映画『ドニー・ダーコ』の解説、考察をしています!
ギレンホール姉弟の初々しさが垣間見えるのは嬉しかったですが、やっぱり難しかったです。
裏設定を知らなくても大丈夫な解釈から、『タイムトラベルの哲学』を元にした、ウサギの正体、ドニーの運命などについて考察します。
本作のあらすじ記事はこちらです↓
作品概要
原題:Donnie Darko
制作年:2001年
本編時間:113分
制作国:アメリカ
監督・脚本:リチャード・ケリー
関連小説:『ドニー・ダーコ』D(di)著
主なキャスト&キャラクター
ドニー・ダーコ…ジェイク・ギレンホール
主人公の高校生。精神不安定。ウサギの着ぐるみに世界の終わりを告げられる。
グレッチェン・ロス…ジェナ・マローン
ドニーの恋人になる美人転校生。
フランク…アジェームズ・デュバル
ウサギの着ぐるみの中の人。姉エリザベスの恋人。
ローズ・ダーコ…メアリー・マクドネル
ドニーの母。
はじめに:この映画には裏設定が存在します
この映画には作中では語られていない『裏設定』が存在します。
映画の劇場公開当時は公式HP(英語版)にその設定が掲載されていましたが、現在公式HPは閉鎖されていて、英語版のファンサイトに残っているものしか見られなくなっています。
ただ、映画のあらすじ位は外部情報に頼らず映画の中だけで完結してほしく、裏設定を知らなければわからないなんて不親切すぎると個人的には思います。
そこで裏設定なしで理解するヒントを探していた結果、作中にタイトルだけ登場したマーティン・スコセッシ監督の『最後の誘惑(1988)』にたどり着きました。
この映画はイエス・キリストが十字架にかけられて処刑されるという運命を回避しようかと悩んだ末に、やっぱり運命を受け入れて死ぬことにした話です。
運命の死を受け入れる過程がとても似ているので「裏設定?そんなの知るか!」と思っていた方は、『ドニー・ダーコ』は2000年版『最後の誘惑』だと思えば大体のモヤモヤは落ち着く気がしました。
『最後の誘惑』の詳しいあらすじを知りたい方は以下の記事をどうぞ。
以降は裏設定ありきの解説、考察をしていきます。
『タイムトラベルの哲学』の内容と照らし合わせる
この作品の流れを理解するには『死神おばば』ことロバータ・スパロウの著書『タイムトラベルの哲学』(架空の本)の中身を把握しなければいけません。
ですが、残念ながら作中で本の内容はほとんど明かされません。
公式サイトで『タイムトラベルの哲学』が読めたみたいなんですが探しても見つからず、ファンサイトにそれらしきものが残っていたのでそちらを元に内容を整理します。
一時的な世界と28日6時間42分12秒の関係
タイムトラベルの哲学では『プライマリーユニバース(主宇宙)』と『タンジェントユニバース(主宇宙に接している接宇宙)』という2つの宇宙(世界)があります。
普段は『プライマリーユニバース』しか存在しませんが、何かが引き金になって『タンジェントユニバース』が生まれます。
ドニーと科学教師モニトフの会話に出ていた『宇宙=主宇宙』と『外宇宙=接宇宙』のことですが、プライマリーユニバースやタンジェントユニバースなどの単語は作中には登場しません。
接宇宙は主宇宙のパラレルワールドのようなもの(コピー世界)ですが、非常に不安定なため数週間で消滅してしまうという特徴があります。
つまりフランクが言う『28日6時間42分12秒』は、接宇宙が消滅するまでのタイムリミットのことだったのです。
接宇宙が発生する原因は不明ですが、その兆候として必ず金属製の『アーティファクト(人工物)』がどこからともなく現れます。
このアーティファクトは主宇宙から移動してきた物で、照らし合わせると本作の舞台はタンジェントユニバース(接宇宙)で、その兆候であるアーティファクトが飛行機のエンジンです。
そして、アーティファクトを主宇宙に返還しないまま接宇宙が消滅してしまうと、ブラックホールが発生して主宇宙ごと消滅してしまう危険性があるというルールがあります。
ドニーの使命とは?
接宇宙が発生した瞬間に『リビングレシーバー(生ける受信者)』という役割の人物が自動的に決められます。
リビングレシーバーの使命は『アーティファクトをプライマリーユニバース(主宇宙)に返還すること』(=『エンジンを主宇宙に返還する』)です。
そんな使命があったとは。
そのリビングレシーバーに選ばれたのが、エンジンの落下地点にいたドニーでした。
リビングレシーバーに選ばれた人物は特殊能力が使えるようになります。
それは、サイコキネシス(念力)、怪力、火と水を使って事態を操る能力です。
振り返ってみると、ドニーは学校の水道管を破壊したり、銅像の頭に斧をめり込ませたり、カニングハムの家に放火してましたね。
念力はドニーがエンジンを返還する時に使っていました。
さらに、リビングレシーバーは悪夢、幻覚、幻聴に苦しめられる傾向があります。
この傾向はウサギのフランクと関係しています。(後述)
ウサギのフランクは何者だったのか
ドニーの前に現れていたウサギフランクは幻覚のようにも見えますが、最終的にフランクが殺されることを考えると、ドニーが見ていたのはフランクの幽霊のようでした。
『タイムトラベルの哲学』の内容に当てはめると、フランクは『マニピュレイテッド・デッド(操られる死者)』という、これまた使命を持つ存在です。
マニュピレイテッド・デッドは、接宇宙の世界で死亡した人物が選ばれます。
接宇宙で死亡したのはフランクとグレッチェンでしたが、グレッチェンは亡霊としては現れないので、役割を与えられるのは1人だけなのでしょう。
このマニュピレイテッド・デッドは接宇宙の時間の中を自由に移動することが出来るタイムトラベルの能力を持つので、順序としては、フランクは接宇宙で10/30に死んだ後、10/2のエンジン落下の直前まで時間を遡ってドニーの前に亡霊として現れていたということです。
マニュピレイテッド・デッドの使命は『リビングレシーバーが確実にアーティファクトをプライマリーユニバースに返還するようにフォローすること』(=ドニーが確実にエンジンを主宇宙に返還するよう仕向けること)(=ドニーが確実に接宇宙を消滅させるように仕向けること)です。
フランクは接宇宙では死んでしまいますが、主宇宙では死なないかもしれないので、生き残る可能性にかけてドニーにちゃんとエンジンを返還させようと必死だったのです。
フランクがウサギの着ぐるみを着ていた理由は、単純にはハロウィンパーティーの仮装だからですが、ウサギに関するアメリカで有名なジンクス的なものを調べてみると色々ありました。
『ウサギの人形は悪魔から身を護る魔除けのアイテム』
『ウサギは魔女に呪物として扱われていた』
以上の3つが有名なジンクスのようです。
ハロウィンだったことを考えると、2つ目の魔除けとしてのウサギだった可能性が高い気がします。
デッドフランクがドニーに水と火の犯行をさせた理由
デッドフランクの目的は『ドニーにエンジンを主宇宙に返還させること』です。
デッドフランクは『結果』を知っているので、きっかけとなる行動をドニーに確実にしてもらう必要があります。
補足情報として『マニュピレイテッド・デッドはリビングレシーバーに強い影響力を持つ』という設定があるので、基本的にドニーはデッドフランクの言うことに無条件に従ってしまう傾向があります。
まず、学校の水道管破壊は『ドニーとグレッチェンの交際』と関係しています。
そしてカニングハム宅の放火は、巡り巡ってローズとサマンサが10月31日早朝の飛行機に乗る原因になります。
デッドフランクはドニーの家族や恋人を巻き込むことで、ドニーにより強く「主宇宙に戻らなければ」と思ってもらおうとしていたのです。
ドニーはいつ使命に気付いたのか
ドニーが自分の使命に気が付いたのは、『タイムトラベルの哲学』を手に入れた10月10日以降です。
10月18日には本を読み終わっていたので、この頃には本の内容と自分自身とを照らし合わせて状況を理解し、後は確信を欲しがっているような雰囲気でした。
そして、恐らく確信を得たのが映画館でウサギの中の人が死んだフランクだとわかった時です。
10月30日のドニーの行動を整理
グレッチェンが死んだ後、ドニーはどうすれば彼女が死なずに済むのか考えた結果、リビングレシーバーとしての使命を果たして接宇宙を消滅させることを決意をしました。
接宇宙でグレッチェンは死んでしまいましたが、彼女もフランクと同様に主宇宙に戻れば死なないかもしれないからです。
グレッチェンの遺体を抱えて自宅に戻った時、屋根の上に雲から伸びる穴があるのは偶然ではなく、ドニーが念力を使ってそこに【タイムトラベルの穴】を出現させたのです。
『タイムトラベルの哲学』情報では『穴は水で出来ている』という設定があるので、雨雲を使って穴を作ったのでしょう。
そしてエンジンを送り返すために、その時近くを飛んでいた飛行機のエンジンを念力で取り外して穴を通して主宇宙に送り返しました。
『10月31日に飛んでいる飛行機のエンジン』と、『10月2日に落下したエンジン』は別物なのでは?と思いますが、同じものです。
ドニーがいる接宇宙には同じエンジンが2つ存在していて(落下前と落下後)、どちらかを主宇宙に返還することで接宇宙を消すことができるというルールがありました。
そして、エンジンを返還した時にドニーは気付いていなかった(?)のかもしれませんが、その飛行機にはローズとサマンサが搭乗していました。
全て夢になった
ドニーがエンジンを主宇宙に返還したことで接宇宙が消滅し、時間軸は主宇宙に戻りました。
接宇宙でリビングレシーバーと接触した人間は、主宇宙に戻ると接宇宙での体験がすべて『夢』に変わります。
マイケル・アンドリュースの『マッド・ワールド』が流れるシーンは、ドニーと接触した人達の『接宇宙での28日間』が夢に変わった瞬間を描いています。
夢は起きた瞬間に大半を忘れてしまいますが、印象的な部分だけは覚えていることもあります。
グレッチェンがドニーと出会って交際したことも、カニングハムが児ポで逮捕されて人生詰んだことも、フランクがドニーに殺されたことも、すべて夢になったのです。
ローズが木にもたれてふらついていたのは、恐らく接宇宙で飛行機に乗っていたことが影響して乗り物酔い状態になっていたと思われます。
そう考えるとサマンサ(ドニーの妹)は意外と平気そうでしたね。
ロバータ・スパロウの正体とドニーが死んだ理由
ロバータ・スパロウは尼僧時代、ドニーと同じように接宇宙でリビングレシーバーに選ばれた存在だったと思われます。
スパロウがどのような接宇宙を経験したのかはわかりませんが、おそらくスパロウは接宇宙から主宇宙に戻った後も生きたのです。
スパロウが『タイムトラベルの哲学』を執筆したことが、リビングレシーバーだけは接宇宙での出来事も夢に変わらない(ちゃんと経験として記憶に残る)ことを意味していると共に、リビングレシーバーには生き残る選択肢もある(使命を果たした後に必ず死ぬわけではない)ことを示しています。
つまり、ドニーは主宇宙に戻った瞬間にこれから何が起こるかわかるので、すぐに部屋から飛び出していれば生きていたはずなのに、あえて死を選んだということになります。
理由はドニーが死ぬ運命を受け入れられたからではないでしょうか。
ドニーがエンジン墜落で死ぬ運命だったことは、父親の発言「ドニーも同じ運命だったのかも」、スパロウの発言「生き物は孤独に死ぬ」、瞳の中のドクロの絵、ドニー自身が『孤独な死』を異常に恐れていたことから何となくわかります。
しかし、接宇宙での出来事が主宇宙でも起こりうるとしたら、もしもドニーが主宇宙で死を回避した場合、代わりにグレッチェン、母ローズ、妹サマンサが死ぬ可能性があるので、代わりに誰かが死ぬくらいなら自分が死ぬと考えたのではないでしょうか。
さらに内面的な要素を考えると、ドニーは自分自身の将来の姿をロバータ・スパロウに重ねたことも死を選んだ理由かもしれません。
彼女が孤独なのは、死ぬ運命に逆らって生きたことに対する代償だったようにも見えます。
ドニーも接宇宙で大切な人を失うので、運命に逆らうと大切な人を失う設定があるような気がします(『タイムトラベルの哲学』には書かれてませんでしたが)
しかも、タイムトラベルの記憶が消えなかったスパロウは、接宇宙での強烈な体験に囚われて郵便受けから離れられなくなっていました。
恐らくスパロウが体験した接宇宙では郵便受けが重要な役割を果たしたのでしょう。
次のページに続きます。
後半は『細かい疑問』、『登場人物たちのその後』です。
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