映画『X エックス』の解説考察をしています!
この映画が注目される理由、鶏と牛とワニの意味、老夫婦が殺人鬼だった理由、マキシーンとパールの関係などについて書いてます。
『シャイニング』や『サイコ』のオマージュなど制作陣のホラー映画愛が垣間見えたり、ホラー好きが喜ぶ要素も満載で、定番の流れと見せかけてあえて少しズレたタイミングや展開で恐怖シーンが登場する所など、温故知新なホラー映画が堪能できました。
鑑賞済みの方のための記事です。まだ観ていない方はネタバレにご注意ください。
制作年:2022年
本編時間:105分
制作国:アメリカ
監督・脚本:タイ・ウェスト
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※このページの情報は2023年7月時点のものです。最新の配信状況は各配信サイトにてご確認ください。
キャスト紹介
マキシーン…ミア・ゴス
ヒューストンの田舎町に住むストリップダンサー。
恋人のウェインに誘われて女優としてポルノ映画製作に参加する。
この映画をきっかけに映画スターになる夢を抱く。
※ミア・ゴスの他出演作…映画『フレッシュ』など
ボビー=リン…ブリタニー・スノウ
ウェインにスカウトされた高飛車なストリップダンサー。恋人のジャクソンと共に女優としてポルノ映画製作に参加する。
※ブリタニー・スノウの他出演作…映画『ヘアスプレー』、映画『ビッチ・パーフェクト』シリーズ など
ロレイン…ジェナ・オルテガ
録音係として映画製作に参加する。映画監督RJの恋人。
撮影が始まってからポルノ映画だと知り動揺する。
※ジェナ・オルテガの他出演作…映画『ザ・ベビーシッター キラークイーン』、映画『YESデー -ダメって言っちゃダメな日-』 など
ウェイン・ギルロイ…マーティン・ヘンダーソン
ポルノ映画で成功を狙う男。口が上手く交渉術に長ける。
田舎町のロッジを借り切って映画製作を指揮する。
※マーティン・ヘンダーソンの他出演作…映画『ザ・リング』、映画『天国からの奇跡』など
ジャクソン…キッド・カディ
ストリップダンサー。男優として映画製作に参加する。ボビーの恋人。
※キッド・カディの他出演作…映画『キッド・カディ:Entergalactic』、映画『きみといた2日間』など
R・J・ニコルズ…オーウェン・キャンベル
ウェインが雇った無名の映画監督。今回の映画を精巧の足掛かりにしようと奮闘中。
※オーウェン・キャンベルの他出演作…映画『ぼくらと、ぼくらの闇』、映画『ミスエデュケーション』など
ハワード…ステファン・ウレ
ウェインに小屋を貸し出した老人。心臓を患っている。妻パールの要求に応じられないことに悩む。
※ステファン・ウレの他出演作…映画『デビルズ・メタル』、映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ など
パール…ミア・ゴス
ハワードの妻。マキシーンを気に入り監視している。
テレビに映る伝道者…サイモン・プラスト ほか
あらすじ紹介
1979年のテキサス州ヒューストン。
ポルノ映画での成功を夢見る6人の男女が、田舎町で牧場を営む老夫婦ハワードとパールからロッジを借りて泊まり込みで映画製作を始めます。
無事に1日目の撮影を終えてくつろぐ6人でしたが、じつは牧場主のハワードと妻パールは殺人鬼夫婦でした。
ハワードとパールはロッジにいる6人に次々に襲いかかり、恐怖の一夜が始まります。
解説・考察、感想など
映画『エックス』の面白さとは?
この映画はスプラッター映画初心者でももちろん楽しめますが、本当の良さがわかるのはホラーを見慣れて『定番』を知っている人だけかもしれません。
スプラッター映画には昔ながらの定番の展開だったり、襲われる主人公やヴィランのキャラクターに共通するものがありますが、エックスの面白さはその定番から何となく外れている所にあるからです。
この記事では筆者が気付いた部分、気になった点などをまとめています。
タイトル『X』の意味は?
公式HPの解説には、タイトルの由来はアメリカ映画界で1968年~1990年に採用されていたレイティングシステム(年齢制限枠)の「X指定」だと書かれています。
X指定は「16歳以下は鑑賞禁止」という意味で、実際にX指定を受けた映画は「時計仕掛けのオレンジ」(1971)や「真夜中のカーボーイ」(1969)などがあります。
その後、Xシステムは見直されて現在のNC-17(18歳以下鑑賞不可)、R指定、PG指定に変わりました。
また、ウェインがマキシーンを「エックスファクター(未知の才能)」と例えていたり、マキシーンのドラッグによるエクスタシーを意味する「X」にもかかっているようです。
個人的な解釈では古き良きホラー映画の定番と、制作陣のアイディアを持ち寄った新しい作風の融合が感じられたり、瓜二つのパールとマキシーンの接点を表すタイトルでもあったように感じました。
冒頭の死体の正体は?
映画の冒頭とラストが繋がる作りになっています。
ラストでマキシーンが車で逃亡した後、事件に気付き駆けつけた警察が凄惨な事件現場を見て回るのが冒頭のシーンです。
屋内や家の周りにある布をかけられた死体の数々はロッジを借りたウェインたちやハワード老夫婦の死体であり、冒頭で保安官が地下室で見つけた何かは、ロレインが地下室で見た男の死体です。
牛の死体とニワトリとワニ
ホラー映画の定番の流れには『危険な場所に好奇心で侵入する愚かな主人公たち』と『主人公たちに警告する何か』が登場します。
この警告の役目として登場するのが、お店周辺にいた鶏や道路にあった牛の死体です。
鶏は聖書では神の使いだったり『罪を警告』する動物なので、マキシーンが神父の娘であることと、ハワード夫妻の罪深さが暗示されています。
そして牛は家畜の代表であり豊かさを象徴する動物です。
老夫婦の殺人動機は若者の若さや満ち溢れるエネルギーに対する嫉妬や異常な支配欲からなので、若者の持つ豊かさを奪うという部分が牛の死体に込められているように感じました。
池にいたワニは、恐らくマキシーンがワニに食べられないことで父親が神父なだけに神様のご加護的な運の強さを示していたように見えました。
またワニはマキシーンの捕食には失敗しますが、再登場して鑑賞者の期待通りの人間捕食シーンは見せてくれるので、制作側の定番リスペクトと定番からの脱却を図ろうとする姿勢の両方が垣間見えた気がしました。
また、冒頭でマキシーンたちが出て来たストリップクラブに描かれていた絵は、ボニーがワニに食べられてしまう伏線にもなっています。
マキシーンとパール
マキシーンは老婆パールの若い頃に容姿がよく似ていたことから、パールはマキシーンに執着します。
パールの執拗なボディタッチや、同じ色のアイシャドウを塗ったり、マキシーンのセックスにパール自身を重ね合わせたりは、パールのマキシーンへの執着を表しています。
また、写真に写るパールの若い頃がマキシーンにそっくりだったことで勘の良い人は気付いたかもしれませんが、老婆パールとマキシーンはどちらもミア・ゴスが演じています。
この2人がよく似ているという設定には、パールの過去がマキシーンに似ているように、マキシーンの未来もパールのようになる可能性が暗示されています。
加害者と被害者を同じキャストが演じることは作品としてスパイスになるとともに、誰もが直面する難題『老いとの向き合い方』まで示されていたように感じます。
マキシーンは自分に言い聞かせるように『私らしくない人生は受け入れない』と言いますが、このセリフもまた深くて、私は逆に『人生や運命をどう受け入れるか』を考えてしまいました。
老夫婦が若者を襲う理由は?
パールとハワードが若い頃はWW1、WW2の真っ只中で、夫婦は戦争に膨大な時間と労力と夢を奪われ人生を楽しめないまま年を取ってしまいました。
なので夫婦は自由奔放に生きる若者に嫉妬と憎悪を抱き、若者をいたぶって殺し、彼らから将来を奪うことが夫婦の密かな娯楽になっていました。
地下室にあった男の死体も、ロレインを地下室に監禁したのも、パールの欲望を満たすためにハワードが用意した、いうなれば生贄です。
パールがこの年齢にして性欲旺盛なのは、認知症か精神疾患の進行で、心が若かりし頃の状態に退行してしまい、当時我慢し続けていた『性』への興味が爆発していたからではないかと解釈しています。
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2ページ目は RJが殺された理由、ラスト考察、オマージュ作品とシーン紹介などです。
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