映画『紅の豚』の解説・考察をしています!
作品の舞台背景から、各キャラクターたちの行動理由や目的を考えました!
映画『紅の豚』概要紹介
あらすじ紹介
世界恐慌時代のイタリア地中海。
魔法で豚になってしまった元軍人のポルコ・ロッソは、自慢の飛行技術と特徴的な見た目で人気の賞金稼ぎです。
ポルコは無人島に暮らし、夜は幼馴染の歌手マダム・ジーナが居るホテル・アドリアーノでジーナの歌を聴きながら酒を飲む自由気ままな暮らしをしていました。
ある日、ポルコは飛行艇の調子が悪くなったので修理に出そうとしていた時、ポルコの人気を妬む元アメリカ軍人のドナルド・カーチスに命を狙われて飛行艇を大破されてしまいました。
ポルコはミラノにある飛行艇製造業者のピッコロおやじに飛行艇の修理を頼み、カーチスへのリベンジを誓います。
主要キャラ紹介
・ポルコ・ロッソ(マルコ・パゴット元大佐)…森山周一郎
元イタリア空軍所属の賞金稼ぎ。なぜ豚なのかは謎。
・フィオ・ピッコロ…岡村明美
飛行艇製造業者ピッコロおやじの孫娘17歳。
ポルコの新しい飛行艇を設計する。
・ドナルド・カーチス…大塚明夫
ポルコのライバルとなるアメリカ軍人で空賊マンマユート団の用心棒。
スピードカップで2度の優勝経験があり、飛行艇操縦の腕はポルコも認めている。
マダム・ジーナとフィオに恋をする。
・マダム・ジーナ…加藤登紀子
ポルコの幼馴染みでホテル・アドリアーノの専属歌手。
ホテルを訪れる男性は皆ジーナに恋をする。
『紅の豚』の背景
舞台となるアドリア海は、上の地図を見ていただければと思いますが、イタリアとクロアチアやモンテネグロの間の海のことです。
そして、彼らが生きる時代は第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の1920~1930年代です。
ポルコがフィオに語っていた戦争の体験は、第一次世界大戦での出来事でした。
イタリアは1918年に第一次世界大戦が終わった直後から大恐慌時代に突入していて、紙幣の価値が下がって基本的に皆貧乏でした。
また、この時代のイタリアはムッソリーニによるファシスト政権下(ファシズムの詳細はこちら)にありました。
彼らの行動理由を考える
キャラクター達の行動から目的や思惑などを読み取っていきます!
ドナルド・カーチスがポルコを襲ったのはなぜ?
©1992 Sutudio Ghibli・NN
ポルコのライバルであるアメリカ軍人のドナルド・カーチスも空賊連合と一緒にポルコを陥れようとしていた人物でしたが、彼がポルコを嫌う理由は連合の男達とは違っていたようです。
連合はポルコが空賊撃退で大金をせしめていることが気に入らない様子だったのに対して、野心家で目立ちたがり屋だったカーチスは金ではなくて、ポルコの人気と知名度の高さを羨んでいたのです。
カーチスがポルコを直接襲ったのも『ポルコを倒した男』として知名度を上げるためですし、リベンジマッチに燃えるのも、一番は『注目されたいから』です。
空賊連合の男達は表に出てこないどころか、ポルコとカーチスの決勝で自分たちが儲かると「この決闘、毎月やってくれないかな」と現金な発言をします。
ポルコが赤い飛行艇に愛着があった理由
©1992 Sutudio Ghibli・NN
ポルコは赤い飛行艇をピッコロおやじの所に持って行った時、おやじは「これはもう新しく製造した方が安くつく」と言われますが、ポルコは「これが良いんだ」と言ってあくまでも修理をお願いしています。
実際にはほぼ新しくしたようなものになっていましたが、ポルコがこの飛行艇に思い入れが強い理由を考えます。
この飛行艇は元々は一艇だけ作られた試作機のようなものでしたが、危険だからと倉庫に眠っていた物をポルコが見つけて買い取ったものでした。
『危険だから』というのは、ボディが木製だったことに大きな理由があったと思われます。
木製のボディは気候の影響を受けやすく、水と近い環境に置かれるので機体の重さも変わりやすいため操縦が難しいのでしょう。
フィオが設計図を見て「アグレッシブだ」と言っていたように、かなり上級者向けの飛行艇だったようです。
これらの情報から、この飛行機は世界に1機しかない特別な飛行艇だったのも、ポルコが愛着を持っていた理由のひとつなのでしょう。
そして、この飛行艇が『倉庫でホコリを被っていた』という境遇も、ポルコが抱いていた「戦争で仲間が沢山死んだのに、自分だけ生き残ってしまった」という孤独感や罪の意識のようなものとリンクするものがあったと思われます。
飛行艇の製造でポルコが汗まみれだった理由
©1992 Sutudio Ghibli・NN
ポルコが正式に飛行艇の修理を依頼すると、ピッコロおやじは親戚一同を連れてきてポルコに紹介しました。
手伝いに来た人の多さを見てポルコは汗をかきます。
これは、ポルコがピッコロおやじから『人件費』をふんだくられつつあることを察した時の汗でした。
働きに来てくれた彼女達のお給料も食事代も全てポルコが負担するので、人件費として相当な額を持っていかれている上に、これからも追加請求される可能性大です。
さらっと流されていましたが、フィオがポルコに付いて行くのにも、『出張費、技術料、派遣代』などが加算されています。
ピッコロおやじとポルコは持ちつ持たれつ
©1992 Sutudio Ghibli・NN
請求書を見たカーチスが「この請求書、高くない?」と言っていたように、ピッコロおやじは恐らくポルコから代金をふんだくっています。
しかし、ポルコは大人しくピッコロの提示金額を支払うし、ローンも付けられるがままにしていました。
ポルコがフィオに「持ちつ持たれつだ」と言っていたように、ポルコは上等の飛行艇を作ってもらいたいし、良い品物や技術にはそれ相応の金額を支払うべきだという考えがあるのです。
ピッコロはポルコのお金を悪い事に使ったり、過剰な贅沢をしているわけではありません。
ふんだくったお金は、ピッコロが今後の技術向上のためだったり、家族のために使う大切な資金になります。
ポルコもそのことを知っているからこそ、ピッコロに全力で気持ちよく仕事をしてもらうために、可能な限り支払いに応じているのです。
また、ピッコロおやじの息子3人をはじめとする男性陣が全員出稼ぎに行ってしまったのも、戦後の経済が不安定でピッコロ社の収入だけでは家族を養えなくなってしまったからで、ポルコは彼らの金銭的な事情も理解していたのです。
ちなみに、ピッコロの店には『NON SI FO CREDETO(ローンお断り)』の文言が掲げられていました。
にもかかわらず、ピッコロはポルコには問答無用でローンを組んでいたので、ポルコとピッコロの間にはそれだけ厚い信頼と共通の価値観があるということです。
ポルコがフェラーリンの誘いを断った理由
©1992 Sutudio Ghibli・NN
フェラーリンはポルコの操縦技術を見込んで空軍に戻ってきて欲しがっていましたが、ポルコはあっさり断ってしまいます。
ポルコは第一次世界大戦を経験して、多くの人間の死を目の当たりにして戦争が大嫌いになりました。
元々は空を飛ぶのが好きだから、仕事で空を飛べる空軍に入ったのでしょうが、空軍に戻るとまた戦争が起きた時は参加しないわけにはいかなくなります。
だから、ポルコは戦後 空軍を辞めて賞金稼ぎになり、自分の稼ぎで好きに飛ぶことを選んだのです。
ちなみにポルコとフェラーリン少佐がいた映画館で、ディズニーかカートゥーンアニメのオマージュのようなモノクロアニメ映画を上映していました。
ポルコは「ひどい映画だ」というのに対し、フェラーリンは「良い映画じゃないか」と真逆の意見を言うのが印象的でした。
確か、ポルコは飛行機墜落のシーンで『ひどい映画』と言うのに対して、フェラーリンはラスト近くのキスシーンを見て『良い映画』と言っていました。
恐らく、ポルコとフェラーリンの『政府(もしくは戦争)に対する価値観』の違い(注目している側面が違うということ)を表現していたんじゃないかな~と思っています。
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後半は『秘密警察がポルコを追う理由』、『ポルコが豚になった理由』、『魔法が解けた理由』、『ポルコとジーナのその後』などです!
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