映画『カポーティ』のあらすじ紹介、解説考察をしています!
「カポーティの葛藤とは?」「カポーティが殺人鬼ペリーに惹かれた理由」「カポーティが弁護士を雇うのをやめたのはなぜ?」「小説『冷血』の感想」など書いてます。
ネタバレありきの解説考察記事です。本作をまだ見ていない方はご注意ください。
制作年:2005年
本編時間:114分
制作国:アメリカ
監督:ベネット・ミラー
脚本:ダン・ファターマン、カイル・マン
原作小説:『冷血』トルーマン・カポーティ 著
キャスト&キャラクター紹介
(引用:https://www.democratandchronicle.com)
トルーマン・カポーティ…フィリップ・シーモア・ホフマン
1924年ニューオリンズ生まれの小説家。
『遠い声 遠い部屋』『ティファニーで朝食を』が大ヒットしてセレブ作家に仲間入りした。
当時は珍しくゲイであることを公表している。
カンザス州一家殺人事件の犯人であるペリー・スミスと奇妙な友情関係を築き、事件とペリーを題材に小説を書くため取材する。
(引用:https://twitter.com)
ペリー・スミス…クリフトン・コリンズ・Jr
カンザス州一家殺人事件の犯人。
逮捕されてから死刑執行までの間、カポーティと多くの時間を過ごした。
絵を描くのが好き。
(引用:https://www.cbsnews.com)
ネル・ハーパー・リー…キャサリン・キーナー
カポーティーの幼馴染みの親友で、彼女自身も作家である。
癖の強いカポーティーの中和剤的役割を果たしている。
(引用:https://www.netflixmovies.com)
アルヴィン・デューイ(KBI)…クリス・クーパー
カンザス州捜査局の刑事で、「カンザス州一家殺人事件」の担当刑事。
カポーティーに事件に関する情報を与える。
リチャード・ヒコック(犯人)…マーク・ペルグリノ
ウィリアム・ショーン(ザ・ニューヨーカー編集長)…ボブ・バラバン
マリー・デューイ(デューイの妻)…エイミー・ライアン
デューイの息子…アヴェリー・ティプレディ、ナザリー・デムコウィッツ
ローラ・キニー(第一発見者)…アリー・ミケルソン
アヴェドン(写真家)…アダム・キンメル
ピート・ホルト(クラッター家族を知る人)…ジョン・デストリー
クラッチ所長…マーシャル・ベル
リンダ(スミスの姉)…ベス・メイヤー
裁判官…ジョン・マクラーレン
NY誌リポーター…ロバート・ハクラック
ドロシー(保安官の妻)…アラビー・ロックハート
夜行列車の乗務員…クウェシ・アメヤウ
朗読会の参加者…ノーマン・アーマー
カーレンタルの受付…アンドリュー・ファラーゴ
ロイ・チャーチ(刑事、安物帽子)…R・D・レッド
ハロルド(刑事、襟巻)…ロバート・マクラフィン
牧師…ジム・シェパード
サンダーソン保安官…ハリー・ネルケン
ジュリー・フォアマン(陪審員)…ジェレミー・デンジャーフィールド
クルーザー(カポーティを見ていた男)…ウィル・ウォイトウィッチ
ウォレス(囚人)…C・アーンスト・ハーシュ
ダニー・バーク(ローラの友人)…カー・ヒューイット
クリストファー(セレブ)…クレイグ・アーチボルド
バーバラ(セレブ)…ブロンウェン・コールマン
ローズ(セレブ)…ケイト・シンドル
グレイソン(セレブ)…デイヴィット・ウィルソン・バーンズ
ハーブ・クラッター…マンフレッド・マレツキ
ナンシー・クラッター…ケルシー・ステファンソン
ケニヨン・クラッター…フィリップ・ロックウッド
ボニー・クラッター…ミリアン・スミス ほか
あらすじ紹介
あらすじ①:事件発生
1959年。35歳のトルーマン・カポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は小説家として大成し、NYの社交界ではアイドル的存在として騒がしい毎日を送っています。
同年11月14日、『カンザス州一家殺人事件』が起こりました。
カンザス州の田舎町に暮らす4人家族全員が猟銃で殺された悲惨な事件です。
被害者は16歳の長女ナンシー、15歳の長男ケニヨンと、その両親でした。
NYタイムズの記事で事件を知ったトルーマンは引き寄せられるように興味を持ち、ザ・ニューヨーカー誌編集長のショーンに取材の許可を取ると、その日のうちに親友のネル(キャサリン・キーナー)と共にカンザス行きの夜行列車に乗りました。
数日後、カンザスに着いた2人はカンザス州捜査局へ行き、事件の担当刑事アルヴィン・デューイ(クリス・クーパー)に取材を申し込みますがあっさり断られてしまいました。
(刑事にマフラーを褒めてもらおうとするトルーマン 引用:https://blog.goo.ne.jp)
その後に開かれた記者会見を見学したトルーマンとネルは、事件の第一発見者はローラ・キニーのというナンシーの友人だと知ります。
また、西カンザス農場委員会は『有力な情報に1000ドルの賞金を支払う』と公表しました。
翌朝。トルーマンとネルはローラ・キニーに取材させてもらい、被害者であるナンシーの日記を読ませてもらいました。
(取材内容を思い出すトルーマン 引用:https://girlschannel.net)
翌日。トルーマンはデューイ刑事にも取材したいと思いますが、デューイは警戒心が強く直接申し込んでも断られてしまいます。
トルーマンはデューイの妻マリー(エイミー・ライアン)がトルーマンのファンだと知ると、まずはマリーと仲良くなってデューイ刑事とゆっくり話す機会を設けてもらい、得意の話術でデューイ夫妻を魅了しました。
その後、デューイ刑事はトルーマンの取材に応じ、事件発覚直後の被害者の写真も見せてくれました。
トルーマンは取材に夢中になり、恋人ジャックとのクリスマスの予定も断ってしばらくカンザス州に滞在することに決めました。
あらすじ②:犯人逮捕
その後クリスマスの夜には犯人が特定され、翌年1960年1月6日、事件の容疑者ペリー・スミス(クリフトン・コリンズ・Jr)、リチャード・ヒコック(マーク・ペルグリノ)という若いチンピラ2人が逮捕されました。
(連行されるペリー、付き添うデューイ刑事 ©2006 SONY PICTURES ENTERTAINMENT INC. )
トルーマンは保安官住宅を訪ねてペリーと数分だけ面会します。
世間話しかできませんでしたが、トルーマンはペリーに言いようのない魅力と共通点を感じました。
トルーマンはすぐにNY誌のプロデューサーに電話して「この事件は記事ではなく小説にしたい」と打ち明け、追加の融資を頼みました。
その後の陪審員裁判で、ペリーとヒコックに4人の殺人で有罪と死刑が宣告されました。
(裁判を見守るトルーマンとネル 引用:https://girlschannel.net)
ペリーがランシングにあるレブンワース連邦刑務所に移送される日、トルーマンはニューヨークに戻りました。
NYに帰宅後、トルーマンはセレブ友達やマスコミ関係者の集まるパーティーで、まだ書き始めてもいない小説の自慢話をしました。
ペリーが刑務所に投獄されて1ヶ月。
このまま何もしなければ、6週間後にペリーとヒコックは死刑執行されます。
トルーマンはペリーとヒコックに取材する時間を充分に確保するため彼らに弁護士を雇って再審請求しましたが、この行動が原因でトルーマンはデューイ刑事から嫌われてしまいました。
あらすじ③:ペリーとの交流
数日後。トルーマンがレブンワース連邦刑務所に行ってみると、ペリーは数日前から食事を拒否して衰弱し、栄養点滴していました。
トルーマンは所長に面会し、ペリーとヒコックに24時間いつでも面会出来る権利を買収すると、ペリーを昼夜問わず丁寧に介抱します。
数日後にはペリーは座って喋れるまでになったので、トルーマンとペリーはお互いの育った環境を打ち明け合います。
ペリーは幼い頃に母親がアルコール中毒で死に、兄弟は自殺してしまい施設で育ちました。
トルーマンは幼い頃に両親が離婚して母親に引き取られたものの、母親は昼間は仕事、夜は男と遊びに出かけてしまい、トルーマンは放置されて孤独な幼少時代を過ごしました。
ペリーは孤独な幼少時代という共通点のあるトルーマンに友情を感じます。
(刑務所で交流を深めるトルーマンとペリー ©2006 SONY PICTURES ENTERTAINMENT INC.)
トルーマンは「本を書くにあたって君の日記を読ませてほしい 君を悪く書くつもりはない」と説得し、ペリーの日記を貸してもらいました。
ホテルに戻ったトルーマンはネルに近況報告の電話します。
ネルが「あなたはペリーに友情を抱いてる?」と聞くと、トルーマンはきっぱり「彼は金脈だ」と答えました。
ペリーの日記を読んだトルーマンは本格的に執筆を開始します。
数週間後。トルーマンがペリーに面会に行くと、ペリーは「死刑にならないために心神喪失を主張したいので、君が書いた僕についての本を裁判で使わせてほしい」と頼みますが、トルーマンは「まだ何も書いてない」とウソをついて断りました。
その後、トルーマンはペリーに面会せず冬の終わりになりました。
トルーマンは恋人ジャックと一緒にスペインのコスタ・ブラバに引っ越してしばらく執筆活動に専念しました。
あらすじ➃:死刑の延期
(ペリーからの手紙を読むトルーマン、ネル、ジャック 引用:https://www.imdb.com)
引っ越しから約1年の夏。
ペリーとヒコックの裁判に目立った進展はなく、トルーマンはペリーから「犯行している最中の心境」がまだ聞けていないものの、会う気にならず執筆が止まっていました。
そんな時、トルーマンは編集者から「ペリーとヒコックの控訴が棄却された 秋までに死刑執行だ」と知らせを受けてショックを受けました。
その後、ペリーから『会いに来てほしい』という旨の手紙も届き、恋人ジャックが本格的に嫉妬します。
ネルはトルーマンに「ジャックを大切にしなきゃだめよ」と忠告しました。
同年9月。秋の朗読会でトルーマンが『冷血』の冒頭を朗読すると、観客からスタンディングオベーションが起こりました。
編集長から本の完成を急かされますが、トルーマンの執筆活動は止まったままです。
トルーマンは再び弁護士に再審請求を依頼し、ペリーとヒコックの死刑は延期になりました。
トルーマンは1年以上ぶりにペリーに会いに行くと、ペリーは大喜びで裁判での戦略について話しだしますが、トルーマンは「僕は君に取材がしたいだけなんだ 犯行最中の話をする気になったら連絡をくれ」ときっぱり突き放しました。
トルーマンはその足でペリーの姉リンダに取材するため飛行機でタコマへ飛びました。
リンダは「弟は繊細なフリをして簡単に人を殺す悪魔よ」と語りました。
トルーマンが再びペリーに会いに行くと、ペリーは小説のタイトルが『冷血』だと新聞で知って怒っていました。
トルーマンは「それは記者が勝手につけたタイトルだ」と嘘をつきました。
さらにトルーマンは「君のお姉さんに会ってきた 彼女も君に会いたがってたよ」と嘘をつくと、ペリーは機嫌を直して事件の夜のことを語ります。
当時、被害者家族となるクラッター家に1万ドルのたんす貯金があるという噂を聞いたペリーとヒコックは、深夜にクラッター家に強盗に入りました。
2人は家族を拘束して家中探しますが、結局お金はありませんでした。
金が無いとわかると怒ったヒコックは「家族全員殺せ」と言い出します。
ペリーは誰も殺す気はありませんでしたが、主人のクラッター氏に『異常者を見る目』で見られてペリーも怒り、結局猟銃で全員殺してから逃げた、と涙ながらに語りました。
ペリーとヒコックがクラッター家で手に入れたのはたったの40〜50ドルでした。
その後トルーマンは本の執筆がある程度進むと、今度は彼らが早く死刑にならないことにイライラし始めます。
トルーマンは彼らの死刑執行を遅らせる理由がなくなると、早々に弁護士を雇うのをやめました。
ペリーからは弁護士を催促する嘆願書が届きましたが、トルーマンは断りました。
あらすじ⑤:結末
その後、ネルの著書『アラバマ物語』が映画化されてトルーマンは試写会に参加しますが、ペリーとヒコックが死刑にならないと『冷血』が書き終えられないトルーマンはイライラしていてネルの成功を心から喜べませんでした。
4月1日の朝。ペリーとヒコックの死刑が4月14日に決まりました。
死刑執行の4月14日、トルーマンは刑務所の近くまでは来たものの、ペリーとヒコックに恨まれているに違いないと思い死刑執行に立ち会うべきではないかもと悩みますが、ペリーからの電報に感謝の言葉が書かれているのを見てようやく刑務所に足が向きました。
(処刑直前のペリーとヒコック 引用:https://www.imdb.com)
刑務所に着くと、トルーマンはペリーとヒコックと5分間の面会を許されました。
トルーマンが泣きながら謝ると、ペリーは「気にするな」と笑いました。
それから順調に刑は執行され、ペリーとヒコックは死にました。
すべてが終わるとトルーマンはネルに電話して「立ち直れそうにない 僕は彼らを救えなかった」と話すと、ネルは「あなたは本当は救いたくなかったはず」と答えました。
スペインに戻る飛行機の中でトルーマンがペリーの日記を開くと、ペリーが描いたトルーマンの似顔絵が挟まっていました。
トルーマンはそっと日記を胸に抱きました。
感想や考察など
(引用:https://chrishallamworldview.online)
とにかくフィリップ・シーモア・ホフマンの表情の演技が最高です。
トルーマン・カポーティが「冷血」を執筆した背景を通してトルーマン自身が崩壊していく様子が緻密に描かれていました。
『ティファニーで朝食を』で揺るがぬ地位を手に入れたのに、ここまでの熱意を持って活動出来たのは、やっぱり彼が生粋の文筆家だったからですよね。
彼が取材中にメモや記録を全く取らず、記憶だけを頼りに自称『94%』の完成度で書き起こし出来るのがすごいです。天才だったんですね。
以下、気になった点など考察します。
カポーティの葛藤
©2006 SONY PICTURES ENTERTAINMENT INC.
取材のために殺人犯と仲良くなって本音や事件の詳細を聞き出して、それを本にする、というのは冷酷じゃないと出来ない仕事だと思います。
しかもカポーティはペリーをあくまでも客観的に『殺人鬼』として描いたので、ペリーからすれば信頼を裏切る形になります。
カポーティがペリーに頑なに本の一節すら読ませずタイトルも教えなかったのは裏切っている自覚があったからです。
カポーティが彼らのために弁護士を雇った背景には『ペリーからまだ必要な情報を引き出せていないので、まだ死なれては困る』という自分の都合が前提にありましたが、カポーティは無意識にペリーに情も湧いていて、純粋に『生きていて欲しい』とも感じていたようです。
ペリーの機嫌を取ったり信頼関係を守るために平気で嘘をつく冷酷な一面がある一方で、死刑の日が決まって落ち込む様子は、カポーティが完全に冷酷になり切れなかった証拠です。
計算づくめで生きてきたカポーティにも人間的な感情があったからこその葛藤だったのでしょう。
「冷血」というタイトルにはペリーの残酷さもカポーティ自身の冷酷さも込められていたと思われます。
カポーティがペリー・スミスに魅力を感じた理由
カポーティの「僕たちは同じ家に居て、彼は裏口から出て、僕は表玄関から出た」という発言からは、カポーティのペリーに対する共感の強さがうかがえます。
カポーティは内心は『あくまでも取材対象』と線引きして接していたはずなのに、いつの間にかペリーに心の一部を持って行かれていました。
カポーティはプレゼントした『遠き声 遠き部屋』の写真を酷評されてグッとペリーに興味が沸いています。
承認欲求の塊でいつも賞賛されたがっていたはずのカポーティが写真を『酷い』と言われて心奪われたのは、ペリーの感想が『忖度のない素直な感想』だったからではないでしょうか。
その他印象的だったのは、ペリーは絵を描くのが好きだったことです。
カポーティも芸術家肌だったので、お互いに惹かれ合うものがあったのでしょう。
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2ページ目は「カポーティが弁護士を雇うのをやめた理由」「小説『冷血』の感想」です。
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