映画『百花』のあらすじ紹介、解説、考察をしています!
認知症を患い徐々に記憶を失っていく母(原田美枝子)と、母を支える息子(菅田将暉)の物語。
どこかぎこちない親子関係に隠された秘密とは?
鑑賞済みの方向けの解説考察記事です。まだ観ていない方はネタバレにご注意ください。
主要キャスト
葛西 泉(かさい いずみ)…菅田将暉
レコード会社の中堅社員。
生まれた時から父親がおらず、母子家庭で育った。
母 百合子が徐々に記憶を失うことにいら立ちを隠しきれない。
葛西 百合子(ゆりこ)…原田美枝子
泉の母。現役時代は自宅でピアノ講師をしていた。
泉が実家を出てからは長年1人暮らししていたが、認知症を患い問題行動が増えたため施設に預けられる。
葛西 香織(かおり)…長澤まさみ
泉と社内恋愛で結婚した妻。
8月に第一子を出産予定。
大澤(泉の上司)…北村有起哉
田名部(泉の後輩・大澤の恋人)…河合優実
関(ホームの職員)…坂谷由夏
工藤恵(百合子の同級生)…神野三鈴
浅葉(百合子の愛人)…永瀬正敏 ほか
あらすじ紹介
あらすじ①:
2022年の冬。レコード会社に勤める葛西泉は、妻 香織の妊娠が判明して人生の大きな転換期に差し掛かっていましたが、ほぼ同時期に泉の母 百合子が認知症を患っていることが発覚します。
泉は仕事も忙しく百合子のお世話をする時間が取れないため、介護ヘルパーを雇って週に数回の訪問介護を頼みました。
百合子の症状の進行は思ったよりも早く、スーパーでレジを通さないままお店から出ようとして万引きで店員に捕まってしまったり、夜に外を徘徊して警察のお世話になるなどの問題を起こし、泉は悩んだ末に百合子を施設に預けることにしました。
泉が選んだのは入居者の居心地の良さや認知症の症状の緩和を重要視する人気の高齢者施設で、百合子は施設をとても気に入りました。
泉と香織は毎週のように施設を訪ね、百合子の様子を見守ります。
香織の出産が迫る頃になると、百合子は香織が誰かわからず、教えてもすぐに忘れてしまうようになりますが、ふとしたタイミングで正気に戻ると「私は母親失格なの」などと香織に呟きました。
あらすじ②:
その日の施設からの帰り、泉は香織に百合子との間に昔あった出来事を打ち明けました。
泉が小学生だった頃、自宅でピアノ講師をしていた百合子は、生徒としてピアノを習いに来た浅葉という大学教授の既婚男性と恋に落ちました。
しばらくすると浅葉に神戸への単身赴任が決まり、百合子は神戸で浅葉と同棲したいあまり、泉を置いて神戸に行ってしまったのです。
百合子は泉を東京の自宅に置き去りにし、浅葉と約1年間の同居生活を送りました。
泉は百合子が居なくなってから数日間は母の失踪をを誰にも言わず、家にあった食材を食べつくし、わずかな所持金も尽きてから、耐えきれずに百合子の母に助けを求めました。
百合子は泉の存在を心の奥に隠し、浅葉の妻として生きてきましたが、神戸に逃亡して1年後に阪神淡路大震災が起こります。
百合子は大きな地震に襲われた直後に泉に会いたくて仕方なくなり、そのまま東京に戻ってきました。
震災があった日、浅葉は大学に泊まっていて百合子と一緒におらずそれきり音信不通で、百合子は浅葉が震災で無事だったのかどうかも知りません。
あらすじ③:
百合子が施設に入所して数週間後。
百合子が「半分の花火が見たい」と言うため、泉はネット検索で出てきた『綺麗な半分の花火』が見られることで人気のお祭りに百合子を連れて行き、一緒に半分の花火を見ました。
しかし花火が終わった直後、百合子は「半分の花火が見たい」と駄々をこね始めて泉を困らせました。
泉は「今さっき見たばかりだろ」となだめますが、百合子は「違う」と言って聞かず、混乱した百合子は泉のこともわからなくなってしまいます。
怒った泉は百合子に「こっちは忘れたくても忘れられないことばかりなのに、母さんはなんで簡単に忘れちゃうんだよ!」と怒鳴ってしまいました。
あらすじ④:結末
香織が元気な女の子を出産してから約1年が経ちました。
百合子の認知症は進行し、今は百合子は自分のことも泉のこともよくわかっていません。
泉は実家を引き払うことに決め、この日、泉は香織と百合子を連れて実家の片づけに来ていました。
百合子にもう片付けは出来ないので、家の縁側に座って静かに泉と香織の作業を見ています。
夕方になると香織は先に帰宅し、泉は疲れて居眠りをしてしまい、起きると外は真っ暗になっていました。
すると少し遠くで打ち上げ花火が上がっているのが見え始め、泉はこの時初めて百合子が見たかった『半分の花火』が何なのかがわかりました。
高層マンションに隠れて上半分しか見れないこの花火こそが、百合子が見たがった『半分の花火』だったのです。
百合子と泉がこの家に引っ越してきた最初の夏に、2人はこの縁側に座って二人きりで打ち上げ花火を見ました。
この出来事は、百合子と泉の関係に亀裂が入る前の数少ない親子の美しい思い出の1つでした。
泉は全部覚えていたつもりでも、忘れていたこともあることを思い知り、百合子に謝りました。
百合子は泉の隣で黙って嬉しそうに『半分の花火』を眺めていました。
解説・考察・感想など
泉と百合子の『変な関係』とは?
香織は泉と百合子に過去に何かがあったことをなんとなく察していて、その理由を『変な親子だから』と言いました。
確かに年末年始に泉が香織抜きで実家に帰って百合子と2人きりでの年越しが恒例化していた点だけを見るとかなり仲が良い気がするものの、実際には泉は百合子に心を開いておらず遠慮がちだったのは違和感を感じます。
また、百合子が泉を浅葉と勘違いする素振りを見せると、泉はいつも真剣に拒絶しました。
わだかまりの無い親子だったら冗談で済ませられそうな所ですが、泉は昔 百合子に捨てられたことを許せていないので気分が悪くなってしまうのです。
事情を知らない人が見ると泉が冷たい息子に見えてしまい、そういう所も『変』の原因だと思われます。
泉と百合子の過去の確執は?
本編の後半で、泉と百合子の間に走る妙な違和感の真相が明らかになります。
泉がまだ小学校高学年だった頃、百合子はピアノ教室の生徒として知り合った浅葉(永瀬正敏)という既婚男性と恋に落ちました。
浅葉が神戸に単身赴任が決まると、百合子は泉を置き去りにして神戸に引っ越してしまったのです。
百合子は神戸の集合住宅で約1年、浅葉と夫婦同然の暮らしを送りますが、1995年の1月17日に起きた関西大震災で泉の大切さを思い出し、泉の待つ東京の自宅に帰りました。
百合子は戻った時に言い訳や謝罪を一切せず、1年家出していた事実すら無かったかのように振る舞います。
泉は困惑しつつ百合子の帰宅を受け入れますが、その日に百合子が作った味噌汁は食べられず、それからも味噌汁が苦手になりました。
震災発生当時大学にいた浅葉とはそのまま離れ離れになり、浅葉の生死はわからないままです。
百合子が見たがった半分の花火とは?
百合子が見たがって駄々をこねた『半分の花火』は、泉の実家の縁側から見える『マンションなどの建物で隠れて上半分しか見えない花火』のことでした。
泉は母親との思い出で忘れていないことなど無く、全て嫌というほど覚えていると思い込んでいましたがそれは間違いで、泉にも欠けている記憶は沢山あったのです。
泉が『半分の花火』を実際に見るまで忘れていたり、『魚釣りの思い出』が百合子の記憶が正しかったことなどがその証拠でした。
泉が幼い頃の記憶は百合子の方がよく覚えていて、百合子が老いてからの記憶は泉が覚えていて、2人の記憶が合わさることで初めて親子の歴史が完成します。
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