『ノクターナル・アニマルズ』解説考察|スーザンの勘違い、エドワードの目的とは?芸術作品の意味など | 映画の解説考察ブログ

『ノクターナル・アニマルズ』解説考察|スーザンの勘違い、エドワードの目的とは?芸術作品の意味など

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ノクターナル・アニマルズ サスペンス
(C)Universal Pictures

映画「ノクターナル・アニマルズ」の解説・考察をしています!
『スーザンの解釈』『エドワードの目的』『意味深な美術品の意味』など書いています。

鑑賞済みの方向けの記事です。まだ見ていない方はネタバレにご注意ください。

ノクターナル・アニマルズ

原題:NOCTURNAL ANIMALS
制作年:2016年
本編時間:120分
制作国:アメリカ
監督・脚本:トム・フォード
関連小説:「ミステリ原稿」オースティン・ライト 著

 

キャスト・あらすじ紹介

キャスト紹介

スーザンエイミー・アダムス
アートギャラリーのオーナー。
長年音信不通だった小説家の元夫エドワードから送られてきた新作小説の原稿を読む。

エドワード / トニージェイク・ギレンホール
20年前に離婚したスーザンの元夫。
エドワードの小説の主人公トニーはスーザンの想像で容姿がエドワードになっている。

ボビー・アンディーズマイケル・シャノン
トニーの小説に登場する警察官。
トニーに復讐を促す。

レイアーロン・テイラー=ジョンソン
トニーの小説に登場する殺人犯。
仲間と一緒にトニーの妻と娘をさらう。

ハットン(スーザンの夫)…アーミー・ハマー
カルロス(スーザンの兄)…マイケル・シーン
アン(スーザンの母)…ローラ・リニー
ローラ(小説の登場人物/トニーの妻)…アイラ・フィッシャー
インディア(小説の登場人物/トニーの娘)…エリー・バンバー
ルー(小説の登場人物/殺人犯)…カール・グルスマン
グレイブス警部補…グレアム・ベッケル
アレックス(スーザンの秘書)…ゾーイ・アシュトン
セイジ(美術館職員)…ジェナ・マローン ほか

 

あらすじ

40代女性のスーザンはLAでアートギャラリーを経営し、会社経営者である夫ハットンと裕福で幸せな暮らしを手に入れたように見えますが、ハットンとはうまくいっておらず虚しさを抱えています。

そんなある日、スーザンの元に20年近く疎遠だった前夫のエドワードから小説の原稿が送られてきました。
スーザンとエドワードは元々は幼馴染みで大学生時代に両親の反対を押し切って結婚しましたが、約2年で離婚してしまった過去があります。

エドワードは小説家志望で、大学卒業後は本屋でアルバイトしながら執筆活動していましたが、裕福な暮らしを求めたスーザンはエドワードの才能を信じられなくなり、裕福な現夫ハットンに乗り換える形で離婚・再婚しています。
現在ハットンはスーザンに寄り付かず浮気していることは明らかですが、スーザンはハットンを責める勇気がありません。

エドワードの小説は『NOCTURNAL ANIMALS(夜の獣たち)』というタイトルで、1ページ目には「スーザンに捧げる」と印字されていました。
スーザンは小説の主人公トニーをエドワードと重ねながら読み進め、その暴力的な内容に驚きながらエドワードの目的を探ります。

 

解説、考察や感想など

この映画の面白さは「エドワードが小説を贈った目的」について、スーザンが推測したことと、エドワードの真の目的の両方を推測することにあると思います。

筆者は基本的に深読みしすぎるタイプなので、考えすぎじゃない?と思われる部分もあるかもしれませんが、個人的な解釈のひとつとして読んでもらえればと思います!

スーザンの解釈

ノクターナル・アニマルズ

(C)Universal Pictures

まずはエドワードの小説をスーザンがどう解釈したのか推測します。

エドワードの小説は、主人公トニーが車で家族旅行中に極悪チンピラに絡まれて妻子を殺されてしまい、トニーは復讐のために必死で犯人レイを捕まえて殺すものの、トニー自身もレイに致命傷を負わされて死んでしまうという暴力的で救いのない重暗い話でした。

しかしスーザンは恐らくこの小説とエドワードの目的をかなりポジティブにとらえていて、エドワードからの復縁希望のメッセージと解釈しました。

小説を映像化した劇中劇はスーザンの想像が元になっていて、主人公トニーの容姿がエドワード本人なのは、スーザンが「トニーのモチーフはエドワードだろう」と思いながら読んでいることを意味します。

確かにトニーとエドワードは「弱さ(繊細さ)」が共通しているので、トニーのモデルはエドワード自身で間違いないと思います。

妻子が殺されるくだりには、エドワードがスーザンの不倫と堕胎と離婚でいかに傷ついたかが暗示されているように見えます。

スーザンはエドワードとの子どもを相談もなく堕ろすことで、エドワードとの愛すらも、男性としても否定しています。
ハットンの子どもは産み育てていることから、スーザンがエドワードとの子どもをおろした理由はハットンとの愛を育むのに邪魔になるという考えや、エドワードとの繋がりをとにかく残したくない一心からだったことがうかがえます。
エドワードとの子どもも愛情の結果だったはずなのに、新しい男の前では殺せてしまう所にスーザンの自己中心的さが現れていたように見えます。

スーザンが小説を読み自身を振り返って何らかの反省をしたことは、美術館の役員会議で『思ったより使えなかった従業員を即解雇するか様子をみるか』を話した時の態度に現れています。
スーザンの「せっかく雇ったから様子を見ましょう」という発言に周囲が驚くのは、スーザンが今までこういう時はすぐに従業員を雇い直していたからです。

小説で共犯者ルーがボビーに撃たれて死んだ直後、トニーが「絡まれたあの時に戦っていればこんなことにはならなかった」と後悔するシーンでは、恐らくスーザンには、エドワードがスーザンとの夫婦生活で至らなかった点を後悔していることが描かれているように見えたと思われます。

そして最後トニーが死んでしまうことも、スーザンは「スーザンと一緒じゃないと僕は生きていけない!」というエドワードからの復縁希望のメッセージに受け取ったのではないでしょうか。
だからスーザンはエドワードの手紙に応えて思わせぶりなメールを送り、約束の日にはエドワードが好みそうなナチュラルメイクとファッションに身を包んだのです。

まとめるとスーザンはハットンと不仲な状況が手伝ってエドワードの良さを思い出し、小説と手紙を復縁希望のメッセージと受け取って、小説家として成功しつつあるエドワードとなら復縁を視野に入れても良いかもと思った(もしくは復縁どうこうよりも寂しさから純粋にロマンスを求めた)のです。

しかし、約束の夜にエドワードは現れず、スーザンはすっぽかしを食らいました。
エドワードが約束を破ったのは恐らく計画的です。
恐らくスーザンはエドワードの目的を勘違いして、その勘違いもエドワードの狙いのひとつだったように見受けられます。

スーザンはエドワードが来ないと悟ったときに、本当の目的に気付いたのでしょう。




エドワードの目的とは?

ノクターナル・アニマルズ

(C)Universal Pictures

エドワードがスーザンに小説を贈ったのは、恐らく純粋に復讐のためです。
具体的にはエドワードは小説家として成功した自分自身を見せつけることで、スーザンがエドワードの才能を否定したことを見返してやりたかったのでしょう。

エドワードがいかに傷ついたかは、やはりトニーの妻子が殺されたくだりに詰め込まれていて、このくだりの解釈はスーザンとエドワードは一致しています。

トニーがエドワードなのは、昔スーザンが言った「自分のことを書き過ぎ」の指摘への反抗かもしれません。

エドワードの言いたいこととスーザンの解釈にすれ違いが生じるのは、トニーの復讐のくだりからです。
エドワードは小説でトニーとレイを両方殺します。
レイの死は復讐の達成を意味し、トニーの死はエドワードの心からスーザンに対する愛情も憎しみも含めた『執着』が死んだ(スーザンへの興味や執着は復讐を果たしたことで消失した)ことを表現していたのではないでしょうか。

エドワードはスーザンと別れ話の時に「誰かを愛したら努力すべきだ 簡単に投げ捨てるな 大切にしろ 失えば二度と戻らない」と警告します。
恐らくエドワードはスーザンが何事からも逃げがちな所を見直してほしくて言っていますが、スーザンはその言葉からも逃げていますし、この時は恐らく早く別れたいとしか思っていません。

恐らくスーザンは小説と手紙が来た時点で「私にコンタクトを取ったのは未練(好意)があるからだ」と受け取ったと思われますが、それこそがエドワードが狙っていた勘違いだと思われます。
スーザンをその気にさせておいて、本当は自分の言葉(失えば二度と戻らない)に嘘偽りがなかったことを証明するためにあえて約束をすっぽかしたのではと推測しています。

ラストのレストランの外から中を見る視点は、少なくとも一部にエドワードの視点も混ざっていたと思われます。
エドワードは恐らくレストランの前まで来てスーザンを見て帰ったのです。
スーザンが復讐に気付いたかどうか自分の目で確かめたかったのでしょう。

 

警察官ボビー(マイケル・シャノン)について

ノクターナル・アニマルズ

(C)Universal Pictures

小説に登場する警察官のボビーは、当事者でもないのにトニーの復讐に積極的に手を貸してくれます。
ボビーはエドワードの心に20年近く居座り消えることがなかった復讐心なのでしょう。

復讐心は復讐を果たせば消えます。
ボビーが死にかけだったのは、小説家としての成功そのものがスーザンへの復讐であり、エドワードの「復讐が果たせる」という確信からなのでしょう。

次のページに続きます!

2ページ目は「殺人犯レイについて」「意味深な美術品考察」です。




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