映画「顔(2000)」あらすじ結末ネタバレ・解説・感想評価

(出典:楽天市場

日本アカデミー賞で最優秀監督賞を受賞した、主演の舞台女優・藤山直美の演技が光る名作。
吉村正子(藤山直美)は母親の店を手伝いながら、自宅でほぼ引きこもりの生活を送る独身女。
父親は正子が幼い頃に蒸発しており、家族は母親と妹だけだった。
ある日、母親が突然死したことをきっかけに、もともと犬猿の仲だった妹 由香里(牧瀬里穂)と大喧嘩になり、正子は妹を殺してしまった。
自殺もできず、警察から逃げる決意をした正子は荷物と由香里の化粧ポーチを持って自宅を飛び出した。

制作年:2000年
本編時間:123分
制作国:日本
監督:阪本順治
脚本:阪本順治、宇野イサム
関連:福田和子

顔(2000)|出演者・キャスト

吉村正子…藤山直美、池田彰…佐藤浩市、中上洋行…豊川悦司、中上律子(洋行の姉)…大楠道代、狩山健太(律子の店の常連客)…國村準、吉村由香里(正子の妹)…牧瀬里穂、吉村常子(正子と由香里の母)…渡辺美佐子、花田英一(ラブホテル支配人)…岸部一徳、ラブホテルのバイト…庄司照枝、山本俊郎…中村勘九郎、狩山咲子(狩山の妻)…早乙女愛、喫茶店の女…内田春菊、島の警察官…中島陽典、ラブホテルのバイト(ダンサー志望)…黒田百合、よしむらクリーニング従業員…中沢青六、正子が見ていたドラマの役者…川越美和、正子が見ていたドラマの役者…水谷誠伺
鍋島浩九十九一梶浦昭生川屋せっちん吉永秀平南部英雄、ほか

顔(2000)|みんなの感想・評価(5点満点)

 

ゆうの感想・評価|3.9
時々流れてくるコミカルな音楽がこの映画の位置づけを決めているような気がします。
うーんなんというか、人間って単純だからどうにでも転がるもので、なんか不思議な映画です。
あと藤山直美がなんとも言えない女の魅力をうまく表現してます。 (出典:Filmarks

 

Satoshiの感想・評価|3.5
藤山直美がどうしようもないけど、ちょっと憎めないような可愛いようなおばさんを熱演。
あえぎ声のギャーって獣じみた声と、身体が熱いという不気味に切ない一言に毎度やられた。
ラストのどうしようもなさも良い。 (出典:Filmarks

 

たまごやきの感想・評価|3.5
フィクション福田和子。
少しだけノンフィクション福田和子。
殺人を起こしてしまい、逃げるために顔を含め自分を変えて大逃亡劇を図った有名な犯罪者です。
半端じゃない壮絶な生き様は ひとつの映画、物語になる。
人間の汚い部分もさらけ出しつつ、コミカルに描かれている部分もあり見やすかった。良いです。 (出典:Filmarks

 

creamyzombieの感想・評価|3.4
引きこもりが妹を殺してから
家を飛び出て一生懸命
生き逃げる話。逃げれば逃げるほど
生命力溢れていく姿はすごい。主演女優に乾杯。
脇役も豪華過ぎる( ゚д゚) (出典:Filmarks

 

以降はあらすじ詳細でネタバレ含みます。

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あらすじ詳細①起

1995年1月14日 兵庫県尼崎市。
35歳の吉村正子(藤山直美)は、母親が営んでいる”よしむらクリーニング”で裁縫の仕事を手伝いながら実家で生活している、独身の女だった。
父親は何年も前に蒸発して、そのまま連絡すら取れていない。
正子はひきこもりのような生活で外に出ることはほとんどなく、2階の自室でテレビを点けっぱなしにしながら毎日、ミシンを動かしたり裁縫をしたりしている。
単調だが、正子にとっては快適な毎日だった。
だが、そんな正子の生活に水を差す人物が1人いた。
正子の実の妹 由香里(牧瀬里穂)だ。
由香里は、正子とは正反対の社交的で明るい性格で、仕事は水商売をしており、実家からは離れて暮らしている。
根暗で引きこもりの姉がいることを由香里は恥ずかしいと思い、心の中では姉を見下していた。

この日、妹の由香里がたくさんの洗濯物と東京土産を抱えて実家に戻ってきた。
母 常子(渡辺美佐子)は喜びもせず「洗濯物がたまると帰ってくるんやから」と小言を言い、由香里は「だって、近所のクリーニング屋高いんやもん」とつぶやいた。
1階から妹の声がしてくると、正子はいつもは開けっぱなしにている部屋のカギを閉めた。
やがて妹が階段を上がって来る足音が聞こえ、ドアを叩いて何度も「お姉ちゃん、開けてよ!」と言った。
妹の「ディズニーランドのお土産買ってきたで!」という声で、ようやく正子は部屋のカギを開けた。

由香里は部屋に入って明るくお土産を差し出したが、正子は無視してミシンを動かし続けた。
お土産を置くと、由香里は正子のミシン台に背広を1着置いた。
「直してお客さんに今晩渡す約束してんねん。お願い」と可愛く頼む由香里に、正子は「いや。うちには関係ない」と答えた。
由香里は「他のを後回しにしたら出来るやん。何で?」と聞くと、正子は「絶対イヤ。においがイヤ」と答えた。
カチンときた由香里は、すかさず正子に嫌味を言った。

由香里「お姉ちゃん、ずっとこんな生活していくつもりなん?」
正子は無言で部屋から出ようとしたが、由香里はイジワルして正子を転ばせた。
正子がこけるドスン!という音と少しの沈黙の後、由香里は冷めた表情で「わざとちゃうで、お姉ちゃん。いっぺん入院したらええ。※お母ちゃんもそう言うてた」と姉を見下ろした。
※由香里が意地悪しようとついたウソ

嫌になった正子は、母親に「うちは病気なんかじゃない」とボソッと言うと、靴も履かずに家から飛び出した。
由香里は姉の部屋で、勝ち誇った顔でミシン台の上に漫画を置いて読みはじめた。

正子は電車に乗っていた。
駅弁とお茶を買って電車の中で食べた後、何気なく降り立った駅は雪が積もっていた。
構わず歩こうとしたとき、正子はスーツの男に「靴下で、どうしたの?」と声をかけられた。
正子は久しぶりに他人から話しかけられ、動揺して返事ができずに小走りで男から逃げた。
正子に声をかけた男 池田彰(佐藤浩市)は不思議な女にクビを傾げた後、荷物を持って駅を立ち去った。

その日の夕方。由香里はクリーニングが済んだ衣類を持って実家から出ようとしていた。
母親は「正子が帰ってくるまで待って、ウソついたこと謝りなさい」と言ったが、由香里は「仕事があるから」と母親を無視して行ってしまった。

その後、正子は歩き続けて足が痛くなったので実家に戻った。
正子は家出していたとは思えないほど、いつもと変わらない様子で晩ご飯を食べ、テレビドラマを見て涙を流した。
そんな正子を母親は心配しながらも、いつも通りの態度で受け入れていた。

翌日。母親の常子は仕事中に倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまった。
正子が由香里に頼まれた背広を直している間の出来事だった。

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母親の葬式が開かれ、正子はショックで部屋に閉じこもってしまい、喪主は由香里が務めた。
葬式が終わって落ち着くと、付き添っていた由香里の彼氏のよしふみは心配して「俺もここに居ようか?」と聞いたが、由香里は「大丈夫」と言いながら、しばらく玄関でよしふみの肩を借りて涙を流した。
そのとき、正子がジャージ姿で2人の前に現れて「お父ちゃん、線香あげに来た?」と聞いた。
葬式の手伝いなど何もせず、終わるとひょっこり出て来た正子に怒りが込み上げた由香里は、正子を張り倒して殴った。
よしふみが由香里を止めると、由香里は「私、子どもの時からお姉ちゃんのこと、ずっと恥ずかしかった!私、この家を改装して喫茶店にして、よしふみと2人で住むから!それでお姉ちゃんのこと許す。今まで私に恥ずかしい思いさせてたこと許してあげる!」と怒鳴った。
正子は「…別に許してもらわんでもええよ」とつぶやき、玄関からいなくなった。

よしふみが帰った後も正子と由香里は喧嘩を繰り返し、とうとう正子は由香里を赤い毛糸で殺してしまった。
正子は自分も死のうとカミソリを手首にあてたが、痛くてすぐに断念した。
警察から逃げることを決意した正子は、客から預かったままだったワンピースとコートを着込み、香典と由香里の化粧ポーチとアルバムを持って自宅を出た。

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あらすじ詳細②承

正子の事件はニュースに取り上げられ、警察は強盗殺人と見て捜査しており、正子の行方を捜していた。
警察に捕まることを恐れた正子は宿泊施設に泊まらず、生まれて初めて廃墟で野宿して夜を明かした。

1月17日早朝。大きな地震(阪神・淡路大震災)が起こり、驚いた正子は「バチが当たった!」と叫んだ。
特に怪我もなく地震をやり過ごした正子は、線路伝いに歩く人々の群れにならって歩き続け、大阪駅にたどり着いた。
持っていたアルバムは重荷になり、線路横に出来ていたガレキの中に捨てた。

近くの喫茶店で休憩していた正子の向かいに、スーツ姿の女(内田春菊)が相席で座った。
女は大阪にいる息子が心配で、この喫茶店で待ち合わせしているらしい。
正子が無職だと知ると、女は彼女自身が営業している料亭で働かないかと言ってきた。
これ以上プライベートを明かしたくなかった正子は、そっけなく席を立ち伝票を持つと、
女は「何かの縁や、おごらせて」と申し出て来たので、正子は黙ってお辞儀をして喫茶店から出た。

夜。慣れないパンプスで歩き続けて足が痛くなった正子は、最寄りの警察署に立ち寄った。
狙い通り警察署には誰も居なかったのでしばらく休憩していると、酔っ払いの男 山本(中村勘九郎)が正子を見付けて警察署にやって来た。
山本は無理やり正子を引きずって廃車のトラックの中に連れ込み、正子を強姦した。
これが正子の初めての男性経験となった。

事が済むと、正子は山本に※”自分を女にしてくれたお礼”として香典袋を2つ渡し「そういうことにしとこ」とトラックから出た。
※由香里に「早く女になれ」とバカにされたことがあったから。
※強姦のシーンに関しては後に解説あり。

香典袋だったので、山本は気味悪がり「こんなん要らんわ!」と言ったが、正子が立ち去ってしまったので渋々受け取った。

正子は眠る場所を求めて最寄りのホテルに入ったが、そこはラブホテルだった。
受付の初老の女(正司照枝)は「一人では泊まれないよ」と追い出そうとしたが、正子のボロボロの服を見て、客室ではなく関係者が使う部屋に正子を招き入れた。
女は正子にラーメンを作ってやり、お腹が空いていた正子は感謝してラーメンをすすった。

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翌朝。新聞には『尼崎の妹殺し 姉の犯行と断定』というタイトルで記事が載っていた。
警察は由香里殺害を正子の犯行と断定し、全国に指名手配していた。

行く場所がなかった正子は、このラブホテルで清掃員として住み込みで働くことになった。
仕事に慣れてきたころ、正子は受付の仕事をやらされることになった。
人目にさらされるのを恐れて、正子は「ほんまに勘弁してください」と頼んだが、「みんな交代でやってるから」と任されてしまった。
仕方なく受付に座って下を向いていると、警察官がホテルにやってきて正子に配布物を渡そうとした。
正子が顔を見られるのを嫌がって下を向いていると、代わりに若いアルバイトの女(黒田百合)が配布物を受け取った。
バイトの若い女は警官から受け取った紙を受付台の下の、客から見えないような場所に張り付けた。
それは指名手配犯のポスターだった。
※ポスターには『殺人 整形 逃亡中 昭和57年発生のホステス殺人事件』と書かれ、整形前と整形後の指名手配犯の女の顔写真が載せられていた。
※後に解説あり。
バイトの若い女は指名手配犯の顔を見て「こいつ絶対友達おらんやろ、なあ?」と正子に話しかけて仕事に戻っていった。
正子はそのポスターを眺めて「友達て、おらなあかんの?」とつぶやいた。

正子が屋上で仕事着などの洗濯物を干していると、支配人の花田(岸部一徳)が屋上に花に水をやりにやって来た。

花田「勤務中、テレビ点けっぱなしにしてるらしいな。ちゃんと消しとけよ」
正子「…ごめん」
花田「休みの日は、1日中部屋に閉じこもってるらしいな。」
正子「…行くとこ無い」
花田「趣味とか、やりたいこととかないんか?」
正子「…自転車乗りたい」

正子は自転車に乗れなかった。

テレビニュースに正子の中学生時代の写真が公開され『最近の写真などは入手できていない』と報道された。
ラブホテルで働き続けていた正子はある日、清掃員姿のまま全速力で花田の元に走った。
ホテルに男たちがやって来て、テレビや家具などをいっせいに運び出し始めたからだ。
正子が息を切らして花田に男たちのことを伝えると、花田は驚きもせず「そんなことか。まあ座って一杯飲んでけ」と正子に酒をすすめた。
花田が全く慌てないのを正子は不思議に思ったが、言う通り席に着いた。

その後、2人はホテルに戻らずに空き地で自転車に乗る練習をした。
何度もこけた後、正子は疲れ果てて休憩がてら花田に話をした。

正子「私、自転車も泳ぎも出来なくて、お父ちゃんに『練習せな、出来るようにならんで』ってよく言われた。私のお父ちゃん優しかったけど、配達屋の女とどっか逃げた。」
花田「…そんなこと言うてんと、練習再開しよか」

練習を重ねたが、正子はその夜、自転車に乗れるほどにはならなかった。

翌日。花田がホテルで首をくくった。
花田には※借金があった。
※花田がホテルで働いている男から「麻雀やめた方が良いですよ」と言われていた場面があることから、恐らく麻雀で作った借金
それが返せなくなり、商売道具(ホテルの家具やら)を没収されて仕事もできなくなったことから自殺を選んだのだろう。
正子は警察が来る前に荷物を持って、まだ乗りこなせない自転車に乗ってラブホテルから逃げ出した。

自転車で駅に向かう途中、曲がり角で正子は人とぶつかって派手に転んでしまった。
そのまま自転車を乗り捨てて駅のトイレで鏡を見ると、正子の顔は傷だらけでひどく腫れてしまっていた。
そのとき、正子の後ろに喪服姿の由香里(正子の妄想か幽霊)が立ち、正子の顔を見て笑っているのが見えた。

正子「生まれ変わるんが怖いから、私も死のうと思ったけど死ねんかった。生まれ変わるん、怖いやろ?」
由香里「ずるいな、お姉ちゃん」

そう言うと、由香里は赤い毛糸で正子の首を思いきり絞めた。
気が付くと由香里は消え、正子はトイレに1人で立ち尽くしていた。

この頃、正子は『妹殺し』として全国に指名手配されていた。
正子は駅でマスクを購入すると、そのまま南行きの電車に乗った。
空いていた向かい合わせの4人席に正子が座っていると、向かいに座っていたのが見覚えのある男だった。
それが以前、正子が靴を履かずに家出した時、駅で声をかけてきた男 池田だったので、正子は驚いた。
池田は酒をしこたま飲んだようで眠りこけており、池田の周りには空のコップ酒がたくさん置かれていた。
正子はマスクをしたまま弁当を食べていて、箸を落としてしまった。
偶然目が覚めてそれを見かけた池田は、正子に割りばしを差し出し「マスク取って食べたら?」と言った。
正子が黙って割りばしを受け取り、マスクを取って食べ始めると、正子の顔を見た池田は「その顔どうしたの?」と聞いた。
正子は「自転車乗ってて転んで、地面にこすって腫れてしもうた。おまけに体もこすって、こんなに腫れてしもうて…」と冗談交じりに答えると、池田は大爆笑した。

電車の中で、池田は自身のことを正子に話した。
池田は勤務態度が悪いことが原因で会社をクビになり、別府の田舎に帰るところだという。
「出張ばっかりでうんざりしていたし、別にいいや」と池田は少し寂しげに心境を語った。
やがて別府に到着すると、池田は「じゃあ、楽しかった」と言い、電車を降りていった。
正子が窓にかじりついて池田を見送ろうとしていると、ホームには池田の妻と子どもが迎えに来ており、正子は歩く3人を眺めた。

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あらすじ詳細③転

池田に恋をしてしまった正子は、気が付いたら別府で電車を降りていた。
同時に、正子と同じ電車に乗っていた男 中上洋行(豊川悦司)も別府に降り立っていた。
洋行は東京でやくざをしていたが、アニキが亡くなったことからやくざを辞めることを決意し、アニキの葬式が終わると同時に電車に飛び乗り、田舎である別府に戻ってきたところだった。
洋行が駅から出て荷物を地面に置いたとき、あてもなく歩いていた正子が洋行の荷物を蹴ってしまった。
正子は蹴った荷物を振り返ることも、洋行を見ることもなく「ごめん!」と言いそのまま歩き去った。
そんな正子を見て洋行はイラッとした。

初めての恋が一瞬で終わってしまい、夢も希望もない心境になっていた正子はその後、誰も住んでいない家屋でシャッターを無理やり開けて中に入り、そこに首吊り縄がぶら下がっていたのを見て、思わず首を吊った。
だが正子の重みで縄は天井から落ちてしまい、正子はまた死ねなかった。
怖くなった正子は「誰か助けて!」と叫びながらシャッターを叩くと、正子を助けてくれたのは洋行の姉の律子(大楠道代)だった。
律子は洋行を駅に迎えに来て帰る途中、シャッターをこじ開けようとしていた正子を目撃しており、気になって様子を見に来ていたのだ。
律子は正子を自宅に連れて行き、顔の傷が治るまでここに居ていいと言ってくれた。
洋行は「放っときゃいいのに」と不満そうだったが、姉が正子の世話を焼くのを無理に止めはしなかった。
正子は2人に”しずか”という偽名を名乗った。

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しばらく経ち、顔の傷が癒えた正子は、律子のやっているスナック”クラブ律子”で働くことになった。
服を借りて少しだけメイクをしてもらい、初めてお店に立つ日。
正子は恥ずかしさと、殺人犯だと誰かにバレてしまうかもという不安でなかなか店内に出れなかったが、店の常連客の狩山健太(國村準)が、店のトイレから出ていたクギで服に穴を空けてしまったと話しているのを聞くと「穴空いたの、どこですか?」と店から出て来た。
狩山は、律子と洋行と幼馴染みで、この近所に住んでいる妻子持ちの中年男だった。
裁縫が得意だった正子は器用に狩山の服を直してやり、この時、狩山は正子に一目惚れした。

数カ月後、正子はクラブ律子にすっかり溶け込んでいた。
服装も派手になりメイクもバッチリで、定期的に美容院にも通うようになった。
また、律子にアパートも借りてもらい、正子はようやく普通の落ち着いた暮らしを始めることもできた。
狩山の正子への熱も冷めることなく、カラオケで恋の歌を歌っては正子に抱き着き、律子と洋行に止められたりしていた。
酔っぱらっている狩山を正子が自宅近くまで送っていたとき、狩山は酔った勢いで再び正子に抱き着いた。
正子は「私、心に決めた人がおるねん」と言い、冷静に狩山の手を払いのけると、ショックを受けている狩山を見送った。
店にいた律子と洋行は、店の片づけをしながら話をしていた。

律子「あの子、この店が性に合っちゃったみたいね」
洋行「人に構ってもらったことがないから、はしゃいでるだけだろ。なんか隠してるよ、あの女」
律子「女はみんな、訳ありじゃ」
洋行「男だって、そんなに単純じゃないよ」
律子「…洋行、今日店に変な電話があったわ。洋行おるか?って。嫌な声しとったけ、おらんって返事したわ。
あんた、なんかしでかしたん?」
洋行「…しでかしたのは、死んだアニキだよ」
律子「あんたこそ、何か隠しとらん?…2人っきりの身内なんじゃけ、ウソつかんでな」
洋行は心配する律子の肩に手を置いた後、黙って店を出ていった。

その後、歩いて店に戻ろうとしていた正子は、駅で座ってタバコをふかしている洋行を見かけた。
洋行は近くのゴミ箱で拾った雑誌を正子に手渡し、お礼を言って帰ろうとする正子に「姉ちゃんのこと、頼むわ」と言った。
正子は意味がわからず聞き返すと、洋行はとりつくろったように「1人で店の片付けしてるから」と言った。
店に戻った正子が店の片づけを手伝っている途中、律子の手首にリストカットの跡があるのに気が付いた。
正子が律子に自分を助けてくれたお礼を改めて言うと、律子も「ありがとう」と笑った。

ある日、律子は同窓会に出ることになり、その日の店は正子と洋行に任されることになった。
開店準備で正子がトイレ掃除をしていると、店にひょっこり狩山が現れた。
開店前に来た狩山を正子は不思議に思いながらも、急いでビールを出そうとすると、洋行が出していた看板をしまって店の中に入ってきた。

洋行「今日は店はもうええわ。健太(狩山の下の名前)、今日具合悪いらしい」
正子「それなら、帰って寝てた方が…」
洋行「2階に布団しいてやって」
喋りながら、洋行は正子のドレスに水をかけた。
洋行「濡れたら2階で脱いでこいや」
正子「…全然意味がわからん」
狩山「なんや、話しつけとく言うちょって、全然ついちょらんやん」
洋行「てめえもさっさと自分で行けよ!」
洋行が狩山に怒鳴って店のカギを閉めると、狩山は「やっぱいいや、洋行ちゃん。もうお金返してくれ」と言った。

どうやら洋行は姉が外出するこの日に、狩山に正子を抱かせてやるなどと言って狩山に金を払わせて、場所として店の2階を提供しようとしたらしい。
「さっさと行って来いよ」と乱暴に促す洋行に、金が戻ってこないとわかった狩山は正子を見つめた。
2階に上がると、狩山はすぐに正子に抱き着いた。
正子が嫌がって狩山を何度も叩くと、狩山は「いくらでも叩け!俺はあんたとしたいんだ!」と叫びながら正子の服をまさぐった。
諦めた正子が抵抗をやめて目をつぶると、狩山は正子の顔を眺めて「もう、ええわ」とつぶやき、部屋から出ようとした。
正子が引き留めるように「ボタン自分で外すから、無理にちぎらんといて。熱い。体が熱い…」と言うと、正子の様子に興奮した狩山は正子の元に戻ってきた。
だがしばらくすると、店に妻の咲子(早乙女愛)が押し入って来て、正子は殴られた。
「なんか最近変や思うて来てみたら…金払うような女に、うちの人が本気になるわけねえやん!哀れやな、あんた。許してほしかったら土下座しいよ!」と怒鳴る咲子に、
正子は「許してもらわんでいい」とつぶやいた。
咲子はさらに怒って正子に向かっていったが、狩山は咲子を無理やり連れて夫婦は店から出ていった。
その後、正子と洋行は何もなかったように店を開き、律子にはこのことは黙っていた。

翌日。雨の中、正子のアパートの部屋に洋行が1人で訪ねて来た。
警戒心むき出しの正子に、洋行はまたゴミ箱から拾った雑誌を差し出し、部屋に上がりこんで座ってタバコを吸い始めた。
正子「私のこと気にして来たんですか?私、昨日みたいなこと初めてやないから」
洋行「…どうりで平気そうな顔してると思ったよ」
正子「平気やない!歌って忘れました」
洋行「あんたがはしゃいでると、うっとうしいんだよ!」
正子「…どういうこと?」
洋行「劣等感ばっかり見えてうざったいんだよ」
正子「そんなこと言いに来たん?」
洋行「…俺も半端者やから、怒るな。そんなこと言いに来たんじゃないんだよ。俺、やくざ辞めたつもりだったんだけどな…。姉ちゃんのこと、頼むわ」
そう言うと、洋行は部屋を出ていった。

その日の夕方。すっかり自転車を乗りこなした正子が自転車で店に行くと、律子が外でため息をついていた。
洋行が居なくなり、荷物もなくなってしまっているらしい。
「なにが『姉ちゃんのため』や…」と落ち込む律子を見ながら、正子は洋行の無事を祈った。
スナックの仕事が終わった後、正子は自転車で駅などの思い当たる場所を一通り探しまわってみたが、洋行はどこにもいなかった。

ある日の夕方。夕立に降られた正子が雨宿りをしていると、近くにある電話ボックスの中にいたのは池田だった。
池田は険しい顔でどこかに電話しており、小学校低学年くらいの年齢の幼い息子 リョウも連れていた。
池田は会社をクビになった腹いせに、自分が持っていたデータを使って会社から金をふんだくろうとしていた。
視線に気づいた池田が正子を見た。
正子はお辞儀をしたが、池田にはすっかり見た目が変わった正子が誰だかわかっていなかった。
電話が終わって池田が電話ボックスから出ると、正子は池田に駆け寄った。

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あらすじ詳細④結

その日の夜、正子は池田とリョウをクラブ律子に連れていった。
池田と一緒にカラオケをデュエットで歌ったり、飲み過ぎた池田を介抱したりする時間は、正子にとっては夢のようなひと時だった。
池田の妻は現在、喧嘩して家を出ていってしまっているらしい。
正子は「奥さん、すぐ帰ってきますよ。キレイな奥さんだったじゃないですか」と慰めながら、飲み過ぎで吐いている池田の背中をさすった。
夜も遅くなり、リョウは寝てしまって律子が2階に連れていって寝かせてやった。

翌朝。池田は店のカウンターで突っ伏して寝てしまい、正子も付き添って隣に座っていた。
寝ている池田の肩に正子がこっそり顔を寄せると、池田は目を覚ました。
池田は銀行に会社から入金があったか確かめに行こうとしたが、まだ朝の7時で銀行が開くまでには時間があった。
リョウも2階で寝ていることを知ると、池田は安心して席に座りなおした。
正子は池田に朝食を出すと、池田は自分の悪事を正子に正直に話した。
池田は勤めていた会社を辞める前に顧客データを抜き取り、それを使って会社をゆすっているのだという。
「勤めてた会社に間違ったことをしてる。俺、そういうとこだけ頭良いんだよ」と情けなく笑う池田に、正子は「うち、間違った人、好きです」と言った。
正子はリョウと明日の14時に遊ぶ約束をして、2人を見送った。
2人が見えなくなった後、律子は「良かった。ホコリかぶってたあんたがこんなにキレイになって、恋もして」と安心したように笑うと、正子は「うち、自分に欲がないと思ってたんです」と返し、美容院に行くために自宅に戻った。

同じころ、洋行は廃店舗でやくざ絡みの男2人に暴行を受け、刃物で切られてしまった。
洋行が動かなくなると、男2人は着ていた衣類をその場に脱ぎ捨てて去っていった。

正子は偶然、自転車で廃店舗の前を通りかかった。
中に動くものが見えて気になった正子が中に入ると、それは血だらけで瀕死状態の洋行だった。
正子には、その様子が由香里を殺したときの場面とかぶってしまい、その場にいられなくなり逃げ出してしまった。
クラブ律子で働き始めてから、正子はすっかり自分が指名手配犯だということを忘れかけていたが、洋行を見たとき、正子は自分が罪を犯して追われている身だと思い出した。

その日の昼間、警察が店にやって来た。
パトカーが店に停まるのを見ていた正子はすぐにその場から逃げ出した。
警察は洋行のことで店に来て、律子と従業員の正子に遺体の身元確認を頼みに来ていた。
律子は「あの子は関係ない」と言ったが、警察官は店に飾られていた正子の写真を手に取った。

正子は狩山が働いている映画館に身を隠していた。
映画が終わっても席を立たない客がいたので、よく見てみると正子だった。
その日の夜、正子は狩山に平泳ぎの仕方を習った。
狩山は浜辺で練習をしている正子を見て「なんか、ウミガメが産卵しとるみたいや。見とるこっちが恥ずかしくなるから、もうやめようや」と言った。
正子は「やめるけど、今日は朝まで一緒にここにおってくれな、許さへん」と言い、狩山は「考えすぎっちゃ」と言いながら、正子に付き合うことにした。

翌日。正子はその日の昼、池田の息子のリョウと遊ぶ約束をしていたテーマパークに行った。
約束の時間。サングラスをして様子が変な正子を池田が心配すると、正子は唐突に言った。

正子「もし、月が西からのぼったら、私と一緒になってください。」
池田「どういうこと?よくわかんない」
正子「もし生きてるうちに、その約束が叶わなかったら、生まれ変わってまた出会ったら、またこの約束してください。また叶わなかったら、また生まれ変わって、また出会えたら、またこの約束してください」
池田「…俺がバカなのかな、よくわかんない」
正子「気楽に『うん』って言うてくれたらいいんです。迷惑かける話じゃない」
池田「じゃあ、うん」
正子「うち、訳があってお別れです、さよなら。リョウ君、一緒に遊ぶ約束破ってごめんな、さよなら」

正子は手を振って、リョウに「さらばじゃ!」と言い2人の前から立ち去った。
池田は小走りで去っていく正子の背中を見つめていた。

その後、リョウは観覧車の中で池田に「生まれ変わるって、何?」と聞いた。
池田は「こうやって、グルグル回るってこと」と答え、ポケットに入れていた会社の顧客データを窓から捨てて「さらばじゃ!」と笑った。

正子はその日、逃げられるところまで逃げた後、律子に電話した。
律子はそのとき、唯一の肉親だった洋行を失った悲しみに暮れている最中だった。
正子は律子に自分の本名を打ち明け「ごめんなさい、ありがとう、さようなら」と言うと、
律子は涙声で「死ぬ位なら逃げて!逃げてどっかで生きちょって!お腹が減ったらご飯食べて、またお腹が減ったらご飯食べて。それでいいの」と正子に言い聞かせ、正子を連れ戻そうと居場所を聞いた。
答えない正子に、律子は「さよならなんて言わんちょって!私にもあんたが必要なんよ!」とすがったが、正子は「さようなら」と電話を切った。

乗り込んだ船の中で腹痛に襲われた正子はトイレに駆け込んだ。
正子は自分でも気づかないうちに妊娠していたのだが、流産してしまったのだ。
※恐らく狩山との子
出て来た小さな我が子を見ながら、正子は「由香里…生まれ変わると思っとったのに!」と泣き叫んだ。

正子はたどり着いた離島で、海産物の加工品を作る仕事をして新しい生活を始めていた。
事件からは約7カ月が経っていた。
平和なこの島では、正子は地元の警察官(中島陽典)にも気づかれることなく、自分を家に住まわせてくれた老婆に付き添って生活していた。
そこでも正子の裁縫の腕前は評判になり、正子は島中の人から衣類の修理を頼まれていた。
その日は島のお祭りがある日だった。
老婆は正子に浴衣を出してくれ、これを来てお祭りに行くように言ってくれた。
正子が浴衣を着こんで外に出ると、お祭りで踊る狐の恰好をした子どもに声をかけられた。

子ども「おばちゃん!さっきテレビ出とった!ピースしとった!」

正子がテレビを見てみると、テレビには正子がスナックで働いていた時に撮った、ピースしている写真が映されていた。
律子の店に来た警察官が、写真から正子の身元を調べて気付いたのだろう。
テレビを見て焦った正子は、どこに行くでもなくただ逃げようと走り出した。
やがて祭りが始まり、島の警察官は正子に話しかけていた子どもを呼び、子どもが話しかけた人が正子で間違いなかったか、指名手配のポスターを見せて確認し、慌てて正子の捜索を始めた。
夜なので島から出る船も止まっていて、正子は島から出ることが出来なかった。

島の男たちが一通り捜索しても正子は見つからず、いったん休憩しようとしていた巡査は、仲間の巡査から「おい、あれ見ろ!」と言われて海を見た。
それは浮き輪をつけて、必死にバタ足で泳いで逃げようとしている正子だった。

主題歌:coba『顔』

解説

 

・正子が酔っぱらいに襲われる場面

本作の主人公 正子のモデルとなった実在の人物 福田和子は、警察から逃げ続けていた理由を『過去に服役していた際に看守から強姦されたから』と告白していたそうです。
これは福田和子のウソではなく後にこのことは大きな事件となり、罪を犯した看守の男たちは法で裁かれています。

相手役に有名な役者である中村勘九郎を起用してこの場面を印象的に描いていて、しかも警察署に居た正子を無理やり連れ出し、助けてくれる警察官もおらず…。
ということから、正子が強姦されたこのシーンは、福田和子の過去と関連づけている場面だと思われます。

 

・正子がラブホテルで働いていた時に見た指名手配犯のポスター

配布物を配りに来た警官が、正子が働いていたラブホテルに指名手配犯のポスターを置いて行きました。
この『殺人 整形 逃亡中 昭和57年発生のホステス殺人事件』と印刷されていたポスターは、正子のモデルとなった人物 福田和子が起こした実際にあった事件のことです。
ちなみにこのポスター自体は当時の本物などではなく、映画撮影用に作られたものです。

福田和子は警察から逃れるために、美容整形を何度も繰り返しています。
本作では正子は整形はせず、家を出るときに他人の服を着て雰囲気を変えて変装しているのと、後にスナックで働いてから大幅にイメチェンしている程度で収まっています。

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