映画『カポーティ』のあらすじ紹介、解説考察をしています!
「ティファニーで朝食を」の著者で知られるトルーマン・カポーティが、最後の長編小説となる「冷血」を執筆する過程を描く。
制作年:2005年
本編時間:114分
制作国:アメリカ
監督:ベネット・ミラー
脚本:ダン・ファターマン、カイル・マン
原作小説:『冷血』トルーマン・カポーティ 著
キャスト&キャラクター紹介

(引用:https://www.democratandchronicle.com)
トルーマン・カポーティ…フィリップ・シーモア・ホフマン
1924年ニューオリンズ生まれの小説家。
1948年の『遠い声 遠い部屋』や、1958年の『ティファニーで朝食を』が大ヒットしてセレブ作家に仲間入りした。
当時は珍しく、ゲイであることを公表している。
カンザス州一家殺人事件の犯人であるペリー・スミスと奇妙な友情関係を築き、事件とペリーを題材に小説を書くため取材する。

(引用:https://twitter.com)
ペリー・スミス…クリフトン・コリンズ・Jr
カンザス州一家殺人事件の犯人。
逮捕されてから死刑執行までの間、カポーティと多くの時間を過ごした。
絵を描くのが好き。

(引用:https://www.cbsnews.com)
ネル・ハーパー・リー…キャサリン・キーナー
カポーティーの幼馴染みの親友で、彼女自身も作家である。
癖の強いカポーティーの中和剤的役割を果たしている。

(引用:https://www.netflixmovies.com)
アルヴィン・デューイ(KBI)…クリス・クーパー
カンザス州捜査局の刑事で、「カンザス州一家殺人事件」の担当刑事。
カポーティーに事件に関する情報を与える。
リチャード・ヒコック(犯人)…マーク・ペルグリノ
ウィリアム・ショーン(ザ・ニューヨーカー編集長)…ボブ・バラバン
マリー・デューイ(デューイの妻)…エイミー・ライアン
デューイの息子…アヴェリー・ティプレディ、ナザリー・デムコウィッツ
ローラ・キニー(第一発見者)…アリー・ミケルソン
アヴェドン(写真家)…アダム・キンメル
ピート・ホルト(クラッター家族を知る人)…ジョン・デストリー
クラッチ所長…マーシャル・ベル
リンダ(スミスの姉)…ベス・メイヤー
裁判官…ジョン・マクラーレン
NY誌リポーター…ロバート・ハクラック
ドロシー(保安官の妻)…アラビー・ロックハート
夜行列車の乗務員…クウェシ・アメヤウ
朗読会の参加者…ノーマン・アーマー
カーレンタルの受付…アンドリュー・ファラーゴ
ロイ・チャーチ(刑事、安物帽子)…R・D・レッド
ハロルド(刑事、襟巻)…ロバート・マクラフィン
牧師…ジム・シェパード
サンダーソン保安官…ハリー・ネルケン
ジュリー・フォアマン(陪審員)…ジェレミー・デンジャーフィールド
クルーザー(カポーティを見ていた男)…ウィル・ウォイトウィッチ
ウォレス(囚人)…C・アーンスト・ハーシュ
ダニー・バーク(ローラの友人)…カー・ヒューイット
クリストファー(セレブ)…クレイグ・アーチボルド
バーバラ(セレブ)…ブロンウェン・コールマン
ローズ(セレブ)…ケイト・シンドル
グレイソン(セレブ)…デイヴィット・ウィルソン・バーンズ
ハーブ・クラッター…マンフレッド・マレツキ
ナンシー・クラッター…ケルシー・ステファンソン
ケニヨン・クラッター…フィリップ・ロックウッド
ボニー・クラッター…ミリアン・スミス ほか
あらすじ紹介
あらすじ①:事件発生
1959年。35歳のトルーマン・カポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は小説家として大成し、NYの社交界ではアイドル的存在として騒がしい毎日を送っています。
同年11月14日、『カンザス州一家殺人事件』が起こりました。
カンザス州の田舎町に暮らす4人家族全員が猟銃で殺された悲惨な事件です。
被害者は16歳の長女ナンシー、15歳の長男ケニヨンと、その両親でした。
NYタイムズの記事で事件を知ったトルーマンは引き寄せられるように興味を持ち、ザ・ニューヨーカー誌編集長のショーン(ボブ・バラバン)に取材の許可を取ると、その日のうちに親友のネル(キャサリン・キーナー)と共にカンザス行きの夜行列車に乗りました。
数日後、カンザスに着いた2人は、カンザス州捜査局へ行き、事件の担当刑事アルヴィン・デューイ(クリス・クーパー)に取材を申し込みますが、断られてしまいました。
(刑事にマフラーを褒めてもらおうとするトルーマン 引用:https://blog.goo.ne.jp)
その後に開かれた記者会見を見学したトルーマンとネルは、事件の第一発見者で被害者の友人ローラ・キニー(アリー・ミケルソン)の存在を知ります。
また、西カンザス農場委員会は『有力な情報に1000ドルの賞金を支払う』と公表しました。
記者会見の後、トルーマンとネルはローラ・キニーの学校へ行き、彼女に取材を申し込みますが無視されてしまいました。
トルーマンの服装や態度に原因があると思ったネルは「私1人でローラの家を探す」と言うので、トルーマンは被害者が安置されている教会へ行き、棺を開けて被害者の死体を覗き見ました。
その日の夜。トルーマンは11歳年上の恋人ジャック(ブルース・グリーンウッド)に電話して棺の中を覗き見したことを打ち明けて「あまりに恐ろしいものに直面すると、不思議と心が休まる」と語りました。
翌朝。トルーマンとネルはローラ・キニーの自宅を訪ねて話を聞き、被害者であるナンシーの日記を読ませてもらうことができました。
(取材内容を思い出すトルーマン 引用:https://girlschannel.net)
翌日。デューイ刑事の妻マリー(エイミー・ライアン)がトルーマンのファンだと知ったトルーマンーは、彼女に連絡を取りデューイ刑事の自宅を訪問します。
一緒にディナーを食べた時、トルーマンは『ティファニーで朝食を』の裏話や、母親が自殺した話をしたりと得意の話術でデューイ夫妻を魅了しました。
その後、デューイ刑事はトルーマンに事件発覚直後の被害者の写真を見せてくれました。
この時トルーマンは、例え記事が完成しても事件が解決するまでは掲載しないことをデューイに約束しました。
トルーマンはしばらくカンザス州に滞在することに決めて、恋人ジャックに電話でクリスマスを一緒に過ごせないことを謝りました。
また、ほぼ同時期にネルの著書『アラバマ物語』の出版が決まり、トルーマンとネルは二人きりで祝杯を上げました。
あらすじ②:犯人逮捕
クリスマスの夜、トルーマンとネルはデューイ一家と一緒にディナーを食べました。
デューイの様子が変だったので心配していると、マリーが「事件の犯人がわかったの。
犯人の刑務所仲間が賞金欲しさに情報を吐いたらしい」と教えてくれました。
1960年1月6日、事件の容疑者ペリー・スミス(クリフトン・コリンズ・Jr)、リチャード・ヒコック(マーク・ペルグリノ)という若いチンピラ2人が逮捕されました。
(連行されるペリー、付き添うデューイ刑事 ©2006 SONY PICTURES ENTERTAINMENT INC. )
トルーマンは保安官住宅を訪ねてペリーと数分だけ面会しました。
世間話しかできませんでしたが、トルーマンはペリーに言いようのない魅力と共通点を感じました。
トルーマンはすぐにNY誌のプロデューサーに電話して「この事件は記事ではなく小説にしたい」と打ち明け、追加の融資を頼みました。
その後の陪審員裁判で、ペリーとヒコック2人ともに4人の殺人で有罪、死刑が宣告されました。
(裁判を見守るトルーマンとネル 引用:https://girlschannel.net)
ペリーがランシングにあるレブンワース連邦刑務所に移送される日、トルーマンはニューヨークに戻りました。
NYに帰宅後、トルーマンはセレブ友達やマスコミ関係者に「世紀のノンフィクションが出来る」と、まだ書き始めてもいない小説の自慢話をしました。
ペリーが刑務所に投獄されて1ヶ月。
このまま何もしなければ、6週間後にペリーとヒコックは死刑執行されます。
トルーマンが彼らのために弁護士を雇うつもりだとジャックに打ち明けると、ジャックは心から賛成はしませんが、トルーマンの意思を尊重しました。
(散歩するトルーマンとジャック 引用:https://www.allocine.fr)
あらすじ③:ペリーとの交流
数日後。トルーマンがレブンワース連邦刑務所に行ってみると、ペリーは数日前から食事を拒否して衰弱し、栄養点滴していることを知りました。
トルーマンは所長に小切手を渡し、ペリーとヒコックに24時間いつでも面会出来る権利を買収しました。
トルーマンは離乳食を買い込んでペリーを丁寧に介抱すると、ペリーは心を許して食事するようになりました。
数日後にはペリーは座って喋れるまでになったので、トルーマンとペリーは自分たちの育った環境を打ち明け合います。
ペリーは幼い頃に母親がアルコール中毒で死に、兄弟は自殺してしまい施設で育ちました。
トルーマンは幼い頃に両親が離婚して母親に育てられたものの、母は夜はいつも男と外に出かけてしまい、トルーマンは部屋に置き去りにされて孤独な毎日を過ごす辛い日々を送りました。
(刑務所で交流を深めるトルーマンとペリー ©2006 SONY PICTURES ENTERTAINMENT INC.)
トルーマンは「本を書くにあたって君の日記を読ませてほしい。世間から怪物扱いされるのは嫌だろう?」と説得し、ペリーの日記を貸してもらいました。
ホテルに戻ったトルーマンが、電話でネルに状況を報告します。
ネルの「あなたは彼に友情を抱いてるの?」と聞くと、トルーマンはそっけなく「彼は金脈だ」と答えました。
ペリーの日記を読んだトルーマンは、本格的に執筆を開始します。
数日後、トルーマンはデューイ刑事と会いましたが、デューイはトルーマンが弁護士を雇ってペリーとヒコックの再審請求を出したことに不満気でした。
トルーマンはデューイに「もしあの2人が釈放されたら、私は君を許さない。」と言われてしまいました。
その後、トルーマンがペリーに会いに行くと、ペリーは「心神喪失を強調して死刑を免れたいから、裁判で君の本を使いたい」と頼みますが、トルーマンは「まだ何も書いてない」とウソをつきました。
春が近づいて来た頃、トルーマンは恋人ジャックがスペインで執筆活動したいと言うので、一緒にスペインのコスタ・ブラバに引っ越してしばらく執筆活動に専念ました。
あらすじ➃:死刑の延期
(スペインの自宅に届いたペリーからの手紙を読むトルーマン、ネル、ジャック 引用:https://www.imdb.com)
引っ越しから約1年経ちました。
ペリーとヒコックの死刑執行はトルーマンが雇った弁護士の活躍で延期されています。
トルーマンはペリーの犯行当時の話がまだ聞けていないため、執筆が止まっていました。
そんな時、トルーマンは編集者から完成を急かされた上に「控訴が棄却されたから、秋までに死刑執行になるはずだ。」と言われてショックを受けました。
その後、ペリーから『会いに来てほしい』という旨の手紙が届き、恋人ジャックが本格的に怒ります。
ネルはトルーマンに「ジャックを大切にしなきゃだめよ」とアドバイスしました。
9月に開かれた秋の朗読会でトルーマンが『冷血』の冒頭を朗読すると、スタンディングオベーションが起こりました。
編集長には「10月までに書き終えて欲しい」と念を押されますが、トルーマンは再び弁護士に再審請求を依頼したため二人の死刑は延期になりました。
トルーマンがペリーに死刑の延期を直接知らせに行くと、ペリーは大喜びしました。
ペリーはすっかりトルーマンを味方と思い込んで裁判での戦略について話そうとすると、トルーマンは「僕は君の犯行最中の話が聞きたいから会うんだ。仕事なんだよ。
事件の夜のことを言う気になったら連絡をくれ。」と突き放しました。
トルーマンはその足で、ペリーの姉リンダに取材するため飛行機でタコマへ飛びました。
リンダは「弟に騙されないで。繊細な顔を見せるけど、握手するように人を殺すわ」と語り、「要らないからあげる」とペリーのアルバムをくれました。
トルーマンが再びペリーに会いに行くと、ペリーは小説のタイトルが『冷血』だと新聞で知って怒っていました。
トルーマンは「それは記者が勝手につけただけだ」と嘘をつきました。
さらにトルーマンは「君のお姉さんに会った。彼女も君を心配して会いたがってたよ」と嘘をつくと、ペリーは機嫌を直し、ついに事件の夜のことを語りました。
当時、被害者家族となるクラッター家に1万ドルの貯金があるという噂を聞いたペリーとヒコックは、深夜にクラッター家に強盗に入りました。
そして家族を拘束して家中探しますが、結局お金はありませんでした。
金が無いとわかると、怒ったヒコックは暴走して「家族全員殺せ」と言い出します。
ペリーは殺したくなかったものの、主人のクラッター氏に『殺人鬼を見る目』で見られるとペリーも怒りが沸き、結局猟銃で全員殺してから逃げた、と涙ながらに語りました。
ペリーとヒコックがクラッター家で手に入れたのは40〜50ドルだけでした。
トルーマンは満足して本の続きを書くと、今度は彼らが早く死刑にならないことにイライラし始めます。
トルーマンは彼らの死刑執行を遅らせる理由がなくなると、早々に弁護士を雇うのをやめました。
ペリーからは弁護士を催促する嘆願書が届きましたが、トルーマンは断りました。
あらすじ⑤:結末
その後、ネルの著書『アラバマ物語』が映画化されてトルーマンは試写会に参加しますが、『冷血』の結末が書き終わらないトルーマンはイライラしていてネルの成功を心から喜べませんでした。
4月1日の朝。ペリーとヒコックの死刑が4月14日に決まりました。
トルーマンは刑務所のあるカンザスに移動しますが、ショックでホテルのベッドから起き上がれなくなりました。
死刑執行の4月14日、トルーマンは憂鬱で死刑執行に立ち会える気分ではありませんでしたが、ペリーから届いた電報に感謝の言葉が書かれていることを知ると、気を奮い立たせて刑務所に向かいました。
(処刑直前のペリーとヒコック 引用:https://www.imdb.com)
刑務所に着くと、ペリーとヒコックと5分間の面会を許されました。
ふたりは落ち着いた様子で、ヒコックは「死んだら眼球を移植提供して世界を見続ける」と話します。
トルーマンは泣きながら「救えなくて申し訳ない」と謝ると、ペリーは「気にするな」と答えました。
死刑執行の時間になると、「最期に言いたいことはあるか」と聞かれたペリーは「家族にメッセージを残したかったが、何を言いたいか忘れた」と答えました。
それから順調に刑は執行され、ペリーとヒコックは死にました。
すべてが終わった後、トルーマンはネルに電話して「立ち直れそうにない。僕は彼らを救えなかった」と話すと、ネルは「あなたは本当は救いたくなかったのよ」と答えました。
スペインに戻る飛行機の中で、トルーマンがペリーの日記を開くと、彼が描いたトルーマンの似顔絵が挟まっていました。
トルーマンはそっと日記を胸に抱きました。
感想や考察など
(引用:https://chrishallamworldview.online)
とにかくフィリップ・シーモア・ホフマンの表情の演技が最高です。
トルーマン・カポーティが冷血を執筆した背景を通してトルーマン自身が崩壊していく様子が緻密に描かれていました。
『ティファニーで朝食を』で揺るがぬ地位を手に入れたのに、ここまでの熱意を持って活動出来たのは、やっぱり彼が生粋の文筆家だったからですよね。
彼が取材中にメモや記録を全く取らず、後で記憶だけを頼りに自称『94%』の完成度で書き起こしが出来るのがすごいです。天才だったんですね。
以下、気になった点など考察します。
カポーティの葛藤とは
©2006 SONY PICTURES ENTERTAINMENT INC.
殺人事件の犯人と仲良くなって本音や事件の詳細を聞き出して、それを本にする、というのは冷酷じゃないと出来ない仕事だと思います。
しかもカポーティはペリーを友達としてではなく、あくまでも客観的に『殺人鬼』として描こうとしていたので、信頼を裏切る形になります。
カポーティがペリーに頑なに本の一節すら読ませずタイトルも教えなかったのはそのためです。
カポーティが彼らのために弁護士を雇った背景には『ペリーからまだ必要な情報を引き出せていないので、まだ死なれては困る』という自分の都合が前提にありましたが、カポーティは無意識にペリーに情が湧いていて、純粋に『もっと話したいし、生きていて欲しい』とも感じていたからです。
ペリーの機嫌を取ったり信頼関係を守るために平気で嘘をつく冷酷な一面がある一方で、死刑の日が決まって落ち込む様子は、カポーティが完全に冷酷になり切れなかった証拠です。
計算づくめで生きてきたカポーティにも人間的な感情があったからこその葛藤だったのでしょう。
カポーティがペリー・スミスに魅力を感じた理由
そもそも何年も同じ人物に取材を続けるなんて、取材対象が好きじゃないと難しいです。
カポーティの「僕たちは同じ家に居て、彼は裏口から出て、僕は表玄関から出た」という発言からは、カポーティのペリーに対する共感の強さがうかがえます。
カポーティは内心は『あくまでも取材対象』と線引きして接していたはずなのに、いつの間にかペリーに心の一部を持って行かれていました。
カポーティはプレゼントした『遠き声 遠き部屋』の写真を酷評されてグッとペリーに興味が沸いていました。
承認欲求の塊で、いつも褒められたがっていたはずのカポーティが写真を『酷い』と言われて心奪われたのは、ペリーの感想がカポーティの『この写真に対する評価』を言い当てていたからではないでしょうか。
その他印象的だったのは、ペリーは絵を描くのが好きだったことです。
カポーティも芸術家肌だったので、お互いに惹かれ合うものがあったのでしょう。
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