宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」の解説・考察をしています!
『小説の概要』『わざと石で怪我した理由』『夏子が産屋に入った理由』『ペリカンとインコ』『眞人が夏子を母さんと呼んだ理由』『眞人と夏子の関係から見えるメッセージ』『アオサギの正体』『キリ子について』『眞人の選択から見えるメッセージ』『眞人の母について』など書いています。
前情報が全くないのでドキュメンタリーだったらどうしようと思いながら半分ジブリに寄付する気分で見に行って、ちゃんとアニメ映画だったので安心しました(笑)
あらすじは「千と千尋の神隠し」のように母親を子どもが助けるなど過去作品に設定が似ていると思う部分も見られますが、随所に込められているメッセージも汲み取りながら見ようとすると何回見ても新しい発見がありそうな、82歳になられた宮崎監督の渋みが感じられる映画でした。
鑑賞済みの方向けの記事です。まだ見ていない方はネタバレにご注意ください。
制作年:2023年
本編時間:120分
制作国:日本
監督・脚本・原案:宮崎駿
関連小説:「君たちはどう生きるか」吉野源三郎 著
キャスト・あらすじ紹介
キャスト紹介
※エンドクレジットには声優さん名だけが流れ、誰がどの役をやったのかはわからなかったので、たぶんこうだっただろうで書いてます。
もし違っていたら教えていただけると助かります!
牧 眞人(まきまひと)…cv 山時聡真
小学生の男の子。異世界に入り込んでしまった義母を探す。
夏子…cv 木村佳乃
眞人の新しい母親になる人。眞人の母の実の妹でもある。
久子…cv あいみょん
眞人の母親であり夏子の実の姉。異世界で眞人と再会し、夏子探しを手伝ってくれる。
キリ子…cv 柴咲コウ
夏子の実家のお世話係の老婆。眞人と一緒に異世界に入る。
ショウイチ…cv 木村拓哉
眞人の父。戦闘機工場を経営している。
家族を大切にする立派な父親ではあるが、戦争で儲かり成功者であることを鼻にかけるタイプ。
・その他のキャスト
アオサギ…菅田将暉
インコ大王…國村隼 ほか
あらすじ
舞台は第二次世界大戦中の1940年代初頭です。
東京に住む小学生の 牧眞人は1942年に起きた火事で母 久子を亡くし、翌年に眞人の父ショウイチは久子の妹 夏子と再婚しました。
父の再婚とほぼ同時期に疎開が決まり、眞人と父は郊外にある夏子の実家に身を寄せることになります。
※疎開…空襲に備えて都会から郊外に移り住むこと。
眞人は夏子の容姿が亡き母にそっくりなことや、夏子が父の子どもを妊娠していることを知り、素直に喜べないまま疎開生活が始まります。
夏子の実家の敷地内には不思議な雰囲気の廃屋がありました。
その廃屋は元は夏子の大叔父が住んでいた小さな屋敷でしたが、とても賢かった大叔父は本の読みすぎで頭がおかしくなり、屋敷に引きこもったまま神隠しのように姿を消してしまったそうです。
大叔父の失踪後、屋敷の地下構造が迷路のように入り組んでいることがわかり、危険なため今は立ち入り禁止になっています。
疎開後すぐに眞人は新しい小学校に転入しますが、裕福な都会っ子の眞人はクラスの雰囲気に馴染めません。
嫌気が差した眞人は自分の頭にわざと石をぶつけて怪我して帰り、翌日から学校を休みました。
数日後、つわりで寝込んでいた夏子がこつぜんと姿を消してしまいます。
夏子を探す眞人の前に、庭でしょっちゅう見かけたアオサギが現れて「あなたのような人をずっと待っていた 夏子様の所にご案内します そこにはあなたのお母様もいます」と言います。
眞人はアオサギに誘われるがまま、世話係の老婆キリ子と一緒に廃屋の地下の世界(異世界)に入り、夏子と母を探します。
解説、考察や感想など
小説「君たちはどう生きるか」の内容は?
1937年(昭和12年)に発売された吉野源三郎の小説「君たちはどう生きるか」の概要をおさらいします。
この小説は宮崎駿監督自身が幼い頃に読んで感銘を受けた思い入れのあるものだったので、タイトルにもなり眞人が受け取るアイテムにもなったようです。
小説「君たちはどう生きるか」は、コペル君というあだ名を持つ中学生の本田潤一が身の周りや学校での出来事と、仲良しの叔父さんとのやり取りを通して人間的に成長し、自分らしい生き方を模索する話です。
コペル君が直面するのは学校でのいじめ、友人関係での大きな失敗や、自分が社会や誰かの役に立てているだろうかという疑問などで、叔父さんはコペル君の気持ちに寄り添ってアドバイスをくれます。
コペル君の悩みや葛藤は一つの正解がある類のものではなく、読者も叔父さんのアドバイスを受けてコペル君と一緒に悩み、それぞれの答えを探すことになります。
小説と映画の関係は「言いたいことが同じ」という点が一番大きく、それ以上でもそれ以下でもないような印象を受けますが、宮崎監督はこの本が大好きだそうなので、いつか同じテーマで自分なりのアニメを作りたいと思い続けていたのかもしれません。
眞人が自分の頭を石で傷つけたのはなぜ?
眞人は放課後にクラスメイトの男子と喧嘩してしまい、喧嘩のあとの帰り道で石をわざと自分の頭にぶつけて怪我を作って帰宅しました。
眞人はこの行動を「悪意」と言いました。
それは「自分が学校から怪我して帰ってきたらどうなるか」を想定した上での行為だったということです。
怪我で学校を休めること、眞人の喧嘩相手の男子生徒が疑われること、父が怒って学校に怒鳴り込むことなどを予想した上で「そうなれば良い」と思って周囲を振り回すために怪我を作ったのです。
恐らく眞人は学校にも夏子の実家にも居場所がなく、帰り道のあの瞬間にどうしようもない怒りに駆られてしまったのでしょう。
怪我をした眞人を心配したり怒ったりする父を見て、眞人は親に愛されている安心感と罪悪感の両方を感じていたのではないでしょうか。
産屋(うぶや)について
下の世界で夏子が入っていた産屋とは、女性が出産するために作られた小屋のことです。
産屋は日本書紀にも登場するほど古くからある風習で、元々出産は神聖なものとされ、神聖な出産を穢さないために男性は立入禁止というルールがありましたが、仏教が浸透して男性優位な社会になった室町時代頃からいつの間にか「赤不浄」という風習が生まれると、産屋は生理中or妊娠中の女性を隔離して遠ざけるための小屋に変わりました。
生理中または出産前後の女性が家にいると、家族にまで穢れがうつって不幸が起きると言われていました。
第二次世界大戦後には医療の発展と戦後復興の忙しさなどで産屋の風習は急激に衰退しています。
なので夏子が妊娠した頃は産屋の風習が衰退しつつある時です。
今でも漁船や大相撲に女人禁制があるのは、この赤不浄だったり女そのものが穢れている(女は男より格下の存在)という価値観から決められたルールが伝統化しているからだったりします。
インコは妊婦を食べてはいけないルールがあり、産屋も神聖な雰囲気があったので、下の世界では出産は本来通り神聖なものとして扱われていたように感じました。
夏子が下の世界の産屋に入った理由
夏子が産屋に閉じこもっていた理由は思いつく限り2つあります。
①夏子は眞人の頭の怪我に責任を感じた
②眞人に好かれていない(認められていない)状況に大きなストレスを感じた
①から説明します。
夏子が眞人の頭の怪我に責任を感じたのは、上の項に書いた赤不浄と関係しています。
赤不浄の観点でみると妊婦の夏子は穢れた存在であり、男と一緒に住んではいけません。
夏子は赤不浄の知識があり気にしながらも、眞人と父と住む家を分けるまではしませんでした(もしくはできなかった)。
なので夏子が「眞人の怪我は私のせい」と言ったのは、夏子が眞人と父と一緒に住むことで眞人にけがれが移ったから怪我したのかもしれないと思ったのです。
夏子はなんでも責任を感じ過ぎ!と思いますが、夏子はそれだけ眞人の母親になろうと奮闘しているのでしょう。
続いて②についてです。
夏子は彼女なりに眞人と仲良くしようと精一杯頑張っていました。
夏子と眞人が初めて会った時、眞人は全然喋らず夏子だけが喋り続けていましたが、あのとき夏子はろくに返事もしない眞人に話しかけ続けたり愛想良くするのに必死だったと思います。
眞人が大叔父の廃屋に行こうとした時、夏子が大きな声で眞人を呼びますが、眞人は無視して廃屋に向かいます。
夏子は眞人が無視したことにも気づいていたので、ここでも傷ついています。
夏子が体調不良で部屋にこもっていたとき、眞人の父やおばあちゃんたちがしきりに「夏子が眞人に会いたがっていた」と言うのは、恐らく夏子が部屋にこもる理由がつわりよりも眞人と接するのに疲れた部分が大きいからです。
父とおばあちゃんの「お見舞に行ってやれ」は、言い換えると「もっと夏子に優しくしてやれ」だったのでしょう。
一方で眞人は親の再婚に複雑な心境でしょうし、物心ついた男の子が「新しいお母さん」と2~3日で仲良くなるのは普通は無理です。
なので眞人がそっけないのは仕方ない気もしますが、夏子は妊娠中で精神的にデリケートになりやすいでしょうし、少しでもお互いに快適に過ごすために、眞人の気づかいなどの優しさが欲しかっただけなのかもしれません。
しかし眞人は子どもなので夏子に愛想よく接することもできず、無意識に遠ざけて夏子が傷ついてしまいました。
夏子は居心地の悪さを感じ、「一人になりたい」と強く思ってしまったことが下の世界に行ってしまった理由だと解釈しています。
翼が折れたペリカン
下の世界で眞人は羽根が折れて飛べなくなった高齢のペリカンを見つけます。
ペリカンたちは人間の魂(わらわら)を食べるので、眞人がなぜ食べるのか聞くと、ペリカンは「私たちはわらわらを食べるためにこの世界に連れてこられた 本当は食べたくないが、海に餌が少なくこの世界からも出られない だからわらわらを食べるしかないのだ」と答えました。
眞人はペリカンたちが悪意からわらわらを食べていたわけではないことを知り、下の世界の仕組みの片りんを見ると共に、ペリカンたちの不幸な境遇に同情しました。
このペリカンたちは親や周囲に生き方を決められてしまい、自分の夢を叶えられない子どもたちを彷彿とさせていた気がします。
現代は自分の夢を叶えたり好きな仕事を選ぶことは比較的簡単になってきましたが、人間が社会を築くようになったはるか昔から眞人が生きた時代位までは、親が子どもの将来を決めるのはよくあることで、自分の好きなようには生きられない人が大半でした。
結婚についても日本は恋愛結婚が主流になったのはごく最近のことです。
ペリカンたちは、そんな「昔の日本人」を象徴する動物だったように思えます。
ペリカンを下の世界に連れてきたのは恐らく大叔父なのでしょう。
これから上の世界に生まれようとしているわらわらを減らす理由はわかりませんが、日本の少子化と絡めてあるのか、大叔父が「石」と交わした特別なルールなのかもしれません。
インコが人間を食べる理由
人間を食べようとする可愛くないインコも印象的でした。
インコたちもペリカンと同じで、大叔父に下の世界に連れてこられたと思われます。
恐らくインコは下の世界の侵入者を排除する目的で、人間を食べることを許されていたのでしょう。
次のページに続きます!
2ページ目は「おばあちゃんの人形」「眞人が夏子を母さんと呼んだ本当の理由」「眞人と夏子の関係から見えるメッセージ」「アオサギの正体」「眞人の選択から見えるメッセージ」「キリ子について」「眞人の母 久子について」です。
感想などお気軽に(^^)
キャスト紹介の指摘です。
菅田さんはアオサギの声を担当しています。
通りすがり さん
意外過ぎてびっくりです!ありがとうございました(;∀;)