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写真館で希和子は何を薫に渡した?
©2011 映画「八日目の蟬」製作委員会
希和子が薫と最初で最後の家族写真を撮った時、希和子は手に念を込めて目には見えない何かを薫に渡しました。
薫が何をくれたのか聞くと、希和子は「ママにはもう要らない。薫が全部持って行って」と言いました。
この時希和子が渡したのは、これからも薫に与え続けたかった母性や愛情を、今全てあげてしまうつもりでこの行動を取ったのではないでしょうか。
そして、このプレゼントが恵理菜が希和子に似てしまう理由でもあり、恵理菜は希和子の魂の一部を受け取ったのではないかと解釈しています。
実はすぐ近くにいた恵理菜と希和子
小説では成長した恵理菜と千草が小豆島に旅に行った時、フェリー乗り場に出所後の希和子が居て、お互いに何かの気配は感じるものの、気付くことなく離れる描写があります。
出所後の希和子は、思い出深い小豆島近辺でひっそり生活していて、暇さえあればフェリー乗り場に行き、成長した薫がどうしているか思いを馳せながらひっそり生きています。
恵理菜も小豆島が大好きになり移住する決意をしていたので、いつか2人は再会するのかもしれません。
タイトル『八日目の蝉』の意味
©2011 映画「八日目の蟬」製作委員会
恵理菜と千草の会話に初めて『八日目の蝉』が話題に出た時、2人は「他の蝉は七日で死ぬのに、八日以上生きた蝉は仲間が皆死んじゃってるから可哀そう」と話していました。
2人は蝉の寿命を通して『普通の人』か『普通じゃない人(異端者)』のどちらが良いと思うかを話し合っていたのではないでしょうか。
そして、2人は「八日以上生きる蝉は可哀そう」と評価することで、普通じゃない側にいる自分たちを悲観し、普通の人が羨ましいと言っているのです。
しかし旅の終わりになると、恵理菜と千草は「八日目の蝉は、他の蝉が見られなかった何かを見られる それはもしかしたらすごく綺麗なものかもしれない」と意見を変えました。
2人は旅を通して、普通じゃなくて良い(ありのままの自分で良い)と思えるようになったことを意味しています。
『普通じゃない人』は『普通の人』よりも辛い経験をたくさんするかもしれないけれど、もしかしたら普通の人ではできないとても素敵な体験ができるかもしれないから、それはそれで良いじゃないかと受け入れられたのでしょう。
丈博、恵津子、恵理菜は、希和子が起こした誘拐事件で『普通じゃない人』になってしまいました。
今までの恵理菜は丈博と恵津子と同じように、普通じゃなくなったことで不利益を被った時は希和子を恨むことで精神を保ち、何とか『普通の人』になろうと努力してきましたが、恵理菜は小豆島に来て希和子からもらった愛を鮮明に思い出したことで『普通じゃない』を受け入れ、むしろ希和子に育てられたことに感謝しました。
また、セミは種類によって差はありますが3年~10年は土の中で生き、地上に出てから生きるのはわずか1週間程度です。
そして、セミが地上に出て来る目的は子孫を残すためだけです。
この映画は親子愛がテーマでもあるので、セミは地上に出てきてから死ぬまでの間は子どものことしか考えていないのかもしれないと思うと、この映画とセミの繋がりが見えてくる気がします。
この作品の元になった実際の事件『日野OL不倫殺人事件』では、犯人の女は復讐心に支配されて罪の無い子どもを殺してしまいました。
物語では、犯人である希和子を実際の犯人とは真逆のキャラクター(子どものためだけに生きる女)にすることで、命の大切さや人を愛する気持ちを思い出して欲しいと訴えていたのではないかなと解釈しています。
原作小説との違い
この映画は基本的に原作小説に忠実ですが、端折られている情報が多いです。
映画では省略された情報をまとめたので、抜けもあるかもしれませんが小説未読で気になる方は読んでみてください。
原作小説には恵理菜の2歳年下の妹 真理菜が登場します。
映画では省略されたのではなく、家族構成を変更され存在が消されています。
小説では、恵理菜が誘拐されていた4年の間に丈博と恵津子は子どもを設けていました。
この夫婦は早い段階で恵理菜を忘れることに決め、新しく子どもを作ってある意味『元通りの生活』を既に送っていたのです。
丈博と恵津子にとって恵理菜が戻ってきたのは想定外であり、恵理菜は成長と共にそれを察する様子が描かれています。
真理菜は当初は両親の愛を奪われたと恵理菜を敵視していましたが、恵津子が育児をまともにしないため、恵理菜が真理菜の面倒を見るようになってから仲良くなりました。
希和子はエンジェルホームにたどり着く前に、名古屋で出会った独居老人の女性の家に1週間程住まわせてもらっています。
希和子は女性の身の回りの世話をしながら今後どうするか悩んでいましたが、この老人の家は再開発計画の対象地域になっていて、老人は立ち退きを求められていたものの拒否して住み続けていたことがわかります。
家に立ち退いてもらいたい不動産屋が現れて希和子は家族ではないことがバレて怪しまれ、逃亡することになりました。
映画では不倫がバレていたのは父の丈博だけでしたが、小説では丈博が希和子と交際していた同時期に、母 恵津子もパート先の年下男性と不倫していたことが明かされています。
当初、恵理菜誘拐の犯人は、誘拐と同じタイミングで姿をくらましたその男だと恵津子が決めつけこともあり、それを信じた警察は男を追いかけますがシロだとわかり、次の容疑者として丈博の不倫相手だった希和子に警察の目が向いて犯人特定に至っています。
恵理菜は秋山家に戻されてから、恵津子のヒステリーや丈博の無関心は全部誘拐事件のせいで、この家庭が上手くいかないのは事件のせいであり自分のせいでもあると責任を感じていましたが、恵津子も不倫していたことを知って「もし誘拐事件が起きなくてもこの家庭は破綻していたはずで、私に責任は無い」と気持ちが楽になっています。
映画では火事は起きていませんが、原作小説では希和子が恵理菜を連れ去った直後に秋山家は火事になっています。
希和子は恵理菜を盗んだ時の記憶があいまいで真相は不明ですが、裁判では希和子が秋山家に侵入した際に着けっぱなしになっていたストーブを誤って蹴り倒してしまったかもしれないということになっています。
小説では小豆島に馴染んだ希和子は、久美の母 昌江に小豆島出身の男性とのお見合いを勧められ、隠れ蓑と薫の戸籍欲しさに結婚しようとしていましたが、その前に写真が全国紙に載ってしまい、逮捕されます。
以上です。読んで頂きありがとうございました。
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