドライブ・マイ・カー』ネタバレ解説|ラスト考察、音の告白、空き巣の話、ワーニャ伯父さんなど | 映画鑑賞中。

『ドライブ・マイ・カー』ネタバレ解説|ラスト考察、音の告白、空き巣の話、ワーニャ伯父さんなど

ドライブ・マイ・カー ヒューマンドラマ

映画『ドライブ・マイ・カー』のあらすじ紹介、解説、考察をしています!
妻が言いたかったこととは?空き巣の高校生の話の意味は?ラスト韓国にいたのはなぜ?戯曲『ワーニャ伯父さん』と『ゴドーを待ちながら』の関係は?などについて書いています。

鑑賞済みの方のための考察記事です。
まだ観ていない方はネタバレにご注意ください。

ドライブ・マイ・カー

制作年:2021年
本編時間:179分
制作国:日本
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介、大江崇允
原作短編小説:『ドライブ・マイ・カー』村上春樹 著
本作はPG12の年齢制限があります。
※インターナショナル版はR15+です。
簡潔な性愛描写が見られるためです。(映倫より一部抜粋)

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※このページの情報は2023年2月時点のものです。最新の配信状況は各配信サイトにてご確認ください。

キャスト&キャラクター紹介

家福 悠介(かふく ゆうすけ)…西島秀俊
舞台俳優であり演出家。愛する妻を突然失い途方に暮れる。

渡利 みさき三浦透子
家福の車を運転することになった寡黙なドライバー。

高槻 耕史(たかつきこうじ)…岡田将生
音の浮気相手の若手俳優。
演技力は申し分ないが、未成年との恋愛スキャンダルが原因で芸能界を干されてしまった。
現在はフリーの俳優として奮闘中。

家福 音(かふく おと)…霧島れいか
家福の妻。家福に「話がある」と言った日の夜、くも膜下出血で倒れてそのまま亡くなってしまう。

柚原
ユンス

 

あらすじ紹介

あらすじ①:

主人公の家福悠介(西島秀俊)は東京で舞台俳優としても演出家としても忙しい毎日を送る40代男性です。
妻の(霧島れいか)との関係も表向き良好ですが、家福は音が人気若手俳優の高槻(岡田将生)と不倫していることに気付きつつ、見て見ぬフリをしています。

また、家福と音は2001年2月に、当時まだ幼かった一人娘を亡くしています。
夫婦は新しい子どもは設けないことに決め、娘を失った心の傷が夫婦の絆のひとつにもなっていました。

そんなある朝。仕事に行こうとしていた家福に、音は「今夜、話したいことがある」と真剣な顔で言います。
家福はいつもの調子で「わかった」と答えて家を出ますが、内心は不安で中々心の準備ができず、仕事が終わった後は行く当てもなくドライブしてしまい帰宅したのは結局深夜でした。

帰宅した家福は、音が倒れているのを発見して焦って救急車を呼びますが、音はそのまま亡くなってしまいます。
音の死因はくも膜下出血でした。

 

あらすじ②:

音の死から約2年後。家福は妻の死を克服できないまま、仕事に熱中することで精神を保つ日々を送っていました。

家福は広島で12月に行われる演劇祭りに演出家として参加することになり、10月から広島に滞在して舞台の準備に専念します。
広島に着いたその日、家福は演劇祭の主催者から専属の運転手が付くと告げられます。
家福は愛車を他人に運転されるのが嫌で拒否しますが「そういう決まりだから」と強引に承諾させられてしまいました。

家福に付くことになったドライバーは渡利みさき(三浦透子)という若い女性だったので家福は尚更不安でしたが、みさきは驚くほど運転が上手く、家福はすぐに彼女が気に入りました。

家福は舞台をアントン・チェーホフの『ワーニャ伯父さん』に決めて出演俳優を募集すると、応募者の中に、かつて音と不倫していた俳優の高槻がいました。

高槻は音と不倫していた当時は人気若手俳優でしたが、その後、未成年者との恋愛スキャンダルで所属事務所を解雇されてしまいました。
高槻はそれでも役者をやめず、現在はフリーの俳優として奮闘中でした。

家福は高槻の応募に内心動揺しますが、心を無にしてオーディションを行い、高槻を主演のワーニャ役に選びます。
高槻は元々別の役で応募していたのでワーニャ役に選ばれたことに驚きますが、出演を了承しました。

家福は広島で高槻や渡利と交流し、少しずつ彼自身のトラウマや妻の喪失感と向き合うことになります。




感想や考察など

上映時間約3時間と長かったですが、中だるみを感じることもなく途中で飽きたりもせず楽しめました。

以下、気になったことを考察します。

音が家福に言いたかったことは?

ドライブ・マイ・カー
©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

最初に答えを書きますが、音があの日、家福に言おうとしたのは「私が娘を殺した」だと私は推測しています。

音が家福に何を言いたかったのかは、音が最後に語った物語に隠されています。
音は、セックスの最中か直後に突然物語を語り始める芸術家肌な一面がありました。

家福が音から聞いた最後の物語は「17歳の女子高生が片思いの相手の同級生 山賀の自宅に空き巣に入る」という話でした。
家福は話の途中までを聞いていて、続きから最後までは高槻が音本人から聞かされていました。

音は自分で語ったはずの物語をあまり覚えていないので、ここには恐らく音の無意識(隠れた本音)が凝縮されています。
音の物語の解釈は聞き手によって別れてくるとは思いますが、ここでは筆者個人が読み取った「音の本音」を書いていきます。

女子高生が山賀の部屋で感じた特別な安心感は、恐らく家福と一緒にいた時(特に結婚当初)の音の気持ちです。
女子高生が未使用のタンポンやパンティを山賀の部屋に隠したのは、音はずっと家福の『恋人』でありたいという願望の表れではないでしょうか。
つまり、音は最初から子供を望んでいなかったのではないかということです。

そんな音の本音に気づかず、家福は子どもを望みます。
家福が子どもを望んだ大きな理由には親孝行(親に孫を見せたい)があったと思われ、それを暗示していたのが「山賀は母親に支配されている」の所です。

音は自分の気持ちを言えず、妊娠して母親になりました。
家福がどの程度子育てを手伝っていたのかわかりませんが、元々子どもを望んでいなかった音は徐々に子育てに疲れていきます。

そう考えると、山賀の部屋に入ってきた「本物の空き巣」の正体は家福と音の娘です。
物語の空き巣は男でしたが、女子高生を強姦しようとした行為は、音が感じた「子育てによって女性らしさを奪われていく感覚(女から母に変わることを強要される感覚)」が表現されていたのではないでしょうか。

そうなると、「空き巣を殺した」というのは音が娘を殺したことを意味します。
娘の死因は肺炎でしたが、音は娘を病気になってもおかしくない状況に置いやってしまったと思われます。

そして女子高生は空き巣の死体を山賀の家に放置し、逮捕覚悟で学校に行きますが、殺人はなかったことになっていました。
これを音の現実に置き換えると、音は娘を死に追いやったことを家福や医師・警察にバレる覚悟でいたものの、誰からも責められなかったのです。

家福が全て見て見ぬフリをしたのは、恐らく家福は音と不仲になることが何よりも怖かったからです。
音がそんなことをする人だと認めたくなかった気持ちもあったのかもしれません。
この家福の臆病な対応は音を苦しめました。

答えに戻りますが、音が言いたかったことは女子高生が監視カメラの前で主張した「私が殺した」です。
音は娘を殺した罪悪感に長年苦しみ、ついに家福に告白する決意をしていましたが、思いを果たせないまま死んでしまいました。

 

ヤツメウナギ

音が語った、空き巣の女子高生の前世はヤツメウナギだった点についてです。
ヤツメウナギは『生きた化石』とも呼ばれるほど原始的な生き物で、名前にウナギと付けられていますがウナギとは全く違う種類の生物です。

家福がヤツメウナギをネット検索して、口の中のトゲトゲがグロテスクなヤツメウナギの映像が流れましたが、これは音が抱えていた心の闇や心理状態を表していたのではないかと解釈しています。
また、女子高生の前世だったヤツメウナギは高貴で、他の魚に寄生せず、ただ岩に張り付き続けて餓死したという話も、音のメンタルが限界に達しそうになっていたことを暗示していたのではないでしょうか。

 

昨日の話を覚えていない家福

音がヤツメウナギの話をした翌朝、音は昨夜自分が何を話していたか知りたがりますが、家福は「覚えてない」と答えました。
しかし、家福がパソコンでヤツメウナギを検索していたことから、純粋に覚えていなかったわけではないことがわかります。

音がヤツメウナギの話をした昨夜、家福は音とセックス中に辛そうな表情を浮かべていました。
家福がなぜ辛そうだったのかはっきりとはわかりませんが、家福は音の不倫に気づかないふりをし続けることにも苦しさを感じつつ、かといって不倫を暴いて音と衝突する勇気も持てず困り果てていたように見えました。

なので、家福が「覚えてない」と答えたのは、本当は覚えていたけれど、昨夜のことを思い出そうとすると苦悩したことまで思い出してしまうので、それが嫌で覚えてないと答えたか、あの時は家福も家福で考え事をしていて音の話をちゃんと聞けていなかったのか、どちらかだったのではないでしょうか。

 

緑内障の発覚

病気になる原因のひとつには本人の心理状態が大きく関わっている場合があります。
もちろん遺伝的な要因だったり生活習慣によるものだったり別の病が関わっていたりと、全ての人に当てはまるわけではありません。

例えばですが、かなり口うるさい姑(義母)と同居している嫁がいるとします。
嫁は毎日毎日姑から文句や小言を言われ続け、普段から「もう聞きたくない」と漠然と思っていますが、嫁は姑に口答えする勇気も別居を提案する勇気もありません。
そんな生活を続けていると、いつの間にか嫁は耳の病気にかかっていて、最終的に聴力を失ってしまいます。

嫁は『耳の病気で聴力を失った人』ですが『聞こえなくなったのは、本人が聞きたくなかったから』で、病気の原因は本人の心理状態や性格にあります。
このようなケースは逃避行動の一種で『病気への逃避』と呼ばれます。
ストレスフルな状況から逃げたいけれど、逃げる勇気がなく我慢し続けていたり、あるいは逃げられない状況で耐え続けると、今度は体に不調が出て、本人は病気を理由に本当に逃げたい状況から逃げられるのです。

前置きが長くなりましたが、家福が緑内障にかかっていた原因も、普段から音と本音で語り合うことを避けていたり、不倫を見て見ぬフリし続けて我慢してきたことと関係あったように思えました。

 

次のページに続きます!




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