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ハサミについて
レッドを始め、クローン達の多くが凶器として持ち歩いていたハサミはどの家庭にも必ずある日用品ですが『人や物事との関係を切る(絶縁)』ことを象徴する道具でもあり、夢占いなどでハサミが印象的な夢を見た時は、誰かもしくは何かとの関係が切れる暗示だとも言われます。
もしかしたら地下には凶器になりそうな物がハサミしかなかったのもしれませんが、本物のアデレードも、手が繋がっている紙人形をハサミで切ってクローンとオリジナルの繋がりを絶つ意思を表明していたので、自分の本来の人生を奪ったもう一人の自分との縁を切りたいという強い思いが込められていたのではないでしょうか。
その他、地下の人たちが全員お揃いのツナギと指抜きグローブをしていたのは、演出上『赤』を強調するためだったり、見ただけでクローンかどうかが観客にもわかるような判断材料としてのアイテムだったのかもしれません。
ソツクナング、タイオワ、クモ女?
タイオワは答えた「上出来だが まだやることがある あらゆる生命を創造しろ
私の計画通りに動かせ」
計画達成のため 次に創造されたのが クモ女である
「よく見るのだ クモ女よ この無限宇宙には喜ばしいものが無い 必要なのは…」
少女の頃のアデレードが肝試し小屋ヴィジョンクエストに入った時に流れていた不気味なナレーションです。
タイオワ、ソツクナングは北米神話に登場する神様の名前です。
北米神話は、北米ネイティブ・アメリカンが精霊(グレート・スピリッツ)に教えてもらった宇宙の歴史を代々語り継いできたものです。
タイオワは宇宙に最初に現れた創造主、ソツクナングはタイオワの甥っ子(息子説もあり)です。
まだ宇宙に星も生命も存在しなかった頃、ソツクナングはタイオワに命じられて宇宙に太陽系の星9つを作り、水と風を創造しました。
太陽系と水と風が、ソツクナングの『最初の創造』です。
タイオワに「あらゆる生命を創造しろ」と命じられたソツクナングは、まず助手として蜘蛛女を創造しました。
そしてソツクナングは「無限宇宙には喜ばしいものが無い。必要なのは『生命』だ。お前は私の創造を手伝え」とクモ女に言い、地球にあらゆる生命を創造したとされています。
個人的に注目したいのはここからです。(長くてすみません)
その後、ソツクナングは人類の知能が発達して悪に染まり暴走し始めると、一旦全部滅ぼして世界を作り直すというリセット行為を3回行っています。
しかも世界によってイメージカラーが存在し、第一の世界は黄色、第二の世界は青、第三の世界は赤とされています。
このイメージカラーを暗示するようなシーンは何度かありました。
クローン達は『レッド(赤)』という名前、彼らが来ているツナギの色などから第三の世界(新世界)をイメージする赤が多様されていました。
また、ビーチのシーンで青いドット柄のレジャーシートに赤いフリスビーが落ちてくる演出なども、アデレード達の旧世界の崩壊と、レッド達の新世界の誕生が暗示されていたように思います。
さらに、ソツクナングが人類を滅ぼす理由は、人類が肌の色、言語、信仰の違いなどで他者を差別したり、富を得るために人間同士で争い始めたからで、この辺もピール監督が伝えたいテーマとも通じるものがあります。
ソツクナングは生き残らせるに値する人間を少数選び、彼らをアリ人間の住む地下に移住させた後で地上に大火災を起こしたり、氷河期をもたらして地球を滅ぼしています。
これは北米神話における宇宙と人類の始まりの話ですが、本作『アス』と類似点が結構ある気がしたので、制作側は「北米神話からもヒントを得ています」という意味でこのナレーションを流していたのではないかと感じました。
『エレミヤ書11章11節』との関連
見よ わたしは災(わざわい)を彼らの上に下す 彼らはそれを免(まぬが)れることはできない
彼らがわたしを呼んでも わたしは聞かない
エレミヤ書は旧約聖書の中の『三大預言書』のひとつです。
大昔、ユダの町の人々は神と契約を交わしましたが、ユダの人々は年月が経ち世代が変わっていくにつれて神をおろそかにし、約束を果たさなくなりました。
神は何度かユダの人々に警告しますが、人々は聞きませんでした。
そして、ついに怒った神が「ユダの人々に災いをもたらします。災いが起きてから神頼みされても無視します」と宣言しているのがエレミヤ書11章11節です。
個人的には、エレミヤ書の『神様が怒って災いをもたらすまでの経緯』と『本物のアデレードが怒って復讐を決意して地上に出てくるまでの経緯』が似ていたように感じたので、『エレミヤ書11章11節』は、映画のおおまかなあらすじを暗示していたのではないかと思っています。
もう少し具体的に言うと、見世物小屋でクローンの自分と入れ替わったアデレードは、唯一の『オリジナル』だったことから影の人々の指導者のような存在になりました。
アデレードは影の人々が生まれた経緯を知り、影(クローン)を作ったにも関わらず闇に葬ってその存在すら忘れ去ってしまった人間たちに怒り、今回の壮大な復讐を決行しています。
エレミヤ書の神がアデレードで、クローンを作って忘れてしまった人々がユダの人々にあてはめてられるのではないかということです。
余談ですがエレミヤ書11章11節の内容が作中で語られないのは、アメリカ人なら説明しなくても内容がわかる位有名な一節ということなのでしょうか(??)
ラスト考察:影の人々が『ハンズ・アクロス・アメリカ』を実行した理由
『ハンズ・アクロス・アメリカ』は、アデレードとレッドが入れ替わった1986年にアメリカで実際に行われたチャリティー・イベントです。
ホームレスと飢餓に苦しむ人々を救う寄付金を集めるために、西海岸から東海岸まで人々が手をつなぐという大きなイベントでした。
影の人々にハンズ・アクロス・アメリカを実行させたのはアデレードです。
アデレードは『彼らの存在を世間に知らしめたかった』と言っていたので、数世代に渡って過酷な地下で生きることを強いられた影の人々の存在を世界に知らしめ、彼らに日の目を見せるために行ったのでしょう。
この瞬間がまさにピークに感じるのでその後はあまり考えたくないですが、手を繋いで立っていた『影』はそれぞれ自分のオリジナルを殺し終わった後なので、全員間違いなく逮捕されるでしょう。
逮捕された後、影たちがどういう処遇を受けるのかは全くわかりません。
ラストの後はどうなる?
地下室のロッカーに隠れて2人のアデレードの会話を聞いていたジェイソンは、自分を育ててくれた母がクローンだったことに気付きました。
クローン達による大量殺人が起きた直後なのでしばらくは慌ただしいい生活が続くと思われますが、その後はどうなるのでしょうか。
本物を殺したクローンアデレードは入れ替わることで手に入れた幸せを壊したくないので元通りの生活を望むはずですが、真実を知ってしまったジェイソンはそっと仮面を付けていたので、恐らく今後クローンアデレードに心を開くことは無いでしょう。
その他気になった矛盾
この映画は矛盾が多すぎて楽しめなかったという声も多い作品で、私自身も見ていて「ここ都合良いな~」と思った部分を一応シェアします。
今の所うさぎだけですが(笑)再鑑賞して増えたら増やします。
→登場するウサギちゃんはとてもかわいくて癒しでしかなかったんですが、あまりにもペット感がすごく小ぎれいで、アデレードが入った廊下や部屋にもフンひとつ落ちていなかったのが逆に気になりました。
→本物のアデレードは「生のウサギを食べさせられた」と嘆いていましたが、同時にプルートは「炎を愛する」とも言っていたので、地下で火が使えることもわかりました。
なので純粋に「ウサギを調理して食べれば良かったのに」と思ったのは私だけでしょうか。
幼い女の子にウサギを焼いて食えというのも酷かもしれませんが、生で食べるよりは何倍もマシな気がします。
以上です!読んで頂きありがとうございました。
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参考サイト様
月の光:『ホピ宇宙からの聖書』フランク・ウォーターズ著(徳間書店)
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