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カポーティが弁護士を探さなかった理由
最高裁の審理が棄却された後、ペリーから「弁護士を探してほしい」と嘆願する手紙が届き、カポーティは「見付けられなかった」と返事をしますが恐らく弁護士を探してもいませんでした。
この時、トルーマンは本を完成させたかったのももちろんですが『これ以上ペリーの生き死に介入してはいけない』という思いから弁護士を探さなかったのではないかと推測しています。
裁判に関わり過ぎると客観性に欠けてしまい、本の質に影響が出るからです。
『冷血』読みました。
本作を見て興味を持ち『冷血』を読みました。
『冷血』はカポーティが取材内容を元に被害者、加害者、周辺人物の事件前後の状況や心境を一部想像で補完しつつ書き上げたものです。
カポーティ本人は作中に登場せず、カポーティとペリー、ヒコックは出会っていないものとして描かれています。
映画には登場しないクラッター家の周辺人物や、ペリーとヒコックの犯行までの経緯、犯行後から捕まるまでの行動なども細かく綴られ、2人と同じ『死刑囚専用の牢屋』に居た死刑囚のことまで細かく調べられていたりと、確かな熱意を感じる読み物でした。
本書を読んで新たにわかったこととしては、ペリーと右脚の怪我についてです。
映画の中で、ペリーが初めてカポーティに話しかけた言葉は「アスピリン持ってない?」でした。
ペリーは事件を起こす数年前にバイク事故を起こして右膝に重傷を負い、後遺症が残って痛むためアスピリンが手放せなかったのです。
カポーティと会ったときは薬を切らしていたか没収されたのでしょう。
ペリーが錠剤をラムネのようにボリボリ噛んでいたのは『アスピリン錠剤の味が好きだった』と記されていました。
また、犯行までの経緯についてはヒコックの囚人仲間がクラッター家の農場で働いたことがあり、それをヒコックに喋ります。
その友人から「クラッター家は儲かっていて貯金を家に隠している」と言われて信じたヒコックは、人生をやり直すために強盗を決意しました。
同じく刑務所仲間で仮釈放中だったペリーに声をかけたのが犯行のきっかけと記されいます。
また、クラッター家の4人は全員ペリーが殺していたことが自白で明らかになっています。
ペリーは過酷な幼少時代からくるトラウマがあり、時には過去に受けた仕打ちに対する恨みが爆発することがありました。
ペリーにはアル中の母親や教育を受けさせてくれなかった父親、孤児の保護施設で彼を虐待した修道女、出兵していた頃に彼をレイプした先輩兵士たちなど、恨む相手がたくさんいました。
小説内では彼のこれらの過去がクラッター一家を殺害した原因だとされています。
つまりペリーが殺したのはクラッター家の4人ではなく、頭の中にいた『憎い人物』だったのです。
ペリーがクラッター一家のことを「とても親切で良い家族だった」と証言していたのも、妄想と現実との解離をにおわせています。
言葉が違うかもしれませんが、一家の殺害がペリーにとっての代償行動だったのかもしれません。
あとはペリーがカポーティに「ヒコックを信じるな」と言った理由も映画ではよくわかりませんでしたが、小説になんとなく答えが書いてありました。
ペリーとヒコックはお互いに無いものを持っていたので当初は意気投合していました。
逃亡生活中は「逃げるのも捕まるのも一緒だ」と約束して四六時中行動を共にしていましたが、死刑になる頃には罵り合うほど仲が悪くなっています。
ペリーは『レイプ魔』を嫌悪する傾向があり、それがヒコックに当てはまったことがペリーがヒコックが嫌いになった原因です。
ヒコックは小児性愛者だったことが自白で明らかになっています。
ヒコックは被害者のナンシーを強姦しようとして、ペリーはナンシーを殺すことでレイプを強制的にやめさせましたが、この頃からペリーはヒコックに対して嫌悪感が増していったようです。
一方ヒコックはペリーが誰も信用せず、ヒコックが何か言い間違いをすると教師のように訂正してくる態度が気に食わず、チリツモで嫌気が差していたようです。
ヒコックの一番大きな不満は、ヒコック本人は誰も殺していないのにペリーと一緒に死刑になることでした。
2人がいた刑務所ではお風呂以外は一歩も外に出してもらえないので、ヒコックは法律関係の本を読み漁って死刑を撤回する方法を最後まで探していましたが、結局ペリーと共に絞首台に立たされました。
カポーティのその後
カポーティは『冷血』が完成した後から徐々に精神バランスを崩し、アルコールと薬物依存になり命を落とします。
本作でも後半になるにつれてアルコールが少しずつ増えていく様子が描かれていました。
『冷血』の後に取り組んだノンフィクション小説『叶えられた祈り』では、セレブ界の光と闇を浮き彫りにしようとしますが、懇意にしていたセレブの友人たちから反感を買い、社交界を追い出されてしまいます。
ペリーの死刑執行後、トルーマンは『小説完成のためにペリーを殺した』と自責の念に駆られます。
ネルに「もう立ち直れそうにない」と言っていたように、彼は本当にペリーの死から立ち直ることが出来なかったのではないでしょうか。
以上です!読んで頂きありがとうございました。
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