「海よりもまだ深く」解説考察|町田の恩、主要人物のその後の考察など!

この記事では映画『海よりもまだ深く』の解説、考察しています。
本作について何か疑問があった方は目を通してみてください(^^)

制作年:2016年
本編時間:108分
制作国:日本
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
原案:是枝裕和

本作のあらすじはこちらの記事にまとめています↓

解説、考察や感想など

町田が言っていた『良多への恩』とは?

良多を起こしに来た町田

(良多を起こしに来た町田 引用:https://www.cinemashufu.com

町田が「篠田さんには借りがある」と言っていましたが、良多は「借りなんてあったっけ?」と聞くと、町田は「わからないならそれでもいい」というようなことを答えていました。
どんな恩があるのか詳細は語られていませんでしたが、良多自体も町田の言う『借り』が何のことかわかっていなかったので、恐らく良多が具体的に町田に何かしてあげたのではなく、『良多の常日頃の行動や考え方、発言などが結果的に町田を救っていた』と考えるのが自然です。

町田は幼い頃に両親が離婚し、母子家庭で育ったことが彼の発言からわかります。
なので町田は常日頃から、息子と離れ離れになってしまった良多を自分の父親と重ねていたのでしょう。
良多の「真悟に何か買ってやりたい」とか「養育費を稼がなきゃいけない」という思いと行動を見ることで、町田は良多を通して『子どもと離れ離れになった父親の気持ち』を垣間見ることができました。
そして「俺の親父もこんなことを考えてたのかなー(そうだったら嬉しいな)」という思いが良多への共感に繋がります。
だから町田は良多になつき、仕方なく金を貸したり、汚いやり方の養育費稼ぎに協力してあげたりしていたんだと思われます。

町田が良多のアパートを訪ねた時の町田の表情は、父親と話す子どものような表情にも見えてきますし(タイトル下の画像がその時の町田です)、
良多が社長の山辺に養育費を没収された後にパチンコに来た際も、町田は「子どもの頃に親父に買ってもらったグローブをまだ持ってる」と言いながら良多にパチンコ玉をあげて、優しく元気づけようとしていた理由も理解できます。

 

良多は結局硯を売ったのか

質屋から出て響子と真悟と合流した良多は、袋に入った四角いものを大事そうに持っていました。
良多は硯を売らなかったということです。

質屋で父親の硯には30万円の値が付きましたが、同時に店主から、良多の父親がかつて良多の本を近所中に配っていた事を知らされた良多は、この時初めて父親に大切に思われていたんだということを知ったのでしょう。
いくら高値がついても、そんな話を聞いた後に父親が大事にしていた物を売れないですよね。

 

伏線について

1.登場人物たちの会話

特に前半は会話のほとんどが伏線になっています。
本作には登場人物たちの身の上話などの説明は一切ありません。
しかし、彼らの日常会話の中で関係性がわかるフレーズがいくつも登場します。
例えば、町田の「二十歳のときに父親に会いに行った」というのも、町田は10代かそれよりも幼い頃から父親と離れて暮らしていたことを示すフレーズになります。
淑子の家でカレーを食べた時、淑子が「カレーはお父さんが好きだったから沢山作ってた」と言うと、良多が「まじ?!半年以上前のやつじゃん!」と文句を言います。
このセリフから、良多の父親が亡くなったのは約半年前だということが読み取れます。
こんな風に、登場人物たちの発言から関係性を読み取っていくのも楽しいですし、是枝監督ならではな感じがします。

2.おまんじゅう

冒頭で良多が実家に忍び込んだ時に食べた『おまんじゅう』です。
良多は仏壇に供えられていたお饅頭をつまみ食いした後、淑子に「姉さん、よく来てるの?」と聞きます。
これだけだと意味がよくわかりませんが、しばらく後に和菓子屋に来た良多と、店頭に並ぶ「やぶれ饅頭」(仏壇に供えてあった饅頭)と、そこで働く姉・千奈津が登場します。
このシーンを見て初めて、冒頭の良多の発言の意味が理解できます。

3.淑子のへそくりと台風

良多が千奈津に金を借りに行った時、良多は千奈津から淑子のへそくりの隠し場所が押入れの天袋だと耳にします。
そして、真悟の2か月分の養育費10万円を用意できなかった良多は、台風が来る予定であるにも関わらず真悟を淑子の家に連れていき、響子を淑子の家に呼び寄せます。
この辺から「あれ、もしかして…?」とじわじわきますねw
これは見進めていって次第にわかることになりますが、良多が淑子と響子に電話した時点で考えていたことは『淑子のへそくりを盗んで養育費にあてること』と『夜に台風の来る日に響子を淑子の家に呼び寄せて、響子(と真悟)を泊まらせて、無理やりにでも響子と2人で話す時間を作る、そしてあわよくば復縁する』ことです。
良多は台風を利用して一石二鳥(金と響子)を狙ったわけです。
しかし、頑張って探したへそくりは千奈津にすでに保護されており(もしかしたら初めからへそくりは無く、千奈津が良多の行動を予測した上であえてニセへそくりを作ったのかもしれませんが)、良多の計画の1つは失敗に終わります。
そして次の計画は響子との復縁ですが、「前に進みたい」と言われフラれてしまい、結局良多はどちらも手にすることができませんでした。

また、この『台風』自体が登場人物たちの複雑な心境そのもの(特に良多の心境)を表すものだったと解釈して良いと思います。

4.タコ公園

冒頭の辺りからタコの形をした公園の遊具が登場します。
使用禁止された状態で登場するこの遊具ですが、良多にとってこのタコの滑り台は『台風が来た夜に父親と一緒に遊具の穴の中に入り、間近で台風を見ながらお菓子を食べた』思い出があります。
「父親に似ている」と言われることが大嫌いだった良多ですが、良多は台風の夜、楽しそうに真悟と一緒にタコの遊具の所へ行き、真悟と一緒にお菓子を食べています。
このことから、良多は父親と関係が良く無かったようですが、心の中では父親との思い出を大切にしている(父親が好き)ことが伺えます。

5.良多「公務員になるのが将来の夢だった」

良多が町田と話していた時、「中学生の頃は公務員になりたかった」と語っています。
その後、良多が中学生の真悟に将来の夢を聞いた時、真悟は「公務員」と答えます。
良多が「父親に似たくない」と強く思いながらも父親と言動が似てしまっていたように、真悟もまた良多と同じように「父親に似たくない」と思っているのに、良多に思考が似てしまっていることを表しています。
あんな純真無垢な表情が印象的だった真悟が将来 良多のようになるとはあまり想像したくないですが、真悟もまた確実に良多の遺伝子を受け継ぎ、どこか似ている部分を持ちながら生きていくことを表していた伏線だったと思いました。

6.宝くじ

良多と真悟の面会交流の日、良多は真悟に宝くじを買ってやります。
購入時、良多は「俺の金で買うんだから、もし当たったら山分けだ」と言いながらお金を出して真悟に「ケチ」と言われています。
しかし台風が去った翌朝、良多は真悟に「やっぱり宝くじは全部真悟にやる」と言います。
これは良多が少しだけ大人になったというか、親の立場に立てたというか、そういう精神的な成長や心境の変化を表す場面だったのだと思います。

7.漫画の原作の依頼

良多は出版社に呼び出されて漫画の原作の依頼を受けますが、そのときはとっさにごまかして断っています。
その後この話は登場しませんが、編集者は「結構良いお金になる」とも言っていましたし、その後の良多の行動や収入源を示す伏線になっていたのではと思っています。

良多は台風の夜を経て気持ちの整理がついたこともあり、これからは汚い稼ぎ方をすることは減っていくんじゃないかなーと思います。
一度社長にバレているので、もうあまり下手な行動もとれないでしょうし(;’∀’)

覚えている伏線はこんなもんかな。また思いだしたら追記します!

 

登場人物たちのその後を予想

団地の囲いに座る良多、響子、淑子、真悟

(団地の囲いに座る良多、響子、淑子、真悟 引用:https://spice.eplus.jp

まず良多ですが、この台風の一夜で響子への未練を断ち切ることができました。
そして父親の硯を売らなかった良多は、養育費15万円を用意するために漫画の原作の話を受けることに決めたのだと思います。
もちろん小説も書き続けるでしょう。
というか個人的にはこの後、良多が書く小説が本作『海よりもまだ深く』になるんじゃないかなーと想像しています。
探偵事務所は、漫画のお金が編集者が言っていた通り『結構良いお金』になるのであれば、山辺社長ともいざこざがあったのであまり長居はしないだろうと思われます。
事務所を辞めた後も町田との交流は続きそうです。
「漫画にするネタのリサーチ」などと言って一緒にギャンブルに繰り出す姿が想像できます(笑)

響子は彼氏の福住と結婚は恐らくしないと私は思いますが、良多とヨリを戻すこともないけど、良多、響子、真悟の関係は良好なまま続くんだろうと感じました。
福住とは結婚しなそうだと思った理由は、福住は良多と淑子のことを悪く言っていたからです。
本を酷評された時、響子はがっかりしていたように見えました。
響子は淑子のことや、小説家としての良多は尊敬しているようですし、福住の「もう元旦那(良多)とも母親(淑子)とも会わない方が良い」という言葉を無視して、淑子とお寿司を食べにいく約束をしていましたね。
なので、響子が相当金銭的な打算をしない限りは福住との結婚はないだろうなーと感じました。

真悟は「良多に似たくない」と強く思っていたようですが、なりたい職業や文才があるところなど、良多に似ているところが強調されていたので、真悟も恐らくどこかしらは良多に似た部分を持ちながら育っていくんだろうと思い、いつかは良多や響子のように『こんなはずじゃなかった』と思う日も来るんだろうなと思います。

淑子は本人や千奈津も言っていましたが、あの団地の部屋で一生を終えるのでしょう。
旦那のようにポックリいくのか、じわじわ弱っていくのかはわかりませんが、恐らく良多が希望したように、残された人生を楽しみながら徐々に弱っていくタイプなのではないかと想像しています。

 

その他感想など

ネタバレありきの感想なので、見ていない方は意味が分からない部分もあるのでご了承ください!

まず、監督のインタビュー記事を読んで、舞台となった東京都清瀬市の旭が丘団地が、是枝監督が実際に育った団地だったことに驚きました。
まぁ『そこしか撮影許可が下りなかった』という消極的な理由だったようですが、実際に育った団地で映画撮影となると、監督自身もかなり感傷に浸りながらの作品作りだったんじゃないかなぁと想像できます。

しょっぱなから脱線してしまいましたが作品の感想としては、主人公の良多と、彼を取り囲む家族との関係がそれぞれわかりやすく、リアルに描かれていて、それぞれのキャラクターに共感はあまりできなかったものの、感情移入しながら見ることができました。
作中で登場人物たちが何度も口にする「こんなはずじゃなかった」というセリフは、感じたことがある大人は多いと思いますし、実際に私も「こんなつもりじゃなかった」人生を更新中です(笑)

個人的に印象に残ったのは、小林聡美演じる千奈津のずるさというかしたたかさです。
良多に「お母さん(淑子)も私も、もう頼りにしないで!」と言いつつ、裏ではちゃっかり淑子に色々とお世話になっている所にツッコミを入れたくなります(笑)
主人公良多の、息子のグローブ代として同僚から借りた一万円をついつい母親にあげてしまったり、お金がないのに息子に高いスパイクをプレゼントをしちゃうような見栄っ張りさ加減や、それを息子に見透かされている所なんか、見ていて別の意味で泣けてきました。。

良多と淑子が言葉の端々で「あれ」と口癖のように繰り出すのも見ていてニヤッとしてしまいました。
私自身は親に似たくないと思ったことはあまりないですが、「親のこういうとこが嫌い」という思考や言動を気が付けば自分もしている時があって、たまにおぞましく思う時はあります。。orz

未鑑の方にはわからない内容で申し訳ないですが、本作で笑えたのはほぼ希林さんのおかげでした。
個人的に一番ツボだったのは樹木希林演じる淑子の「3LDK~」でした(笑)
シャツについたシミを唾で落とそうとして良多に嫌がられていたり、淑子の細かな会話ややりとりが本作をよりリアルにしていたように思います。

本作のメッセージは、樹木希林演じる淑子がほとんど語ってくれていましたが、『こんなはずじゃなかった、それでも前向きに生きていけばいつかは希望が見えてくる』、『過去にばかり目を向けていては人生楽しくない』ということです。
良多が囚われていた『過去』は別れた妻の響子や、小説家としての成功(15年前の受賞)、父親との確執でしたが、ちゃんと響子と話し合ったり父親のことを知ったりして過去に決着をつけることができました。
『過去』を『過去』にするには、まず過去と向き合わなければいけないということも本作は教えてくれました。
私自身が向き合うべき事は何なのか、そういうことを考えさせてくれるステキな作品だったと思います。

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参考記事
OURS.:是枝裕和監督インタビュー