映画「ター」ネタバレ解説|ラスト考察、ターは何をした?意味深なシーンの解釈など | 映画の解説考察ブログ - Part 2

映画「ター」ネタバレ解説|ラスト考察、ターは何をした?意味深なシーンの解釈など

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ター ヒューマンドラマ

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迷路のような落書きの意味は?

ター

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映画で何度か登場した迷路のような落書きは、ターが昔フィールドワークで滞在したというペルー東部の先住民族「シピボ・コニボ族」に伝わる伝統的なシピボ柄の一種のようです。

シピボ柄
 (出典:シピボ族の泥染め

上の画像はシピボ柄のひとつです。
シピボ柄はパターンがいくつもあるようで、映画と全く同じ柄は見付けられませんでしたが雰囲気は似ています。

ターがNYフィルで語っていたシピボ・コニボ族は『歌を作った者の魂と歌い手の魂が同化する 時空を超えて行き来する』というスピリチュアルな話でした。

本の中や自宅でこの模様を見かけてターが怯えたのは、クリスタからの『魂だけの存在になって(おばけになって)復讐してやる(呪ってやる)』というメッセージとして受け取ったからなのでしょう。
なんだか一気に心霊ものっぽくなってきましたね(笑)

 

ターはクリスタに何をした?

ターとクリスタとの間に何があったのか、具体的には何も明かされないので、ターの周りの人に対する態度や性格から予想するしかありません。

ほぼ唯一の証拠は、ターが音楽業界の知人に「クリスタは人格に問題があるから採用するのはおすすめしない」と送りまくっていたことと、フランチェスカのメールにクリスタから「どこのオケにも採用してもらえない」「人生に希望が見えない」と届いていたことです。

ターの浮気癖やオルガ、フランチェスカに対する態度などから、恐らくターはクリスタに仕事を餌に愛人関係を要求し、クリスタはそれを断ってターの元を去ったのです。

クリスタを逆恨みしたターは「クリスタは異常だ」と噂を流して音楽業界から干し、クリスタは絶望してターを恨みながら自殺した というのが真相ではないかと想像しています。

 

ターがラジオニュースを口パクする理由は?

ターは身支度をしている最中にラジオを流し、ニュース報道しているアナウンサーの口調を真似していました。

恐らくターは元々訛りがあり、それを気にしてアナウンサーの口調を真似して矯正していたのでしょう。
職業的にも訛りを気にする必要は特にない気がしますが、それほどターは完璧主義者なのでしょう。

 

ターが持っていた赤いバッグ

NYからベルリンの自宅に戻ってきた時、ターは赤いバッグを持っています。
NYでの講演会の時にターが口説いていた女性ホイットニーが持っていたバッグととても良く似ています。

シャロンに「このバッグどうしたの?」と聞かれると、ターは「カプランからもらった」と言いますが、このバッグは恐らくカプランではなくホイットニーからのプレゼントです。
シャロンとの「なぜ電話に出なかったの」などの会話から、ターはNY滞在中に浮気していたことが何となくわかり、バッグと合わせると浮気相手ホイットニー確定やん!!となるからです。

バッグを隠そうともせず自宅に持ち帰るのは、ターが浮気をいくらでも言い逃れできると高をくくっているか、浮気がバレたとしてもシャロンは許してくれると思い込んでいるからです。
ターは「浮気は甲斐性」位にしか考えてないのかもしれません。

シャロンの不調はターの浮気にシャロンが気付いて傷ついていることが原因のひとつであろうことは明らかなのに、ターはシャロンが繊細で弱いのだと思い込んでいます。

この時シャロンは「あなたに似合ってる」と言います。
身なりも性格も男性的なターに対して女性的な赤いバッグが似合うと言うのは変なので、恐らくこの発言には「あなた(ター)はこんなバッグが似合うような女が好きよね」という嫌味が込められていたと解釈しています。




新人チェリストの採用

ターは新人チェリスト採用オーディションの直前、トイレの個室で立ちしょん(?)のように用を足していた女性を見かけます。
ターはその姿を見て興奮し、オーディションでターはその女性の演奏とわかると評価を書き換えて採用していました。
この立ちしょん女性が後にターのお気に入りとなるオルガです。

トイレのシーンを見返すと、ターがトイレに入る直前にフランチェスカが急いでスマホをつついている姿がありました。
なので元々フランチェスカとオルガは知り合いで、ターの悪行の証拠集めの協力者としてフランチェスカが呼び寄せた可能性が出てきます。

オルガはランチの時に「ベルリンフィルにどうしても入りたかった」と話していましたが、ターが評価を書き換えたということは、オルガは純粋に演奏技術だけ見ると採用に達するレベルではなかったということです。

オケに入りたいけどそこまでの実力がなかったオルガと、ターを痛い目に合わせたいフランチェスカの利害が一致して、「協力してくれるなら採用される方法を教えてあげる」などとフランチェスカが持ち掛けたのではないかと想像できます。

 

仕事部屋やランニングで何が起きていた?

ターが自宅とは別に借りている仕事部屋で過ごしている時、何かの気配に怯える様子が見られます。
正体は恐らく」クリスタの幽霊です。

ターがランニングをしていると、林の中で女性の悲鳴のような鳥の鳴き声のような不気味な声が聞こえます。
当たりを見回しても何もなかったので、たまに聞こえる「ギャー」と鳴く鳥の声だったか幻聴だったのでしょうが、その他にも深夜にメトロノームが勝手に動いた件、不気味な夢などの現象は全て『クリスタの呪い』を強調する演出です。

 

副指揮者セバスチャンの解雇

ターはベルリンフィルの副指揮者を長年務めていたセバスチャンをほぼ独断でクビにしてしまいます。
セバスチャンのボールペンカチカチ音にも嫌気がさすほどターは彼が目障りになっていたのです。

ターがセバスチャンを解雇したのは恐らく、演奏に関する彼のアドバイスがターにとっては煩わしいだけであり、かつ年配者で扱いにくい所があったからなのでしょう。
確かにターは常に意見を求められる側であり、ターに意見するのはナンセンスという雰囲気すらありました。

ターが唯一セバスチャンの解雇を事前に報告していた団員幹部は「皆で相談して決めるべき」と言いますが、ターはこの男性のアドバイスも聞きません。
ターの態度には「私がボスなのだから、部下の意見は必要ない」という独裁者っぷりがにじみ出ています。

 

新人チェリスト オルガとのランチ

新人チェリストのオルガとのランチでもターの性格がよくわかる会話が見られます。

ターはメニューを決める時にオルガをベジタリアンと決めつけているくだりには、ターが『若くてかわいい女はこういうもの』みたいな固定観念で女性を見ていることがわかりますし、
ターが国際女性デーを知らないという点には、ターは表向きフェミニストですが本心ではそういったことに無関心であることが仄めかされています。

ターは恐らく『男性優位の業界の中で大成功した数少ない女性』という立ち位置をより希少なものにするために、他の女性指揮者には成功してほしくないというのが本音だったのではないでしょうか。

 

暴漢に襲われたと嘘をついた?

ターはオルガが忘れたぬいぐるみを渡そうと古い建物に入り、怖くなって逃げ帰ろうとしたときに盛大に転んで怪我をします。
この後、ターは「暴漢に襲われた」と周囲に嘘をつきました。

本当はただ慌てて走って転んだだけですが、かっこ悪くて正直に言えなかったのもあり、周囲の関心や同情欲しさについウソをついていたと思われます。
キッチンで氷を叩き割って大きな音を立て、シャロンが来たらこれ見よがしに血だらけの顔を見せつける所がかまちょ全開で何となく不憫にすら思えてしまいます。

恐らくターは顔を派手に怪我したのをいいことに、周囲に自分が女であることを再認識させようとしていた(か弱い一面を見せつけた)のでしょう。
さらに暴漢に襲われても気丈に振舞う風に見せて同情を買おうともしていたようです。

こういう時だけ女っぽさを出すのがターの「女」の使い方なのかもしれません。




副指揮者にフランチェスカを選ばなかった理由

新しい副指揮者にはフランチェスカが選ばれると誰もが思っていましたが、ターはフランチェスカを選ばず外部の若手男性指揮者を招きました。

ターがフランチェスカを選ばなかったのは、彼女がターの指示通りにクリスタとのメールを消去していなかったことに対する報復です。
ターは公私混同し、不当な理由でフランチェスカの昇進を妨げました。

理由はもうひとつ考えられて、それは副指揮者だったセバスチャンが指摘していた「フランチェスカを副指揮者にしたいから私を追い出すんだろ」という発言です。

セバスチャンいわく、団員たちの間でも「ターのお気に入りばかりが出世していく」と噂されていたようです。
たしかに「第二の指揮者」とも呼ばれるコンマスはターの妻シャロン、新人オルガもターのお気に入りとなり初コンサートでソリストに選ばれる異例の大出世、さらに新しい副指揮者が愛人フランチェスカになれば、どう見てもオケのポジションに私情が絡んでいると言わざるをえません。

そこでターは仕事に私情を絡めるタイプというイメージを払拭するために副指揮者を外部から招き、フランチェスカを選ばなかったのかもしれません。
どちらにしてもターは自分勝手な理由でフランチェスカを裏切りました。

 

スコアが無くなったのはなぜ?

ターのバッシングが本格化したころ、ターの自宅からスコアが無くなりました。
スコアを一番欲しがっていたのはカプランです。

何となくシャロンは無関係ぽいですが、ターを見限った団員の誰かがスコアを勝手に持ち出して新指揮者カプランに渡してしまったと思われます。

 

ターが吐いたのはなぜ?

ターはベルリンを飛び出してタイやベトナムのような雰囲気のアジア圏で活動を再スタートします。

ターはその地域のマッサージ店に入り、受付女性に「金魚鉢からお好きな女性を選んでください」と言われます。
「金魚鉢」と呼ばれるガラス張りの部屋には、指名待ちしている多くの女性マッサージ師が綺麗に並んで座っていました。
ターはその女性たちを見たとき何かに気付いたように硬直し、その直後に外に飛び出して嘔吐しました。

ターはそのお店の「客に選ばれた女性だけが仕事を与えられるシステム」がター自身が今までしてきた選び方だったこと、そしてその行為の愚かさに気付き、ショックのあまり吐いてしまったのではないかと思っています。

本来なら実力主義の世界である音楽業界で、ターは実力や仕事ぶりで人を評価せず、完全にター個人の損得勘定だけで物事を決めていて、神様にでもなったつもりでいたことに今更ながら気付いたのでしょう。

 

ラスト考察:ターはどうなった?

ターはどこかのアジア圏での再スタートを決めて指揮者の仕事を得ます。
それはかつてのターが見下していた『客演指揮者』の類の仕事でした。

しかしターは劇場スタッフにもきちんとお礼を言い、演奏が始まる瞬間の表情は生き生きしていました。
ターはベルリン界隈では干されてしまいましたが、事件のおかげで自分の行為の愚かさに気付き、彼女なりに反省して心の整理をしたのでしょう。

これからターはある意味前科者的な人生を送ることになります。
いくらドイツから遠く離れたアジアにいても、クリスタ事件がターの今後の仕事に影響を与えることもあるはずです。

それでもこの世界で生きていくというのはオーケストラが本当に好きで、かつ鋼のメンタルがなければできないと思います。
ターは煩悩を捨て去り誠実さを第一に、大好きな音楽と真剣に向き合おうと決めたのではないでしょうか。

私はこの映画はターの人間としての成長物語だったと感じましたが、人生の転落劇と見る方もいるでしょうし、見解が分かれると思います。
どちらにしても煩悩や私利私欲、損得勘定を全く消し去るのは難しいですが、周りの人への配慮と感謝は忘れてはいけないなと思いました。

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