『哀愁しんでれら』解説|ラスト考察、童話との関連、点滴の意味など | 映画の解説考察ブログ - Part 2

『哀愁しんでれら』解説|ラスト考察、童話との関連、点滴の意味など

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哀愁しんでれら サスペンス

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ヒカリが小春の秘密を喋った理由

小春が大悟のうさぎの剝製を壊してしまい、ヒカリをぶったことを『大悟には言わないで』と言いましたが、ヒカリはその日の内に大悟に告げ口してしまいました。

ヒカリが小春との約束をすぐに破ってしまったのは、先に小春がヒカリとの約束を破った(ヒカリの好きな人はワタルだと大悟に喋った)ことに対する仕返しです。
小春はなぜヒカリが約束を破ったのか、仕返しだと気付いたかどうかすらわかりませんが、自分がしたことは忘れてヒカリの裏切りに疲れ果ててしまいます。

 

大悟の偏差値至上主義、モンペ嫌いの原因は?

哀愁しんでれら

©2021『哀愁しんでれら』製作委員会

大悟は小学生の頃にいじめられていたと大悟の母が言っていました。
大悟は子どもの頃のいじめが原因で強い劣等感を抱えてしまい、とにかく勉強を頑張って、いじめっ子よりもテストで良い点数を取って「こいつら全員俺よりバカだ」と思うことで精神バランスを保っていたのでしょう。
その考え方が身についてしまい偏差値至上主義や選民意識につながったと思われます。

大悟はモンスターペアレンツが大嫌いでしたが、大悟自身もモンペなのでそこは同族嫌悪だったり、大悟が抱える母親への怒りがモンペに投影されていたのではないでしょうか。

大悟がヒカリを殴りかけた理由も、ヒカリが「何にもしてくれないくせに」と子どもの頃の大悟自身と同じ発言をしたからです。
つまり大悟が1番嫌いなのは自分自身のはずですが、自分と似ている他者を見下したり排除したりと周囲に怒りを向けることで自分を守っている(大悟自身の内面と向き合うことから逃げている)のです。
そう思うと、大悟が自画像を30年も書き続けたのは自分を肯定したい気持ちからなのかもしれません。

ちなみにですが、大悟はワタルと母親が謝りに来た時も「謝ったのは母親だけだ」など文句ばかりで具体的に何をしてほしかったのかは言いません。
恐らく大悟は彼らが何をしても満足することはなく、ただ見下して文句を言いたいだけなのでしょう。
大悟の「普通に母親やればいい」も具体性が皆無で結局小春に丸投げなのでイラッとしかしませんでした。

 

小春、大悟、ヒカリを童話に当てはめる

タイトルからも本作は童話に着想を得て作られていることがわかります。
小春、大悟、ヒカリを童話に当てはめて考えてみます。

小春=シンデレラ、不思議の国のアリス

小春は考えるまでもなくシンデレラの要素が含まれています。
不幸な状況から逆転するように開業医の大悟とスピード結婚し、友人からも「まさにシンデレラだね」と羨ましがられます。

しかし、大悟とヒカリの自宅のインテリアや白うさぎはどう見ても『不思議の国のアリス』を彷彿とさせています。
つまり、小春が嫁いだのは『シンデレラの王子様のお城』ではなく『不思議の国』だったのです。

不思議の国のアリスは夢落ちなので、小春が線路に倒れている大悟を見かけた時にうつろな表情で後ずさるシーンには、小春と大悟の出会いそのものが小春の夢妄想である可能性をにおわせていた気がします。

小春が実はアリスだったとしたら、「不思議の国のアリス」のアリスの旅がすべて夢だったように、小春の結婚物語もただの夢だったのかもしれません。




大悟=青髭

大悟は宝物を入れておく部屋、前妻が亡くなっていたことからグリム童話の『青髭』を連想しました。

・童話「青髭」のあらすじ
青髭はお金持ちのバツ6男で、過去6人の妻は全員行方不明になっており怪しい噂が絶えない人物です。
主人公の若い女性は7人目の妻として青髭の屋敷に入りました。
青髭は妻にカギ束を渡すと、1つの小さなカギを指して『このカギの部屋には絶対に入るな』と言いつけました。
妻は言われた通りにしていましたが、青髭が数日間外泊したとき、妻は好奇心に負けて小さなカギの部屋を開けてしまいます。
その部屋には青髭の過去6人の妻の死体がありました。
妻は恐ろしくなり、電話で兄に助けを求めました。
その直後、青髭が帰ってきて秘密の部屋に入ったことがバレてしまい妻は殺されそうになりますが、妻の兄が警察を連れてきてくれて青髭は殺されました。
青髭には子どもがいなかったため、財産は全て妻が相続しました。

青髭のあらすじを見ると、大悟の前妻はただの事故ではなくて大悟が計画的に殺したように思えてなりません。
前妻は「出会い系で知り合った若い男と会ってた」と言っていましたが真実はわかりませんし、大悟のモラハラ、ヒカリのメンヘラに耐えかねて知人に相談していたのを大悟が勘違いして逆上の末に殺した可能性も捨てきれません。

さらに深読みしてしまうと、青髭に子どもがいなかったことからヒカリと大悟は血のつながりがない可能性もあり、大悟が前妻を殺した原因にはヒカリが絡んでいるかもしれないと思ってしまいました。

 

ヒカリ=赤い靴

ヒカリは赤い靴がお気に入りだったので、怖い童話としても有名なアンデルセン童話の『赤い靴』がモチーフになっていると思われます。

・童話「赤い靴」あらすじ
主人公の少女カレンは幼くして母親を亡くして孤児になりますが、カレンを不憫に思ったお金持ちのおばあさんに拾われて養子になりました。
数年後のある日、カレンは真っ赤な靴に一目ぼれしておばあさんに買ってもらいます。
それからカレンはオシャレに目覚め、教会にも赤い靴で行ってしまったり、体調を崩したおばあさんを放置して遊びに出るようになりました。
※教会に行くときの服装は無彩色(黒、白、グレー)がマナーです。

そんな日が続くと、カレンの前に突然魔法使いが現れて、カレンは赤い靴に『一生踊り続ける魔法』をかけられました。
カレンは踊り続けて靴を脱ぐこともできず、踊っている間におばあさんは亡くなります。
カレンはおばあさんの死を後悔し、死刑執行人に頼んで両足を切断してもらうことで魔法のダンスから解放されました。
その後、カレンは罪滅ぼしのために毎日神様に祈りを捧げ、ボランティアにも積極的に参加するようになります。
何十年か経ったある日、カレンの前に天使が現れて罪は赦され、そのままカレンは亡くなりました。

ヒカリも赤い靴でお葬式に行ってしまったり、小春が出ていった後に後悔して泣きすがっています。
カレンはおばあさんが大好きだったように、ヒカリも本当は小春が大好きで必要な存在だったのでしょう。
カレンもヒカリも自己中心的過ぎて周りが全く見えていないのです。

ヒカリは小春を利用していたようにしか見えませんでしたが、あの感じがヒカリなりの「甘え方」だったのかもしれません。

 

ラスト考察:ジェノサイドは本当に起きたのか?

小春と大悟はインフルエンザ予防接種を利用して、学校の生徒にインシュリンを注射して子どもたちを皆殺しにしてしまいます。

学校に教師がいないことや内装からジェノサイドが現実に起きていたとは考えにくいので、可能性のひとつは小春、大悟、ヒカリは喧嘩の後に本当は一家心中をしていて、ジェノサイドも教室での家族水入らずも3人の死後の世界での出来事だったのではという解釈です。

大悟とヒカリのモチーフである『青髭』と『赤い靴』の2人は結末で死んでいますし、『不思議の国のアリス』もクライマックスではアリスは女王様から死刑を宣告されるので死亡エンドでもおかしくないです。

もうひとつの可能性は、結婚話全体が小春の夢だった場合、ジェノサイドや教室での家族水入らずシーンは夢から覚める前のクライマックスです。
この後に小春は目覚めて線路に立っているのかもしれません。

 

服の色から感じるもの

哀愁しんでれら

©2021『哀愁しんでれら』製作委員会

小春、大悟、ヒカリの関係が最も良好だったのは婚姻届けを出した日です。
この日、3人は赤、青、黄色と別々の色の服を着ていました。
赤、青、黄色は『色の3原色』と呼ばれ、この3色で緑や紫、オレンジ、など何色でも作ることが出来ます。
この配色には3人が『家族』としてのスタート地点に立ったことが表現されていたように見えました。

また、小春が大悟から家を追い出された時、小春は原色に近い黄色の服を着ていて、同じ色味の服を、靴を隠された時のヒカリが着ています。
黄色は明るさや幸せを象徴する他、危険を警告する色としても使われるので、原色黄色を着ていた時の小春とヒカリは精神的に危ういことが表現されていたように思います。

 

その他の細かい疑問

「運動会を延期しろ」と校長を包丁で脅した夫婦の逮捕

冒頭にテレビで流れた情報で、この報道を見た小春は「バカ親、ありえない」と全否定しますが、このニュースは後の小春の運命を暗示していました。
こういうニュースは概要と結果しか知れないので、結果だけを見た世間は小春のように「なんて親だ」と思うだけかもしれませんが、夫婦が校長に包丁を突き付けるまでの過程がわかればまた見方が変わってくるはずです。

 

ヒカリがワタルを好きなことを大悟に隠していた理由

ヒカリはワタルが好きなのを大悟に隠していたのは、大悟はワタルが嫌いというか見下していたからです。
恐らくヒカリは大悟に批判されるのが怖くて言いたくなかったのでしょう。

 

うつる癖

左耳をおさえるのは大悟が左耳の調子が悪い時にしていた仕草ですが、その仕草はヒカリと小春にもうつっていました。
特に小春は結婚後しばらく位まではストレスを感じた時には髪の毛を抜こうとする癖でしたが、ラストでは耳を抑える仕草をするようになっています。

家族や恋人、仲間同士などで行動パターンや癖がうつってしまうのは社会性のある動物の習性なのである意味自然現象ですが、あえて強調することで小春、大悟、ヒカリは『家族』であり運命共同体だと観客に印象付けていたのかなと思っています。




クリーニングのタグ

小春の父がクリーニングのタグをつけっぱなしなのを小春が指摘する描写があり、その後、小春も来実の葬式で父からタグがつけっぱなしだと指摘を受けます。
これも上の項と同じ「癖」の類に入るのかもしれませんが、父と小春は将来への不安に気を取られると身の回りのことがおろそかになってしまう傾向があるようです。

 

ヒカリが「お弁当が無い」と嘘をつくのは?

ヒカリがお弁当を作ってくれないと嘘泣きをしたのはワタルの気を引くためでした。
クラスメイトや先生が困った顔をする中、ヒカリに「大丈夫?」と声をかけたのは来実だけでした。

来実にはこういう優しい面があるからワタルも来実を好きになったような気がしますが、ヒカリは恋のライバルとして来実のそういう所も憎らしかったのかもしれません。

 

お弁当に小銭とライオンを入れた理由

小春がおにぎりに5円玉とライオンのマグネットを入れたのは、ヒカリがお弁当を食べているのか捨てているのかを確かめるためです。
ヒカリに直接聞いても本当のことを言ってくれると思えなかったので反応で確かめたのです。
小春は食べていないだろうと予想して異物を入れたのでしょうが、もし万が一誰かが食べてしまったら間違って飲み込みかねないサイズ感だったので、考えなしにこういうことをしてしまう小春が怖くなりました。

 

筆箱を捨てる瞬間を見ない小春

トイレから出て来た筆箱を小春は川に捨てますが、捨てる瞬間を見ようとはしませんでした。
筆箱はヒカリが嘘をついていた証拠になるので、本当なら大悟と学校に真実を伝えてワタルとワタルの親に謝るのが筋のはずですが、小春はそれらを全て放棄してしまいました。

真実を暴くことはヒカリを責めることになりますし、大悟とヒカリの関係もどうなるかわかりませんし、ヒカリが学校に行けなくなると大悟が世間体を気にするなど様々な波乱が予想されます。
小春は大悟と別れたくなく、波風を立てないようにするためにヒカリの嘘を真実にすることにしたのでしょう。

 

小春の顔を塗りつぶした犯人は?

哀愁しんでれら

©2021「哀愁しんでれら」製作委員会

大悟が宝物にしていた家族だけを描いたスケッチブックを見ると、小春の顔が塗りつぶされていました。
もしわざとだったとしたら犯人はヒカリでしょう。
大悟だとしたら前妻の顔も消されていないと変な気がするし、ヒカリは来実の顔も塗りつぶしていたので可能性高そうです。

もしくは大悟が単純に描くのを失敗して塗りつぶしただけだったのが意味深に見えてしまったかどちらかです。

 

絵画の目が青いのはなぜ?

大悟が描いた家族の絵を、仕上げの瞳は小春と大悟が一緒に塗りましたが、目の色は青(水色)でとても奇妙な雰囲気に仕上がりました。

青には誠実、平和、自由、協調など良い意味がある一方で、内向、孤独、悲哀などマイナスイメージもあります。
その理由は、平和や協調を意識し過ぎると個性を殺してしまい、内向的になったり孤独を感じたりするためだとされています。
家族内での平和を維持するには協調が必要不可欠ですが、協調を意識し過ぎると自分の意見を言えなくなります。

小春は大悟との結婚生活を維持するためにヒカリに対する不満や疑惑を無視することに決め、大悟はヒカリのために小春と別れないことに決めました。
2人が目を青く塗ったのは、家族の平和を優先して自分の意見を殺したということが表現されていたように思います。

 

点滴

夢占いでは点滴は『やる気を高めて目標を達成したい』という意志の表れだったり『相手の強引な言動によって自分の意思を曲げたり、押し切られたりする暗示』だったり『人間としての未熟さの暗示』という意味があるようです。

場面別に振り返ると、初めて小春が点滴をしたとき、小春は『頑張って良い妻、良い母親になりたい』と思っていたはずなのでこの時の点滴は良い意味です。
しかし小春と大悟が2人して点滴している時はジェノサイドの計画を立てた時なので『人間としての未熟さ』を強調していたように見えます。

さらに、小春、大悟、ヒカリが心中したかもしれないという視点で見ると、ラストの小春と大悟の点滴にはインシュリンが含まれていたかもしれません。

 

女の子の手紙

小春と大悟が生徒にインシュリン注射した後、小春は女の子から受け取った手紙『ヒカリちゃんは殺してない 皆知ってるよ』を読み、そのまま地面に落として見なかったことにしてしまいます。

手紙を書いた女の子は人殺し扱いされているヒカリを可哀そうに思って書いたのかもしれませんが、別の視点から見るとこの手紙は小春が正気に戻る最後のチャンスだったと思われます。
しかし小春が手紙を無視したということは、小春にとって真実は既にどうでも良くなっていて、真実よりも家庭を守る方を重要視していることを意味します。

小春はヒカリに対する違和感を捨てて盲信することで幸せになる道を選んだのです。
小春の父が言っていた「世の中みんな自分の居場所に麻痺する はじめは抵抗があってもいずれ痛みは感じなくなる」という現象が小春にも起きています。

以上です。この記事がお役に立てていたらハートマークを押してもらえると嬉しいです(^ ^)




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参考サイト様一覧

SPIBRE:【夢占い】点滴の夢で疲れやストレス度がわかる!19の意味とは

Lani:青色の意味・効果・スピリチュアル【カラーセラピスト監修】

感想などお気軽に(^^)

  1. 伊藤凛香 より:

    今まで見た、哀愁シンデレラの考察をしている人の中で一番腑に落ちました。物語の中に織り込まれている伏線が綺麗に解けて、映画を見終わったあとに感じていたもやもやが消えました。もう一回この映画を見て、この記事を書いてくださった方の考察と見比べながら映画を楽しもうと思います。本当にありがとうございます。

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